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第二章 王宮女官ミリーナ
第12話 荒々しくも情熱的な口づけ
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「いえ、ですが私は昨日の夜にテラスで初めてジェフリー王太子殿下とお会いして、ほんの少しばかりの話をしただけですわ」
「そうだ。昨日、君と話をした。そして俺の妃に迎えるには君しかいないと直感したのだ。何の問題がある?」
「僭越ながら申し上げますと、さすがにそれはいかがなものでしょうか? 私は家格の低い男爵家の娘ですし、取り立てて容姿が優れているわけでもございません。これ以上大事になる前に、もう一度冷静になって考え直された方がよろしいのではありませんか?」
「なんだ? 俺の妃候補になるのは不満か? もしかして君は他に好きな人でもいるのか?」
「…………いえ、そういうわけではございません」
好きな人がいるかと問われ、ミリーナは「いない」と答えたものの、しかし即答することができなかった。
今現在ミリーナにはっきりと好きだと言えるような相手はいない。
それは間違いのない事実だ。
しかしジェフリー王太子に問われた瞬間、ミリーナはあの初恋のジェンを思い出してしまったのだ。
夏の太陽のように目を輝かせて笑うジェンの顔を思い出してしまい、ミリーナは即答することができなかったのだ。
もう10年も前の子供の頃の淡い想い――そう切って捨てるには、ジェンの笑顔はミリーナの心の中で大きく育ちすぎてしまっていた。
(好き、というのとは多分違うの。でも私の心の中にはまだジェンの笑顔が確かにあるんだわ。幼い時分にたった1日、一緒に街を回っただけのジェンという名前以外どこの誰とも分からぬ男の子。だっていうのに、あの天真爛漫な笑顔は今も私の心の中で嬉しそうに笑いかけてくるのですもの――)
ジェフリー王太子に改めて問われたことで、ミリーナはそのことを強く理解してしまったのだ。
しかしそんなミリーナの恋する乙女の表情を見たジェフリー王太子の心は、身も焦がすような激しい嫉妬の炎で埋めつくされてゆく。
「そうか、君には想い人がいるのか」
「い、いえ、本当にそういうのではないのです、ないのですが――」
言いかけたミリーナの言葉はしかしそこで止まった。
止められてしまった。
ジェフリー王太子がミリーナを抱きすくめると、強引にその唇を奪ったからだ。
チュッ、チュ、ンチュ、チュ、チュパ……
力強い腕でミリーナを抱きしめたまま、ジェフリー王太子はミリーナの唇を激しく荒々しく蹂躙していく。
「ぁ……だめ、ん……っ、ぁん……」
優しいイメージのジェフリー王太子が見せた荒々しくも情熱的な振る舞いに、ミリーナは最初驚きで身体を強張らせてしまった。
びくともせずにすぐに諦めたのだが、抵抗しようとジェフリー王太子の腕の中でもがきもした。
雄という圧倒的な強者に自由を奪われなすがままにされることに、本能的な恐怖を覚えてしまったからだ。
しかし力強くミリーナを抱きしめながら一心不乱にミリーナの唇をむさぼるジェフリー王太子の姿に、ミリーナは自分のそんな拒絶の心が次第に溶かされていくのを感じていた。
抜群のルックスを誇る王太子から突然愛の告白をされ、さらには情熱的に唇を奪われる――まるでロマンス小説のようなシチュエーションは、ミリーナの乙女心を大いに刺激してやまなかった。
けれどミリーナは、はすっぱな尻軽女ではない。
実家はしがない下級貴族とはいえ、貴族の娘としてしっかりと教養とマナーを学んできたミリーナは、表面上の顔立ちの良さなどで心の奥まで簡単に許すような女では決してない。
だというのに――。
「そうだ。昨日、君と話をした。そして俺の妃に迎えるには君しかいないと直感したのだ。何の問題がある?」
「僭越ながら申し上げますと、さすがにそれはいかがなものでしょうか? 私は家格の低い男爵家の娘ですし、取り立てて容姿が優れているわけでもございません。これ以上大事になる前に、もう一度冷静になって考え直された方がよろしいのではありませんか?」
「なんだ? 俺の妃候補になるのは不満か? もしかして君は他に好きな人でもいるのか?」
「…………いえ、そういうわけではございません」
好きな人がいるかと問われ、ミリーナは「いない」と答えたものの、しかし即答することができなかった。
今現在ミリーナにはっきりと好きだと言えるような相手はいない。
それは間違いのない事実だ。
しかしジェフリー王太子に問われた瞬間、ミリーナはあの初恋のジェンを思い出してしまったのだ。
夏の太陽のように目を輝かせて笑うジェンの顔を思い出してしまい、ミリーナは即答することができなかったのだ。
もう10年も前の子供の頃の淡い想い――そう切って捨てるには、ジェンの笑顔はミリーナの心の中で大きく育ちすぎてしまっていた。
(好き、というのとは多分違うの。でも私の心の中にはまだジェンの笑顔が確かにあるんだわ。幼い時分にたった1日、一緒に街を回っただけのジェンという名前以外どこの誰とも分からぬ男の子。だっていうのに、あの天真爛漫な笑顔は今も私の心の中で嬉しそうに笑いかけてくるのですもの――)
ジェフリー王太子に改めて問われたことで、ミリーナはそのことを強く理解してしまったのだ。
しかしそんなミリーナの恋する乙女の表情を見たジェフリー王太子の心は、身も焦がすような激しい嫉妬の炎で埋めつくされてゆく。
「そうか、君には想い人がいるのか」
「い、いえ、本当にそういうのではないのです、ないのですが――」
言いかけたミリーナの言葉はしかしそこで止まった。
止められてしまった。
ジェフリー王太子がミリーナを抱きすくめると、強引にその唇を奪ったからだ。
チュッ、チュ、ンチュ、チュ、チュパ……
力強い腕でミリーナを抱きしめたまま、ジェフリー王太子はミリーナの唇を激しく荒々しく蹂躙していく。
「ぁ……だめ、ん……っ、ぁん……」
優しいイメージのジェフリー王太子が見せた荒々しくも情熱的な振る舞いに、ミリーナは最初驚きで身体を強張らせてしまった。
びくともせずにすぐに諦めたのだが、抵抗しようとジェフリー王太子の腕の中でもがきもした。
雄という圧倒的な強者に自由を奪われなすがままにされることに、本能的な恐怖を覚えてしまったからだ。
しかし力強くミリーナを抱きしめながら一心不乱にミリーナの唇をむさぼるジェフリー王太子の姿に、ミリーナは自分のそんな拒絶の心が次第に溶かされていくのを感じていた。
抜群のルックスを誇る王太子から突然愛の告白をされ、さらには情熱的に唇を奪われる――まるでロマンス小説のようなシチュエーションは、ミリーナの乙女心を大いに刺激してやまなかった。
けれどミリーナは、はすっぱな尻軽女ではない。
実家はしがない下級貴族とはいえ、貴族の娘としてしっかりと教養とマナーを学んできたミリーナは、表面上の顔立ちの良さなどで心の奥まで簡単に許すような女では決してない。
だというのに――。
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