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第四章 リフシュタイン侯爵の陰謀
第42話 事後報告
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後日。
「ミリーナ、残念な報せがある。君の命を狙った暗殺者を調べたんだが、どれだけ調べ尽くしても身分を示すようなものや、黒幕に繋がるようなものは何一つ所持していなかったんだ」
「そうでしたか」
「済まない、絶対に黒幕を暴きだすと言っておきながらこの体たらくだ」
「いいえ、それだけあの暗殺者が用意周到な手練れだったというだけのことですわ。そしてジェフリーはそんな危険な暗殺者から私を守ってくれたんですもの、感謝こそすれ責めるようなことはありませんわ」
自分を責めるジェフリー王太子にミリーナはふんわりと優しく微笑んだ。
「そう言ってくれるとありがたい。だが一つだけ分かっていることがある。あの暗殺者の使っていた剣技は、グランデ帝国の流派だった」
「グランデ帝国の流派……ということはあの暗殺者はグランデ帝国が放った刺客だったのでしょうか?」
「いや、必ずしもそうとは言い切れないかな」
「そうなのですか?」
「例えばグランデ帝国の流れ者を使うことで、我々にグランデ帝国への不信感を抱かせる工作だったという線もある」
「な、なるほど、そういう見方ができるのですね」
この辺りの政治の裏側の駆け引きや心理戦については、ミリーナはあまり得意ではなかった。
それはミリーナが極めて誠実で、その心が冬の澄んだ湖のごとく清らかで美しいからである。
「それにあの暗殺者は俺ではなくミリーナ、君を狙っていた。つまり未来の王太子妃である君を亡き者にすることで利益を得る者が黒幕だった可能性が高いのだ」
「はい、そういうことになりますわね」
「その線で言えばグランデ帝国ではないだろうな。もしグランデ帝国がローエングリン王国に手を出そうとしていたのなら、君よりも王太子である俺の命を狙った方がはるかに有益だ」
「確かにそうですわ」
(まだ正式な婚約には至っていない私には、大した価値はないはずですものね)
「君が殺されて怒った俺が、同盟諸国との足並みを乱してグランデ帝国との戦争を強く主張する――そう考えたにしても、それなら逆にグランデ帝国の人間であると簡単に分かるような物を所持していたはずだ」
「他国が黒幕の先は薄いとなると……まさかローエングリン王国内部の犯行なのですか!?」
「ゼロではないだろうね。いや、むしろその線が濃厚だろう」
「そんな……」
国内に自分の命を狙う者がいると知り、ミリーナは愕然とした。
「だが今はまだ証拠が何もなく、その状況では可能性を考えても仕方がない。追加の再調査で何か判明するのを待とう──といってもこれだけ入念に調べ上げても何も出ない以上、そうやすやすとは証拠となるような物は出てきはしないだろうけど」
「はい……」
「だがどれだけ優秀で手練れの暗殺者であっても、一度誰かと関わりを持った以上は必ず痕跡を残すものだ。そしてそれを丁寧に追っていけば絶対に黒幕に突き当たる。俺は君の命を狙った人間を必ず突きとめてみせる。すぐには無理でも、例え何年かかっても必ずだ。必ず捕まえて、君を狙ったことを死ぬまで後悔させてやる」
ジェフリー王太子はそう言うとミリーナを強く抱きしめた。
だけでなくそのままベッドへと押し倒すとその唇を奪う。
「ジェフリーってば……まだ日がこんなに高いですわよ?」
「今からは嫌か? 嫌ならやめておくが」
「もう、意地悪な言い方ですわ……」
それを肯定ととったジェフリー王太子の手が、ミリーナの服の中へするりと入って行き、愛おしむように身体を優しく撫でていく。
「ミリーナ……君の胸に鈍く輝くナイフが突き立ったのを見た時、俺は目の前が絶望で真っ暗になったのだ。この世の終わりだと思った。だから君が今、ここにこうして無事でいてくれることがなによりも嬉しいんだよ」
「ジェフリー、涙がこぼれておりますわ」
「本当に……本当に君が無事でよかった……」
「心配していただいてありがとうございます。ですが私はちゃんとここにいます。ですのでどうか安心してくださいませ」
「ありがとうミリーナ。俺は2度と君をこんな目には合わせない。だからこれからもずっと俺の側にいてくれ。俺の側で、俺にその優しい笑顔を見せ続けてくれ」
「あなたがそれを望むのであれば――」
再び触れ合う唇と唇。
そのまま2人はいつにも増して情熱的に、深く溶け合うように愛しあった。
「ミリーナ、残念な報せがある。君の命を狙った暗殺者を調べたんだが、どれだけ調べ尽くしても身分を示すようなものや、黒幕に繋がるようなものは何一つ所持していなかったんだ」
「そうでしたか」
「済まない、絶対に黒幕を暴きだすと言っておきながらこの体たらくだ」
「いいえ、それだけあの暗殺者が用意周到な手練れだったというだけのことですわ。そしてジェフリーはそんな危険な暗殺者から私を守ってくれたんですもの、感謝こそすれ責めるようなことはありませんわ」
自分を責めるジェフリー王太子にミリーナはふんわりと優しく微笑んだ。
「そう言ってくれるとありがたい。だが一つだけ分かっていることがある。あの暗殺者の使っていた剣技は、グランデ帝国の流派だった」
「グランデ帝国の流派……ということはあの暗殺者はグランデ帝国が放った刺客だったのでしょうか?」
「いや、必ずしもそうとは言い切れないかな」
「そうなのですか?」
「例えばグランデ帝国の流れ者を使うことで、我々にグランデ帝国への不信感を抱かせる工作だったという線もある」
「な、なるほど、そういう見方ができるのですね」
この辺りの政治の裏側の駆け引きや心理戦については、ミリーナはあまり得意ではなかった。
それはミリーナが極めて誠実で、その心が冬の澄んだ湖のごとく清らかで美しいからである。
「それにあの暗殺者は俺ではなくミリーナ、君を狙っていた。つまり未来の王太子妃である君を亡き者にすることで利益を得る者が黒幕だった可能性が高いのだ」
「はい、そういうことになりますわね」
「その線で言えばグランデ帝国ではないだろうな。もしグランデ帝国がローエングリン王国に手を出そうとしていたのなら、君よりも王太子である俺の命を狙った方がはるかに有益だ」
「確かにそうですわ」
(まだ正式な婚約には至っていない私には、大した価値はないはずですものね)
「君が殺されて怒った俺が、同盟諸国との足並みを乱してグランデ帝国との戦争を強く主張する――そう考えたにしても、それなら逆にグランデ帝国の人間であると簡単に分かるような物を所持していたはずだ」
「他国が黒幕の先は薄いとなると……まさかローエングリン王国内部の犯行なのですか!?」
「ゼロではないだろうね。いや、むしろその線が濃厚だろう」
「そんな……」
国内に自分の命を狙う者がいると知り、ミリーナは愕然とした。
「だが今はまだ証拠が何もなく、その状況では可能性を考えても仕方がない。追加の再調査で何か判明するのを待とう──といってもこれだけ入念に調べ上げても何も出ない以上、そうやすやすとは証拠となるような物は出てきはしないだろうけど」
「はい……」
「だがどれだけ優秀で手練れの暗殺者であっても、一度誰かと関わりを持った以上は必ず痕跡を残すものだ。そしてそれを丁寧に追っていけば絶対に黒幕に突き当たる。俺は君の命を狙った人間を必ず突きとめてみせる。すぐには無理でも、例え何年かかっても必ずだ。必ず捕まえて、君を狙ったことを死ぬまで後悔させてやる」
ジェフリー王太子はそう言うとミリーナを強く抱きしめた。
だけでなくそのままベッドへと押し倒すとその唇を奪う。
「ジェフリーってば……まだ日がこんなに高いですわよ?」
「今からは嫌か? 嫌ならやめておくが」
「もう、意地悪な言い方ですわ……」
それを肯定ととったジェフリー王太子の手が、ミリーナの服の中へするりと入って行き、愛おしむように身体を優しく撫でていく。
「ミリーナ……君の胸に鈍く輝くナイフが突き立ったのを見た時、俺は目の前が絶望で真っ暗になったのだ。この世の終わりだと思った。だから君が今、ここにこうして無事でいてくれることがなによりも嬉しいんだよ」
「ジェフリー、涙がこぼれておりますわ」
「本当に……本当に君が無事でよかった……」
「心配していただいてありがとうございます。ですが私はちゃんとここにいます。ですのでどうか安心してくださいませ」
「ありがとうミリーナ。俺は2度と君をこんな目には合わせない。だからこれからもずっと俺の側にいてくれ。俺の側で、俺にその優しい笑顔を見せ続けてくれ」
「あなたがそれを望むのであれば――」
再び触れ合う唇と唇。
そのまま2人はいつにも増して情熱的に、深く溶け合うように愛しあった。
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