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第四章 リフシュタイン侯爵の陰謀
第45話 国王夫妻と夕食会(2)
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そうして限られた時間の中で最大限綺麗に着飾ったミリーナが、ジェフリー王太子にエスコートされて向かったのは王宮の最奥。
国王夫妻の居室がある場所だった。
ここは国王夫妻の完全なプライベートの空間であり、たとえ大公や公爵であっても許可なく立ち入ることは許されていない。
そんな王宮の最深部に初めて足を踏み入れたミリーナは当然、緊張を隠せなかったのだが、
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。父上も母上も君の顔が見たいというだけだし、俺だって一緒に隣にいる。もし何か困ったことがあったら、遠慮なく俺を頼ってくれ」
ジェフリー王太子がミリーナの緊張を優しく解きほぐしてくれた。
そしてミリーナはジェフリー王太子にエスコートされるがままに王室専用の食堂へと入室すると、生まれて初めて国王夫妻と面と向かって顔を合わせた。
「ローエングリン王国を統べられる偉大なる国王陛下、王妃様、ご機嫌麗しゅうございます。またお初にお目にかかります、私はエクリシア男爵家が娘ミリーナにございます。本日は晩餐の席にご招待を賜りましてまことに恐悦至極にございます」
ミリーナは国王夫妻に対する最上級の儀式礼とともに、丁寧にご挨拶の口上を述べた。
「いや、余の方こそ急に呼び出して済まなかった。よくぞ来てくれたミリーナ。さぁさ、掛けるがよい」
「どうぞお座りになってミリーナ」
ローエングリン国王と王妃からそう促されたミリーナは、
「ありがとうございます国王陛下、王妃様」
お礼の言葉を述べると、使用人が引いた席に美しい所作で腰掛けた。
(自分で言うのもなんですけど、出だしのやり取りはなかなか悪くなかったんじゃないかしら? さっき習っていた通りに最上級の儀式礼もできましたし、おかげで恥をかかなくて済みましたわ)
「では早速食事を──と言いところだが、先に1つだけミリーナに尋ねておきたいことがあるのだ」
ミリーナがホッとしたのも束の間、ローエングリン国王がそんな言葉を口にした。
「どのようなことでございましょうか。私で答えられることでしたら何なりとお尋ね下さいませ、国王陛下」
「だがしかしその前に、先ほどから立ち居振舞いが少々硬いように見えるの。今日はあくまで非公式ゆえ、もう少し自然に話してくれても構わぬのだぞ?」
「お心遣い痛み入ります国王陛下。しかしながら偉大なる国王陛下の御前にて、そのような非礼を働くわけにはまいりませんわ」
「ふむ、つまりミリーナは余とは腹を割っては話したくはない、ということなのかの?」
「うええっ!? あ、いえ……こほん。はしたない声を上げてしまい大変失礼をいたしました。そのようなことは滅相もございませんわ」
「では普通に話すがよいぞ。なに、王である余が許すと言っておるのだから、誰も咎めはせぬ。ここにおる侍従たちは皆、信頼にたる者たちばかりであるしの」
ローエングリン国王にそこまで言われてしまっては、ミリーナもついに観念するしかない。
「それでは失礼ながら普通に話させていただきますわ」
「うむ、それでよい。では早速ミリーナに1つ問おう」
「はい、なんなりとお聞き下さい」
ミリーナはローエングリン国王の質問を一言も聞き漏らさないようにと、改めて背筋を伸ばして傾聴の姿勢をとったのだが、
「王とは常に孤独な存在である。真の友はできず、時に真の友と思っていた者すら敵となる。そのように孤独な王が唯一心を許せるのが王妃なのだ。王妃は常に王に寄り添い、常に王の孤独をその心で分かち合わねばならぬ。時にミリーナ=エクリシア、今のそなたに王の孤独を分け合う王妃としての覚悟があろうか?」
その問いかけはミリーナの想像を遥かに上回った、とてつもなく重い問いかけだった。
「王妃としての覚悟――」
だからその問いかけにミリーナはすぐには答えることができないでいた。
もちろん国王直々の問いかけに答えないで黙っているわけにはいかない。
ミリーナは必死に頭を回してなんと答えるべきか考えを巡らせ始めた。
しかしそこにジェフリー王太子がすかさず助け舟を出す。
ここに来る前、隣についていると言ったのは嘘ではなかった。
「父上、そのようなことをこの場で尋ねるなどとは聞いておりません。あくまで簡単な夕食会をするという話だったはずです」
想定外すぎる質問に言葉に詰まってしまったミリーナを守るべく、ジェフリー王太子は男らしく自分が矢面に立ってみせたのだ。
国王夫妻の居室がある場所だった。
ここは国王夫妻の完全なプライベートの空間であり、たとえ大公や公爵であっても許可なく立ち入ることは許されていない。
そんな王宮の最深部に初めて足を踏み入れたミリーナは当然、緊張を隠せなかったのだが、
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。父上も母上も君の顔が見たいというだけだし、俺だって一緒に隣にいる。もし何か困ったことがあったら、遠慮なく俺を頼ってくれ」
ジェフリー王太子がミリーナの緊張を優しく解きほぐしてくれた。
そしてミリーナはジェフリー王太子にエスコートされるがままに王室専用の食堂へと入室すると、生まれて初めて国王夫妻と面と向かって顔を合わせた。
「ローエングリン王国を統べられる偉大なる国王陛下、王妃様、ご機嫌麗しゅうございます。またお初にお目にかかります、私はエクリシア男爵家が娘ミリーナにございます。本日は晩餐の席にご招待を賜りましてまことに恐悦至極にございます」
ミリーナは国王夫妻に対する最上級の儀式礼とともに、丁寧にご挨拶の口上を述べた。
「いや、余の方こそ急に呼び出して済まなかった。よくぞ来てくれたミリーナ。さぁさ、掛けるがよい」
「どうぞお座りになってミリーナ」
ローエングリン国王と王妃からそう促されたミリーナは、
「ありがとうございます国王陛下、王妃様」
お礼の言葉を述べると、使用人が引いた席に美しい所作で腰掛けた。
(自分で言うのもなんですけど、出だしのやり取りはなかなか悪くなかったんじゃないかしら? さっき習っていた通りに最上級の儀式礼もできましたし、おかげで恥をかかなくて済みましたわ)
「では早速食事を──と言いところだが、先に1つだけミリーナに尋ねておきたいことがあるのだ」
ミリーナがホッとしたのも束の間、ローエングリン国王がそんな言葉を口にした。
「どのようなことでございましょうか。私で答えられることでしたら何なりとお尋ね下さいませ、国王陛下」
「だがしかしその前に、先ほどから立ち居振舞いが少々硬いように見えるの。今日はあくまで非公式ゆえ、もう少し自然に話してくれても構わぬのだぞ?」
「お心遣い痛み入ります国王陛下。しかしながら偉大なる国王陛下の御前にて、そのような非礼を働くわけにはまいりませんわ」
「ふむ、つまりミリーナは余とは腹を割っては話したくはない、ということなのかの?」
「うええっ!? あ、いえ……こほん。はしたない声を上げてしまい大変失礼をいたしました。そのようなことは滅相もございませんわ」
「では普通に話すがよいぞ。なに、王である余が許すと言っておるのだから、誰も咎めはせぬ。ここにおる侍従たちは皆、信頼にたる者たちばかりであるしの」
ローエングリン国王にそこまで言われてしまっては、ミリーナもついに観念するしかない。
「それでは失礼ながら普通に話させていただきますわ」
「うむ、それでよい。では早速ミリーナに1つ問おう」
「はい、なんなりとお聞き下さい」
ミリーナはローエングリン国王の質問を一言も聞き漏らさないようにと、改めて背筋を伸ばして傾聴の姿勢をとったのだが、
「王とは常に孤独な存在である。真の友はできず、時に真の友と思っていた者すら敵となる。そのように孤独な王が唯一心を許せるのが王妃なのだ。王妃は常に王に寄り添い、常に王の孤独をその心で分かち合わねばならぬ。時にミリーナ=エクリシア、今のそなたに王の孤独を分け合う王妃としての覚悟があろうか?」
その問いかけはミリーナの想像を遥かに上回った、とてつもなく重い問いかけだった。
「王妃としての覚悟――」
だからその問いかけにミリーナはすぐには答えることができないでいた。
もちろん国王直々の問いかけに答えないで黙っているわけにはいかない。
ミリーナは必死に頭を回してなんと答えるべきか考えを巡らせ始めた。
しかしそこにジェフリー王太子がすかさず助け舟を出す。
ここに来る前、隣についていると言ったのは嘘ではなかった。
「父上、そのようなことをこの場で尋ねるなどとは聞いておりません。あくまで簡単な夕食会をするという話だったはずです」
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