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第四章 リフシュタイン侯爵の陰謀
第46話 国王夫妻と夕食会(3)
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「ジェフリー。余は今、ミリーナと話をしておるのだ。横から口を挟むでない」
「しかしこれでは完全に不意打ちではありませんか。ミリーナもこの場でこのような問いかけをされるとは思ってもいなかったはずです。これではあまりにもミリーナに酷というものです」
「それに関しては余に非があったと詫びておこう。だがこれは聞いておかねばならぬことなのだ。王家に入る覚悟があるのかどうか、余にはこの国の王としてミリーナに問う義務がある。次期国王となるお前なら、この言葉の意味は分かるであろう」
「ですが父上!」
ミリーナを助けるという約束を果たすべく、なおも食い下がろうとするジェフリー王太子だったが――。
「ジェフリー王太子殿下、私のことをお庇いいただき嬉しく思いますわ。ですが私も王太子妃の候補に選ばれた者として、この問いに答える義務があると感じております」
「見よ、ミリーナもこう言っておるようだが?」
「ま、まぁ君がそう言うのなら、俺は構わないのだが……」
「ではジェフリーも納得したところで、改めて問おう。ミリーナ、今のそなたに王の孤独を分け合う王妃としての覚悟があるのかの?」
鋭い眼差しとともに再び投げ掛けられたその問いかけを、ミリーナは自分の中でじっくりと噛み砕いた。
覚悟という言葉の意味。
王が孤独であるということの意味。
それを支える王妃の役割。
様々なことをたっぷり30秒ほど考えてから、ミリーナは口を開いた。
「申し訳ありませんが、今の私にはそのような覚悟はございません」
毅然とした態度でそう答える。
「お、おいミリーナ!」
その答えを聞いたジェフリー王太子は思わず立ち上がってしまった。
ガガッと、イスが不快で大きな音を立てる。
「ジェフリー。一国の王太子ともあろう者が、そのように大きな音を立てて席を立つでない」
「し、失礼しました父上」
ジェフリー王太子はすぐに我に返ると、謝罪の言葉とともに自分の席に座り直す。
しかしジェフリー王太子がこうも焦ってしまったのも無理はないだろう。
王家に入る覚悟があるかと問われたミリーナがまさか「ない」と答えるとは、ミリーナを除いたこの場の誰も思いもしなかっただろうから。
「つまりミリーナはそのような覚悟もなしに王太子妃になろうというわけなのかの?」
ローエングリン国王の声がわずかに怒気をはらみ、その目がさらに鋭さを増す。
しかしミリーナはそれに全く動じる様子もなく言った。
「いいえ、そういう意味ではございません。今はまだ持ちえていないと、そう申し上げたのですわ」
「今はまだ、とな? その心はいかんや?」
「実のところを申しますと、私はある日突然、現在の立場に置かれることになりました。そして必死にその立場を全うするも、何が何だか分からないままに今日という日まで日々が過ぎてしまったのです」
「ほぅ、それで?」
「そんな私に覚悟など定まるはずがあるでしょうか? そも、そんな簡単に定まるものを覚悟などと呼んでいいものなのでしょうか? 覚悟とはもっと重く、なにより強い信念のもとに生まれるものではないかと、私はそのように考えました。よって今の私にはまだ覚悟は持ちえないと申し上げたのです」
「なるほどな。言いたいことはよく分かった」
今度はローエングリン国王がミリーナの言葉をかみ砕くように、何度かうんうんと目をつぶって頷く。
そして再び目を見開くと、告げた。
「合格だ、ミリーナ=エクリシア」
「しかしこれでは完全に不意打ちではありませんか。ミリーナもこの場でこのような問いかけをされるとは思ってもいなかったはずです。これではあまりにもミリーナに酷というものです」
「それに関しては余に非があったと詫びておこう。だがこれは聞いておかねばならぬことなのだ。王家に入る覚悟があるのかどうか、余にはこの国の王としてミリーナに問う義務がある。次期国王となるお前なら、この言葉の意味は分かるであろう」
「ですが父上!」
ミリーナを助けるという約束を果たすべく、なおも食い下がろうとするジェフリー王太子だったが――。
「ジェフリー王太子殿下、私のことをお庇いいただき嬉しく思いますわ。ですが私も王太子妃の候補に選ばれた者として、この問いに答える義務があると感じております」
「見よ、ミリーナもこう言っておるようだが?」
「ま、まぁ君がそう言うのなら、俺は構わないのだが……」
「ではジェフリーも納得したところで、改めて問おう。ミリーナ、今のそなたに王の孤独を分け合う王妃としての覚悟があるのかの?」
鋭い眼差しとともに再び投げ掛けられたその問いかけを、ミリーナは自分の中でじっくりと噛み砕いた。
覚悟という言葉の意味。
王が孤独であるということの意味。
それを支える王妃の役割。
様々なことをたっぷり30秒ほど考えてから、ミリーナは口を開いた。
「申し訳ありませんが、今の私にはそのような覚悟はございません」
毅然とした態度でそう答える。
「お、おいミリーナ!」
その答えを聞いたジェフリー王太子は思わず立ち上がってしまった。
ガガッと、イスが不快で大きな音を立てる。
「ジェフリー。一国の王太子ともあろう者が、そのように大きな音を立てて席を立つでない」
「し、失礼しました父上」
ジェフリー王太子はすぐに我に返ると、謝罪の言葉とともに自分の席に座り直す。
しかしジェフリー王太子がこうも焦ってしまったのも無理はないだろう。
王家に入る覚悟があるかと問われたミリーナがまさか「ない」と答えるとは、ミリーナを除いたこの場の誰も思いもしなかっただろうから。
「つまりミリーナはそのような覚悟もなしに王太子妃になろうというわけなのかの?」
ローエングリン国王の声がわずかに怒気をはらみ、その目がさらに鋭さを増す。
しかしミリーナはそれに全く動じる様子もなく言った。
「いいえ、そういう意味ではございません。今はまだ持ちえていないと、そう申し上げたのですわ」
「今はまだ、とな? その心はいかんや?」
「実のところを申しますと、私はある日突然、現在の立場に置かれることになりました。そして必死にその立場を全うするも、何が何だか分からないままに今日という日まで日々が過ぎてしまったのです」
「ほぅ、それで?」
「そんな私に覚悟など定まるはずがあるでしょうか? そも、そんな簡単に定まるものを覚悟などと呼んでいいものなのでしょうか? 覚悟とはもっと重く、なにより強い信念のもとに生まれるものではないかと、私はそのように考えました。よって今の私にはまだ覚悟は持ちえないと申し上げたのです」
「なるほどな。言いたいことはよく分かった」
今度はローエングリン国王がミリーナの言葉をかみ砕くように、何度かうんうんと目をつぶって頷く。
そして再び目を見開くと、告げた。
「合格だ、ミリーナ=エクリシア」
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