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最終章
第64話 2つの願い
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王の間にまだ貴族たちのざわめきが残る中、ローエングリン国王が口を開いた。
「こたびの一件、大儀であったぞジェフリー王太子。よくぞ獅子身中の虫をあぶりだしてくれた。礼とともに、望む褒美を取らせたいと思う。何でも言うがよい」
「ありがたきお言葉、感謝の極みに存じます国王陛下。ですがこれらは全て自分のため――いいえ、これはただただ愛するミリーナのためにやったこと。実を申しますと、リフシュタイン侯爵の密約を暴いたのはその一環に過ぎないのです」
(ジェフリー……)
ミリーナはその言葉にジェフリー王太子の深い愛情を感じ、感極まりそうになった。
想い人から、国の大事よりも君を思ってやったことだと言われて嫌な気持ちがする女性はいはしない。
「それでも国を救ったのは紛れもない事実である。褒美を取らさぬというわけにはいくまいて。何か望みはないのかの?」
「では2つだけお願いしたき儀がございます」
「うむ、なんなりと申してみよ」
「1つ目の願いはミリーナの――ミリーナ=エクリシアの名誉を回復するとともに、王太子妃とすることをこの場で正式に認めていただきたいのです」
「あ……」
その言葉を聞いて、ミリーナの口からは喜びと嬉しさが入り混じった感嘆の声が漏れ出でた。
「よかろう。ローエングリン王の名においてミリーナ=エクリシアの名誉を回復するとともに、今この瞬間よりジェフリー=アインス=フォン=ローエングリン王太子の婚約者とする。宮廷司祭長は結婚のために必要となる王家の儀式をただちに準備し、日取りとともにすみやかに余に奏上せよ」
「かしこまりました国王陛下。ただちに作業に取り掛かります」
「では2つ目の願いを申すがよい」
宮廷司祭長に指示を出したローエングリン国王が、ジェフリー王太子に続きを促す。
「2つ目の願いは、2人の子供のことにございます。俺とミリーナの間には男子が生まれております。その子を2人の正式な子供――王位継承者と認めていただきたく思います」
「なんと、男子がおるのか? それは本当かジェフリー!」
ローエングリン国王が驚きのあまり玉座から腰を浮かせた。
その驚き用ときたら、この場ではジェフリー王太子と呼ぶべきところを「ジェフリー」と呼び捨てにしてしまうほどだった。
「はい、美しい黒い髪と吸い込まれるような黒い瞳を持った、紛れもなく王家の血を引く男子にございます」
「そうであったのか……そうか、男子が……。よかろう、ローエングリン王の名においてその男子を正式に王家の子と認めよう」
「2つの願いを聞き届けていただき、まことにありがとうございました」
「礼には及ばぬ。して、その他には望むものはないのかの? こたびの功績に対して、これではあまりに褒美が軽すぎるというもの。余としてもこれだけでは他の者に示しがつかぬ」
ローエングリン王は改めてジェフリー王太子に問うた。
しかし、
「俺にとってはミリーナが隣にいてくれること、それこそが至上の喜びなのです。それに勝る褒美など到底ございません」
「そうか。そうまで言うのであらば、余もこれ以上の無理強いはするまいて」
「お心遣いありがとうございます国王陛下」
ジェフリー王太子はローエングリン国王に深く首を垂れると、ミリーナに向き直った。
「ミリーナ、やっと終わったよ」
「ジェフリー王太子殿下……ありがとうございました……何もかも本当にありがとうございました」
「感謝をするのはこっちの方さ。だってこうやってまた君が俺の隣にいてくれるのだから」
「はい……」
「ミリーナ、俺はもう君を2度と離さない。終生、俺とともに在ってくれ」
ジェフリー王太子がミリーナに右手を差し出した。小指だけが立った右手を。
「私も同じ気持ちですわ。どうかこの生が終わるまで、あなたのそばにいさせてくださいませ」
ミリーナも右手を差し出すと、2人の小指と小指がそっと絡み合う。
それは2人だけに通じる約束の指切り。
13年前の幼いあの日に交わした約束に代わる2人の新しい約束が――2人の門出を祝う約束が、今ここに契られたのだった。
同時にミリーナとジェフリー王太子の唇は自然と引かれ合うように触れ合った。
結ばれた唇から、お互いがお互いを想う心が溶け合い、交じり合って1つになる。
「うむ、まこと今日は良き日かな」
ローエングリン国王がパンパンパンと手を打ち鳴らすとともに、王の間に万雷の拍手が巻き起こった。
2人を祝福する万雷の拍手はしばらくの間、鳴りやむことはなかった。
「こたびの一件、大儀であったぞジェフリー王太子。よくぞ獅子身中の虫をあぶりだしてくれた。礼とともに、望む褒美を取らせたいと思う。何でも言うがよい」
「ありがたきお言葉、感謝の極みに存じます国王陛下。ですがこれらは全て自分のため――いいえ、これはただただ愛するミリーナのためにやったこと。実を申しますと、リフシュタイン侯爵の密約を暴いたのはその一環に過ぎないのです」
(ジェフリー……)
ミリーナはその言葉にジェフリー王太子の深い愛情を感じ、感極まりそうになった。
想い人から、国の大事よりも君を思ってやったことだと言われて嫌な気持ちがする女性はいはしない。
「それでも国を救ったのは紛れもない事実である。褒美を取らさぬというわけにはいくまいて。何か望みはないのかの?」
「では2つだけお願いしたき儀がございます」
「うむ、なんなりと申してみよ」
「1つ目の願いはミリーナの――ミリーナ=エクリシアの名誉を回復するとともに、王太子妃とすることをこの場で正式に認めていただきたいのです」
「あ……」
その言葉を聞いて、ミリーナの口からは喜びと嬉しさが入り混じった感嘆の声が漏れ出でた。
「よかろう。ローエングリン王の名においてミリーナ=エクリシアの名誉を回復するとともに、今この瞬間よりジェフリー=アインス=フォン=ローエングリン王太子の婚約者とする。宮廷司祭長は結婚のために必要となる王家の儀式をただちに準備し、日取りとともにすみやかに余に奏上せよ」
「かしこまりました国王陛下。ただちに作業に取り掛かります」
「では2つ目の願いを申すがよい」
宮廷司祭長に指示を出したローエングリン国王が、ジェフリー王太子に続きを促す。
「2つ目の願いは、2人の子供のことにございます。俺とミリーナの間には男子が生まれております。その子を2人の正式な子供――王位継承者と認めていただきたく思います」
「なんと、男子がおるのか? それは本当かジェフリー!」
ローエングリン国王が驚きのあまり玉座から腰を浮かせた。
その驚き用ときたら、この場ではジェフリー王太子と呼ぶべきところを「ジェフリー」と呼び捨てにしてしまうほどだった。
「はい、美しい黒い髪と吸い込まれるような黒い瞳を持った、紛れもなく王家の血を引く男子にございます」
「そうであったのか……そうか、男子が……。よかろう、ローエングリン王の名においてその男子を正式に王家の子と認めよう」
「2つの願いを聞き届けていただき、まことにありがとうございました」
「礼には及ばぬ。して、その他には望むものはないのかの? こたびの功績に対して、これではあまりに褒美が軽すぎるというもの。余としてもこれだけでは他の者に示しがつかぬ」
ローエングリン王は改めてジェフリー王太子に問うた。
しかし、
「俺にとってはミリーナが隣にいてくれること、それこそが至上の喜びなのです。それに勝る褒美など到底ございません」
「そうか。そうまで言うのであらば、余もこれ以上の無理強いはするまいて」
「お心遣いありがとうございます国王陛下」
ジェフリー王太子はローエングリン国王に深く首を垂れると、ミリーナに向き直った。
「ミリーナ、やっと終わったよ」
「ジェフリー王太子殿下……ありがとうございました……何もかも本当にありがとうございました」
「感謝をするのはこっちの方さ。だってこうやってまた君が俺の隣にいてくれるのだから」
「はい……」
「ミリーナ、俺はもう君を2度と離さない。終生、俺とともに在ってくれ」
ジェフリー王太子がミリーナに右手を差し出した。小指だけが立った右手を。
「私も同じ気持ちですわ。どうかこの生が終わるまで、あなたのそばにいさせてくださいませ」
ミリーナも右手を差し出すと、2人の小指と小指がそっと絡み合う。
それは2人だけに通じる約束の指切り。
13年前の幼いあの日に交わした約束に代わる2人の新しい約束が――2人の門出を祝う約束が、今ここに契られたのだった。
同時にミリーナとジェフリー王太子の唇は自然と引かれ合うように触れ合った。
結ばれた唇から、お互いがお互いを想う心が溶け合い、交じり合って1つになる。
「うむ、まこと今日は良き日かな」
ローエングリン国王がパンパンパンと手を打ち鳴らすとともに、王の間に万雷の拍手が巻き起こった。
2人を祝福する万雷の拍手はしばらくの間、鳴りやむことはなかった。
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