レアジョブ【精霊騎士】の俺、突然【勇者パーティ】を追放されたので【へっぽこ幼女魔王さま】とスローライフします

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫

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第三章 ゲーゲンパレス・スローライフ(前編)

第19話 王の器

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 そんなこんなで朝市をあちこち回った後。

「なぁ魔王さま」
「なんじゃハルト」

 俺は今日一日――いや【ゲーゲンパレス】に来て以来ずっと感じていたことを幼女魔王さまに告げた。

「魔王さまって街の人からものすごく慕われているよな」

「それほどでも――あるのじゃ。なにせわらわは【全国民の象徴】であるからの。民と心を一つにしてこその象徴であるからして。そこは謙遜けんそんはせぬのじゃ」

「ほんとすごいな……」
 
 幼女魔王さまの言葉に俺は素直に感心していた。

 大朝市コミケを歩くたびに次々と親しげに声をかけられていた幼女魔王さまは、民の目線を、民の気持ちを肌感覚で知ろうとしていたからだ。

「これが全国民の象徴か……こんな不思議な王の在り方があったなんて、俺はここに来るまで考えたこともなかったよ」

 俺が知っている王や貴族とはたいていが、平民のことを国を構成する歯車の一つ程度にしか思っていなかった。

「ハルトはいちいち小難しく考えるのが好きじゃのぅ。単にこういう統治のシステムもあるというだけのことじゃよ」

「魔王さまはそう言うけどさ」

 例えば【勇者】がそうだった。

 貴族になる前も、ただの平民と【聖剣】に選ばれた自分は違う――みたいなところがないわけじゃなかったけど、特に【上級貴族】になってからはそれが目に見えて酷くなった。

 庶民がどうの平民がどうの言い出して、あからさまに見下すようになったのだ。

「もし世界中の王様や皇帝がお前みたいに平民の気持ちを分かろうとするやつだったらさ。世の中はきっと、もっともっと良くなってただろうにな」

「それは買いかぶりが過ぎるというものじゃよ。なにせわらわは自他ともに認めるへっぽこ【魔王】じゃからの。鬼族でありながら戦闘力が低すぎるどころか、背が低いゆえ剣すらまともに振れぬ。わらわにできるのは民の声を聞くことくらいなのじゃ」

「それに関しては確かにどうしよもなくへっぽこだな、否定はしない」

「あ、うん……なのじゃ……」

 俺の言葉に幼女魔王さまがしょぼーんとする。

「戦闘能力どころか、それ以前の基礎的な運動能力からしてかなり低いもんな。下手したら人間族の子供にも負けるんじゃないか」

 これで最強無比の鬼族だというのだから、不思議なこともあるものだ。

「お主は本当に言いたいことを素直に言いよるのぅ……」

「――でもさ。それを素直に受け入れて、代わりに自分にできることを全力でやる――そんな魔王さまは間違いなく王であるにふさわしいと思うよ。使い古された言葉だけど、王の器だ」

「う、うむ……で、あるか……。まったくお主はそうやってなんでもかんでもストレートに言いよるから、わらわは時々ドキドキしてしまうのじゃ……」

 最後は小さな声でごにょごにょ言っていたせいでよく聞き取れなかったんだけど、俺に褒められた幼女魔王さまが喜んでいるのは伝わってきた。

 おっと変に真面目な話になっちゃったな。
 せっかく楽しい大朝市コミケだったのに。

 はい、難しい話はもうおしまい!

「じゃ、いっぱい見れたしそろそろ帰るか」
 俺は雰囲気を変えるべく、努めて明るくそう言った。

「そうじゃの。じゃがハルトよ、その前に大切なことを一つ忘れておるのではないか?」

「大切なこと? なにかあったっけ……?」
「魚屋にタイを預けておったじゃろうて」

「! 大事な大事な今日の晩ご飯なのにすっかり忘れてたよ。タイはあの癖のない白身の刺身だよな? ここに来た初日に食べたけど美味しかったなぁ」

「ハルト様はタイが一番のお気に入りですか」

「どの刺身も美味しかったけどタイは別格だったな。口に入れた時はあっさりしているのに、噛むと繊細なうま味がじゅわってにじみ出てくるんだ」

「【イフリート】で肉を焼いておったハルトが、なかなか通なこと言うようになったのじゃ。良きかな良きかな」

「最先端文化を日々学ばせてもらっているからな」

「さすがですハルト様!」

 真面目まじめモードが吹き飛び、既にすっかりいつもの調子に戻った俺たちは。
 すぐに魚屋に寄ってタイを回収すると、王宮への帰路についたのだった。
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