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第四章 ゲーゲンパレス・スローライフ(後編)
第26話 【幼女魔王さま】、練兵場を視察する
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「おおー! 皆、頑張っておるのじゃ!」
幼女魔王さまが嬉しそうな声を上げ、
「今日は魔王さまがご観覧されておられますからね。訓練する兵士たちも気合が入るというものでしょう」
ミスティもそれに朗らかに同意をする。
今日の俺は幼女魔王さまとミスティに連れられて、練兵場での軍事教練を観覧していた。
今は太鼓やほら貝の合図にあわせて様々な陣形に変化する戦術変更訓練を行っている。
「確かに見事なもんだな」
それぞれの部隊長に指揮され、他部隊とも連携を取りながらきびきびとした無駄のない動き繰り出し様々に陣形を変えていく様子は、元軍属として見ていてとても気持ちのいいものだった。
――と、そこへ、
「魔王さま、本日はわざわざご足労いただき誠にありがとうございました。僭越ながら全軍を代表してお礼の言葉を申し上げます」
190センチはありそうな長身の女軍人がやってきた。
軍服にはたくさんの徽章や勲章がつけられていて、一目でかなりの偉いさんだと見て取れる。
「おお、これは大将軍ベルナルド、壮健のようでなによりじゃ。今日はまっこと気合の入った素晴らしい練兵を見せてもらい、妾は大満足なのじゃ」
「もったいないお言葉にございます」
恭しく礼をした大将軍ベルナルド――額に大きな角の生えた鬼族だ――はそこで俺の方を向き直ると、
「で、あんたが魔王さまお気に入りの人間族――確かハルト・カミカゼって言ったかい?」
俺のことを値踏みするような視線を向けてきた。
「他に同姓同名がいなければ俺がそのハルト・カミカゼだろうな。大将軍ってことはアンタが軍のナンバーワンってことか」
「形式上は魔王さまが最高責任者だけどね。実質的にはそういうことになるね」
「リッケン・クンシュセーってやつだな、知ってるぞ」
やはりこの国において【魔王】とはなんら実権がないにも関わらず、責任だけは取らされるという大変な立場のようだな。
あんな小さな身体でこの驚くほどの重責、俺もできうる限り力になってあげないと。
「ところでハルト。アンタはかなりの腕前なんだってねぇ。街でもいろいろと評判みたいだぜ?」
「それはどうも。いい評判であること願ってるよ」
「謙遜するねぇ。なんでも【北の魔王】を討伐した【勇者パーティ】にいたんだって? そうだ、今日会ったのも何かの縁だ。少し手合わせ願えないかね?」
そう言ってベルナルドがニヤリと笑った。
「ベルナルド様、お戯れはおよしくださいませ」
するとミスティが急に焦ったような声を上げた。
「おいおいミスティ、そんな怖い顔するなよ。せっかくの美人が台無しだぜ? なに、ちょいと軽く汗をかかないかと言っただけじゃないか? なぁハルト、アンタもそれくらい別にいいよなぁ?」
「俺は構わないよ――」
そう言いかけた俺の言葉をミスティがさえぎった。
「ベルナルド様は一個師団級個人戦力とも呼ばれる【南部魔国】最強の戦士です! 先だっても不遜な態度で上官に反抗した腕っぷし自慢の鬼族の新兵を、半殺しにしたばかりではありませんか!」
「あはは、鬼族同士はあれくらいでいいんだよ。どうせ少々の怪我ならすぐに回復するんだ。それにあれ以降あいつも素直になっただろう? アタイだって馬鹿じゃねぇんだ、相手を見て力とやり方の加減くらいはしてみせるさ」
「で、ですが――」
よほど俺とベルナルドを戦わせたくないのだろう。
なおも言い募るミスティを俺はそっと手で制すると、
「ベルナルドって言ったか? ぜひ手合わせ願えるかな。俺もこっちに来てからまったり過ごしすぎててさ、最近身体がなまってる感じがしてたんだよな。付き合ってくれるっていうならちょうどいいよ」
パキッ、ポキッと軽く肩を回しながら、その申し出を受けて立った。
「交渉成立だね」
ベルナルドが嬉しそうな――そして獰猛な笑みを浮かべる。
「こっちだ、ついてきな。すぐそこに1対1の模擬戦用の演習場があるんだ」
「ベルナルド様! 魔王さまもおとめください! 魔王さまが止めればいくらベルナルド様であっても――」
「まぁ良いではないかミスティ。ハルトの強さはミスティも知っておるじゃろ?」
「それはそうですが、ベルナルド様は大変に熱くなりやすい性分です。もしものことがあれば――」
「まぁ……大丈夫であろう……多分。それに実務トップの大将軍のやることにお飾りの妾が口を出したとなると、それはそれで少々厄介なことになるしの。ま、ここはハルトを信じて見守ろうではないか」
「魔王さまがそうまでおっしゃるのであれば……」
幼女魔王さまが嬉しそうな声を上げ、
「今日は魔王さまがご観覧されておられますからね。訓練する兵士たちも気合が入るというものでしょう」
ミスティもそれに朗らかに同意をする。
今日の俺は幼女魔王さまとミスティに連れられて、練兵場での軍事教練を観覧していた。
今は太鼓やほら貝の合図にあわせて様々な陣形に変化する戦術変更訓練を行っている。
「確かに見事なもんだな」
それぞれの部隊長に指揮され、他部隊とも連携を取りながらきびきびとした無駄のない動き繰り出し様々に陣形を変えていく様子は、元軍属として見ていてとても気持ちのいいものだった。
――と、そこへ、
「魔王さま、本日はわざわざご足労いただき誠にありがとうございました。僭越ながら全軍を代表してお礼の言葉を申し上げます」
190センチはありそうな長身の女軍人がやってきた。
軍服にはたくさんの徽章や勲章がつけられていて、一目でかなりの偉いさんだと見て取れる。
「おお、これは大将軍ベルナルド、壮健のようでなによりじゃ。今日はまっこと気合の入った素晴らしい練兵を見せてもらい、妾は大満足なのじゃ」
「もったいないお言葉にございます」
恭しく礼をした大将軍ベルナルド――額に大きな角の生えた鬼族だ――はそこで俺の方を向き直ると、
「で、あんたが魔王さまお気に入りの人間族――確かハルト・カミカゼって言ったかい?」
俺のことを値踏みするような視線を向けてきた。
「他に同姓同名がいなければ俺がそのハルト・カミカゼだろうな。大将軍ってことはアンタが軍のナンバーワンってことか」
「形式上は魔王さまが最高責任者だけどね。実質的にはそういうことになるね」
「リッケン・クンシュセーってやつだな、知ってるぞ」
やはりこの国において【魔王】とはなんら実権がないにも関わらず、責任だけは取らされるという大変な立場のようだな。
あんな小さな身体でこの驚くほどの重責、俺もできうる限り力になってあげないと。
「ところでハルト。アンタはかなりの腕前なんだってねぇ。街でもいろいろと評判みたいだぜ?」
「それはどうも。いい評判であること願ってるよ」
「謙遜するねぇ。なんでも【北の魔王】を討伐した【勇者パーティ】にいたんだって? そうだ、今日会ったのも何かの縁だ。少し手合わせ願えないかね?」
そう言ってベルナルドがニヤリと笑った。
「ベルナルド様、お戯れはおよしくださいませ」
するとミスティが急に焦ったような声を上げた。
「おいおいミスティ、そんな怖い顔するなよ。せっかくの美人が台無しだぜ? なに、ちょいと軽く汗をかかないかと言っただけじゃないか? なぁハルト、アンタもそれくらい別にいいよなぁ?」
「俺は構わないよ――」
そう言いかけた俺の言葉をミスティがさえぎった。
「ベルナルド様は一個師団級個人戦力とも呼ばれる【南部魔国】最強の戦士です! 先だっても不遜な態度で上官に反抗した腕っぷし自慢の鬼族の新兵を、半殺しにしたばかりではありませんか!」
「あはは、鬼族同士はあれくらいでいいんだよ。どうせ少々の怪我ならすぐに回復するんだ。それにあれ以降あいつも素直になっただろう? アタイだって馬鹿じゃねぇんだ、相手を見て力とやり方の加減くらいはしてみせるさ」
「で、ですが――」
よほど俺とベルナルドを戦わせたくないのだろう。
なおも言い募るミスティを俺はそっと手で制すると、
「ベルナルドって言ったか? ぜひ手合わせ願えるかな。俺もこっちに来てからまったり過ごしすぎててさ、最近身体がなまってる感じがしてたんだよな。付き合ってくれるっていうならちょうどいいよ」
パキッ、ポキッと軽く肩を回しながら、その申し出を受けて立った。
「交渉成立だね」
ベルナルドが嬉しそうな――そして獰猛な笑みを浮かべる。
「こっちだ、ついてきな。すぐそこに1対1の模擬戦用の演習場があるんだ」
「ベルナルド様! 魔王さまもおとめください! 魔王さまが止めればいくらベルナルド様であっても――」
「まぁ良いではないかミスティ。ハルトの強さはミスティも知っておるじゃろ?」
「それはそうですが、ベルナルド様は大変に熱くなりやすい性分です。もしものことがあれば――」
「まぁ……大丈夫であろう……多分。それに実務トップの大将軍のやることにお飾りの妾が口を出したとなると、それはそれで少々厄介なことになるしの。ま、ここはハルトを信じて見守ろうではないか」
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