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―最終章―
第37話 見送り
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今日も今日とて街に行く約束をしていた俺のところに、幼女魔王さまとミスティがやってきた。
しかしいつもとなにやら雰囲気が違っている。
そして二人の後ろには大将軍ベルナルド――ベルが神妙な面持ちで控えていたのだ。
「ハルト、急な話で済まぬのじゃが、しばらく会えなくなりそうなのじゃ」
開口一番、幼女魔王さまがいつもとは違う重々しい口調でそんなことを言ってきた。
「……何があったんだ?」
当然俺は何か緊急事態があったと察するわけで。
「昨日、【勇者】率いる帝国軍が【南部魔国】に侵攻してきたのじゃよ。既に国境近辺の砦が2つ落とされ、なおも【ゲーゲンパレス】に向かって南進中じゃ」
「はぁっ!? いやちょっと待ってくれ、帝国と【南部魔国】は長年友好関係にあったじゃないか。俺が帝国にいた時もそんな話はまったくなかったぞ? 何かの間違いじゃないのか?」
にわかには信じられない話を聞かされた俺が勢いあまってまくしたてると、
「それについてはアタイの方から説明するよ」
これまで後ろに控えていたベルがスッと前に出た。
「ハルトの疑問はもっともだ。どうも今回の件は帝国というよりは【勇者】が独断で動いているみたいでね」
「【勇者】が……? それは確かな筋からの情報なのか?」
「帝国軍のとある上級将校からの極秘情報さ。突発的な事態に備えて軍上層部同士は常日頃から公式・非公式問わず色んなコネクションで繋がっているんだ」
「ベルと同格の上級将校で【南部魔国】に肩入れしている信頼できる情報筋となると、情報源はマナシロ中将あたりか」
「鋭いねぇ。ま、明言は避けておくよ」
「でも短期間で、さらに【勇者】の独断となるとそこまで大規模な動員はできないはずだ。兵力は多くても5千ってところか?」
「約4千、歩兵中心と聞いている」
「兵力が大きく劣り、そして突然の奇襲攻撃……ってことは電撃的な短期決戦……それ以前にやる事もやり方もあまりにもめちゃくちゃだ。下手したら参謀本部に話が通ってない可能性もあるな」
軍団を動かすのは簡単ではない。
兵站――食料や備品の確保といった、兵団が戦闘活動を円滑に行うための後方支援が必要となる。
入念な準備をして初めて戦争は行えるのだ。
そして準備をすれば当然、【南部魔国】もその動向に気付いたはずだ。
気付かなかったと言うことは、ろくに準備もせずに攻め込んできた可能性が極めて高い。
そして時に慎重すぎて「甲羅干しする亀」とまで言われる腰の重い帝国参謀本部が、そんなボロボロの作戦を立案するはずもない。
そもそも戦争で疲弊しいまだ復興途上にある帝国が、友好国である【南部魔国】を攻める理由がない。
「ご明察だ。我々も帝国の本意ではないとの意見で一致している。そして目的はおそらく――」
「妾の首じゃろうの」
「魔王さまを――【南の魔王】を討伐しようってのか! 何考えてんだ【勇者】は! 【南部魔国】は数十年来の友好国だぞ!」
「おおかた二人目の【魔王】を討伐した実績でも欲しいのじゃろう。聞くところによると【勇者】は非常に功名心の強い人間だと聞き及んでおるでの」
「だからってこんなだまし討ちみたいなやり方はしちゃいけないだろ! わかった、そういうことなら俺も行く。昔の仲間として、あいつにこれ以上の好き勝手をさせるわけにはいかない」
俺は戦う決意を強く固めたんだけど――、
「悪いけどハルト、それは許可できないんだ」
なぜかベルがそれに水を差してきたのだった。
「ベル、俺は【精霊騎士】だ。大きな戦力になるはずだ」
「そうだね。でもハルトは人間族だ。魔王軍の配下として同じ人間族と戦わせるわけにはいかないさ。それに軍上層部の中にはハルトが【勇者】の放ったスパイだと疑うやつもいてね」
「【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】に誓って俺はスパイじゃない、それは信じて欲しい」
「もちろんアタイはわかってるよ。そもそもハルトがその気になればスパイなんてまどろっこしいことしなくても即、魔王さまの命をとれたわけだからね」
「だったら――」
「今回の不測の事態にゃ、うちも一枚岩じゃいられないのさ。拘束せずに自由を保障することがアタイのしてやれる最大限の誠意だと、どうか分かってはくれないかな?」
「……悪い、ちょっと熱くなっていたみたいだ」
そうだよな、ベル――ベルナルドは軍の実質トップである大将軍だ。
人の上に立つ公的立場の人間なんだ。
個人的な好き嫌いだけで物事を判断できるわけがない。
「わかった。俺はあくまで魔王さまに招かれた客人だから要請には従うよ。あと俺のことで迷惑かけてすまなかった、恩に着る」
「なに、ハルトは魔王さまの命を救ってくれた恩人だ。アタイも個人的にハルトを気に入ってる。これくらいの迷惑、たいしたことはないってことよ」
そう言ってベルはニカっと男前に笑ってみせた。
さらに、
「のぅハルト、【勇者】はお主の昔の仲間じゃろう? 仲間と戦うのは辛いものじゃ。妾はハルトにそんな辛い思いをしてほしくはないのじゃよ」
幼女魔王さまがいたわる様な優しい目でそんなことを言ってくる。
「魔王さま……うん、わかってる」
まったく、気遣いばっかり上手なへっぽこ魔王さまなんだからよ……。
「では話は以上じゃ。しばらく留守にするゆえ、ハルトは今まで通りゆるりとここで過ごすがよい。王宮の者には変わらぬ対応をするように申し付けておるからの。好きに出歩いても構わんのじゃ」
「ああ、ありがとう。心遣い恩に着るよ」
「ハルトよ。これまでハルトと過ごした日々はなかなかに楽しかったのじゃ」
「おいおい縁起でもない、そんな死地に赴くような言い方するなよな」
「戦地では何が起こるか分からんゆえの。なにより相手は【勇者】であるからして」
「そうだな……みんなの武運を祈ってるよ」
翌日。
幼女魔王さまとミスティは緊急招集された2万の軍勢と共に【ゲーゲンパレス】の北部の平原へと旅立っていった。
そこでさらに近隣の兵力を結集しつつ野戦にて【勇者】を迎え撃つとの事だった。
そして俺はそれをただ見送るしかできないのだった。
しかしいつもとなにやら雰囲気が違っている。
そして二人の後ろには大将軍ベルナルド――ベルが神妙な面持ちで控えていたのだ。
「ハルト、急な話で済まぬのじゃが、しばらく会えなくなりそうなのじゃ」
開口一番、幼女魔王さまがいつもとは違う重々しい口調でそんなことを言ってきた。
「……何があったんだ?」
当然俺は何か緊急事態があったと察するわけで。
「昨日、【勇者】率いる帝国軍が【南部魔国】に侵攻してきたのじゃよ。既に国境近辺の砦が2つ落とされ、なおも【ゲーゲンパレス】に向かって南進中じゃ」
「はぁっ!? いやちょっと待ってくれ、帝国と【南部魔国】は長年友好関係にあったじゃないか。俺が帝国にいた時もそんな話はまったくなかったぞ? 何かの間違いじゃないのか?」
にわかには信じられない話を聞かされた俺が勢いあまってまくしたてると、
「それについてはアタイの方から説明するよ」
これまで後ろに控えていたベルがスッと前に出た。
「ハルトの疑問はもっともだ。どうも今回の件は帝国というよりは【勇者】が独断で動いているみたいでね」
「【勇者】が……? それは確かな筋からの情報なのか?」
「帝国軍のとある上級将校からの極秘情報さ。突発的な事態に備えて軍上層部同士は常日頃から公式・非公式問わず色んなコネクションで繋がっているんだ」
「ベルと同格の上級将校で【南部魔国】に肩入れしている信頼できる情報筋となると、情報源はマナシロ中将あたりか」
「鋭いねぇ。ま、明言は避けておくよ」
「でも短期間で、さらに【勇者】の独断となるとそこまで大規模な動員はできないはずだ。兵力は多くても5千ってところか?」
「約4千、歩兵中心と聞いている」
「兵力が大きく劣り、そして突然の奇襲攻撃……ってことは電撃的な短期決戦……それ以前にやる事もやり方もあまりにもめちゃくちゃだ。下手したら参謀本部に話が通ってない可能性もあるな」
軍団を動かすのは簡単ではない。
兵站――食料や備品の確保といった、兵団が戦闘活動を円滑に行うための後方支援が必要となる。
入念な準備をして初めて戦争は行えるのだ。
そして準備をすれば当然、【南部魔国】もその動向に気付いたはずだ。
気付かなかったと言うことは、ろくに準備もせずに攻め込んできた可能性が極めて高い。
そして時に慎重すぎて「甲羅干しする亀」とまで言われる腰の重い帝国参謀本部が、そんなボロボロの作戦を立案するはずもない。
そもそも戦争で疲弊しいまだ復興途上にある帝国が、友好国である【南部魔国】を攻める理由がない。
「ご明察だ。我々も帝国の本意ではないとの意見で一致している。そして目的はおそらく――」
「妾の首じゃろうの」
「魔王さまを――【南の魔王】を討伐しようってのか! 何考えてんだ【勇者】は! 【南部魔国】は数十年来の友好国だぞ!」
「おおかた二人目の【魔王】を討伐した実績でも欲しいのじゃろう。聞くところによると【勇者】は非常に功名心の強い人間だと聞き及んでおるでの」
「だからってこんなだまし討ちみたいなやり方はしちゃいけないだろ! わかった、そういうことなら俺も行く。昔の仲間として、あいつにこれ以上の好き勝手をさせるわけにはいかない」
俺は戦う決意を強く固めたんだけど――、
「悪いけどハルト、それは許可できないんだ」
なぜかベルがそれに水を差してきたのだった。
「ベル、俺は【精霊騎士】だ。大きな戦力になるはずだ」
「そうだね。でもハルトは人間族だ。魔王軍の配下として同じ人間族と戦わせるわけにはいかないさ。それに軍上層部の中にはハルトが【勇者】の放ったスパイだと疑うやつもいてね」
「【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】に誓って俺はスパイじゃない、それは信じて欲しい」
「もちろんアタイはわかってるよ。そもそもハルトがその気になればスパイなんてまどろっこしいことしなくても即、魔王さまの命をとれたわけだからね」
「だったら――」
「今回の不測の事態にゃ、うちも一枚岩じゃいられないのさ。拘束せずに自由を保障することがアタイのしてやれる最大限の誠意だと、どうか分かってはくれないかな?」
「……悪い、ちょっと熱くなっていたみたいだ」
そうだよな、ベル――ベルナルドは軍の実質トップである大将軍だ。
人の上に立つ公的立場の人間なんだ。
個人的な好き嫌いだけで物事を判断できるわけがない。
「わかった。俺はあくまで魔王さまに招かれた客人だから要請には従うよ。あと俺のことで迷惑かけてすまなかった、恩に着る」
「なに、ハルトは魔王さまの命を救ってくれた恩人だ。アタイも個人的にハルトを気に入ってる。これくらいの迷惑、たいしたことはないってことよ」
そう言ってベルはニカっと男前に笑ってみせた。
さらに、
「のぅハルト、【勇者】はお主の昔の仲間じゃろう? 仲間と戦うのは辛いものじゃ。妾はハルトにそんな辛い思いをしてほしくはないのじゃよ」
幼女魔王さまがいたわる様な優しい目でそんなことを言ってくる。
「魔王さま……うん、わかってる」
まったく、気遣いばっかり上手なへっぽこ魔王さまなんだからよ……。
「では話は以上じゃ。しばらく留守にするゆえ、ハルトは今まで通りゆるりとここで過ごすがよい。王宮の者には変わらぬ対応をするように申し付けておるからの。好きに出歩いても構わんのじゃ」
「ああ、ありがとう。心遣い恩に着るよ」
「ハルトよ。これまでハルトと過ごした日々はなかなかに楽しかったのじゃ」
「おいおい縁起でもない、そんな死地に赴くような言い方するなよな」
「戦地では何が起こるか分からんゆえの。なにより相手は【勇者】であるからして」
「そうだな……みんなの武運を祈ってるよ」
翌日。
幼女魔王さまとミスティは緊急招集された2万の軍勢と共に【ゲーゲンパレス】の北部の平原へと旅立っていった。
そこでさらに近隣の兵力を結集しつつ野戦にて【勇者】を迎え撃つとの事だった。
そして俺はそれをただ見送るしかできないのだった。
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