18 / 566
第一部「《神滅覇王》――其の者、神をも滅する覇の道を往きて――」 異世界転生 1日目

第18話 はじめてのまなしー

しおりを挟む
「マナシロさま、この度は本当に、本当にありがとうございました。一度ならず二度までも孫娘の命を救っていただいたこと、ワシはもうこのまま墓に入っても構わないくらいに、ほんにマナシロさまには感謝してもしきれませぬ」
「いやもうほんと、気にしないでください」

「もはや老い先短い老残ろうざんの身なれど、この命、マナシロさまに捧げることを誓いましょうぞ。もちろん老いぼれの命一つなんぞ貰っても、マナシロさまのほうが困るだけかも知れませんが」
「そんな大げさななことじゃないんで。たまたま偶然、上手くいっただけなんで」

 あの後。
 ハヅキの快癒を知ったグンマさんは今に至るまでずっと、額を地面にこすり付けるほどに俺に対して深々と土下座をし続けていたのだった。

「ほんと、俺はただ、俺がやりたいことをやっただけですから。だからそろそろ顔を上げてください」
 頭を下げることは多々あれど、頭を下げられた経験が少ない俺にとって、年配の人にこんな風に土下座されるっていうのは、正直対応に困る以外の何物でもない。

「グンマさんの感謝の気持ちはそれはもう痛いほどわかりましたから、ね? ねね?」
 だがいくら俺がそう伝えても、のれんに腕押しでグンマさんは一向に聞いちゃあくれないのだ。

「悪い、ウヅキからも何とか言ってもらえないか」
 俺はついに自分での説得を諦めて、おじいちゃんの泣き所である、可愛い孫娘さんからうまいこと伝えてもらおうと思ったのだが、
「……」
 俺の右隣に座るウヅキからは、なぜか反応がなかった。

「ウヅキ?」
「……はい? ……あ、えっと! わたしもそう思います!」
「……話、聞いてなかったんだね」
「す、すみません……少し考えごとを……決意を新たに覚悟を決めたと申しますか……」

「決意? 覚悟? なんの?」
「っ!? な、ななな、なんでもないんです! セーヤさんには、全然ちっとも! お茶碗に残った米粒ほども関係ありませんから! あ、いえ、なくはないんですけど!」
「どっちなんだ……」

 理由は不明だが、相当テンパってるようなのは理解した。
「ハツキちゃんからも頼むよ」
 急にぽんこつになってしまったウヅキを諦め、俺は左隣に座るハヅキちゃんにもお願いしてみる。

「おなか、すいた、ので、はやくごはん、たべよう」
 ……こっちはそもそも聞く気すらなかったようだった。

「もう、ダメでしょハヅキ。セーヤさんは命の恩人なんですから、ちゃんとしなさい」
 ウヅキがわざとらしく怒ってみせた。
 こうやってお姉ちゃんかぜを吹かせる姿も、たいへん愛らしいな。

「うにゅ、ありがと、まなしー」
「まなしー?」

「マナシロ・セーヤ、変な名前……呼びにくいから、まなしー」
「お、おう……」
 まなしー、まなしーね……。

「ハヅキ、目上の人に向かって失礼ですよ。セーヤさんだって呆れちゃってます。ほら、お姉ちゃんも一緒に謝ってあげるから、ちゃんとごめんなさいしましょうね……って、えっと、どうしたんですかセーヤさん?」
「まなしー、まなしーか……うん、まなしーね」
「セーヤさん?」

 まなしーとは言語学的知見から分析するに、つまりこれは俺に与えられたニックネームである。
 ニックネームとは、つまりあだ名である。
 以上のことから総合的に勘案すると、今、俺は人生で初めて、女の子からあだ名で呼んでもらえたということに他ならないのだ――!

「ハヅキちゃん、もう一回、もう一回呼んでみて!」
「ほらいくら温厚なセーヤさんも怒って……って、あれ?」
 小首をかしげるウヅキの横で、

「まなしー」
 ハヅキちゃんが俺をあだ名で呼んでくれる。

「もう一回、もう一回だハヅキちゃん!」
「ハヅキでいい。だからハヅキも、まなしーって、よぶ」

「オッケー、じゃあこれからはハヅキって呼ぶからな?」
「じゃあまなしーも、まなしーで」
「了解だ。こほん……ハヅキ」
「まなしー」
 ……いいね、実にいいね。

「ハヅキ」
「まなしー」
 いいよ、あだ名呼び、すごくいいよ!
 俺は降って湧いた望外の喜びをかみしめたのだった。

「……えっと、気に入ったんですね、その呼び方……」
 これまで俺に対して全面的に肯定してくれていたウヅキが、それはちょっと理解できないって顏をわずかに見せたのが印象的だった。
しおりを挟む
感想 289

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

処理中です...