62 / 566
異世界転生 4日目(後編)

第62話 ディスペル系S級チート『え? なんだって?』

しおりを挟む
 ナイアが聖なる力を解放するのを横目に捉えつつ、

「行くぞ――!」

 俺は正面を避けた回り込むルートをとりながら――しかし機先を制するべく一気に――《神焉竜しんえんりゅう》へと斬り込んでゆく。

 そんな俺の動きを迎えうつように《神焉竜《しんえんりゅう》》が左腕を振るってきた。
 だがまだまだ距離は遠い。

「おいおい、まだまだ全然間合いの外だぜ――っと、なにっ!?」

 ――刹那。
 ほんのわずか大気が揺らいだのを見てとった俺は、瞬時に急制動をかけて停止すると、即座に真横へと身を投げ出した。

 その直後、俺の居た場所が、なにかに激しく打ちつけられたようにぐしゃりとくぼむ。

「セーヤ――っ!」
 心配するようなナイアの声が飛んでくるけれど、

「大丈夫だ! 問題ない!」
 俺は軽やかな前回り受け身で一回転して立ち上がると、追撃に備えて日本刀クサナギを構え直した。

 そうか、今のは――、
「ナイア、気を付けてくれ! こいつ、不可視の飛び道具を使ってくるぞ――!」

 間合いのはるか外で腕を振ったのは、こういうことか――!

 不可視の飛び道具。
 確かにこれはやっかいではあるものの、しかし――、

「別にかわせないってことはないぜ? こんな大道芸で足止めしようなんざ、最強S級チート『剣聖』を、あまり舐めてんじゃねぇぞ――!」

 仕切り直しとばかりに、俺は再び正面を避けて回り込むようにしながら、距離を詰めていく。
 
 確かにこの遠距離攻撃は視認しづらい。
 発生が早いし、威力に至っては当たれば死ぬ=即死級だ。

「でもな! 大気の揺らぎを伴う上に、腕を振った延長線上に発生するから射線も読みやすい。単に見えにくいってだけで、飛び道具としての性能自体はそこまで大したことはねぇ――っ!」

 両腕から次々と放たれる不可視の斬撃を、俺は緩急とフェイントを駆使して変幻自在に回避してゆく。
 知覚系S級チート『龍眼』が発動して解析を行ったことで、既に射線や発生タイミングは完全に見切っていた。

 俺はわずかにかすらせることすらなくに、そのまま《神焉竜しんえんりゅう》の巨体に肉薄すると、

「まずは一太刀だ――! おおおおぉぉぉぉぉ――――っ!」
 頑強な竜鱗りゅうりんに守られた太い足に、日本刀クサナギを大上段から力の限りに打ち込んだ――!

 キィィィィィィィィィィーーーーーーン!

 ――が、しかし。
 甲高い音が響くとともに、いとも簡単に日本刀クサナギは弾き返されてしまう。

 そして、
「よっ、と――」

 即座にバックステップをして危険すぎる密着状態から離脱する。

 俺の動きからわずかに遅れて《神焉竜しんえんりゅう》の凶悪な咢門あぎとが、寸前まで俺がいた場所をグワシャァッ!っと通り過ぎた。

「あぶねぇあぶねぇ……でかい図体ずうたいの割に、意外と機敏に動くじゃねぇか」
 ま、それでもこれだけの巨体だ。
「機動力の面では、俺の方が圧倒的にまさってるぜ!」

 とは言ってみたものの、だ。

「しかしほんとってぇな、今ちょっと手がしびれたぞ……?」
 左手を柄から離し、軽く振ってしびれを逃がす。
 ナイアの強烈な突撃を苦もなく弾き返した以上、相当な硬度だろうとは思っていたけれど、

「こいつはマジで想像以上だ……こりゃ倒すにはやっぱ逆鱗げきりんを打ち抜くしか方法はなさそうだな」

 そのためにも、だ。

「はぁぁぁぁぁっっっ!」
 ギィィィィィィンンンッッ!

「うぉぉぉぉぉらぁぁぁぁっ――!」
 カァァァッァァァァンンンン!

 攻撃をかわしては、渾身の一撃を入れ。
 またかわしては強烈に打ち込んで、と。

 俺は何度も何度も、めげずに攻撃を繰り出していった。

 ちょろちょろと周りを動き回っては益のない攻撃を繰り返す俺を見て、いら立ちを隠そうともせずわずらわしそうに顔をしかめて睨んでくる《神焉竜しんえんりゅう》。

「おっと、こっちばっか見てよそ見してると危ないぜ?」
 こんな恰好の隙を見逃すようなナイアではない。

「はぁぁぁぁぁっっっっっ――!」
 間髪入れずに死角から一気に間合いを詰めて飛び込んだナイアが、《神焉竜しんえんりゅう》の胸元に強烈な一撃を叩き込んだ――!

「グォォォォォアアアアアアアアアアアアッッッッッ!」
 怒りをまき散らして激しく吠え猛る《神焉竜しんえんりゅう》。

「よし、効いてなくはない……!」
 どうやら防御力が高いとは言っても、全く効かないってことはないみたいだな!

「グォオオオオンンンンッッッ!!」
 《神焉竜しんえんりゅう》は悲鳴と怒りの混じったような咆哮をあげると、その身体を独楽こまのように器用に横半回転させながら、大木のようなぶっとい尻尾で強烈な横なぎ攻撃を見舞ってきた。

 尻尾の横振りテイル・スマッシュ――初めて見せた巨大な尻尾による攻撃を、

「く――っ!」
 俺とナイアはかろうじてかわす――!

 ――いや、ナイアは尻尾の先にわずかにひっかけられて、空中でバランスを崩してしまっていた――!

「ナイア――!」
「ぅ――っ! なにくそ――っ!」

 それでもさすがは自他ともに認める現役最強の帝国騎士だ。
 体操選手顔負けのバランス感覚でもって、落下する猫のようにクルっと体勢を立て直すと、ナイアはどうにか足から着地してみせた。
 
 ――しかしホッとしたのも束の間だった。

 直後、《神焉竜しんえんりゅう》は両足でドンと踏ん張ると、首を前に伸ばして前のめりの姿勢をとったのだ。

 鼻の先から尻尾の先まで、地面と水平に身体をピンと縦一直線に伸ばした姿は、まるで口腔こうくうから何かを発射するような体勢で――。

「ドラゴン・ブレスだ――!」
 焦りを帯びたナイアの声――!

 獰猛どうもうな牙が生えそろった《神焉竜しんえんりゅう》の口腔内に、禍々まがまがしい漆黒の粒子が次々と収束しながら充満していくのが、俺の位置からでも見て取れた――!

 ナイアは着下体勢のままで、まだ十分に体勢を立て直し切れていない。
 そこへ《神焉竜しんえんりゅう》が破滅のドラゴン・ブレスを叩きこまんとしていたのだ――!

「く――っ!」
 だめだ、ここからだと助けに行くのはとうてい間に合わない――!

 というか、

「下手したら周辺一帯消し飛ぶレベルの凄まじい力の高まりだぞ、おい!」
 前方広範囲への範囲攻撃は、もはや避けるとか助けるとかそう言うレベルじゃない――!

 だったら――!

「スポコン系A級チート『立合たちあい』発動!」
 言って俺は肺一杯に空気を吸い込んだ。

 『立合たちあい』とは大相撲の取り組みの開始のこと。
 大相撲においてその平均取組時間は10秒に満たない。

 そんなわずかな時間の攻防によって勝負が決まる大相撲において、開始の合図もなく互いに呼吸を合わせて立ち上がる『立合たちあい』は、お互いを尊重しながらしかし勝敗そのものにも直結するという、それは相反する要素を兼ね備えた刹那の芸術なのである。

 俺は『立合たちあい』により最良のタイミングをはかり――ドラゴン・ブレスのタイミングに合わせて――最強の『こと』を、解き放つ――!

「『え? なんだって?』――っ!!」

 肺の中の空気を目一杯、一気に全部吐き出して、因果関係を断絶するディスペル系S級チート『え? なんだって?』を発動した――!

 その瞬間。
 ナイアを狙い撃たんとしていた暗黒のブレスが、まるで最初からそんなものは無かったかのように跡形もなく霧散した――。

 残ったわずかなそよ風だけが、ナイアの髪をふわりと揺らしている。

「よし――っ!」
 決まった――!

 会話で意図せず暴発した時とは違う、明確な意図をもって使用したディスペル系S級チート『え? なんだって?』は、起こるはずの結果・事象を因果の流れから切り離し、結果だけを完全になかったことにしてしまうという、俺の最強の切り札の一つだ……!

 それにしても実際に使ってみると、改めて実感させられる。
「ほんと、どうしようもないくらいに反則的なチートだな――」

 しかしそれと同時に、ナイアの髪が揺れたことが俺に大きな衝撃を与えていた。

 というのも。
 結果そのものを無かったことにするチートを使ったにもかかわらず、そよ風程度とはいえ結果が生じてしまっていたからだ。

 つまり、
「完全には無効化しきれていないんだ――」

 『立合たちあい』を使用したことにより、ディスペルのタイミングは完璧だった。
 本来なら何も起こらないはずだった――にもかかわらずそよ風が抜けていったのだ……!

「同じS級でも、『え? なんだって?』よりドラゴン・ブレスの方がわずかに上だって事かよ」

 ほんとどこまで強さを盛ったら気が済むんだ?
 舐めてんのかよ《神焉竜しんえんりゅう》さんよぉ……!
しおりを挟む
感想 289

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

処理中です...