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異世界転生 4日目(後編)
第61話 《救世の加護》ーアルデル・ヴァイレルトー
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「ちなみに聞くけど、ナイアはドラゴンと戦った経験はあるのか?」
「おいおいセーヤ。さっきも言っただろ? ドラゴンは目撃例ですらここ100年でたったの数件さ。アタイは見るのも初めてだね。――おっと、それとも今のはジョークかい? それならセーヤは、意外と笑いのセンスもあるみたいだね」
「ちげーし!」
思わず突っ込んでしまったところ、それに《神焉竜》が反応てギョロリと大きな眼を向けてくる。
「――っ!」
たったそれだけで、わずかに目を動かしただけでこの圧倒的なまでの威圧感――!
呼吸を止めてしまいそうなほどの、ひりつくようなプレッシャーが、俺とナイアに容赦なく襲いかかってきた。
「……ふぅ、真面目な話、これは人間がどうにかできるレベルを超えちゃってる感じだね」
思わずって感じでため息をついたナイアだが、その気持ちは俺にだってよく分かる。
「ああ、まったくもって同感だ。なにかこれっていう弱点はないのか?」
こんなもん、策を講じなければ完全な無理ゲーだろ。
往年の格闘ゲームメーカーSNKだってここまで理不尽なラスボスは用意しないぞ。
もし勝機があるとすれば、徹底してウィークポイントを狙う、これしかない――。
「弱点と言えば、最強と言われるドラゴンも、あごの下に逆鱗と呼ばれる唯一無二の急所がある……らしい」
「らしい、ってのは?」
ナイアにしては、えらく自信なさげな物言いだな?
「確かね、創世神話にそんなお話があるんだよ。でもそのお話以外に実際に逆鱗が弱点なのかを試した記録は残っていないから、それが本当かどうかは分からないんだよね」
「そりゃまぁ、試すってことは、つまりドラゴンにケンカ売るってことだもんな……」
仮にドラゴンにケンカを売ったやつがいたとして、生まれながらのS級であるドラゴンを怒らせて生きて帰ってこれる人間がいるとは思えない。
目の前に相対すると心底分かる――分かってしまう。
このドラゴンってやつは、格が違う異次元の存在だ――!
しかも、
「ついでに言うとさ、ドラゴンの鱗――竜鱗は世界最硬って記述もあるんだよね。だとしたら仮に逆鱗を狙ったとして、アタイらの攻撃で果たして効果があるかどうか……」
なんて追加情報まである始末だ。
「おいおい……」
さすがに最強設定を盛り過ぎだろ、常識的に考えて。
思わず逃げ出したくなるじゃないか。
でも――、
「それでも、やるしかねぇよな……!」
俺は自分の心に喝を入れる。
なんせ、ここは街のど真ん中なんだ。
もし《神焉竜》が暴れでもしたら、被害はけた違いの大きさになるだろう。
今はまだシャバに出たばっかりで羽が伸ばせる――もちろん比喩表現だ――のが嬉しいのか、一人で吠えては勝手に猛っているだけで済んでいるが、そろそろ暴れ出しそうな雰囲気がぷんぷんしてるしな。
というか少し身体が当たっただけで、塀とか壁に大きな穴が空いてるぞ……。
「なぁ、ナイア。さっきのすげー一撃あっただろ? あれなら逆鱗も打ち抜けるんじゃないのか?」
眩いばかりの閃光を放った突撃攻撃。
一撃の威力だけで見れば、おそらくS級チート『剣聖』の瞬間最大火力をも凌駕することだろう。
しかし、
「《聖処女の御旗よ》かい?」
ナイアはふるふると首を横に振る。
「これはセーヤだからバラしちゃうんだけどさ。実はあれはまだ未完成で、取り回しが悪くってね。まず撃つ前に構えを取って完全静止する必要があるんだ」
言いながらナイアは発動に必要な構えを取って見せる。
「しかも一直線にしか動けなくて、軌道修正は全くできない。助走に5メートル以上の距離が必要で、狙いもアバウト。でかい的に向かっていくだけならまだしも、ピンポイントで何かを狙うのには不向きなんだ。何より消耗が激しくてね。使えてあと2回ってところかな」
「イメージ的には威力に全振りの特大強攻撃って感じか……なら、どこかでそいつを使って隙を作ってくれないか? ワンチャンスでいい。その隙をついて俺が逆鱗を狙う」
「りょーかい。美味しいところはセーヤに任せるから、うまいこと頼むよ?」
「ああ、なんとしても全力の一撃を逆鱗にぶち込んで見せる」
「じゃ、そういうことで――」
ほんの短いやり取りだったけれど、俺とナイアならこれだけでも充分すぎるほどに充分だ。
つまり、小回りが利く俺が前衛、高威力突撃のあるナイアが後衛、あとは流れでお願いします、だ――!
「じゃあ、話もまとまったところで、行くぞ――おぉぉぉぉぉぉっっっ!」
まずは俺が先陣を切って飛び出した――!
弧を描くように向かって右横へと回り込みながら、横合いから《神焉竜》へと突貫する。
同時に、
「今回に限っては、アタイも限界を超えてかないとね――!」
ナイアが白銀の槍の穂先を、まるで天を突き刺すかのように高々と頭上に掲げた。
「清廉なる聖処女の縁に希う――その高潔なる意志の輝きでもって艱難辛苦に立ちすくむ憐れな迷い子の行く末を照らしたまえ――! 《救世の加護》――!」
祈りの言葉が終わると同時に、ナイアから猛烈な力が溢れはじめる。
「聖処女様の奇跡にリンクして全ステータスを大幅に向上させる《救世の加護》、その全力解放さ――!」
白銀の光輝に包まれたその姿は、まさに聖処女の降臨だ……!
「ここからは出し惜しみはなしだ。《聖処女騎士団》団長ナイア・ドラクロワ。人呼んで《閃光のナイア》、いざ参らん――!」
「おいおいセーヤ。さっきも言っただろ? ドラゴンは目撃例ですらここ100年でたったの数件さ。アタイは見るのも初めてだね。――おっと、それとも今のはジョークかい? それならセーヤは、意外と笑いのセンスもあるみたいだね」
「ちげーし!」
思わず突っ込んでしまったところ、それに《神焉竜》が反応てギョロリと大きな眼を向けてくる。
「――っ!」
たったそれだけで、わずかに目を動かしただけでこの圧倒的なまでの威圧感――!
呼吸を止めてしまいそうなほどの、ひりつくようなプレッシャーが、俺とナイアに容赦なく襲いかかってきた。
「……ふぅ、真面目な話、これは人間がどうにかできるレベルを超えちゃってる感じだね」
思わずって感じでため息をついたナイアだが、その気持ちは俺にだってよく分かる。
「ああ、まったくもって同感だ。なにかこれっていう弱点はないのか?」
こんなもん、策を講じなければ完全な無理ゲーだろ。
往年の格闘ゲームメーカーSNKだってここまで理不尽なラスボスは用意しないぞ。
もし勝機があるとすれば、徹底してウィークポイントを狙う、これしかない――。
「弱点と言えば、最強と言われるドラゴンも、あごの下に逆鱗と呼ばれる唯一無二の急所がある……らしい」
「らしい、ってのは?」
ナイアにしては、えらく自信なさげな物言いだな?
「確かね、創世神話にそんなお話があるんだよ。でもそのお話以外に実際に逆鱗が弱点なのかを試した記録は残っていないから、それが本当かどうかは分からないんだよね」
「そりゃまぁ、試すってことは、つまりドラゴンにケンカ売るってことだもんな……」
仮にドラゴンにケンカを売ったやつがいたとして、生まれながらのS級であるドラゴンを怒らせて生きて帰ってこれる人間がいるとは思えない。
目の前に相対すると心底分かる――分かってしまう。
このドラゴンってやつは、格が違う異次元の存在だ――!
しかも、
「ついでに言うとさ、ドラゴンの鱗――竜鱗は世界最硬って記述もあるんだよね。だとしたら仮に逆鱗を狙ったとして、アタイらの攻撃で果たして効果があるかどうか……」
なんて追加情報まである始末だ。
「おいおい……」
さすがに最強設定を盛り過ぎだろ、常識的に考えて。
思わず逃げ出したくなるじゃないか。
でも――、
「それでも、やるしかねぇよな……!」
俺は自分の心に喝を入れる。
なんせ、ここは街のど真ん中なんだ。
もし《神焉竜》が暴れでもしたら、被害はけた違いの大きさになるだろう。
今はまだシャバに出たばっかりで羽が伸ばせる――もちろん比喩表現だ――のが嬉しいのか、一人で吠えては勝手に猛っているだけで済んでいるが、そろそろ暴れ出しそうな雰囲気がぷんぷんしてるしな。
というか少し身体が当たっただけで、塀とか壁に大きな穴が空いてるぞ……。
「なぁ、ナイア。さっきのすげー一撃あっただろ? あれなら逆鱗も打ち抜けるんじゃないのか?」
眩いばかりの閃光を放った突撃攻撃。
一撃の威力だけで見れば、おそらくS級チート『剣聖』の瞬間最大火力をも凌駕することだろう。
しかし、
「《聖処女の御旗よ》かい?」
ナイアはふるふると首を横に振る。
「これはセーヤだからバラしちゃうんだけどさ。実はあれはまだ未完成で、取り回しが悪くってね。まず撃つ前に構えを取って完全静止する必要があるんだ」
言いながらナイアは発動に必要な構えを取って見せる。
「しかも一直線にしか動けなくて、軌道修正は全くできない。助走に5メートル以上の距離が必要で、狙いもアバウト。でかい的に向かっていくだけならまだしも、ピンポイントで何かを狙うのには不向きなんだ。何より消耗が激しくてね。使えてあと2回ってところかな」
「イメージ的には威力に全振りの特大強攻撃って感じか……なら、どこかでそいつを使って隙を作ってくれないか? ワンチャンスでいい。その隙をついて俺が逆鱗を狙う」
「りょーかい。美味しいところはセーヤに任せるから、うまいこと頼むよ?」
「ああ、なんとしても全力の一撃を逆鱗にぶち込んで見せる」
「じゃ、そういうことで――」
ほんの短いやり取りだったけれど、俺とナイアならこれだけでも充分すぎるほどに充分だ。
つまり、小回りが利く俺が前衛、高威力突撃のあるナイアが後衛、あとは流れでお願いします、だ――!
「じゃあ、話もまとまったところで、行くぞ――おぉぉぉぉぉぉっっっ!」
まずは俺が先陣を切って飛び出した――!
弧を描くように向かって右横へと回り込みながら、横合いから《神焉竜》へと突貫する。
同時に、
「今回に限っては、アタイも限界を超えてかないとね――!」
ナイアが白銀の槍の穂先を、まるで天を突き刺すかのように高々と頭上に掲げた。
「清廉なる聖処女の縁に希う――その高潔なる意志の輝きでもって艱難辛苦に立ちすくむ憐れな迷い子の行く末を照らしたまえ――! 《救世の加護》――!」
祈りの言葉が終わると同時に、ナイアから猛烈な力が溢れはじめる。
「聖処女様の奇跡にリンクして全ステータスを大幅に向上させる《救世の加護》、その全力解放さ――!」
白銀の光輝に包まれたその姿は、まさに聖処女の降臨だ……!
「ここからは出し惜しみはなしだ。《聖処女騎士団》団長ナイア・ドラクロワ。人呼んで《閃光のナイア》、いざ参らん――!」
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