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異世界転生 4日目(後編)

第66話 折れたツルギ

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「は……? え……?」

 ――意味が、分からない。

 俺の手の中には、半ばから無残にへし折れた日本刀クサナギがあって。
 視界の隅では、折れた刃の先端側がクルクルと回転しながら地面に突き刺さったのが見えていて――。

 もちろん起こった事象そのものは理解している。

 でも、やっぱり……意味が、分からない。
 折れた日本刀クサナギから、目を離すことができない。

 最強チート『剣聖』の放った最大火力が、必殺必倒の一撃が、

「打ち負けた……だと……?」

 その受け入れがたい現実を、俺はすぐには受け止めきれないでいたのだった。

 いや、だめだ、冷静になれ。
 落ち着くんだ麻奈志漏まなしろ誠也。

 目の前には《神焉竜しんえんりゅう》がいるんだぞ?
 こんな密着状態のままでいるのは下策中の下策、有りか無しかで言えば論外だ。

「は、早く距離を取らないと――」

 そう頭では分かっているのに、しかし身体が言うことをきかない。
 きいてくれないのだ――。

 俺の精神状態なんてお構いなしに、最高のパフォーマンスを発揮させてくれるはずの戦闘系S級チート『剣聖』。
 その『剣聖』による制御が全くきかないほどに、俺の心は乱れに乱れていた。

 ……だってそうだろ?

「おかしいじゃないか、こんなの……」

 これ、折れちゃダメなヤツだろ?
 ここ、負けちゃダメなところだろ?

 苦労に苦労を重ねて、この絶好の局面を作りだして。
 そして最大火力でもって、逆鱗げきりんを打ったじゃないか?

 なのになんで!?
 どうして!?

「《神焉竜しんえんりゅう》はまだ立っていやがるんだよ! 日本刀クサナギは折れちまってんだよ!?」

 《紫電一閃しでんいっせん》は最強S級チート『剣聖』の最終奥義だぞ?
 これが効かなかったら、もう俺に勝つ手段はなくなるじゃないか――!

「そんなの――そんなの絶対おかしいだろうが!」
 ハァ、ハァと息を切らして俺は叫ぶ。

 その声に反応したのか。
 逆鱗げきりんをしこたま打たれて激痛に顔をゆがめながらも、しかし倒れることはなかった《神焉竜しんえんりゅう》が、ギョロっと俺を見下ろした。

「――――ぁ」
 猛烈なる殺意に染まった《神焉竜しんえんりゅう》の視線に射すくめられた俺は、なんとも間抜けな声を上げてしまう。

 怒りとともに見下ろす王竜のまなこを、ほうけたように見上げたまま。
 ヘビににらまれたカエルのごとく、俺は一歩も動くことができないでいた。

 そんな置き物と化した俺に、復讐に燃える《神焉竜しんえんりゅう》が凶悪な爪の一撃を容赦なく振るった――。

 ――その瞬間、

「《聖処女の御旗よグアル・ディオラ》――!」
 横合いからナイアの援護が入って、俺は九死に一生を得る――得てしまった。

「セーヤ、戦場でぼうっとするんじゃない! 死ぬぞ!」

 ナイアの一喝によって、俺はどうにか茫然自失ぼうぜんじしつのどん底状態から抜け出すことに成功する。
 しかしいまだ、俺の動きは目に見えて緩慢なままだった。

 心が奮い立たない――どころか《神焉竜しんえんりゅう》の異次元の強さを前に、俺は完全に気後れしてしまっていたのだ。
 怖いと、そう思ってしまったのだ。

 いや怖いなんてもんじゃない。
 きっとこの気持ちをして、人は「絶望」と呼ぶのだろう。

「セーヤ! く――っ!」
 俺の様子を見かねたナイアが、強引に俺を引き寄せ抱えて大きく飛び退すさった。

 直後、凶悪な牙を並べた竜の咢門あぎとが、底引きあみのごとく俺の立っていたあたりの地表をめさらう。

「わ、悪い、ナイア……」
「謝るのは後だ!」
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