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異世界転生 8日目
第141話 わ、わたくしのファーストキス、なのですわ……
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「やるしかねぇか……!」
決意の言葉は、自分自身を奮い立たせるためのものだった。
再び恐竜サイズの敵を前にして、俺の中に恐怖心が芽生え始めていたからだ。
《神焉竜》に殺された時に植え付けられた、胸の奥にわだかまるそれは、ある種のトラウマのような恐怖心だった。
それがチラチラと顏を見せ始めたのだ。
《神焉竜》を想起させる巨大な敵に対するそんな怯のような恐怖心はしかし、小さな火種のままでそれ以上は大きくなりはしなかった。
「きっとさっきのサーシャのコントで、肩の力が抜けたおかげだな……」
あのおかげで、なんかもうスッと気が楽になったのは間違いない。
「こんな状況でいつも通りに振る舞えるってのが、上に立つ者に必要な資質なんだろうな……」
内容はあまりにアレでナニな、ぶっちゃけただの下ネタだったけれど、うん、本当に頼りになる凄い女の子だよ、サーシャは……!
「よし、ここは俺に任せてサーシャは離れていてくれ――って言っても無理か!」
「はい、これだけ広範囲に派手に暴れまわられては、安全な場所と言われても――」
「ほんとにやりたい放題、暴れたい放題しやがって!」
《天狼咆哮》によって巨大化した《シュプリームウルフ》は、俺たちをどうこうしようって感じではなく、まるで怒りに身を任せているかのように手当たり次第に暴れまわっていたのだ。
低木は手当たり次第に引き倒され、岩は投げ飛ばされるものもあれば、粉々に砕かれたものもあって。
大地はいたるところがえぐれて地肌がむき出しになっているしで、街道の周りは本当に酷いありさまだった。
「この子、もしかして我を失って――」
「みたいだな、くう――ッッ!」
刹那、サーシャを守るように前に出た俺は、襲いくる強烈な突進からの爪撃を、
「おおおおおおおぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!」
ギャギャギーーーーンンッッ!!
渾身の力でもって日本刀を叩きつけることで、強引に弾き返した――!
「いっ、てぇ……!」
なんせ圧倒的巨体を使っての猛突進からの攻撃だ。
その質量兵器まがいの攻撃を無理やりに弾き返したことで、俺の両の手はジンジンと痺れてしまって、半ば感覚がなくなってしまっている。
「さすがにこれを直で受け止めるのはきっついな……!」
日本刀を握っている感覚すらなかったため、思わず目視で手元を確認したほどだ。
「セーヤ様!」
「俺は大丈夫だ! それよりサーシャは自分の身を最優先に守ってくれ! 正直、全力集中しないと抑えきれる自信がないんだ! 周りを気遣っている余力はないから!」
言って、特に痺れの大きかった左手をパタパタと振って、痺れを逃がす。
まだ完全には戻ってないが、戦闘に支障はない。
これくらいなら戦っているうちにすぐに元に戻るだろう。
そんな俺の姿を見たサーシャが呟いた。
「やはりセーヤ様、使えませんのね、あの黄金の力は……」
「やはりって……、もしかして気付いてたのか」
「だってここにたどり着くまでもピンチの連続でしたのに、事ここに至っても、たったの一度もあの黄金の力を使う素振りすらお見せにならないのですもの。そんなの、何か使えない理由があると思うのは当然ですわ」
「……よく見てるんだな」
俺としては普通の感想というか、そこまで変な意味を込めたつもりはなかったんだけど、
「それはもう、み、未来の……つ、妻として至極当然のことですわ!」
なぜか慌てた様子のサーシャが、早口&ところどころ小声でガーッとまくしたててくる。
「……? 途中ちょっと小声で聞きとれなかったんだけど、ごめん今なんて――おっと!」
会話を中断すると、俺は慌ててサーシャをお姫様抱っこして、大きく後ろに飛びのいた――!
遅れて巨大な爪の横薙ぎが、俺たちのいた場所を駆け抜ける。
さらに右に左に前へ後ろへと、俺はステップを切って追撃を回避していく。
ラブコメ系A級チート『お姫様だっこ』がまたもや発動して、抱かれたサーシャが俺の胸にキュッと頭をよせながら、ほわーって感じに惚けているんだけど、今の俺にそれを気にしている余裕なんてありはしない。
サーシャを抱っこしたまま逃げ回りながら、
「さっきの話だけどさ……悪い、騙すつもりはなかったんだ。で、正直言うと《神滅覇王》は現状まったく使いこなせない」
俺は腕の中のサーシャに、素直に打ち明けた。
そう。
俺はあの時に感じた燃え盛る太陽のごとき灼熱の情動を、今は欠片も感じることができていなかった。
SS級のような強大な敵と戦うことが《神滅覇王》の発動条件かとも思ったんだけど、そう簡単じゃないってことか。
「セーヤ様が謝る必要はありませんわ。《神焉竜》すら凌駕する最強の力ですもの。意のままに操れなくとも、誰も文句を言う権利なんて持ってはおりませんわ」
「……そう言ってくれるとありがたい。よし、ここらで下ろすから、あとはうまいこと隠れながらやり過ごしてくれ。なに、たかが狼一匹だ。たとえ《神滅覇王》が使えなくたって、俺がなんとかしてみせるからよ?」
近くには村があるとクリスさんは言っていた。
暴走状態のこいつがその村を襲わない保証はない――。
「だからここで俺が、こいつを止めねぇとな……!」
「セーヤ様」
「ん?」
覚悟を新たにした俺が耳にしたのは、いつになく真剣なサーシャの声。
そしてサーシャの方を振り向いた瞬間、
「ちゅ――」
口もとに触れた温かい感触。
「今のって――」
一瞬で離れた――でも確かに触れたその温もりは――、
「わ、わたくしのファーストキス、なのですわ……セーヤ様のご武運をお祈りいたします。どうか御無事で――」
「おう……おうよ! 任せとけ!」
信頼のこもったサーシャの言葉が、想いが、温もりが――、俺の背中を強く、強く強く! 後押ししてくれる――!
既に俺の心の中に、恐怖心なんてものは微塵も残っていなかった。
「――さて行こうか『剣聖』。俺とお前が最強だってことをサーシャに、そしてこの世界にとくと見せつけてやろうぜ?」
不敵に言ってのけると、俺は巨大な白狼へと真っ直ぐに突っ込んでいった――!
決意の言葉は、自分自身を奮い立たせるためのものだった。
再び恐竜サイズの敵を前にして、俺の中に恐怖心が芽生え始めていたからだ。
《神焉竜》に殺された時に植え付けられた、胸の奥にわだかまるそれは、ある種のトラウマのような恐怖心だった。
それがチラチラと顏を見せ始めたのだ。
《神焉竜》を想起させる巨大な敵に対するそんな怯のような恐怖心はしかし、小さな火種のままでそれ以上は大きくなりはしなかった。
「きっとさっきのサーシャのコントで、肩の力が抜けたおかげだな……」
あのおかげで、なんかもうスッと気が楽になったのは間違いない。
「こんな状況でいつも通りに振る舞えるってのが、上に立つ者に必要な資質なんだろうな……」
内容はあまりにアレでナニな、ぶっちゃけただの下ネタだったけれど、うん、本当に頼りになる凄い女の子だよ、サーシャは……!
「よし、ここは俺に任せてサーシャは離れていてくれ――って言っても無理か!」
「はい、これだけ広範囲に派手に暴れまわられては、安全な場所と言われても――」
「ほんとにやりたい放題、暴れたい放題しやがって!」
《天狼咆哮》によって巨大化した《シュプリームウルフ》は、俺たちをどうこうしようって感じではなく、まるで怒りに身を任せているかのように手当たり次第に暴れまわっていたのだ。
低木は手当たり次第に引き倒され、岩は投げ飛ばされるものもあれば、粉々に砕かれたものもあって。
大地はいたるところがえぐれて地肌がむき出しになっているしで、街道の周りは本当に酷いありさまだった。
「この子、もしかして我を失って――」
「みたいだな、くう――ッッ!」
刹那、サーシャを守るように前に出た俺は、襲いくる強烈な突進からの爪撃を、
「おおおおおおおぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!」
ギャギャギーーーーンンッッ!!
渾身の力でもって日本刀を叩きつけることで、強引に弾き返した――!
「いっ、てぇ……!」
なんせ圧倒的巨体を使っての猛突進からの攻撃だ。
その質量兵器まがいの攻撃を無理やりに弾き返したことで、俺の両の手はジンジンと痺れてしまって、半ば感覚がなくなってしまっている。
「さすがにこれを直で受け止めるのはきっついな……!」
日本刀を握っている感覚すらなかったため、思わず目視で手元を確認したほどだ。
「セーヤ様!」
「俺は大丈夫だ! それよりサーシャは自分の身を最優先に守ってくれ! 正直、全力集中しないと抑えきれる自信がないんだ! 周りを気遣っている余力はないから!」
言って、特に痺れの大きかった左手をパタパタと振って、痺れを逃がす。
まだ完全には戻ってないが、戦闘に支障はない。
これくらいなら戦っているうちにすぐに元に戻るだろう。
そんな俺の姿を見たサーシャが呟いた。
「やはりセーヤ様、使えませんのね、あの黄金の力は……」
「やはりって……、もしかして気付いてたのか」
「だってここにたどり着くまでもピンチの連続でしたのに、事ここに至っても、たったの一度もあの黄金の力を使う素振りすらお見せにならないのですもの。そんなの、何か使えない理由があると思うのは当然ですわ」
「……よく見てるんだな」
俺としては普通の感想というか、そこまで変な意味を込めたつもりはなかったんだけど、
「それはもう、み、未来の……つ、妻として至極当然のことですわ!」
なぜか慌てた様子のサーシャが、早口&ところどころ小声でガーッとまくしたててくる。
「……? 途中ちょっと小声で聞きとれなかったんだけど、ごめん今なんて――おっと!」
会話を中断すると、俺は慌ててサーシャをお姫様抱っこして、大きく後ろに飛びのいた――!
遅れて巨大な爪の横薙ぎが、俺たちのいた場所を駆け抜ける。
さらに右に左に前へ後ろへと、俺はステップを切って追撃を回避していく。
ラブコメ系A級チート『お姫様だっこ』がまたもや発動して、抱かれたサーシャが俺の胸にキュッと頭をよせながら、ほわーって感じに惚けているんだけど、今の俺にそれを気にしている余裕なんてありはしない。
サーシャを抱っこしたまま逃げ回りながら、
「さっきの話だけどさ……悪い、騙すつもりはなかったんだ。で、正直言うと《神滅覇王》は現状まったく使いこなせない」
俺は腕の中のサーシャに、素直に打ち明けた。
そう。
俺はあの時に感じた燃え盛る太陽のごとき灼熱の情動を、今は欠片も感じることができていなかった。
SS級のような強大な敵と戦うことが《神滅覇王》の発動条件かとも思ったんだけど、そう簡単じゃないってことか。
「セーヤ様が謝る必要はありませんわ。《神焉竜》すら凌駕する最強の力ですもの。意のままに操れなくとも、誰も文句を言う権利なんて持ってはおりませんわ」
「……そう言ってくれるとありがたい。よし、ここらで下ろすから、あとはうまいこと隠れながらやり過ごしてくれ。なに、たかが狼一匹だ。たとえ《神滅覇王》が使えなくたって、俺がなんとかしてみせるからよ?」
近くには村があるとクリスさんは言っていた。
暴走状態のこいつがその村を襲わない保証はない――。
「だからここで俺が、こいつを止めねぇとな……!」
「セーヤ様」
「ん?」
覚悟を新たにした俺が耳にしたのは、いつになく真剣なサーシャの声。
そしてサーシャの方を振り向いた瞬間、
「ちゅ――」
口もとに触れた温かい感触。
「今のって――」
一瞬で離れた――でも確かに触れたその温もりは――、
「わ、わたくしのファーストキス、なのですわ……セーヤ様のご武運をお祈りいたします。どうか御無事で――」
「おう……おうよ! 任せとけ!」
信頼のこもったサーシャの言葉が、想いが、温もりが――、俺の背中を強く、強く強く! 後押ししてくれる――!
既に俺の心の中に、恐怖心なんてものは微塵も残っていなかった。
「――さて行こうか『剣聖』。俺とお前が最強だってことをサーシャに、そしてこの世界にとくと見せつけてやろうぜ?」
不敵に言ってのけると、俺は巨大な白狼へと真っ直ぐに突っ込んでいった――!
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