上 下
162 / 566
異世界転生 8日目

第148話  婚約者……? 結納……?

しおりを挟む
「終わりましたのね!」

 《天地開闢セシ創世ノ黄金剣アマノヌホコ》と。
 《天狼咆哮・群体分身・真ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング・アルティメット》。

 SS級同士による必滅奥義の撃ち合いは、最後は黄金剣の完全勝利に終わった。

 その全てを見届けたサーシャが、喜びに声を弾ませながら小走りに駆け寄ってくる。

「ま、ざっとこんなもんさ」
 ここは超カッコよく決める場面であるからして、ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』でもって、最大限のアピールをすることに余念がない俺であった。

 なぜなら、俺は知ってしまったんだ。
 女の子にちやほやされることの気持ち良さを、知ってしまったんだ。

「もう俺は、何も知らないでいたあの頃には戻れないんだ……!」

 と、同時にウェディング系A級チート『婚約者フィアンセの実家を納得させる結納金代わりの実績』が発動していた……んだけど、

「なんだこれ……?」
 俺は思わず首をかしげてしまう。

「……異世界転生局のチート分類が、かなりザルいのはもう十分に理解できてたつもりだけど、一体なにがどうなってこれが発動したのか、さっぱり意味がわかんないんだけど……?」

 婚約者フィアンセ……?
 結納……?

 なんでそんな単語が急に出てきたんだ?
 まったくもって意味不明だった。

「ま、いっか……特に実害はなさそうだし……」

 今更チートの仕様について、うだうだ言っても仕方がない。
 これだけは譲れないってこと以外は、人間諦めが肝心なのである。

 ――ってなわけでだ。
 臨界状態にあった『固有神性』《天照アマテラス》も、既にまったり巡航モードへと回帰していて。

 ついにSS級《シュプリームウルフ》との激闘が終わりを迎えたのだった。

「おーい、生きてるかー?」
 俺は地べたに叩きつけられたまま、ピクリとも動かない《シュプリームウルフ》に呼びかけた。

 まあそのなんだ?
 最後はちょっとだけ、その、やりすぎた気がしなくもない、的な?

 なんていうかさ、戦いの中でテンションあがった《神滅覇王しんめつはおう》は、時々だけど俺の制御がきかない時があるんだよね……。

 サーシャと連れだって、俺は地面に倒れ伏した《シュプリームウルフ》の元へと向かった――のだが、

「なっ!? 《群体分身ミラージュ・ファング》……っ!」
「まだこんな力を残していましたの!?」

 突如として《シュプリームウルフ》が、10を超える分身体を作りだしたのだ――!

「さてはこいつ、死んだふりをしてやがったな……!?」

 もちろん、《神滅覇王しんめつはおう》はいまだ健在であり、巨大化もしていないただの《群体分身ミラージュ・ファング》程度なら、相手することに何の苦労もありはしない――しかし、

「セーヤ様、1体逃げていきますの!」

「分かってる! ちっ、あれが本体ってわけか……!」
 周囲の分身体をぶっ飛ばしながらサーシャの指差す方向を見やると、高速で離脱していく一体が目に映った。

 その姿は、痛々しいことこの上ない。
 片足を引きずり、身体中を真っ赤な血に染めて、満身創痍ながらもそこはさすがは伝説の《シュプリームウルフ》。
 ものすごいスピードで逃げ去ってゆく。

「こいつらを倒してから追いかけるか!? いや向こうも全力で逃げているんだ。今から分身体を倒して、追いつけるかどうか……!」

 迷っている暇はない、すぐにでも決断しないと……!
 分身体をなぎ倒しながら、懸命に頭を回転させていると――ふと、サーシャが持っている和弓に目がとまった。

「弓……」
 そうだ――!

「弓なら、届く……!」
 俺の中に勝利の方程式が組み上がる――!

「サーシャ!」
 勝利を確信しての呼びかけは、しかし、

「セーヤ様、もう矢は残っておりませんわ」
 返ってきたのは申し訳なさそうなサーシャの声。

「ああ知ってるさ。でも、そんなことは織り込み済みだ――」

 俺は手の中にある黄金に輝く刀を正眼に構えると、

「SS級神剣《草薙くさなぎつるぎ》よ!」
 その真なる力を解放する――!

「『固有神性』《ヤマタノオロチ》解放――!」

 神竜の滅びと同時に生まれ落ちた、神剣《草薙くさなぎつるぎ》。
 その再生と創造の神話を受け継いだ《ヤマタノオロチ》は、『使い手に最も適した姿』となって新たに生まれ変わる能力だ――!

 俺は《ヤマタノオロチ》を応用して、《神滅覇王しんめつはおう》の黄金の粒子から「一本の矢」を創造していく――!

「戦闘系S級チート『那須与一なすのよいち』発動!」

 その矢は、弓という技術に特化したこのS級チートによってデザインされた、究極至高の理想の一矢だ――!

「矢をイメージ……サーシャが射るにふさわしい、誰よりも気高く、何よりも美しい、そして最強不敗の黄金の矢を――!」

 そして《天照アマテラス》から吹き出す黄金の粒子が、サーシャの手元へと集まると一本の美しい金色の矢を作りだした。

「っ! これはセーヤ様の黄金の力でできた矢――!?」

 そうさ。
 これが『那須与一』が思い描き《ヤマタノオロチ》によって生み出された、《神滅覇王しんめつはおう》の黄金の力が詰まった、世界最強の《輝く一矢シャイニング・アロー》だ――!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕のずっと大事な人

BL / 連載中 24h.ポイント:1,394pt お気に入り:34

【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

BL / 完結 24h.ポイント:660pt お気に入り:976

尽くすことに疲れた結果

BL / 完結 24h.ポイント:546pt お気に入り:3,013

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,547pt お気に入り:622

処理中です...