ナカバヨモツヘグリ

碧泉亭

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ナカバヨモツヘグリ(簡易版)

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登山者の男が中腹で霧に巻かれる。
霧が晴れたのちに下山する者と行き合う。

「私は登頂を諦めた、これをあなたに差し上げよう。役に立つようなことがないといいが」
と保存食を譲られる。

ありがたく受け取りつつも「下山するまで付き添った方がいいか?」と思うが姿を見失う。


やがて天候が荒れてきて、近くにあった山小屋に避難する。
いつ晴れるか知れず、まんじりと過ごす。腹も減ってきた。

ふと譲られた保存食を思い出す。
これも何かの縁と、小分けにして食べようと思ったが、あまりにも美味しくて全部食べてしまった。

気がついたら眠っていた。
目を覚まし、まだ天候が回復していないのを見るや、また腹が鳴る。

男が自分で持ってきた保存食もあるが、譲られたアレは美味かった…と思っているとポケットに何か入っているのに気づく。


食べ尽くしたはずの保存食だ。


男は怯む。
しかし空腹感とあの美味の誘惑に抗えず、また全て食べ尽くしてしまった。

腹が満たされると再び眠くなる。男はまたも眠り込んでしまう。

再び目が覚めると、天候はまだ回復していない。体もだいぶ冷え込んできた。
また腹が悲鳴を上げる。


ポケットをさぐると、またアレが出てきた。


男は流石に怪訝に思い、誘惑にかられるのを思い留まった。
自らの保存食を物凄く残念な気持ちになりながら食べ、アレに手が伸びそうになるのを耐えながら、やがてまた眠り込んだ。


気がつくと、外は好天になっている。
「今だ!」男は外にでて、目指していたはずの山頂とは逆の方向へ急いだ。

途中また霧に巻かれたが、幸いすぐ晴れたので更に麓へと進んでゆく。

すると頂上を目指す者と行き合う。
男はアレを取り出し、話しかけた。


「私は登頂を諦めた、これをあなたに差し上げよう。役に立つようなことがないといいが」

〈了〉
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