生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける

てんつぶ

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可愛らしい寝室

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 リンが提供してくる様々な食事に小食なカラヒの腹が悲鳴を上げた頃、ようやくミヤとエヴィルに再会できた。

 だがこちらを見て目を細めるエヴィルの顔から、カラヒは露骨に目を逸らしてしまった。あの庭園で本当の番いがいた真実を知ってしまい、まだ気持ちの整理がつかない。

「カラヒ様、うちのリンが迷惑かけてないデスカ? 口ばっかり達者デ、ホント困った孫娘なんデスヨ」

「ミヤ爺うるさいシ! ちゃんと一緒に遊んでたモン。ネ、番い様!」

 予想通り、二人が並ぶとまるで兄弟のようだった。

 これで孫と祖父だというのだから驚きである。

 リンに話を振られたのは困ったが、カラヒのエヴィルに対するモヤモヤした気持ちを打破してくれるのならばなんでもよかった。

「いい子だねリンは。ミヤによく似てて、気が利いて助けられた」

 実際踊る人々の輪の中でも、リンはカラヒに気を配ってくれた。休めば飲み物をよこし、疲れたカラヒを人の少ない庭園に連れて行ったのも彼女の好意だ。

 そう、好意なのだ。

 だが真実を知らなければ、カラヒは今もただエヴィルの隣で浮かれていられたのかもしれないとも思う。あんなにも満たされていたはずのカラヒの心の中は、今はどこか北風が吹く。

「自慢の孫でよかったデショ!」

「自分で言うカラ駄目なんだヨ」

 賑やかな二人を、どこか遠くで見つめる自分がいた。そんなカラヒの肩を、大きな手がそっと抱く。思わずビクリと身体を震わせて、反射的にその手から距離を取ってしまった。

 ハッとして見上げると、どこか寂しげに見えるエヴィルの視線とかち合い、再び目を逸らしてしまう。

「あ……すみません。驚いてしまって」

「いや。急にすまない」

 気まずいカラヒの空気が、エヴィルにまで伝わってしまった。それをミヤは恥じらいだとでも受け取ったのか、ぎこちない雰囲気を破るかのように明るい声を出した。

「初々しいデスネ~。今夜の初夜はお二人に楽しんでもらえるように、十分伝えておきましたノデ!」

「初夜……!?」

「ですデス! 番いとなられたのならば、今夜は初夜デス。さすがミヤはお手伝いできませんが、メイドたちが用意を手伝ってくれマス」

 そっと隣のエヴィルを見ると、彼は無言のまま深く二度頷いた。

 つまりカラヒは今夜、エヴィルに抱かれるのだ。

 一瞬だけ、ひょっとしたら抱く方なのかとも思ったが、筋肉隆々のエヴィルがカラヒの下で喘ぐ想像が全くできなかった。

 番いが人間でいうところの夫婦にあたるのならば、肉体関係も含んでいるのだろうことは十分予想していた。だが今朝のカラヒならいざ知らず、ただの身代わりだと知った今では、それをうまく受け入れることが難しかった。

 だがそれを含んでこその生贄だと言われてしまえばそこまでだったし、拒否することは許されないだろうことも分かっていた。

 自分の感情さえ隣においておけば、優しいエヴィルの隣に居場所を得られる。

 生贄で、番い。それを言い出したのはカラヒ自身なのに。

「ま、日も落ちましたし、民衆の騒ぎは夜通し続くデショウ。付き合ってたら夜が明けてしまいマスからネ。我々はこの辺で城に戻りまショウ。リンはあとで、ミヤがママさんのところに送りマス。どこに行ったのかと、それはそれは凄い形相でしたヨ。ま~た勝手に家を抜け出しましたネ?」

「ええ~。ミヤ爺、なんでママに言っちゃうのカナ!? 怒られるジャン!」

 大きな口を開け不満の声を上げるリンに対して、ミヤは腰に両腕を当てて説教の姿勢だ。いくら外見が子供同士に見えても、こういう部分はちゃんと祖父をしている。

「子供は親のいうことをちゃんと聞くのが仕事デス。ささ、お二人とも先に城内へドウゾ。カラヒ様の部屋は、エヴィル様の隣にご用意してマスので」

 そう言ってミヤはリンを引き摺るようにして連れ去って行ってしまった。残された二人の間には、やはり気まずい空気が漂うよう。そう思うのはカラヒだけなのかもしれないが。

「部屋へ行こう。案内が遅くなって、すまない」

 そうして差し出された手に触れていいものなのか、カラヒは一瞬迷った。だがたとえ偽りであろうと、カラヒの仕事は彼の番いだ。これを断ってしまえば、ちらちらとこちらを見ている周囲の獣人たちにどう思われるか分からない。

 おずおずと大きな手のひらに触れると、それをギュッと握り込まれた。そうしてそのまま手を引かれる。エスコートというよりは、ぎこちなく手を繋いで歩いているだけだ。それだけなのに、カラヒの頬は赤く染まる。二人で一緒に城内へ向かう階段を上った。

 歩きながらも時折周囲から言葉を掛けられる。言葉が分からないものの、それを祝福の言葉だと信じ、カラヒは全部に「エビラガッド!」と彼らの言葉で礼を告げる。明るい指笛や拍手が、二人の行く先々に舞う。

 それらを通り抜け、城の扉へ手を伸ばしたエヴィルは、ぴたりと動きを止めて小さく呟く。

「……初夜を頑張れと言われていたが、カラヒは意味を分かって返しているのか?」

「へっ?」

 つまりカラヒは「初夜を頑張れ」と言われて勢いよく「ありがとう!」と返したということだ。色素の薄いカラヒの顔色が、トマトよりも赤く染まった。

 これではまるでカラヒが、積極的に初夜を望んでいるかのようではないか。

「や、い、あ」

 否定するのもおかしいし、かといって肯定するのもおかしい気がして、どう返事をしたらいいのか分からず挙動不審になる。そんなカラヒをエヴィルは吐息だけで笑って、目の前の大きな扉に手をかけた。ほんの少し力を込めただけで、それは内側へと開かれる。

「カラヒは勇ましいくて、いい」

 開かれた重厚な扉の向こうには、幾人もの獣人たちが腰を屈めて主の帰りを出迎えた。マーブル模様を描く滑らかな大理石が敷き詰められた、異国の宮殿だ。天井に大きな窓が取り付けられ、その周囲に幾何学的な線が細かく絡み合った、複雑な模様のタイルがはめ込まれている。

 エヴィルと共に過ごした昨晩の森の印象がどうしても強かったが、こうして見ると伯爵家以上に獣人の暮らしは文化的のように思えた。異国情緒のある建物の内部は、細かい部分までもが美術品のようで、価値に明るくないカラヒですら城内の迫力に圧巻された。

 周囲を見渡すカラヒが気付かないうちに、エヴィルは揃っていた使用人たちと話をし終わる。

「行こう。歩けるか」

「そこまで軟やわじゃありません」

 思わずそう答えてしまうが、エヴィルには目元だけで微笑まれてしまう。ひょっとして、初夜に乗り気のように見えているのではないか。内心慌てるものの、全ては後の祭りだ。

 こういうとき、素直に甘えられる性格だったらどんなに良かっただろうか。伯爵家で働いているときにも、意地っぱりだとか可愛げがないとはよく言われていたものだ。

 売り言葉に買い言葉も多かったし、カラヒは顔と中身が合っていないとも評された。エヴィルもそう思っているかもしれないと思った時、あることに気が付いた。

 エヴィルはカラヒの火傷の痕について、一度も聞いてこない。気にしていないのか――そう考えるが、これほど大きな傷跡に気付かないわけがない。

(ああ、そうか。どうでもいいのか。生贄で見つけた、亡くなった番いの身代わりだから)

 そう考えればやはり、全てに合点がいってしまう。

 階段を上る手を緩く引いてくれる優しさも、扉を先に開けてくれる気遣いも全部、本来ならば本当の番いに向けるものだ。

 それを今カラヒが享受できているのは、何も知らない身代わりだから。

 取り繕うように張り付けた笑顔をなんとか保ちながらも、なぜ心が苦しくなるのか。それはカラヒ自身が一番理解できないでいた。

 エヴィルが扉を閉めると、広い室内を説明してくれる。

「ここがカラヒの部屋だ。こちらの扉から共通の寝室に移動できる」

「ありがとう、ございます」

 見渡す室内はかわいらしい桃色にまとめてあり、どう見ても成人男性が使うものではない。かつての番いが使っていたものだろうことは、すぐに察することができた。どうせ偽物なのだから、新しいものを用意するまでもないとおもったのか。それとも亡くなった番いの思い出を捨てきれないのか。はたまた両方かもしれない。

「気に入ったか?」

「はい。ありがとうございます」

 だからカラヒは、ただそう言って笑顔を作るしかなかった。
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