異世界でひとりぼっちのSub ~拾ったDomを育てたら執着されてしまいました~

てんつぶ

文字の大きさ
14 / 24

ヴィーの本音

しおりを挟む
 エダールが神子だった。百五十年に一度現われると言う、獣の耳を付けた子供。本来であればその外見の子が生れた際、国民は国に報告する義務があるという。そして神殿で育てられ、発生した瘴気を封じる。
 しかしエダールの母親は身寄りの無い田舎の娘だったという。我が子と引き離される事を案じて、その耳を隠して育てていたとヴィーは言っていた。僅かな時間でそれだけのことを調べ上げたヴィーは、流石国王だと言えるだろう。いや、以前からの疑いを確信に変えただけだったのかもしれない。
「そんで? エダールが神子だって話は分かった。あの獣の耳はこの世界でも特殊だっつー事は理解してたしな」
 だからこそ、ヨウスケ以外には隠していた。友人であるヴィーにすら秘密にしていたのだ。そこにはエダールを偏見の目に晒したくないという、養い親としての建前があった。
 ヴィーは穏やかに微笑む。普段こそ態度は崩しているが、ヨウスケの目の前にいるのは、末席ながら王族として生まれ、その弱い立場にありながらこの国の王の椅子を手に入れた男だ。
「ヨウスケ。単刀直入に言うよ。エダールを神殿に預けて欲しい」
(まあ、そうだろうな)
 ヨウスケは、すっかり冷めたお茶を啜った。そして少しだけ目を瞑り、あれこれと考える。エダールを失うことで出る自分の損益と、自分から離れる事で得られるエダールの利益。
 神子としての名声、立場、未来。それらとただ老いて小さく死ぬしかない、異世界の元大魔法使いのヨウスケ。
 その二つは、誰がどう見ても天秤に掛けるまでもない。
 ヨウスケはカップをテーブルに置き、細く長いため息をついた。
「エダールに害が及ぶことは無いか?」
「うん。それは大丈夫。大司教からは、代々の神子は神殿で大切に保護している、と聞いているよ。俗世からは離れるけれど、何不自由なく生活できると」 
 不便な森の中と違って。ヨウスケには言外にそう含みを感じた。
「望めば結婚だってできるんだって。家族の生活は神殿が保証してくれるし、悪くないと思うよ」
 そう聞いて、ヨウスケは胸が痛んだ。男の自分では、エダールの望む家族を作ってやることはできない。いくら彼を求めていようが、DomとSubであれ、愛とプレイはまた別の話で――ヨウスケはそう考えた瞬間、自分の思いつきにハッとした。
(エダールから感じる好意はひょっとして、ダイナミクスに引っ張られているだけなんじゃ)
 自分の気持ちは疑うことは無い。エダールが愛おしい、大切だ、その感情に嘘偽りはなく、好意は肉欲を伴う愛へと変化しつつある。
 だが、エダールはどうだろうか。思春期に拾われ、ほぼ二人きりの生活の中で、Subである自分と暮らした結果が今のエダールではないだろうか。
 つまりエダールが寄せている好意はただのDom性からくる刷り込みで、選択肢を失ったあの閉鎖的な生活の賜物なのだ。
「……そっか……」
 異世界でたった一人のSub(おれ)、だけどDom(エダール)は違うのだ。この世界で生れた、神子として崇められる尊い存在。
 ヨウスケは、膝の上できつく拳を握った。
「ねえ、ヨウスケ。こんな事を言うのは野暮かもしれないんだけど……あの子とそういう関係になってないよね?」
「そういう……ってなんだよ」
 ヴィーの意図は分かるものの、あえてヨウスケはとぼけた回答をした。どこまでを指しているのか分からないし、何を目的にしているのか探るべきだと判断したからだ。
「こっちに来たばかりの頃、言ってたでしょう。命令されたい……なんだっけ、サブとかいう体質なんだって。そういうのに、あの子を付き合わせてないよね?」
 その言葉に、ヨウスケは身を固くする。
 確かに召喚されてしばらく経った旅の途中で、ダイナミクスについて話をした記憶がある。日本では男女の区分と同じように、DomとSubという性別があるのだと言う事を。
 そしてこの世界にはそういった人間は存在しないと聞かされて、絶望したのもその時だった。
 体調を崩すヨウスケに、ヴィーは親身になって話を聞いてくれた。
 魔法で抑制してはどうかと提案してくれたのもヴィーで、それが効果があった事も事実だ。
 だが。
「ヨウスケがそういった趣味なのは分かってるけど、もしそういった相手が欲しいなら、加虐趣味の人間を見繕う。だからエダールを手放してくれないだろうか」
 お願いだよ、と頭を下げる王に、大人しく後ろに立っていたドゥアは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ヴィーの問いかけは確信的だ。そしてそれは正解でもあるし間違いでもある。だけどDomとSubの関係を受け入れて貰う難しさは、地球の歴史が物語っていた。
「趣味……。ヴィーは俺の性別を、ただの趣味だと思ってたんだ? 虐げられたいだけの、変態だと?」
 DomであれSubであれ、それは性の一つであり本能という欲求だ。だが確かに過去の日本でも、こういった偏見の目は多かったと聞く。努力すれば治る病気だと言われた時期もあった。
「君を蔑んでる訳じゃないよ。だけどそういう遊びに、神子を付き合わせるのはどうかなって思ってるんだ。そうだろう?」
――遊び。
 ヨウスケの身体の柔らかい部分が、大事な友人の言葉によって深くえぐられる。良くも悪くも日本でも、そして異世界という森の中でも偏見の目に晒されていなかったのだ。
 じっと見つめるヴィーの瞳は、まっすぐだ。自分の意見が間違っているはずがない、そう確信している人間の瞳だった。
「……分かった。ただ一点だけ条件がある」 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

処理中です...