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さよなら、俺のDom
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「いやいや、エダール様は誠に素晴らしい神子様でいらっしゃいますな。魔力の高さもこの国の魔法使いよりも断然多い」
部屋に戻ってきた大司教は、そんな風にエダールを評価した。魔力量は他人が把握する事はできない。それを測れるのは観測球と呼ばれる特殊な水晶を通したときだけだ。そしてそれを所持しているのはこの国だと王宮の該当部署と神殿の二カ所のみ。
どうやら大司教は、その水晶でエダールを評価したらしい。
銀髪と赤目、そして獣の耳を持つだけではなく、魔力量も神子たる必須条件なのか。
ヨウスケの隣にエダール、そしてその向かいにヴィーと大司教という並びで、四人がソファーセットに腰を下ろしていた。
ニコニコと明るい大司教と、穏やかに微笑むヴィー。
反対側の二人は、むっつりと押し黙ったまま不機嫌さを隠さない。
「ヨウスケ。もう帰ろう。神子だって説明された。だけど俺は嫌だ」
「エダール様、そう仰らず。神殿ではお迎えする用意が調っております。お望みならば、お好きな物をなんでもご用意致しますよぉ」
恐らく別室でも似た問答を繰り返してきたのだろう。神殿のトップである大司教が、揉み手でエダールにこびへつらう。それだけ重要な存在である神子が、入殿を拒否しているのだ。
「いらない。俺はヨウスケがいればいい」
そのはっきりとした主張に、ヨウスケの心が揺れなかったと言えば嘘になる。
だけど、だからこそ。ヨウスケは努めて軽く言った。
「悪いがな、それは無理だわエダール。お前は神子なんだろ? それなら義務を果たすべきなんじゃねぇの」
まさかのヨウスケからの言葉に、エダールは固まった。その姿を見るまいと、ヨウスケは正面のヴィーにヘラリと笑いかける。
笑え、笑え。
ヨウスケは自分に言い聞かせる。
「それに、ヴィーから養育費代わりにって大金貰っちまったし」
これは嘘だ。
だがエダールを引き渡す条件の一つとして、そうだと言う事にして欲しいと頼んである。その方が、酷い保護者だと呆れて離れてくれるだろうと。
そしてもう一つの条件が。
「ああ、それとな、お前じゃない別のDomが見つかったんだ。ヴィーがずっと探しててくれてさぁ。年の近い、めっちゃ美人なんだってよ。は~これでお前と無理にプレイしなくても良いわ」
「安心していいよ、エダール。君はもうヨウスケに付き合わなくて良いんだ。君のための相手も探しているから、楽しみにしていて欲しいな」
これも嘘だ。
だがエダールにとって、この性が枷になるのなら取り払ってあげたい。他のDomなどいるはずがない。エダールはヨウスケの、たった一人のDomなのだから。
でも、だからこそ、エダールには自分に囚われずに幸せになって欲しい。それがヨウスケの願いだった。
「まあ暫くは、調子悪かったらヴィー経由で呼んで貰ってもいいぜ? プレイに付き合うからよ。新しいパートナーが嫉妬しない程度に、だけど」
ケタケタと笑う――フリをするヨウスケの肩を、隣の男が掴んだ。
鋭い視線がヨウスケを射貫き、その焼け切れそうな怒りが露わになる。
「嘘だ。俺だけだって言った」
「……そうだっけ? まあ、俺も男と女なら、美人の女の方がいいしな。お前だって可愛い女の子かもしれねぇじゃん。神子なら、他にも選び放題なんじゃねぇの」
そう大司教に水を向けると、彼はニコニコと頷いている。
「嫌だ。俺はヨウスケがいい」
胸が締め付けられる。求められて、嬉しいに決まっている。腹の奥から喜びが踊り出して、気を抜けば全てをさらけ出して追いすがりたくなる。
内心唇を噛みしめて、ヨウスケは自分を奮い立たせる。
「俺は別にお前じゃなくていいから。たまたま拾ったのが都合の良いDom(おまえ)だっただけ」
傷つけてしまった。目の前で表情を曇らせるエダールを抱きしめたい。抱きしめて、嘘だと弁明してしまいたい欲求に駆られる。
「別に恋人だった訳じゃねぇし。あんなん、ちょっと性別に引っ張られただけだろ」
「……嘘だ。なあ、ヨウスケ。嘘だろ。『本当の事を言って』」
「……っ」
まさかの、命令。ヨウスケは身体を震わせた。従いたい、喋ったら良いだろう、エダールなら許してくれる。そんな悪魔の囁きが聞こえてくるようだ。
「……『東京』……悪いなエダール。セーフワードを使わせて貰う。応えたくない」
「っ」
命令を拒否できるセーフワードを、事前に決めていて本当に良かった。
「俺はな、言ったぜ? 二人きりの時なら命令しても良いと。それ以外は止めてくれと最初の条件に出したはずだ。最悪だな、約束も守れねぇDomはこっちからお断りだ」
「ヨウスケ……ッ、あ……ごめん、でも、俺――」
「俺から話すことはもう無い。リィア、ドゥア俺を森に転移してくれよ。いいだろ、ヴィー」
縋り付くエダールの手を払いのけて、ヨウスケは傲慢に立ち上がった。
ヴィーの合図で双子から魔法陣が展開され、辺りは光に包まれる。
「まって、ヨウスケ。ごめん、ごめんなさい。俺、言う事聞くから――」
ヨウスケの目の奥が熱く痛む。大きくなったエダールが、まるであの拾った頃の少年の姿に重なって見えた。
DomがSubに縋り付く、なんてお笑いぐさだろうとヨウスケは笑った。それが本当に笑えたかは分からない。
そうしてあっという間に視界が揺れる。
「……あの双子、ちゃんと転移させろっつーの……」
目の前には見覚えのある朽ちた椅子。半分屋根が落ちた家や荒れ果てた道路があった。そこは森の近くにある、今はもう誰もいない廃村だった。
そしてそこはエダールと最初に出会った場所でもあり。
「エダール……」
土の上に、大きな水滴が零れる。
再び一人になったヨウスケは、暫くその場から動けなかった。
部屋に戻ってきた大司教は、そんな風にエダールを評価した。魔力量は他人が把握する事はできない。それを測れるのは観測球と呼ばれる特殊な水晶を通したときだけだ。そしてそれを所持しているのはこの国だと王宮の該当部署と神殿の二カ所のみ。
どうやら大司教は、その水晶でエダールを評価したらしい。
銀髪と赤目、そして獣の耳を持つだけではなく、魔力量も神子たる必須条件なのか。
ヨウスケの隣にエダール、そしてその向かいにヴィーと大司教という並びで、四人がソファーセットに腰を下ろしていた。
ニコニコと明るい大司教と、穏やかに微笑むヴィー。
反対側の二人は、むっつりと押し黙ったまま不機嫌さを隠さない。
「ヨウスケ。もう帰ろう。神子だって説明された。だけど俺は嫌だ」
「エダール様、そう仰らず。神殿ではお迎えする用意が調っております。お望みならば、お好きな物をなんでもご用意致しますよぉ」
恐らく別室でも似た問答を繰り返してきたのだろう。神殿のトップである大司教が、揉み手でエダールにこびへつらう。それだけ重要な存在である神子が、入殿を拒否しているのだ。
「いらない。俺はヨウスケがいればいい」
そのはっきりとした主張に、ヨウスケの心が揺れなかったと言えば嘘になる。
だけど、だからこそ。ヨウスケは努めて軽く言った。
「悪いがな、それは無理だわエダール。お前は神子なんだろ? それなら義務を果たすべきなんじゃねぇの」
まさかのヨウスケからの言葉に、エダールは固まった。その姿を見るまいと、ヨウスケは正面のヴィーにヘラリと笑いかける。
笑え、笑え。
ヨウスケは自分に言い聞かせる。
「それに、ヴィーから養育費代わりにって大金貰っちまったし」
これは嘘だ。
だがエダールを引き渡す条件の一つとして、そうだと言う事にして欲しいと頼んである。その方が、酷い保護者だと呆れて離れてくれるだろうと。
そしてもう一つの条件が。
「ああ、それとな、お前じゃない別のDomが見つかったんだ。ヴィーがずっと探しててくれてさぁ。年の近い、めっちゃ美人なんだってよ。は~これでお前と無理にプレイしなくても良いわ」
「安心していいよ、エダール。君はもうヨウスケに付き合わなくて良いんだ。君のための相手も探しているから、楽しみにしていて欲しいな」
これも嘘だ。
だがエダールにとって、この性が枷になるのなら取り払ってあげたい。他のDomなどいるはずがない。エダールはヨウスケの、たった一人のDomなのだから。
でも、だからこそ、エダールには自分に囚われずに幸せになって欲しい。それがヨウスケの願いだった。
「まあ暫くは、調子悪かったらヴィー経由で呼んで貰ってもいいぜ? プレイに付き合うからよ。新しいパートナーが嫉妬しない程度に、だけど」
ケタケタと笑う――フリをするヨウスケの肩を、隣の男が掴んだ。
鋭い視線がヨウスケを射貫き、その焼け切れそうな怒りが露わになる。
「嘘だ。俺だけだって言った」
「……そうだっけ? まあ、俺も男と女なら、美人の女の方がいいしな。お前だって可愛い女の子かもしれねぇじゃん。神子なら、他にも選び放題なんじゃねぇの」
そう大司教に水を向けると、彼はニコニコと頷いている。
「嫌だ。俺はヨウスケがいい」
胸が締め付けられる。求められて、嬉しいに決まっている。腹の奥から喜びが踊り出して、気を抜けば全てをさらけ出して追いすがりたくなる。
内心唇を噛みしめて、ヨウスケは自分を奮い立たせる。
「俺は別にお前じゃなくていいから。たまたま拾ったのが都合の良いDom(おまえ)だっただけ」
傷つけてしまった。目の前で表情を曇らせるエダールを抱きしめたい。抱きしめて、嘘だと弁明してしまいたい欲求に駆られる。
「別に恋人だった訳じゃねぇし。あんなん、ちょっと性別に引っ張られただけだろ」
「……嘘だ。なあ、ヨウスケ。嘘だろ。『本当の事を言って』」
「……っ」
まさかの、命令。ヨウスケは身体を震わせた。従いたい、喋ったら良いだろう、エダールなら許してくれる。そんな悪魔の囁きが聞こえてくるようだ。
「……『東京』……悪いなエダール。セーフワードを使わせて貰う。応えたくない」
「っ」
命令を拒否できるセーフワードを、事前に決めていて本当に良かった。
「俺はな、言ったぜ? 二人きりの時なら命令しても良いと。それ以外は止めてくれと最初の条件に出したはずだ。最悪だな、約束も守れねぇDomはこっちからお断りだ」
「ヨウスケ……ッ、あ……ごめん、でも、俺――」
「俺から話すことはもう無い。リィア、ドゥア俺を森に転移してくれよ。いいだろ、ヴィー」
縋り付くエダールの手を払いのけて、ヨウスケは傲慢に立ち上がった。
ヴィーの合図で双子から魔法陣が展開され、辺りは光に包まれる。
「まって、ヨウスケ。ごめん、ごめんなさい。俺、言う事聞くから――」
ヨウスケの目の奥が熱く痛む。大きくなったエダールが、まるであの拾った頃の少年の姿に重なって見えた。
DomがSubに縋り付く、なんてお笑いぐさだろうとヨウスケは笑った。それが本当に笑えたかは分からない。
そうしてあっという間に視界が揺れる。
「……あの双子、ちゃんと転移させろっつーの……」
目の前には見覚えのある朽ちた椅子。半分屋根が落ちた家や荒れ果てた道路があった。そこは森の近くにある、今はもう誰もいない廃村だった。
そしてそこはエダールと最初に出会った場所でもあり。
「エダール……」
土の上に、大きな水滴が零れる。
再び一人になったヨウスケは、暫くその場から動けなかった。
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