異世界でひとりぼっちのSub ~拾ったDomを育てたら執着されてしまいました~

てんつぶ

文字の大きさ
17 / 24

再び

しおりを挟む
 ヨウスケがヴィーの部屋に転移したとき、この国の王であるはずの男は酷く焦燥していた。目の下の隈が酷く、いつもきっちりと整えられた襟元がだらしなく緩められている。
 男は現われたヨウスケに気がつくと、飴色の執務机からハッと身を起こし駆け寄った。
「っ、すまない、ヨウスケ」
「いい。状況は」
 この部屋の主に勧められる前に、ヨウスケはソファに腰を下ろす。それを忌々しそうに見ていたリィアとドゥアだったが、先に口を開いたのはリィアだった。
「私から説明します。神殿で暮らしていた神子――エダール様ですが、一ヶ月ほど前から体調を崩されました。表面上はお変わりない様子でしたが、眠れないご様子だったと報告を受けていました」
 Domの欲求が満たされないせいだ。ヨウスケは瞬時にそれを理解した。だがこの世界でエダールの不調をダイナミクスのせいだと把握出来る人間は、ヨウスケ以外にはいなかったのだろう。Dom性を自覚する前にヨウスケと出会ってしまったエダール自身も、不調の原因に心当たりがなかったのかもしれない。
「ヴィー様の心遣いにより、私とドゥアが週に一度、順番に彼の様子を見に行っておりました。先週、私が行った時には変わりないように思えていたのですが」
 そこでリィアが口ごもる。
 この双子は見た目こそ瓜二つだが、その性格には若干違いがあった。慎重で理性的なリィア、我儘なドゥア。ヴィーの傍にいるために本来の気性を潜めているだけで、こうしてトラブルを前にすると本来の性格が良く見えてくる。
 ドゥアは声を荒げた。
「わ、私は悪くありません! あいつが、あいつが勝手な事を言うから……!」
「ドゥア」
「……っ、申し訳ありませんヴィー様」
 興奮した様子のドゥアは、ヴィーの言葉でグッと言葉を飲み込んだ。
 ヨウスケはその三人の姿に苛立ちが募る。
「つまり、なんでエダールの魔力が暴走したって事になってるんだ? それと瘴気の関係がわかんねぇよ。エダールは今、どうなってる」
 よく分からない話を聞くために、急いできたわけじゃない。ヨウスケが聞きたいのは瘴気の事より、起こった原因より、エダールの安否だ。
「エダール様は……その、わかりません」
「は……?」
「ごめん、ヨウスケ。ここからは僕が話そう」
 口ごもるリィアに代わって、ヴィーが右手を小さく挙げた。長い脚を組み直し、ヨウスケに改まる。
「そもそも、瘴気はなぜ起こるのか。僕たちの認識はそもそも間違っていたんだよ、ヨウスケ。瘴気は自然に発生する災厄で、神子はそれを封じる唯一の手段。その根本が違っていた」
 ヴィーは暗い瞳でそう話す。
 本音を言えばそんなことより先にエダールに何があったのかを聞きたかったヨウスケだが、ヴィーの事だ、恐らくこれが最短ルートの説明なのだろう。
 ヨウスケは逸る気持ちを抑え、話に耳を傾けた。
「瘴気は魔力の吹きだまりだ。魔力自体はその量に個人差はあっても、この世界の人間なら持ち得るものだが、魔力は内包されたものであり、外に放出は出来ても取り込むことは不可能なんだよ。この話は昔、きみにしたことがあったとおもう。覚えてる?」
 その強すぎる魔力の吹きだまりが瘴気となって、国に厄災を招く。確かにそう聞いた覚えがある。だからこそそれを大地に封じる事で、平穏を保っていたはずだ。歴史上は神子が、そして今回はヨウスケがそれを行った。
「だけど、違った。大司教がこうなって初めて口を割ったよ。神殿のトップにのみ共有されていたらしいが……瘴気とは呪いだ。かつてこの大地で虐殺された、獣人族の呪いなのだと」
 ヴィーは苦しそうに頭を抑えた。獣人族と聞いて、ヨウスケはすぐにエダールの特殊な耳と尻尾を思い出した。
「お伽噺で聞いていた獣人族が、まさか存在していたとは思わなかった。そして彼らをこの国の人間達が屠ったとも」
 長い長い歴史の中で、恐らく闇に葬られてきていたのだろう事実。この国の王にすら語り継がれることがなかったのだ。
「じゃあ、エダールはその獣人族の生き残りって事なのか?」
「いや、恐らく先祖返りのようなものだろう。どこかで生き残った獣人族が、人間と交わり血を繋いで来たのかもしれない……いや、だが定期的に獣人族は……神子はこの国に生まれていたはずだ。ただ神殿が全てそれを管理していたし、今となってはそれが正しいのかどうか」
 人々の信仰を集める神殿が、国内で生まれた神子を管理していた。瘴気の発生と共に生まれてくる神子。その神子は神殿の奥で何不自由なく暮らす――そう言われていたのだ。
 だが蓋を開けてみれば、瘴気は獣人族の呪いであり、神子はその獣人族の先祖返りだと言う。建国からずっとそれらを隠蔽してきた神殿の、何を信じたら良いのだろうか。
「神子は特に国民に崇められる訳じゃない。瘴気を封じてくれる存在だからね。そりゃあありがたいと思っているだろうけど、実際に信仰されているのは神でありその代理人の神殿だ。なかったことにされても、わからない」
「っ、ヴィー! お前……!」
 ヨウスケはカッとなってヴィーの胸ぐらに掴みかかった。知らなかったとは言え、ヴィーの言葉に従う形でヨウスケはエダールを神殿に送ったのだ。幸せになれるのだと、そう信じて。
 魔力を練りかけている後ろの双子を、ヴィーは片手を挙げることで制した。
「ごめん、ヨウスケ。本当に僕も知らなかったんだ。いや、だけど彼を――神子を神殿に送ることで国が繁栄すると妄信した僕が悪い。君との友情より、国益を優先した」
 ヨウスケの怒りに満ちた瞳から、ヴィーは一切目を逸らさなかった。王として、国を第一に考えるのは当然だ。むしろ国民にとっては良い王だろう。ヴィーにとって守るべきものは国であり、ヨウスケにとってはそれがエダールだった。
「……俺も、お前の言葉を鵜呑みにしすぎた。もっと慎重に考えるべきだったのに、エダールに、あんな突き放すような真似をしちまった」
 胸ぐらを掴んでいた手を離す。皺になった襟元を直すこともなく、ヴィーは言葉を続けた。
「締め上げた大司教が吐いたよ。瘴気である魔力の急発生は獣人族の呪いで、それを神子の身体に取り込ませていたと聞く。怒らないで聞いて欲しいんだけど、そして神子が取り込んだ瘴気は神子ごと処分(・・)していたらしい」
「……っ」
「だけどエダールの場合は、僕が定期的に様子を見に行かせてたからね。手は出せなかったんだろう。虫の良い話だとは分かっているがヨウスケ、お願いだ。瘴気を封じたい。また手を貸してくれないか」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

処理中です...