悪役令嬢は終活にいそしむ～断罪のその日まで、悔いなく楽しく生き抜きますっ～

親孝行をしなくちゃね

和やかに進む夕食は、リリアの家――いや、我が家ではよくある光景だ。

愛する両親は私の左右に座り、給仕がタイミングよく運ぶ料理を家族三人で食べる。

「今日はシェフのお任せにしたんだって？リリアは優しいな。もっとわがままを言っても良いんだぞ」

お父様はリリアのわがままをデレデレと聞いてしまうタイプだ。

まあこんなに可愛いリリアだもの、その気持ちは十分わかる。

だけどリリアに甘く甘すぎる両親は、よく言えば優しい親であり、悪く言えば優しい虐待をしていたとも言えよう。

子育てをしていない私が言うのもなんだが、リリアの記憶にあるあの親では断罪される子になっても仕方がないだろう。

彼らはリリアを可愛がるあまりにダメなことを叱らず、むしろリリアが白いと言えばカラスさえも白いと言い張る親だった。極端だけど、カラスを白くする事もできる財力があるから恐ろしい。

漫画の中のリリアが死んだ後にこの家がどうなったのかは分からないが、リリアを溺愛していた両親はきっと嘆き悲しんだに違いない。

そして万が一没落しようとも、絶対リリアを恨まなかっただろう。そんな確信がある。

だから私がリリアに代わって、あの愛情深い両親に出来る終活のひとつが、親孝行だ。

勉強嫌いだったリリアの代わりに、賢い子供になろう。

偏食だったこの体を、好き嫌いしない健康優良児に育てよう。

たくさん食べ、運動し、寝て、学び、両親の溺愛にふさわしいリリアになってみせるのだ。

もし死罪となった後でも、せめてわが子として誇れる娘になりたい。

改めてそう決意をし、私は目の前のデザートを口に運んだ。

「リリア、どうしたの？酷いお顔よ。食事が合わないのならシェフを替えましょうか？」

飲み下そうとしたジェラートが、ゴクリと音を鳴らして喉を通る。

いけない、食事中だった。私は眉間に寄っていたシワを伸ばして、お母様に笑いかけた。

「大丈夫ですわお母様。どうしたらこんなに美味しいジェラートになるのか考えていたところですの。本当に、我が家のシェフたちは優秀で嬉しいわ」

後ろの方からホッとした息が聞こえた。そりゃそうよね、小娘の気分ひとつで仲間が首になる.......使用人たちにとっては、自分だっていつそうなるか分からない環境だったもの。

任せて。

きっちり皆さんの雇用を守り、私の死後も安定した雇用が出来るように考えるから。今はちょっとまだそこまで考えられないけど、ちゃんと考えるからね！

「お父様お母様、リリアは良い子になりますわ！」

2人は揃ってきょとんとした顔をして、そしてにっこり笑った。

「今でも十分良い子だよ私たちの愛し子」

「そうよ、好きな事を好きなだけ楽しんで欲しいの」

いやいやいやいや.......！！

既にリリアの態度は傲慢と言える。そりゃ両親には笑顔だけど、それ以外にはまさに小さな女王様だ。

それを咎める事無く助長してるんだから.......うーん、良い子大作戦は自力で頑張るしかないわね。

親のお金と権力を使い、知力と体力と健康を得てやるわ！

「じゃあお父様、お願いがあるの」

そして私はこのオネダリで、翌週には超一流の家庭教師をゲットしたのだった。