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オメガにされた魔王 20240506
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男は特別な力で魔王をオメガにした。
恐ろしくも美しいその魔王を番いにし、屈服させたのだ。人間と魔族の百年に渡る戦いを終わらせた男は勇者と呼ばれた。
オメガとなった魔王は男の言う事を聞いた。いや、聞くしかなかった。
ヒートに苦しむ魔王を救えるのは男だけだ。
元々平民だった勇者は褒美として土地や金貨をもらい、貴族となった。
魔王を殺すべきだという意見もあったが、勇者は魔王を屋敷の中に監禁した。日々夜会へと引っ張りだこの勇者を、全ての力を封じられた魔王はただ待つしかなかった。
魔王は突然変わった自分の身体が恐ろしかった。だが勇者だけはこのおかしな自分を支えてくれた。諸悪の根源であることは理解していたが、勇者の与える気まぐれな優しさに縋るしかなかった。
月日が経つにつれ一人の夜が増えた。ヒートの際むなしく自らを慰める夜もあった。
時々帰ってくる勇者に魔王は悪態をつく。よくないと分かっていたが、素直になれなかった。勇者は益々帰らなくなった。時々帰って来た勇者からは、馴染みの無い匂いが漂う。
魔王であった自分がなんと女々しいことか。魔王は自分が生きている意味が分からなかった。
飼い殺しにされ、ただ苦しむだけ。だがこの苦しみはもしかして、自分に与えられた人間達からの刑罰なのかもしれないとも思った。
さらに月日が経つと、屋敷に火が放たれた。魔王が住んでいる事を良く思わない人間たちがやったらしい。腐っても魔王、その程度では死なない。
だが疲れたのだ。
おかしな身体にされ、男を求めて浅ましく腰を振る自分も、その求める男はもはや側にいないことも。
罰というならもう自分の命で終わらせてほしい。そう思った。
苦しい。
魔王はいつのまにか、にっくき勇者を愛していた。それがなにより魔王を苦しめた。
翌日、燃え尽きた屋敷を魔王は歩いた。この玄関を通って勇者に連れてこられたこと。階段だった場所を上がると、大きな寝室があったこと。辛いヒートの時に勇者が抱きしめてくれた事。思い出が次々と蘇った。それはとても幸せなものだった。
「魔王!」
自分を呼ぶ声に振り向く。
息を切らせた勇者が、そこに立っていた。
「無事だったのか」
そういって勇者は魔王を抱きしめた。魔王がこの程度で死ぬ訳がないのは、この男が一番よく知っているのに。それなのに抱きしめるその手は震えていた。
「お前を失ったら生きていけない」
勇者はそんな戯れ言をいう。
だがその腕は緩むことなく魔王を抱きしめ続けた。
子供の頃に遠くから魔王を見かけ、恋に落ちたこと。アルファである勇者が相手をオメガにする秘術を探したこと。終戦は副産物にしか過ぎず、ずっと魔王を愛していたこと。
それでは何故長い間離れていたのか。魔王の疑問にも勇者は微笑み、答えた。
「君の国を取り戻したくて」
聞けば魔王の治めていた国は、人間の手に余る。だからといって魔王に返還するわけにはいかない。番いである勇者が監視役となり魔王をあるべき場所へ戻したかったという。
そのために貴族となった勇者は夜会で人脈を作り、時には他国に渡り、時にはその腕で黙らせていたという。ようやくその許可を得たと思ったら、屋敷の火事を聞き慌てて帰って来たらしい。
魔王は初めて聞く内容に、目を白黒させるしかなかった。自分は勇者に必要とされていたのだ。
月日が経った。
取り戻した魔王城に座る魔王の隣には、いつだって勇者が立っていた。人間の国とは友好な関係を築くその国に、人間と魔族の両方の血を引く者が王位を継ぐのは、もう少し先の話だ。
終
恐ろしくも美しいその魔王を番いにし、屈服させたのだ。人間と魔族の百年に渡る戦いを終わらせた男は勇者と呼ばれた。
オメガとなった魔王は男の言う事を聞いた。いや、聞くしかなかった。
ヒートに苦しむ魔王を救えるのは男だけだ。
元々平民だった勇者は褒美として土地や金貨をもらい、貴族となった。
魔王を殺すべきだという意見もあったが、勇者は魔王を屋敷の中に監禁した。日々夜会へと引っ張りだこの勇者を、全ての力を封じられた魔王はただ待つしかなかった。
魔王は突然変わった自分の身体が恐ろしかった。だが勇者だけはこのおかしな自分を支えてくれた。諸悪の根源であることは理解していたが、勇者の与える気まぐれな優しさに縋るしかなかった。
月日が経つにつれ一人の夜が増えた。ヒートの際むなしく自らを慰める夜もあった。
時々帰ってくる勇者に魔王は悪態をつく。よくないと分かっていたが、素直になれなかった。勇者は益々帰らなくなった。時々帰って来た勇者からは、馴染みの無い匂いが漂う。
魔王であった自分がなんと女々しいことか。魔王は自分が生きている意味が分からなかった。
飼い殺しにされ、ただ苦しむだけ。だがこの苦しみはもしかして、自分に与えられた人間達からの刑罰なのかもしれないとも思った。
さらに月日が経つと、屋敷に火が放たれた。魔王が住んでいる事を良く思わない人間たちがやったらしい。腐っても魔王、その程度では死なない。
だが疲れたのだ。
おかしな身体にされ、男を求めて浅ましく腰を振る自分も、その求める男はもはや側にいないことも。
罰というならもう自分の命で終わらせてほしい。そう思った。
苦しい。
魔王はいつのまにか、にっくき勇者を愛していた。それがなにより魔王を苦しめた。
翌日、燃え尽きた屋敷を魔王は歩いた。この玄関を通って勇者に連れてこられたこと。階段だった場所を上がると、大きな寝室があったこと。辛いヒートの時に勇者が抱きしめてくれた事。思い出が次々と蘇った。それはとても幸せなものだった。
「魔王!」
自分を呼ぶ声に振り向く。
息を切らせた勇者が、そこに立っていた。
「無事だったのか」
そういって勇者は魔王を抱きしめた。魔王がこの程度で死ぬ訳がないのは、この男が一番よく知っているのに。それなのに抱きしめるその手は震えていた。
「お前を失ったら生きていけない」
勇者はそんな戯れ言をいう。
だがその腕は緩むことなく魔王を抱きしめ続けた。
子供の頃に遠くから魔王を見かけ、恋に落ちたこと。アルファである勇者が相手をオメガにする秘術を探したこと。終戦は副産物にしか過ぎず、ずっと魔王を愛していたこと。
それでは何故長い間離れていたのか。魔王の疑問にも勇者は微笑み、答えた。
「君の国を取り戻したくて」
聞けば魔王の治めていた国は、人間の手に余る。だからといって魔王に返還するわけにはいかない。番いである勇者が監視役となり魔王をあるべき場所へ戻したかったという。
そのために貴族となった勇者は夜会で人脈を作り、時には他国に渡り、時にはその腕で黙らせていたという。ようやくその許可を得たと思ったら、屋敷の火事を聞き慌てて帰って来たらしい。
魔王は初めて聞く内容に、目を白黒させるしかなかった。自分は勇者に必要とされていたのだ。
月日が経った。
取り戻した魔王城に座る魔王の隣には、いつだって勇者が立っていた。人間の国とは友好な関係を築くその国に、人間と魔族の両方の血を引く者が王位を継ぐのは、もう少し先の話だ。
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