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第三話 引っ越しと口づけ②
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ラーゴは言っていた。側にいるために一緒に暮らすのだと。つまりキスで吸い出せる呪いは少量で、頻繁に繰り返す必要があるのだろう。
「リウ。痛みが?」
平静を装おうとしたリウの身体を、ラーゴが抱き留める。
わずか数時間の付き合いしかないというのに、それに安堵している自分にリウは驚いた。
「すみませんが皆さん、リウを早く休ませたいので。挨拶はまた後日でよろしいですか。リウ、荷物はこれだけでいいんですね?」
場を仕切るラーゴはベッドの上に置かれた鞄を手に取り、それからまた軽々とリウを抱きかかえた。よく知った顔を前にしてこの醜態はいかがなものかと思うものの、もはや身体の状態は悪化の一途だ。
処方された痛み止めの効果も切れているようで、呼吸をするにも肺が痛い。
リウはただラーゴの首筋に顔を埋め、ゆっくりと頷くのがやっとだった。
夕焼けの中、宿舎を後にするリウの耳元に、ラーゴの声が落ちた。
「表に馬車を待たせています。そこまで我慢できますか」
「っ、大丈夫、だ。すまない」
あともう少しなら耐えられる。歩くことで上下する振動が響くものの、次第にそれも多少楽になってくる。恐らく竜舎でそうだったように、ラーゴが触れている箇所から呪いを吸い出してくれているのだ。
待機していた馬車は貴族が乗るような立派なものだった。認定魔法使いであり、貴族同等の立場を思えば当然なのかもしれない。
御者がうやうやしく開けたその中の座面に、リウは壊れ物のように座らせられた。
扉がしまると、馬車はゆっくりと動き出す。
「お待たせしてすみません。ではキスをしても?」
上半身を横たえるリウの足元に、ラーゴが跪く。
まるで姫へ口づけを強請る王子様のようだ。
言葉を出すのも苦しいリウはラーゴを見つめたまま、浅い息を吐く唇をうっすらと開いた。
唇の中に、濡れた赤色が覗く。
「……っ、リウ……!」
覆い被さってくるラーゴの舌を迎え入れる。角度を変えて深く口づけられ、喉の奥まで嬲られるようだ。呼吸さえも奪われて、口腔内を這い回る舌にリウは思わず吸い付く。
所在なく彷徨っていた手を繋がれて、そのまま座面に縫い止められる。ここだけ見れば、まるで本物の恋人同士のような情熱的な口づけだった。
「ン、んっ……」
きつく舌を吸われて腰が震える。喉からおかしな声が漏れた。
リウは竜騎士となってからもそれ以前も、恋人と呼べる存在はいなかった。キスをしたことがないわけではなかったが、こんなに深いそれは生まれて初めてだ。
混じり合った唾液が、口端からこぼれ落ちる。
「どうですか?」
ようやく離れた唇が、そんなことを問う。
どうとは。疑問符を浮かべながらも、上がった息とボウッとする頭で、リウは深く考えずに感想を口にする。
「きもちよかった……」
キスとはこんなにも昂ぶるものなのかと驚いた。
うっかりすれば口にできない部分まで昂ぶってしまいそうだった。むしろリウが気遣いない間に、それはこっそりと鎌首をもたげている。
リウの言葉に、ラーゴは一瞬言葉に詰まった。それから視線を彷徨わせると、まだ繋いでいた手に力を込められ、ギュッと握り混まれる。
「痛みは改善されましたか、という意味だったのですが」
「へ……? あ!」
告げられてすぐはラーゴの言葉の意味が分からなかった。
だがすぐに意味を理解したリウの顔は、一瞬で真っ赤になった。
「だ、大丈夫だ。痛みはない。すまない、世話をかける」
呪いによる痛みを取り除くための口づけに夢中になっていたことが恥ずかしい。
リウは身体を起こし姿勢正しく座り直すと、ラーゴに向かって頭を下げた。
だがラーゴはリウの赤黒くなった指先を擦り、ゆるく首を横に振った。
「僕は謝罪よりお礼がいいです」
ラーゴの容姿はあまりに非凡に整いすぎて、こんな無表情を向けられると一見冷たくも見える。
だがリウに向ける眼鏡越しの目元は、柔らかく穏やかだ。
「それは……そうだな。ありがとう、ラーゴ」
「どういたしまして」
繋いだままの手を持ち上げられ、その手の甲にキスをされた。
「お、お前も座ったらどうだ?」
出発してからというもの、向かいの椅子はずっと役目を果たせていない。
だがラーゴは窓の外を確認すると、リウの隣に腰を下ろした。
「貴方とずっとこうしていたいのですが、もうすぐ到着します」
隣に座れと促したわけでも、ここにいてくれと告げたわけでもないのだが。リウの頭には無数に疑問符が浮かぶものの、だが隣に座るラーゴをはね除けるようなことでもない。
男二人が並んで馬車に座るのはおかしくないかと思う。隣の男をチラと見ると、リウと目が合った途端ニコリと目を細めた。
「リウ。痛みが?」
平静を装おうとしたリウの身体を、ラーゴが抱き留める。
わずか数時間の付き合いしかないというのに、それに安堵している自分にリウは驚いた。
「すみませんが皆さん、リウを早く休ませたいので。挨拶はまた後日でよろしいですか。リウ、荷物はこれだけでいいんですね?」
場を仕切るラーゴはベッドの上に置かれた鞄を手に取り、それからまた軽々とリウを抱きかかえた。よく知った顔を前にしてこの醜態はいかがなものかと思うものの、もはや身体の状態は悪化の一途だ。
処方された痛み止めの効果も切れているようで、呼吸をするにも肺が痛い。
リウはただラーゴの首筋に顔を埋め、ゆっくりと頷くのがやっとだった。
夕焼けの中、宿舎を後にするリウの耳元に、ラーゴの声が落ちた。
「表に馬車を待たせています。そこまで我慢できますか」
「っ、大丈夫、だ。すまない」
あともう少しなら耐えられる。歩くことで上下する振動が響くものの、次第にそれも多少楽になってくる。恐らく竜舎でそうだったように、ラーゴが触れている箇所から呪いを吸い出してくれているのだ。
待機していた馬車は貴族が乗るような立派なものだった。認定魔法使いであり、貴族同等の立場を思えば当然なのかもしれない。
御者がうやうやしく開けたその中の座面に、リウは壊れ物のように座らせられた。
扉がしまると、馬車はゆっくりと動き出す。
「お待たせしてすみません。ではキスをしても?」
上半身を横たえるリウの足元に、ラーゴが跪く。
まるで姫へ口づけを強請る王子様のようだ。
言葉を出すのも苦しいリウはラーゴを見つめたまま、浅い息を吐く唇をうっすらと開いた。
唇の中に、濡れた赤色が覗く。
「……っ、リウ……!」
覆い被さってくるラーゴの舌を迎え入れる。角度を変えて深く口づけられ、喉の奥まで嬲られるようだ。呼吸さえも奪われて、口腔内を這い回る舌にリウは思わず吸い付く。
所在なく彷徨っていた手を繋がれて、そのまま座面に縫い止められる。ここだけ見れば、まるで本物の恋人同士のような情熱的な口づけだった。
「ン、んっ……」
きつく舌を吸われて腰が震える。喉からおかしな声が漏れた。
リウは竜騎士となってからもそれ以前も、恋人と呼べる存在はいなかった。キスをしたことがないわけではなかったが、こんなに深いそれは生まれて初めてだ。
混じり合った唾液が、口端からこぼれ落ちる。
「どうですか?」
ようやく離れた唇が、そんなことを問う。
どうとは。疑問符を浮かべながらも、上がった息とボウッとする頭で、リウは深く考えずに感想を口にする。
「きもちよかった……」
キスとはこんなにも昂ぶるものなのかと驚いた。
うっかりすれば口にできない部分まで昂ぶってしまいそうだった。むしろリウが気遣いない間に、それはこっそりと鎌首をもたげている。
リウの言葉に、ラーゴは一瞬言葉に詰まった。それから視線を彷徨わせると、まだ繋いでいた手に力を込められ、ギュッと握り混まれる。
「痛みは改善されましたか、という意味だったのですが」
「へ……? あ!」
告げられてすぐはラーゴの言葉の意味が分からなかった。
だがすぐに意味を理解したリウの顔は、一瞬で真っ赤になった。
「だ、大丈夫だ。痛みはない。すまない、世話をかける」
呪いによる痛みを取り除くための口づけに夢中になっていたことが恥ずかしい。
リウは身体を起こし姿勢正しく座り直すと、ラーゴに向かって頭を下げた。
だがラーゴはリウの赤黒くなった指先を擦り、ゆるく首を横に振った。
「僕は謝罪よりお礼がいいです」
ラーゴの容姿はあまりに非凡に整いすぎて、こんな無表情を向けられると一見冷たくも見える。
だがリウに向ける眼鏡越しの目元は、柔らかく穏やかだ。
「それは……そうだな。ありがとう、ラーゴ」
「どういたしまして」
繋いだままの手を持ち上げられ、その手の甲にキスをされた。
「お、お前も座ったらどうだ?」
出発してからというもの、向かいの椅子はずっと役目を果たせていない。
だがラーゴは窓の外を確認すると、リウの隣に腰を下ろした。
「貴方とずっとこうしていたいのですが、もうすぐ到着します」
隣に座れと促したわけでも、ここにいてくれと告げたわけでもないのだが。リウの頭には無数に疑問符が浮かぶものの、だが隣に座るラーゴをはね除けるようなことでもない。
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