9 / 44
第三話 引っ越しと口づけ②
ラーゴは言っていた。側にいるために一緒に暮らすのだと。つまりキスで吸い出せる呪いは少量で、頻繁に繰り返す必要があるのだろう。
「リウ。痛みが?」
平静を装おうとしたリウの身体を、ラーゴが抱き留める。
わずか数時間の付き合いしかないというのに、それに安堵している自分にリウは驚いた。
「すみませんが皆さん、リウを早く休ませたいので。挨拶はまた後日でよろしいですか。リウ、荷物はこれだけでいいんですね?」
場を仕切るラーゴはベッドの上に置かれた鞄を手に取り、それからまた軽々とリウを抱きかかえた。よく知った顔を前にしてこの醜態はいかがなものかと思うものの、もはや身体の状態は悪化の一途だ。
処方された痛み止めの効果も切れているようで、呼吸をするにも肺が痛い。
リウはただラーゴの首筋に顔を埋め、ゆっくりと頷くのがやっとだった。
夕焼けの中、宿舎を後にするリウの耳元に、ラーゴの声が落ちた。
「表に馬車を待たせています。そこまで我慢できますか」
「っ、大丈夫、だ。すまない」
あともう少しなら耐えられる。歩くことで上下する振動が響くものの、次第にそれも多少楽になってくる。恐らく竜舎でそうだったように、ラーゴが触れている箇所から呪いを吸い出してくれているのだ。
待機していた馬車は貴族が乗るような立派なものだった。認定魔法使いであり、貴族同等の立場を思えば当然なのかもしれない。
御者がうやうやしく開けたその中の座面に、リウは壊れ物のように座らせられた。
扉がしまると、馬車はゆっくりと動き出す。
「お待たせしてすみません。ではキスをしても?」
上半身を横たえるリウの足元に、ラーゴが跪く。
まるで姫へ口づけを強請る王子様のようだ。
言葉を出すのも苦しいリウはラーゴを見つめたまま、浅い息を吐く唇をうっすらと開いた。
唇の中に、濡れた赤色が覗く。
「……っ、リウ……!」
覆い被さってくるラーゴの舌を迎え入れる。角度を変えて深く口づけられ、喉の奥まで嬲られるようだ。呼吸さえも奪われて、口腔内を這い回る舌にリウは思わず吸い付く。
所在なく彷徨っていた手を繋がれて、そのまま座面に縫い止められる。ここだけ見れば、まるで本物の恋人同士のような情熱的な口づけだった。
「ン、んっ……」
きつく舌を吸われて腰が震える。喉からおかしな声が漏れた。
リウは竜騎士となってからもそれ以前も、恋人と呼べる存在はいなかった。キスをしたことがないわけではなかったが、こんなに深いそれは生まれて初めてだ。
混じり合った唾液が、口端からこぼれ落ちる。
「どうですか?」
ようやく離れた唇が、そんなことを問う。
どうとは。疑問符を浮かべながらも、上がった息とボウッとする頭で、リウは深く考えずに感想を口にする。
「きもちよかった……」
キスとはこんなにも昂ぶるものなのかと驚いた。
うっかりすれば口にできない部分まで昂ぶってしまいそうだった。むしろリウが気遣いない間に、それはこっそりと鎌首をもたげている。
リウの言葉に、ラーゴは一瞬言葉に詰まった。それから視線を彷徨わせると、まだ繋いでいた手に力を込められ、ギュッと握り混まれる。
「痛みは改善されましたか、という意味だったのですが」
「へ……? あ!」
告げられてすぐはラーゴの言葉の意味が分からなかった。
だがすぐに意味を理解したリウの顔は、一瞬で真っ赤になった。
「だ、大丈夫だ。痛みはない。すまない、世話をかける」
呪いによる痛みを取り除くための口づけに夢中になっていたことが恥ずかしい。
リウは身体を起こし姿勢正しく座り直すと、ラーゴに向かって頭を下げた。
だがラーゴはリウの赤黒くなった指先を擦り、ゆるく首を横に振った。
「僕は謝罪よりお礼がいいです」
ラーゴの容姿はあまりに非凡に整いすぎて、こんな無表情を向けられると一見冷たくも見える。
だがリウに向ける眼鏡越しの目元は、柔らかく穏やかだ。
「それは……そうだな。ありがとう、ラーゴ」
「どういたしまして」
繋いだままの手を持ち上げられ、その手の甲にキスをされた。
「お、お前も座ったらどうだ?」
出発してからというもの、向かいの椅子はずっと役目を果たせていない。
だがラーゴは窓の外を確認すると、リウの隣に腰を下ろした。
「貴方とずっとこうしていたいのですが、もうすぐ到着します」
隣に座れと促したわけでも、ここにいてくれと告げたわけでもないのだが。リウの頭には無数に疑問符が浮かぶものの、だが隣に座るラーゴをはね除けるようなことでもない。
男二人が並んで馬車に座るのはおかしくないかと思う。隣の男をチラと見ると、リウと目が合った途端ニコリと目を細めた。
「リウ。痛みが?」
平静を装おうとしたリウの身体を、ラーゴが抱き留める。
わずか数時間の付き合いしかないというのに、それに安堵している自分にリウは驚いた。
「すみませんが皆さん、リウを早く休ませたいので。挨拶はまた後日でよろしいですか。リウ、荷物はこれだけでいいんですね?」
場を仕切るラーゴはベッドの上に置かれた鞄を手に取り、それからまた軽々とリウを抱きかかえた。よく知った顔を前にしてこの醜態はいかがなものかと思うものの、もはや身体の状態は悪化の一途だ。
処方された痛み止めの効果も切れているようで、呼吸をするにも肺が痛い。
リウはただラーゴの首筋に顔を埋め、ゆっくりと頷くのがやっとだった。
夕焼けの中、宿舎を後にするリウの耳元に、ラーゴの声が落ちた。
「表に馬車を待たせています。そこまで我慢できますか」
「っ、大丈夫、だ。すまない」
あともう少しなら耐えられる。歩くことで上下する振動が響くものの、次第にそれも多少楽になってくる。恐らく竜舎でそうだったように、ラーゴが触れている箇所から呪いを吸い出してくれているのだ。
待機していた馬車は貴族が乗るような立派なものだった。認定魔法使いであり、貴族同等の立場を思えば当然なのかもしれない。
御者がうやうやしく開けたその中の座面に、リウは壊れ物のように座らせられた。
扉がしまると、馬車はゆっくりと動き出す。
「お待たせしてすみません。ではキスをしても?」
上半身を横たえるリウの足元に、ラーゴが跪く。
まるで姫へ口づけを強請る王子様のようだ。
言葉を出すのも苦しいリウはラーゴを見つめたまま、浅い息を吐く唇をうっすらと開いた。
唇の中に、濡れた赤色が覗く。
「……っ、リウ……!」
覆い被さってくるラーゴの舌を迎え入れる。角度を変えて深く口づけられ、喉の奥まで嬲られるようだ。呼吸さえも奪われて、口腔内を這い回る舌にリウは思わず吸い付く。
所在なく彷徨っていた手を繋がれて、そのまま座面に縫い止められる。ここだけ見れば、まるで本物の恋人同士のような情熱的な口づけだった。
「ン、んっ……」
きつく舌を吸われて腰が震える。喉からおかしな声が漏れた。
リウは竜騎士となってからもそれ以前も、恋人と呼べる存在はいなかった。キスをしたことがないわけではなかったが、こんなに深いそれは生まれて初めてだ。
混じり合った唾液が、口端からこぼれ落ちる。
「どうですか?」
ようやく離れた唇が、そんなことを問う。
どうとは。疑問符を浮かべながらも、上がった息とボウッとする頭で、リウは深く考えずに感想を口にする。
「きもちよかった……」
キスとはこんなにも昂ぶるものなのかと驚いた。
うっかりすれば口にできない部分まで昂ぶってしまいそうだった。むしろリウが気遣いない間に、それはこっそりと鎌首をもたげている。
リウの言葉に、ラーゴは一瞬言葉に詰まった。それから視線を彷徨わせると、まだ繋いでいた手に力を込められ、ギュッと握り混まれる。
「痛みは改善されましたか、という意味だったのですが」
「へ……? あ!」
告げられてすぐはラーゴの言葉の意味が分からなかった。
だがすぐに意味を理解したリウの顔は、一瞬で真っ赤になった。
「だ、大丈夫だ。痛みはない。すまない、世話をかける」
呪いによる痛みを取り除くための口づけに夢中になっていたことが恥ずかしい。
リウは身体を起こし姿勢正しく座り直すと、ラーゴに向かって頭を下げた。
だがラーゴはリウの赤黒くなった指先を擦り、ゆるく首を横に振った。
「僕は謝罪よりお礼がいいです」
ラーゴの容姿はあまりに非凡に整いすぎて、こんな無表情を向けられると一見冷たくも見える。
だがリウに向ける眼鏡越しの目元は、柔らかく穏やかだ。
「それは……そうだな。ありがとう、ラーゴ」
「どういたしまして」
繋いだままの手を持ち上げられ、その手の甲にキスをされた。
「お、お前も座ったらどうだ?」
出発してからというもの、向かいの椅子はずっと役目を果たせていない。
だがラーゴは窓の外を確認すると、リウの隣に腰を下ろした。
「貴方とずっとこうしていたいのですが、もうすぐ到着します」
隣に座れと促したわけでも、ここにいてくれと告げたわけでもないのだが。リウの頭には無数に疑問符が浮かぶものの、だが隣に座るラーゴをはね除けるようなことでもない。
男二人が並んで馬車に座るのはおかしくないかと思う。隣の男をチラと見ると、リウと目が合った途端ニコリと目を細めた。
あなたにおすすめの小説
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~
芽吹鹿
BL
夢を追い求める三男坊×無気力なひとりっ子
孤独な幼少期を過ごしていたルイ。虫や花だけが友だちで、同年代とは縁がない。王国の一人っ子として立派になろうと努力を続けた、そんな彼が隣国への「嫁入り」を言いつけられる。理不尽な運命を受けたせいで胸にぽっかりと穴を空けたまま、失意のうちに18歳で故郷を離れることになる。
行き着いた隣国で待っていたのは、まさかの10歳の夫となる王子だった、、、、
8歳差。※性描写は成長してから(およそ35、36話目から)となります
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
完結·氷の侯爵はおっさん騎士を溺愛したい〜枯れおじの呪いを解くには恋が必要らしいです~
禅
BL
少年だったルイを庇って呪いを受けた騎士ディオン。
それから年月が経ち、ルイは青年に、ディオンはおっさん騎士になっていた。
魔法を使うと呪いが進むディオン。その呪いを解呪しようと試行錯誤なルイ。
そんなとき、ひょんなことから恋をすれば呪いが解けるのでは、となりルイがディオンに恋をさせようと様々な奇行を始める。
二人は呪いを解くことができるのか、そして二人の関係は――――――
※完結まで毎日投稿します
※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?