呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

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第四話 買い出しと孤児院

 差し出された真っ白い封筒を受け取り、ラーゴは王族のみが使える封蝋を開いた。
 重要な書類に違いないということで、メメルは先に下がって貰っている。
 静かな室内に、紙が擦れる音だけが聞こえる。
 ラーゴは便せんの上に視線を滑らせ内容を確認すると、小さくため息を零す。
「叙勲式の案内ですよ。日程は二週間後王宮で、ご丁寧に婚約者も連れてこいとのことです」
「ええ?」
 第二王子を庇って代わりに呪いを受けてしまったリウは、その報償と詫びを込めて竜騎士団の副団長の一人に出世が内定している。
 叙勲式はもう少し後にという話しだったはずだが、二週間後に決まったという。
 その上、なぜ昨日突然結婚を決めたラーゴ宅にその知らせが届けられるのか、リウにはさっぱり分からなかった。
 ラーゴは頬杖をつき、長い脚を組み替える。
「魔法使いの行動は、後援者に筒抜けですからね」
 そう言ってラーゴは、自分の手首に巻き付いた銀の腕輪を見せた。細いそれの中心には、ラーゴの瞳と同じ紫色の小さな宝石が埋まっている。
 マジマジとそれを見るリウに、ラーゴは自嘲するように笑った。
「これには魔術が組み込まれていて、後援者が見ようと思えばいつでも所在地を確認できるんですよ。認定魔法使いと言っても、付けられているのは犬の首輪です」
「そんなこと」
「僕が貴方と接触したことを知って、ゴッドランド宰相が陛下をつついたんでしょう。完全に面白がってますねあの老いぼれは……」
「ラーゴ、口が過ぎる」
 つまりラーゴの後援者であるゴッドランド宰相は、腕輪によって昨日のラーゴの行動を知った。そしてなんらかの理由でリウたちが結婚を決めた事実を掴んだのだ。
 しかし疑問の殆どは解消されず、多く残ったままだ。
「とはいえ、なんの報告もせずに貴方との仲が国に認められたのは好ましいことです」
「へ……? あ、確かに。そ、そうなるのか?」
 認定魔法使いであるラーゴと、呪いを受けたリウが結婚の約束をして共に生活を始めた。二人まとめての案内状が届いたということは、既に二人の関係を国のトップが把握しているということだ。
「騎士服を着て叙勲する貴方は、きっと誰よりも凜々しく美しいのでしょう。ああそれに、見てくださいここを。パーティーは騎士服ではなく、盛装をとのことですよ」
「え? 嘘だろ」
 だがラーゴの示す部分に目を落とすと、確かにそう書いてあった。
 竜騎士という立場になってから、そういったパーティーは全て騎士服で済ませていた。今更国の重鎮が揃うパーティーに見合う服を用意しろと言われても困る。
 なによりリウには伝手もなければ金もないのだ。どこで相応しい服を買えばいいのか分からない上に、竜のための魔石で散財しきった懐に余裕はない。
「差し支えなければ、僕に用意させて貰えませんか。貴方に相応しい服を用意する栄誉をください」
 ラーゴはそう言って、うっとりとリウを見つめる。
 そんな熱の籠もった目で見つめられても、リウはその気持ちには応えられない。
 結婚を了承したのもこの家に来たのも、全てリウの自分勝手な打算だからだ。ラーゴの好意は嘘ではないと思うが、ならばとその気持ちを利用している自分は、随分身勝手で酷い男のように思える。
 いや実際に、リウはラーゴの好意の上にあぐらをかいているようなものだ。
 ただでさえ痛みを緩和するためにこの家へと押しかけているのに、これ以上金銭的に世話になるわけにはいかない。
「あのさ……」
「リウ」
 断ろうとするリウの手を、ラーゴが両手でギュッと握った。
「愛する男を自分の好みに飾り立てたいという願いは、リウに迷惑でしょうか」
 紫色の真摯な眼差しが、ジッとリウを見つめる。
 十人いれば十人が振り返るだろう、類を見ない整った顔立ちをした男が、竜に乗ることしか取り柄のない平凡な自分にそんな申し出をするのだ。
 迷惑をかけてはいけないと思いつつ、お願いした方がラーゴは喜ぶのだろうかという葛藤で、リウは暫し低く唸る。
「う、ううう……安いのでいいし、負担じゃないなら……」
 途端にラーゴの表情がパアッと明るいものへと変わった。
「ええ、ええ! 負担なんて思っていません。嬉しいです、ありがとうございますリウ!」
 どちらかといえばリウがお願いする方だろう。それなのにラーゴは実に嬉しそうにリウの手を握りしめるのだ。
「ではこれから一緒に向かいましょう。リウの普段着も買い足したいです」
「え、いやそこまでは」
「買い足したいです。リウの纏う服全てを僕の選んだものにさせてください」
「お、おう……」
 鬼気迫るラーゴの様子に圧倒されたリウは、頷くしかなかった。
 平凡な見た目のリウなどより、美しいラーゴを着飾った方がよさそうなものなのに。
 もしかしたらラーゴは視力が悪いのかもしれないなどと、失礼なことを考えつつ、浮かれたラーゴに手を引かれてリウは街へと繰り出したのだった。
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