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第十一話 安堵と不安②
「ちょ、いいから! 一人で入れる!」
音が反響する浴槽に、リウの声が響く。
「暴れないでください。なにもしませんから」
抵抗するリウを難なく抑え、ラーゴは裸に剥いたリウをそっと湯船に入れた。
こうなってくると魔法使いはなんでもありだなと思うリウだったが、竜騎士ほどではないにせよ、ラーゴの肩にも厚みがある。
中性的な顔立ちもあり見た目の雰囲気は線が細くが、実際のラーゴの身体は案外鍛えてがっしりとしているのだ。
そんなことを思い出してしまい、リウは入浴剤で白くなった湯船の中にブクブクと顔を半分沈めた。
ラーゴは浴槽の外側で膝をつき、桶の中で石鹸を泡立てる。貴族のような暮らしをしている割に、慣れた手つきだ。
「風呂くらい一人で入れるって言っているのに。そんなに信用ないか?」
帰宅早々、身体がすっかり冷えてしまったリウを抱え、ラーゴは一目散に浴室へと向かった。身体を温めなければいけないという過保護さはさておき、成人男性であるリウの風呂にまでくっついてくるのだからどこまで心配性なのだろうか。
嬉しくあるものの、はやり自分一人が裸というのは気恥ずかしさがあった。
それが数時間前に痴態を晒してしまった人物であり、片思いの相手であれば尚更だ。
「信用の有無ではなく、ただリウを大切にしたいんですよ」
ラーゴは気にした様子なく腕まくりをし、濡らした布に石鹸の泡を馴染ませるとリウの腕を優しく擦る。平静を装うものの、ぬるりとした感触に心臓が跳ねる。
指先から腕に向かって黒くなった呪いは禍々しいものだ。だがラーゴは触れることに躊躇する様子はない。
それどころか慈しむように、指先から腕にかけて優しく丁寧に触れていく。
水が跳ねる度に、ラーゴの着ているシャツが濡れる。
「慣れてるんだな」
誰かに身体を洗ってもらうなど、リウは初めてだった。
いちいち心臓がうるさい自分と違い、ラーゴは顔色一つ変える様子がない。
無意識に拗ねたような言い方になってしまったリウに、ラーゴは嬉しそうに微笑む。
「こんなことするのも、したいと思ったのも貴方だけですよリウ」
宥めるような言葉に、嫉妬してしまった自分にリウはハッと気が付く。
気まずいリウを置いてきぼりにして、一方のラーゴは上機嫌だ。
「ですが慣れていると思ってくれたなら嬉しいです。気持ちいですか?」
「ま、まあ……そうだな」
実際ラーゴの手つきは慎重で、柔らかい布で丁寧に磨かれている気分だった。
布でゴシゴシと擦るだけのリウとは大違いだ。
「よかった。孤児院にいた頃、親切を通り越しておせっかいだった恩人にね、教えてもらったんですよ。大事な相手には気持ちを込めて洗うんだ、って」
「へ、へえ」
まるでラーゴにとってリウが大事な人間なのだと言われているようで、ただのお世辞だと分かっているのに口元が緩みそうになった。
二の腕から首、首から鎖骨へと濡れた布が滑る。
立ち上がるラーゴの胸元も水に湿り、透けて見える肉体から男の色香が立ち上がるようで、リウは思わず目を逸らした。
「そ、そういえばさっきも言ってたな。孤児院にいたんだって? 知らなかった。てっきりいいところのお坊ちゃんかと思っていたぞ」
自分一人がこの空間に性的な匂いを感じている気がした。
すぐ近くにあるラーゴの顔が見れず、リウはたわいのない会話で気を逸らす。
「ええ。いたのはほんの数か月ですけどね」
「へえ……やっぱりすぐに貰われていったのか。ラーゴは綺麗な子供だったんだろうな」
滅多にないことだが、孤児院では貴族や裕福な家庭が子供を引き取ることがある。
賢い子供や、見た目が秀でてる子供はやはりその傾向が強い。
リウは孤児院にいる間、引き取られていく子供を何人か見送ったことがある。嬉しいと思いながらも、やはり選ばれなかった自分に落胆したものだ。
だからこそ、大人になり竜騎士になったときには喜んだ。
誰かに必要とされることこそが、リウが子供のころから望んでいたことだからだ。
「あの当時、僕が大人であればリウを引き取りたかったですよ」
まるでリウの心を見透かしたようなラーゴの言葉に、ハッとして顔を上げた。
慈しみの色が浮かぶ瞳が、優しくリウを見つめていた。
「なに、言って……」
うまく言葉を紡げずにいると、ラーゴの濡れた指がリウの前髪に触れた。
「本当の気持ちです。僕は貴方しか選ばない。選びたくない」
男の両手はリウの濡れた前髪を梳いて後ろへと撫でつける。
ただそれだけの動きだというのに、リウの背筋から頭のてっぺんまで雷が走った。
至近距離でリウを見つめるラーゴの視線は熱っぽく、それでいて鋭い。
リウを捕食対象にしているかのような圧力だ。
恐ろしいほどの目力だというのに、リウは下腹の辺りがズクリと震える気がした。
遮るものがなくなった額に、ラーゴの唇が触れる。
「好きです、リウ。本当に。貴方だけがほしい」
「そん、だって」
何度も聞かされた言葉だ。
リウが好きだと、好意があるのだと、ラーゴは最初から告げていた。
しかしその好意に乗っかり続けていたリウだったが、どうしても拭いきれない疑問があった。
そもそもリウは、ラーゴという一級の男に好きになってもらえるような要素をなにも持っていないのだ。
竜騎士であれば多少は尊敬を集めていた自覚はあるが、それも呪いを受けた今は危うい。
外見も美形というほどでもなく、竜から降りたリウは平凡な男だという自覚がある。
「僕の気持ちは貴方に正しく伝わっていますか? 好きだと何度も告げているのに、意識してもらえませんでした」
「だって俺はなにもない凡人で、その上こんな面倒な呪い持ちだし」
「周囲に見る目がなくて助かりました。呪いは貴方を苦しめていますが、そのおかげで僕は貴方の側にいれる……そう言ったら僕を卑怯な男だと思いますか」
リウは首を横に振る。
卑怯なのはリウだからだ。
呪いをなんとかしてもらうために、打算でラーゴと一緒にいる。
ラーゴを卑怯だというのなら、リウなど卑劣極まりない人間だろう。
「絶対に、貴方を呪いから助けます。すみませんがそれは貴方のためだけじゃない、僕がリウと共に生きたいという我儘です」
「そんなもの――」
我儘ではないと思えた。
なぜならそれはリウも望んでいることだからだ。
思わず伸ばした手を、ラーゴの指に絡めとられる。
「僕がリウを呪いから救えば、優しい貴方は僕を無下にできないでしょう? なし崩しだろうときっと僕を受け入れてくれる……そういった打算や下心があるんです」
ラーゴがリウの手の甲にキスをした。
わずかな動きで水面が揺れ、まるでリウの鼓動のように水滴が跳ねる。
「でもごめんなさい。リウが嫌だと言っても、僕はもうこの手を離せない。昔より深く貴方を知った今、もう二度と離したくない。僕以外の誰かがリウに触れることを想像するだけで、嫉妬で身を焦がしてしまいそうです」
嫌だったら?
では嫌じゃなかったらどうなのだろうか?
リウの心は言われるまでもなく、嫌になるほどまっすぐにラーゴへと向かっている。
「……本当、なのか」
「本当です。僕はずっとリウだけのもの、貴方が死ねと言うなら喜んで死にますよ」
「それは、困る。俺とずっと生きるんだろ」
困ると言いながらも、リウの頬はにやける。
「つ、つまりラーゴは俺のことを、す、す――」
「愛してます。リウだけを、ずっと。どうしたら信じて貰えますか」
リウの人生で、これほどまっすぐに情熱的に愛を伝えられたことはない。
しかもリウが好意を頂いている相手だ。
自分も好きだと返したいのに、うまく言葉が返せない。
口ごもるリウを見つめながら、ラーゴはどこか影を含ませながら薄く笑う。
「でもいいんです、今は僕の気持ちに応えなくても。婚約者という立場はもう国に承認されていますから、結婚できずとも一生この屋敷から出す予定はありませんし」
「……ん? 待て、国に承認? 待て待て。そもそも婚約は、この賃貸の屋敷に住むための仮初のものって話だったよな?」
呪いを解くため、そして呪いによる痛みを緩和するためには常に側にいたほうがいい。そのために婚約者だと偽って、ラーゴの住む賃貸とは思えない豪邸に越してきたはずだ。
賃貸契約上、赤の他人では一緒に住めないからだと、そう言っていたのはラーゴだ。
だがラーゴはなぜか頬をほんのり赤くして、自分の顔の前で恥じらうように両手を合わせる。
「実は、この家は僕の持ち物ですし、婚約する手段に嘘をつきました。ごめんなさい」
「は……?」
「だってこんな機会、滅多にないじゃないですか! 竜騎士になってからは、殆ど宿舎と竜舎の往復だけで全然隙がなかったですし。誰かのものになる前に早く結婚したいと思ってましたし」
ニコニコと語るラーゴの言葉の端々から、なにか聞いてはいけない単語が含まれている気がした。
「だから僕とリウはちゃんと婚約しています。もう僕から逃げようとしても無理ですよ。嫌がられても離しません」
すうっと細められた瞳は、笑みを作っているはずなのに酷く冷ややかだ。
「や、ヤバい男だなお前……」
想像以上の執着を向けられていた。
それなのにリウの心は、キュンとときめいて舞い上がっている。
自分も大概変な人間だったのかもしれないと、リウは逸る心臓を押さえた。
「さ、そろそろ上がりましょうか。のぼせてしまいます。最後までお手伝いしてもいいんですが……」
「じ、自分でやるっ」
最後までと言うラーゴの視線の先は、お湯の中に浸かるリウの下半身を見ていた。
乳白色のお湯の中では見えないはずだというのに、リウは慌てて両手で自分の下半身を覆う。
ラーゴはそんなリウを見て、クツクツと喉で笑う。
「ですよね、残念です」
本気ではなかったのだろう、リウの戸惑いを軽く受け流すとラーゴは浴室を出て行った。
「……なんなんだよ」
初めて聞いたラーゴの本音には恐ろしい部分も足し感いあったはずなのに、リウの顔はみっともなく緩む。
再びリウの顔はぶくぶくとお湯の中へ沈み込んだのだった。
音が反響する浴槽に、リウの声が響く。
「暴れないでください。なにもしませんから」
抵抗するリウを難なく抑え、ラーゴは裸に剥いたリウをそっと湯船に入れた。
こうなってくると魔法使いはなんでもありだなと思うリウだったが、竜騎士ほどではないにせよ、ラーゴの肩にも厚みがある。
中性的な顔立ちもあり見た目の雰囲気は線が細くが、実際のラーゴの身体は案外鍛えてがっしりとしているのだ。
そんなことを思い出してしまい、リウは入浴剤で白くなった湯船の中にブクブクと顔を半分沈めた。
ラーゴは浴槽の外側で膝をつき、桶の中で石鹸を泡立てる。貴族のような暮らしをしている割に、慣れた手つきだ。
「風呂くらい一人で入れるって言っているのに。そんなに信用ないか?」
帰宅早々、身体がすっかり冷えてしまったリウを抱え、ラーゴは一目散に浴室へと向かった。身体を温めなければいけないという過保護さはさておき、成人男性であるリウの風呂にまでくっついてくるのだからどこまで心配性なのだろうか。
嬉しくあるものの、はやり自分一人が裸というのは気恥ずかしさがあった。
それが数時間前に痴態を晒してしまった人物であり、片思いの相手であれば尚更だ。
「信用の有無ではなく、ただリウを大切にしたいんですよ」
ラーゴは気にした様子なく腕まくりをし、濡らした布に石鹸の泡を馴染ませるとリウの腕を優しく擦る。平静を装うものの、ぬるりとした感触に心臓が跳ねる。
指先から腕に向かって黒くなった呪いは禍々しいものだ。だがラーゴは触れることに躊躇する様子はない。
それどころか慈しむように、指先から腕にかけて優しく丁寧に触れていく。
水が跳ねる度に、ラーゴの着ているシャツが濡れる。
「慣れてるんだな」
誰かに身体を洗ってもらうなど、リウは初めてだった。
いちいち心臓がうるさい自分と違い、ラーゴは顔色一つ変える様子がない。
無意識に拗ねたような言い方になってしまったリウに、ラーゴは嬉しそうに微笑む。
「こんなことするのも、したいと思ったのも貴方だけですよリウ」
宥めるような言葉に、嫉妬してしまった自分にリウはハッと気が付く。
気まずいリウを置いてきぼりにして、一方のラーゴは上機嫌だ。
「ですが慣れていると思ってくれたなら嬉しいです。気持ちいですか?」
「ま、まあ……そうだな」
実際ラーゴの手つきは慎重で、柔らかい布で丁寧に磨かれている気分だった。
布でゴシゴシと擦るだけのリウとは大違いだ。
「よかった。孤児院にいた頃、親切を通り越しておせっかいだった恩人にね、教えてもらったんですよ。大事な相手には気持ちを込めて洗うんだ、って」
「へ、へえ」
まるでラーゴにとってリウが大事な人間なのだと言われているようで、ただのお世辞だと分かっているのに口元が緩みそうになった。
二の腕から首、首から鎖骨へと濡れた布が滑る。
立ち上がるラーゴの胸元も水に湿り、透けて見える肉体から男の色香が立ち上がるようで、リウは思わず目を逸らした。
「そ、そういえばさっきも言ってたな。孤児院にいたんだって? 知らなかった。てっきりいいところのお坊ちゃんかと思っていたぞ」
自分一人がこの空間に性的な匂いを感じている気がした。
すぐ近くにあるラーゴの顔が見れず、リウはたわいのない会話で気を逸らす。
「ええ。いたのはほんの数か月ですけどね」
「へえ……やっぱりすぐに貰われていったのか。ラーゴは綺麗な子供だったんだろうな」
滅多にないことだが、孤児院では貴族や裕福な家庭が子供を引き取ることがある。
賢い子供や、見た目が秀でてる子供はやはりその傾向が強い。
リウは孤児院にいる間、引き取られていく子供を何人か見送ったことがある。嬉しいと思いながらも、やはり選ばれなかった自分に落胆したものだ。
だからこそ、大人になり竜騎士になったときには喜んだ。
誰かに必要とされることこそが、リウが子供のころから望んでいたことだからだ。
「あの当時、僕が大人であればリウを引き取りたかったですよ」
まるでリウの心を見透かしたようなラーゴの言葉に、ハッとして顔を上げた。
慈しみの色が浮かぶ瞳が、優しくリウを見つめていた。
「なに、言って……」
うまく言葉を紡げずにいると、ラーゴの濡れた指がリウの前髪に触れた。
「本当の気持ちです。僕は貴方しか選ばない。選びたくない」
男の両手はリウの濡れた前髪を梳いて後ろへと撫でつける。
ただそれだけの動きだというのに、リウの背筋から頭のてっぺんまで雷が走った。
至近距離でリウを見つめるラーゴの視線は熱っぽく、それでいて鋭い。
リウを捕食対象にしているかのような圧力だ。
恐ろしいほどの目力だというのに、リウは下腹の辺りがズクリと震える気がした。
遮るものがなくなった額に、ラーゴの唇が触れる。
「好きです、リウ。本当に。貴方だけがほしい」
「そん、だって」
何度も聞かされた言葉だ。
リウが好きだと、好意があるのだと、ラーゴは最初から告げていた。
しかしその好意に乗っかり続けていたリウだったが、どうしても拭いきれない疑問があった。
そもそもリウは、ラーゴという一級の男に好きになってもらえるような要素をなにも持っていないのだ。
竜騎士であれば多少は尊敬を集めていた自覚はあるが、それも呪いを受けた今は危うい。
外見も美形というほどでもなく、竜から降りたリウは平凡な男だという自覚がある。
「僕の気持ちは貴方に正しく伝わっていますか? 好きだと何度も告げているのに、意識してもらえませんでした」
「だって俺はなにもない凡人で、その上こんな面倒な呪い持ちだし」
「周囲に見る目がなくて助かりました。呪いは貴方を苦しめていますが、そのおかげで僕は貴方の側にいれる……そう言ったら僕を卑怯な男だと思いますか」
リウは首を横に振る。
卑怯なのはリウだからだ。
呪いをなんとかしてもらうために、打算でラーゴと一緒にいる。
ラーゴを卑怯だというのなら、リウなど卑劣極まりない人間だろう。
「絶対に、貴方を呪いから助けます。すみませんがそれは貴方のためだけじゃない、僕がリウと共に生きたいという我儘です」
「そんなもの――」
我儘ではないと思えた。
なぜならそれはリウも望んでいることだからだ。
思わず伸ばした手を、ラーゴの指に絡めとられる。
「僕がリウを呪いから救えば、優しい貴方は僕を無下にできないでしょう? なし崩しだろうときっと僕を受け入れてくれる……そういった打算や下心があるんです」
ラーゴがリウの手の甲にキスをした。
わずかな動きで水面が揺れ、まるでリウの鼓動のように水滴が跳ねる。
「でもごめんなさい。リウが嫌だと言っても、僕はもうこの手を離せない。昔より深く貴方を知った今、もう二度と離したくない。僕以外の誰かがリウに触れることを想像するだけで、嫉妬で身を焦がしてしまいそうです」
嫌だったら?
では嫌じゃなかったらどうなのだろうか?
リウの心は言われるまでもなく、嫌になるほどまっすぐにラーゴへと向かっている。
「……本当、なのか」
「本当です。僕はずっとリウだけのもの、貴方が死ねと言うなら喜んで死にますよ」
「それは、困る。俺とずっと生きるんだろ」
困ると言いながらも、リウの頬はにやける。
「つ、つまりラーゴは俺のことを、す、す――」
「愛してます。リウだけを、ずっと。どうしたら信じて貰えますか」
リウの人生で、これほどまっすぐに情熱的に愛を伝えられたことはない。
しかもリウが好意を頂いている相手だ。
自分も好きだと返したいのに、うまく言葉が返せない。
口ごもるリウを見つめながら、ラーゴはどこか影を含ませながら薄く笑う。
「でもいいんです、今は僕の気持ちに応えなくても。婚約者という立場はもう国に承認されていますから、結婚できずとも一生この屋敷から出す予定はありませんし」
「……ん? 待て、国に承認? 待て待て。そもそも婚約は、この賃貸の屋敷に住むための仮初のものって話だったよな?」
呪いを解くため、そして呪いによる痛みを緩和するためには常に側にいたほうがいい。そのために婚約者だと偽って、ラーゴの住む賃貸とは思えない豪邸に越してきたはずだ。
賃貸契約上、赤の他人では一緒に住めないからだと、そう言っていたのはラーゴだ。
だがラーゴはなぜか頬をほんのり赤くして、自分の顔の前で恥じらうように両手を合わせる。
「実は、この家は僕の持ち物ですし、婚約する手段に嘘をつきました。ごめんなさい」
「は……?」
「だってこんな機会、滅多にないじゃないですか! 竜騎士になってからは、殆ど宿舎と竜舎の往復だけで全然隙がなかったですし。誰かのものになる前に早く結婚したいと思ってましたし」
ニコニコと語るラーゴの言葉の端々から、なにか聞いてはいけない単語が含まれている気がした。
「だから僕とリウはちゃんと婚約しています。もう僕から逃げようとしても無理ですよ。嫌がられても離しません」
すうっと細められた瞳は、笑みを作っているはずなのに酷く冷ややかだ。
「や、ヤバい男だなお前……」
想像以上の執着を向けられていた。
それなのにリウの心は、キュンとときめいて舞い上がっている。
自分も大概変な人間だったのかもしれないと、リウは逸る心臓を押さえた。
「さ、そろそろ上がりましょうか。のぼせてしまいます。最後までお手伝いしてもいいんですが……」
「じ、自分でやるっ」
最後までと言うラーゴの視線の先は、お湯の中に浸かるリウの下半身を見ていた。
乳白色のお湯の中では見えないはずだというのに、リウは慌てて両手で自分の下半身を覆う。
ラーゴはそんなリウを見て、クツクツと喉で笑う。
「ですよね、残念です」
本気ではなかったのだろう、リウの戸惑いを軽く受け流すとラーゴは浴室を出て行った。
「……なんなんだよ」
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