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マネージャーで、恋人で、アイドル! ~水戸ユキヤスの話⑤~

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 分かってる。分かってた。身分違い、種族違い、性別の壁だってある。あともう少し、僕がアイドルとしてこの部屋を出れるまでは一緒にいる事が許されているのだから儲けものだ。
 そう思うのに、目頭はぐっと熱を持つ。
「お前に言わせてしまった。俺も……お前が好きだよユキ。ただ俺はマネージャーでお前はアイドルだから……せめてアイドルを卒業するまではこの想いに蓋をしようと思っていた」
「え」
 思ってもいない返答に、うつむいていた顔をあげた。ヴァルドさんの首筋に巻き付かせてもらっていた僕の腕に、ゴツゴツとした大人の男の手が重なった。
 パソコンチェアが、ぎしりと音を立てる。
「とんでもない状況に置かれたというのに、前向きに素直に頑張るユキを誰でも……いや俺はずっと前から好きだった。マネージャーとしてユキを盛り立てたいと思う反面、ずっとこの部屋で暮らしたいと思う程度には」
 改めて僕の前に立つ背の高いヴァルドさんは、少し腰をかがめて目線を合わせてくれる。こういう気遣いも本当にもう……好き、なんだよ。
「その……まさか両想いだったとは思わずに、ユキに言わせてしまい申し訳ない。ユキ……俺の、俺だけのアイドルになってくれますか?」
「ひゃい……!」
 肝心なところで噛んでしまい、ホントに僕という人間は決まらない……。でもヴァルドさんが楽しそうに目を細めてくれるから、もう僕は僕という人間でいいんだと、そう肯定してもらえるような気がする。
 真っ赤になっているだろう顔に、整いまくったヴァルドさんの影が重なった。
「ん……」
 そっと触れるだけのキスはまるで、永遠の誓いのようでなんだか照れる。思わず瞑った目を開けると、ヴァルドさんの身体が細かい光に包まれていた。
「わ……、めちゃくちゃカッコいい」
 今僕が着せられている衣装のまるで対になるかのように、白地に青色の差し色が入ったスーツ。ヴァルドさんのために誂えたような華やかな衣装はとても良く似合っていた。
 ぼうっと見惚れていると、突然室内に甲高い音楽が響く。
「は、え……? 結婚行進曲……?」
「……ユキ、見てみろ。あの扉に神々の神託が示された。――アイドル達成おめでとう! 二人でユニット組んでる姿もいつか見たいなあ!……だそうだ」
 達成したと言われても、アイドルにはまだなれていない気もするけれど……。あ、ひょっとして。ヴァルドさんのあの告白がキーになったの、かな?
 二人で顔を見合わせて、そして一緒のタイミングで噴き出した。あれやこれやと頑張っていたはずが、ただの恋人になっただけで達成してしまったのだ。
 いや、ただの恋人ではないけれど。
 こんな風に結ばれたカップルなんて、きっと僕たち以外いないだろう。
「アイドル、やる? ヴァルドさん?」
「公務に支障がないのなら……。マネージャーと兼任してもいいかもしれないな。一番近くでユキの頑張る姿を見れるなら、役得だ」
 からかうように言ったのに、逆に色気を乗せて耳元で囁かれたら僕の負けだ。うう、カッコよすぎて反則だ。熟れた顔を隠すように、僕は思い切って恋人の胸に飛び込んだ。
 頭の隅っこで、あの赤毛の神様の言ってた「お膳立て」という言葉をふっと思い出した。ひょっとして僕たちは彼らの言う運命の相手だったのかもしれない。だからこうして二人きりで、お互いに惹かれ合ったのだろうか。
 僕はその考えを浮かべるも、すぐにかぶりを振った。
 運命でもそうじゃなくても、僕は絶対にこの人に恋をしたに違いないから。
 カチャン、と扉の鍵が開いた音がした。
 だけどもう少しだけ、この二人だけの部屋の中にいようと思う。

※※※

 大歓声の中、僕は大きく手を振る。
 会場の熱気と自分自身の運動量のせいで、ステージ上は熱くて仕方ない。学ランのようなデザインのステージ衣装を脱ぎかけて、隣に並ぶ恋人の視線に自分の指の動きを止めた。
(ぬ・ぐ・な・よ)
 マイクに拾われないように、そう口の動きだけで伝えてくる。
 過保護なのか独占欲なのか分からないが、とりあえず心配性な恋人の言う事は聞いておくに限る。熱いけれど、とりあえずあと一曲だ。
「みんなー! どうもありがとう! 次の曲も聴いてください!」
「俺たち二人の出会いの曲だ。皆に支えられてここまで来た気持ちを、受け取ってくれ」
 ――うおおおおおお!
 噂によればこの中には神様が混じって参加してくれているらしいし、世界の魔物は沈静化してきているそうだ。僕がなんとかアイドルをできているからかな、なんて少しだけ自惚れてしまう。
 僕がアイドル、しかも魔界で、それも恋人と一緒に。
 本当に人生、何が起こるのか分からない。
 
―― 水戸ユキヤスの話 終わり ――

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