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一章 訪れと再会
秋、そして始まり
しおりを挟むこの大陸には龍人と、そうではないただの人間が暮らしている。
強大な力と多くの国土を有するため人間からはまとめて龍人国と呼ばれている。
実際は国はさらに細かく分かれ、赤龍・青龍・白龍――そして全ての龍を統べる黒龍。俺、ホンスァの属する赤龍という種族も、その一角として独立しているのが実態だ。
それぞれが違う能力や個性を持つ色龍たち。
数多の龍人たちがひれ伏す頂点に立つのは、この黒龍城の主でもある黒龍・タイランだ。
俺はタイランの父である先代黒龍に手を差し伸べられ、彼が幼い頃からお目付け役として一緒に暮らしてきた。
そして彼は今、イル様という人間の伴侶を得て、それはそれは甘い日々を黒龍城で過ごしている。
主君でありながらも手のかかる息子のようなタイランと、辛い過去を乗り越え黒龍城にまで来てくれた癒し系のイル様という二人を見るたびに、うまく恋が叶ってよかったなと、しみじみと感慨深くなる。
あの夜中にトイレにいけなかったタイランが、大きくなったものだと感心する日々でもあった。
◇
長い塀に面して植えられた紅葉が赤く色づいていた。
外に面した廊下は秋風が通り、俺の髪の毛を揺らす。
紅葉と同じ赤色だ。
視界に入る短い赤毛に一瞬気持ちが落ち込むのは、きっと季節が悪いんだろう。
秋は好きじゃない。
苦しかったあの頃を思い出すから。
早く冬になればいい。
全てを雪で覆い隠してほしい。
「……っとと。何年経ってると思ってるんだか。ダメだぞホンスァくん、そういうとこ」
憂鬱な気持ちが湧き上がり、それを振り払うべく誰もいないというのにおどけて見せた。
こんな振る舞いができるようになったのも、この黒龍城に来てからだ。
俺を拾ってくれた前黒龍の時からそうであったが、今代の黒龍であるタイラン、彼の統治するこの黒龍領も息がしやすい。
全ての龍人を統治する黒龍、その影響力は大気までもを変えるのかもしない。
「さて、と」
ふっとズレてしまった気分を変えるべく、俺は書類を片手にウンと伸びをした。
肺いっぱいに息を吸い込み、少しスッキリしたかもしれない。
俺は今、書類を官吏に渡すべく、運動を兼ねて俺自ら持っていこうとしていた。寄り道を咎められるような身分ではないが、だからといってサボるつもりもない。
気を取り進む廊下を歩いていと、角を曲がったところで声がかかる。
「ほ、ホンスァ……いいところに」
「イル様? なんでそんなところに」
角を曲がった先、塀際に植えられた桂花(ケイファ)の上に、タイランの妻であるイル様がいた。
密集した枝の一つにつかまって、震えている。
イル様は、色素の薄い肌と金髪、それから淡紅色の瞳を持つ男性である。
この広大な龍人国の一角、青龍領と隣接する小国の王子だったイル様は、ド執着男の長年の想いを広大な懐で受け止めた人物だ。
長年母国でナイナイ王子などと揶揄されていたせいで、イル様本人は自分がなにもできないと思い込んでいる。
だが疑うことなくド執着男を受け入れている時点で、なんとも凄い人だと俺は思う。
「猫が」
「猫?」
「このキンモクセイの木の上にね、猫が登って鳴いてたんだよ。どうやら降りれないみたいで……それで」
申し訳なさそうに話すイル様の様子に、全て理解した。
「なるほど……猫は下したものの、今度はイル様が降りれなくなってことですね」
「うう……そうです」
呆れるよりも、可愛らしい人だなと思った。
金色の髪の毛に、オレンジ色の小さな桂花の花が絡まっていて、まるで妖精のようだ。
外見を褒めるとイル様は小さくなるので言わないが。
祖国で冷遇されてきたこの人は、少しばかり自信が足りない。確かに非凡な美しさとは言わないが、見た目も仕草も穏やかな性格も、十分可愛らしい人なのだが。
俺は両手を広げ、木の上で震えるイル様に言う。
「ほら、受け止めますから、降りてください」
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