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一章 訪れと再会
じくじくと痛む、傷
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天気がいいし中庭で食べたい。そんなイル様の希望をタイランが聞き逃すわけがない。
穏やかな黒龍夫妻のティータイムに混じりながら、俺も紅棗をつまむ。お菓子を食べるのは嫌いじゃないが、作る方が楽しいのだ。
こうやってイル様が喜んで食べてくれるから、俺の腕も鳴るというものだ。
胡麻入りの蒸しケーキのお代わりを食べ終わった頃、イル様がふと呟いた。
「そういえばタイラン。来月黒龍城で定例議会があると聞きました。どういったことをするんですか」
イル様の言葉に、俺は思わずギクリと身体を強ばらせた。
「ああ……もうそんな時期だね」
イル様の顔にかかる葉っぱを、タイラン様は愛おしそうな手つきではらう。
「人間達に龍人国と呼ばれるこの国は、実質各種族が領土を治めていることは既に知っているだろう?」
「はい。白龍族、黄龍族……それとピィインが治める青龍族に、ホンスァの出身である赤龍族ですよね? タイラン様は黒龍ですがあくまで象徴であり、直接土地は治めていない。黒龍領は、この城で働く者たちだけが住まう場所です」
「さすがだね。私のイルはもの覚えがいい」
タイラン様はそう言うと、愛おしそうにイル様のつむじにキスをする。
俺がいなければ膝に乗せていることだろう。いや、いたとて関係ないなこの男は。
結婚してもうすぐ一年、そろそろ落ち着いても良さそうな黒龍夫妻だが、今日も飽きることなくイチャイチャしている。
とはいえ二人が幸せそうなのは家臣としても、また世話係としても大変喜ばしいことだ。思う存分イチャイチャするがいい。
「定例議会は五年に一度、各色龍の代表が集まって報告をする場だよ。私には普段から報告が上がっているけど、全体で顔を見せて共有する場所も必要だからね」
「五年に一度……ですか? 随分少ないような」
「龍人は人間に比べたら長生きだからね。それに色龍の王となるような者は総じてアクが強い。全員が集まるなんて、五年くらいでちょうどいいんだよ。ねえ、ホンスァ」
タイラン様はなんの気ない様子で俺に水を向けた。
その聡明な黒色の瞳には、俺への気遣いの色が混じる。
「ですねえ」
だから俺は同じように、ただ目だけで大丈夫だと伝える。
タイラン様は先代黒龍陛下からどこまで聞かされているのか分からないが、色々と察しているのだろう。
俺はイル様に向き直る。
クルリと回って、顎に可愛く人差し指を添える。
「その間、みんなのホンスァくんはちょっとばかし休暇をいただきますね」
「え……そうなの? でもそっか。ホンスァにも長期休暇は必要だよね。でも、寂しいな」
青龍がいれば若ぶってるとでも言われそうなポーズでも、イル様はなにも言わずそういうものだと受け止めている。笑いを取れずスベッたような気持ちにもなるが、こういう懐の深さがイル様の良さなのだと思っている。
「お土産、買ってきますね。どこ行くかまだ未定ですけど、温泉なんかいいですねえ」
いつものお目付役がいないならせいせいするだろうに。
しょんぼりと肩を落としてくれるのだから素直で愛らしい方だと思う。
「温泉……?」
「地下から湧き出た温水だよ。白龍の辺りが多いかな。いつかイルも連れて行ってあげたい」
「タイラン様タイラン様、スケベ心が表情に出てますよお?」
やに下がった顔をする主を一つ揶揄うと、タイラン様はコホンと咳払いした。適当に言っただけだったが、どうやら図星だったらしい。むっつりめ。
「私のことはいいんだよホンスァ。今回も休暇に影を伴うのなら大所帯だろう。白龍に話を通しておこうか」
「んもお、気を回さないでくださいよ! その辺もまだこれから決めますって」
俺にまで気を遣うのだから、なんだかんだと優しい方なのだ。
「ああ、すいませんイル様。影っていうのは」
「ホンスァ直属の隠密部隊、だよね? その、以前タイランに教わってる」
なぜかイル様が申し訳なさそうな顔をしている。
これは俺の過去も囓っているな。
俺は苦笑しつつ両手を広げて、あえて大袈裟な身振り手振りで説明してやる。
「ちゃんと教わってて偉いですよイル様! そう”影”は俺個人の精鋭部隊なんです。俺が『赤龍』だった頃の部下が、身分を失った後も付いてきてくれた」
当時を思い出すとどうしても語尾が下がってしまう。
赤龍として国を預かっていた華やかな時代と、争い、そして裏切り。
もう十年以上経つというのに、まだ胸の内側がジクジクと痛む。
内心首を横に振りつつ、俺は笑顔を貼り付けた。
穏やかな黒龍夫妻のティータイムに混じりながら、俺も紅棗をつまむ。お菓子を食べるのは嫌いじゃないが、作る方が楽しいのだ。
こうやってイル様が喜んで食べてくれるから、俺の腕も鳴るというものだ。
胡麻入りの蒸しケーキのお代わりを食べ終わった頃、イル様がふと呟いた。
「そういえばタイラン。来月黒龍城で定例議会があると聞きました。どういったことをするんですか」
イル様の言葉に、俺は思わずギクリと身体を強ばらせた。
「ああ……もうそんな時期だね」
イル様の顔にかかる葉っぱを、タイラン様は愛おしそうな手つきではらう。
「人間達に龍人国と呼ばれるこの国は、実質各種族が領土を治めていることは既に知っているだろう?」
「はい。白龍族、黄龍族……それとピィインが治める青龍族に、ホンスァの出身である赤龍族ですよね? タイラン様は黒龍ですがあくまで象徴であり、直接土地は治めていない。黒龍領は、この城で働く者たちだけが住まう場所です」
「さすがだね。私のイルはもの覚えがいい」
タイラン様はそう言うと、愛おしそうにイル様のつむじにキスをする。
俺がいなければ膝に乗せていることだろう。いや、いたとて関係ないなこの男は。
結婚してもうすぐ一年、そろそろ落ち着いても良さそうな黒龍夫妻だが、今日も飽きることなくイチャイチャしている。
とはいえ二人が幸せそうなのは家臣としても、また世話係としても大変喜ばしいことだ。思う存分イチャイチャするがいい。
「定例議会は五年に一度、各色龍の代表が集まって報告をする場だよ。私には普段から報告が上がっているけど、全体で顔を見せて共有する場所も必要だからね」
「五年に一度……ですか? 随分少ないような」
「龍人は人間に比べたら長生きだからね。それに色龍の王となるような者は総じてアクが強い。全員が集まるなんて、五年くらいでちょうどいいんだよ。ねえ、ホンスァ」
タイラン様はなんの気ない様子で俺に水を向けた。
その聡明な黒色の瞳には、俺への気遣いの色が混じる。
「ですねえ」
だから俺は同じように、ただ目だけで大丈夫だと伝える。
タイラン様は先代黒龍陛下からどこまで聞かされているのか分からないが、色々と察しているのだろう。
俺はイル様に向き直る。
クルリと回って、顎に可愛く人差し指を添える。
「その間、みんなのホンスァくんはちょっとばかし休暇をいただきますね」
「え……そうなの? でもそっか。ホンスァにも長期休暇は必要だよね。でも、寂しいな」
青龍がいれば若ぶってるとでも言われそうなポーズでも、イル様はなにも言わずそういうものだと受け止めている。笑いを取れずスベッたような気持ちにもなるが、こういう懐の深さがイル様の良さなのだと思っている。
「お土産、買ってきますね。どこ行くかまだ未定ですけど、温泉なんかいいですねえ」
いつものお目付役がいないならせいせいするだろうに。
しょんぼりと肩を落としてくれるのだから素直で愛らしい方だと思う。
「温泉……?」
「地下から湧き出た温水だよ。白龍の辺りが多いかな。いつかイルも連れて行ってあげたい」
「タイラン様タイラン様、スケベ心が表情に出てますよお?」
やに下がった顔をする主を一つ揶揄うと、タイラン様はコホンと咳払いした。適当に言っただけだったが、どうやら図星だったらしい。むっつりめ。
「私のことはいいんだよホンスァ。今回も休暇に影を伴うのなら大所帯だろう。白龍に話を通しておこうか」
「んもお、気を回さないでくださいよ! その辺もまだこれから決めますって」
俺にまで気を遣うのだから、なんだかんだと優しい方なのだ。
「ああ、すいませんイル様。影っていうのは」
「ホンスァ直属の隠密部隊、だよね? その、以前タイランに教わってる」
なぜかイル様が申し訳なさそうな顔をしている。
これは俺の過去も囓っているな。
俺は苦笑しつつ両手を広げて、あえて大袈裟な身振り手振りで説明してやる。
「ちゃんと教わってて偉いですよイル様! そう”影”は俺個人の精鋭部隊なんです。俺が『赤龍』だった頃の部下が、身分を失った後も付いてきてくれた」
当時を思い出すとどうしても語尾が下がってしまう。
赤龍として国を預かっていた華やかな時代と、争い、そして裏切り。
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内心首を横に振りつつ、俺は笑顔を貼り付けた。
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