追放された赤毛の従者と 愛が重い赤龍陛下の 幸せな離婚

てんつぶ

文字の大きさ
3 / 8
一章 訪れと再会

じくじくと痛む、傷

しおりを挟む
 天気がいいし中庭で食べたい。そんなイル様の希望をタイランが聞き逃すわけがない。

 穏やかな黒龍夫妻のティータイムに混じりながら、俺も紅棗をつまむ。お菓子を食べるのは嫌いじゃないが、作る方が楽しいのだ。
 こうやってイル様が喜んで食べてくれるから、俺の腕も鳴るというものだ。
 胡麻入りの蒸しケーキのお代わりを食べ終わった頃、イル様がふと呟いた。

「そういえばタイラン。来月黒龍城で定例議会があると聞きました。どういったことをするんですか」

 イル様の言葉に、俺は思わずギクリと身体を強ばらせた。

「ああ……もうそんな時期だね」

 イル様の顔にかかる葉っぱを、タイラン様は愛おしそうな手つきではらう。

「人間達に龍人国と呼ばれるこの国は、実質各種族が領土を治めていることは既に知っているだろう?」

「はい。白龍族、黄龍族……それとピィインが治める青龍族に、ホンスァの出身である赤龍族ですよね? タイラン様は黒龍ですがあくまで象徴であり、直接土地は治めていない。黒龍領は、この城で働く者たちだけが住まう場所です」

「さすがだね。私のイルはもの覚えがいい」

 タイラン様はそう言うと、愛おしそうにイル様のつむじにキスをする。
 俺がいなければ膝に乗せていることだろう。いや、いたとて関係ないなこの男は。
 結婚してもうすぐ一年、そろそろ落ち着いても良さそうな黒龍夫妻だが、今日も飽きることなくイチャイチャしている。

 とはいえ二人が幸せそうなのは家臣としても、また世話係としても大変喜ばしいことだ。思う存分イチャイチャするがいい。

「定例議会は五年に一度、各色龍の代表が集まって報告をする場だよ。私には普段から報告が上がっているけど、全体で顔を見せて共有する場所も必要だからね」

「五年に一度……ですか? 随分少ないような」

「龍人は人間に比べたら長生きだからね。それに色龍の王となるような者は総じてアクが強い。全員が集まるなんて、五年くらいでちょうどいいんだよ。ねえ、ホンスァ」

 タイラン様はなんの気ない様子で俺に水を向けた。
 その聡明な黒色の瞳には、俺への気遣いの色が混じる。

「ですねえ」

 だから俺は同じように、ただ目だけで大丈夫だと伝える。
 タイラン様は先代黒龍陛下からどこまで聞かされているのか分からないが、色々と察しているのだろう。
 俺はイル様に向き直る。

 クルリと回って、顎に可愛く人差し指を添える。

「その間、みんなのホンスァくんはちょっとばかし休暇をいただきますね」

「え……そうなの? でもそっか。ホンスァにも長期休暇は必要だよね。でも、寂しいな」

 青龍がいれば若ぶってるとでも言われそうなポーズでも、イル様はなにも言わずそういうものだと受け止めている。笑いを取れずスベッたような気持ちにもなるが、こういう懐の深さがイル様の良さなのだと思っている。

「お土産、買ってきますね。どこ行くかまだ未定ですけど、温泉なんかいいですねえ」

 いつものお目付役がいないならせいせいするだろうに。
 しょんぼりと肩を落としてくれるのだから素直で愛らしい方だと思う。

「温泉……?」

「地下から湧き出た温水だよ。白龍の辺りが多いかな。いつかイルも連れて行ってあげたい」

「タイラン様タイラン様、スケベ心が表情に出てますよお?」

 やに下がった顔をする主を一つ揶揄うと、タイラン様はコホンと咳払いした。適当に言っただけだったが、どうやら図星だったらしい。むっつりめ。

「私のことはいいんだよホンスァ。今回も休暇に影を伴うのなら大所帯だろう。白龍に話を通しておこうか」

「んもお、気を回さないでくださいよ! その辺もまだこれから決めますって」

 俺にまで気を遣うのだから、なんだかんだと優しい方なのだ。

「ああ、すいませんイル様。影っていうのは」

「ホンスァ直属の隠密部隊、だよね? その、以前タイランに教わってる」

 なぜかイル様が申し訳なさそうな顔をしている。
 これは俺の過去も囓っているな。
 俺は苦笑しつつ両手を広げて、あえて大袈裟な身振り手振りで説明してやる。

「ちゃんと教わってて偉いですよイル様! そう”影”は俺個人の精鋭部隊なんです。俺が『赤龍』だった頃の部下が、身分を失った後も付いてきてくれた」

 当時を思い出すとどうしても語尾が下がってしまう。
 赤龍として国を預かっていた華やかな時代と、争い、そして裏切り。
 もう十年以上経つというのに、まだ胸の内側がジクジクと痛む。

 内心首を横に振りつつ、俺は笑顔を貼り付けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

英雄の溺愛と執着

AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。 転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。 付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。 あの時までは‥。 主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。 そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。 そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。

告白を全部ドッキリだと思って振ったら、三人のアイドルが壊れかけたので彼氏役をすることになりました

海野(サブ)
BL
大人気アイドルヘイロー・プリズムのマネージャーである灯也はある日、その担当アイドル 光留 輝 照真 に告白されるが、ドッキリだと思い、振ってしまう。しかし、アイドル達のメンタルに影響が出始めてしまい… 致してるシーンと受けが彼氏役を引き受けるとこしか書いてませんので悪しからず。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...