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2.聖女候補って何だよ〜!

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 僕と王女が正式に婚約したのは8歳の時だ。僕に恋をした王女側から申し出があってすんなり婚約する事になったんだよ。王女側から申し出があったんだよ。凄いでしょう?
 王都にある荘厳な大聖堂で、『婚約の儀』を交わしたんだ。昨日の事の様に思い出しちゃう。
 あの時の王女はほんのり頬をピンク色に染めて、パステルカラーのフワフワのドレスが似合っていて本当に可愛かったなぁ。
 お互いの家族だけが出席をする中、司教様の前で2人で誓約書にサインをし、神に誓う事を『婚約の儀』と言っている。
 『婚約の儀』を無事終えて、王女と両方の家族と一緒に控室でお茶を飲んでいた時だ。大司教様に連れられて、一人の少女が部屋に入ってきた。
 大司教様が紹介された。今はまだ小さいので候補だが、将来は聖女だって。あくまで聖女候補だよ。
 ミーア・エルキーオ。ちょっと癖っ毛のピンクブロンドの髪に金色の瞳。あざとくピンクブロンドの髪を高い位置でツインテールにしていて、ピンクのリボンをつけている。ありがちだよね。ピンクだらけ。

 この国の聖女である条件は、まずは聖属性魔法が使える事。そして、この国を守る結界を張る為、最上位の聖属性魔法を使える事だ。
 この聖女候補は聖属性魔法が使えるらしい。まだごく弱いもので結界なんて無理なんだそうだけど。まだ幼いので、将来的には聖女となるであろうと言う意味で聖女候補なんだって。

 その聖女候補を一眼見て僕は何故か背筋がゾッとした。悪寒が走り急に熱が出てその場で意識を失って倒れちゃった。
 そして僕は、3日間寝込んだんだ。その時に前世を思い出した。僕の訳の分からない知識は前世のものだったんだ! て、理解した。
 そして、この世界は前世の姉がプレイしていたゲームと同じだと気付いたんだ。

 この世界には、魔法がある。魔物も出る。そんなファンタジー感満載の世界だ。
 そして、この世界は前世の姉がやり込んでいた乙女ゲームと同じだって事を思い出したんだ。

 前世の姉は、どこに出しても恥ずかしい腐女子だった。その姉が夢中になっていた乙女ゲームがあった。
 ヒロインの聖女候補が、次々とこの国の主立った連中を攻略していく。その末に、現在の王家は断絶。もちろん、僕の元婚約者の王女も、王に王妃や王子もみんな処刑されちゃう。この国は聖女候補に乗っ取られてしまうんだ。その聖女候補の最終的な相手がなんと僕なんだよ。
 学園の卒業パーティーの最中に、僕が王女に婚約破棄を言い渡す。そして、聖女候補が攻略してきた名だたる面々を自分の配下において王家を断罪するんだ。
 あり得ないよね! 僕が親戚でもある王様達を処刑する訳ないじゃん!
 しかもだよ! 腐女子の姉がハマっていただけあって、どのルートのバッドエンドでも男と男がくっついちゃう。乙女ゲームなのにさ。意味不明だよ。
 攻略対象者の好感度を上げられなくてバッドエンドになった場合は、攻略対象者とその従者か護衛の騎士とくっついてしまう。
 腐女子の姉は、その男同士のスチルを見たいが為に、技とバッドエンドに持っていったりしていた。その時の姉の表情は思い出したくもない。覚えてないけど。
 僕のルートだと、バッドエンドの場合は一緒に育ってきた乳兄弟とくっつく。いやいや、僕は女の子が好きだし。王女一筋だし! てか、それ以前に乳兄弟なんていないからね!
 まあ、現実は僕の方が婚約破棄されちゃったんだけど。
 仕方ないよ。王女と婚約して直ぐに前世を思い出した僕は、その後領地の祖母の元に引っ込んでしまったから。

 因みに、僕が前世の記憶があると家族に話したのは10歳の時だ。両親と姉兄、祖母にすべて告白した。乙女ゲームの詳細以外だけどね。
 聖女候補に国を乗っ取られる事だけは話した。だってまさか今の王様達を僕が殺すなんて言えないよぉ。
 でも、僕が話した前世の記憶を、僕の家族は戸惑いながらも信じてくれた。だって、僕はこの世にはない知識で王国を改善していたから。あの知識は前世のものだったのかと、納得してくれた。
 でも、聖女候補に近付きたくなかった僕は領地にいる祖母の元に引っ込んだんだ。それに、どうしても王女を守りたかったんだ。もちろん国もだよ。10歳の僕が必死で考えた末の決断なんだよ。
 題して……
『先に僕が婚約破棄されちゃったらいいんじゃね?』
 作戦発動だよ!
 僕は10歳から学園に入学する14歳までの間、領地の祖母の元で過ごした。その間、王女とは交流を持たなかった。辛かったよ。会いたかったもん。
 そして、学園に入学する時に戻ってきた僕は、幼い頃にキラキラの神童だった面影は全て無くなっていて見事な少々引きこもり気味のモサイ奴になっていた。
 そりゃあ、愛想も尽きるよね。仕方ない。寧ろ、今迄よく我慢してくれたよ。
 
 前世の姉のゲームのシナリオだと、聖女候補は僕達より入学が遅れて4年の時に編入してくる。それが嫌で恐怖で、その上田舎に引きこもっていたもんだから、コミュ症にもなっていた。若干ね。マジ、少しだけさ……と、言う設定。エヘヘ。
 話しかけられたらちゃんと返事はするよ。自分からは余程の用事がないと話しかけないけどね。
 でも、長い前髪で半分顔を隠している様な僕に話しかける奴は滅多にいない。
 聖女候補との出会いが僕の人生を大きく変えたんだ。

 さて、僕が領地に引っ込んだ先の祖母、カリア・マーシア、御歳64歳。
 まだまだ超元気で、領地では父の代わりに領主代行として腕を振るってくれている。若かりし頃は、賢者の生まれ変わりじゃないかとさえ言われた人なんだ。
 父から見れば養子に入った公爵家の義母だね。当然、僕とも直接の血の繋がりはない。でも祖母は、両親も僕達も心から慈しんでくれた。
 祖父は残念ながら、15年前に亡くなっていた。15年前にこの国の辺境の森でダンジョンが発見されスタンピードが起こったんだ。
 ダンジョンが発見された時には、既に魔物がダンジョンから溢れ出していたんだそうだ。その制圧に祖父も祖母も父も参加した。祖母は魔術師なので、攻撃魔法で魔物に攻撃しながら後方支援だったので助かった。
 でも、祖父と父は前衛だった。2人共剣に魔法を纏わせて戦う魔法剣士だった。
 ボスを倒さないとスタンピードは終息しない。祖父と父と数十人の剣士と数人の魔術師はスタンピード中の魔物の中を突っ切ってダンジョンへ入って行った。
 その後、魔物達がダンジョンに戻り出してスタンピードは終息したのに、祖父を含めて3人が戻ってこなかった。
 父もダンジョンの中で祖父とはぐれてしまって、どうなったのか分からなかった。
 僕はまだ2歳だったので、全然覚えていないけど。
 祖母は今でも祖父の事が大好きなんだよ。形見のネックレスを肌身離さずつけている。そんな祖母に言わせると……

「何が聖女候補だ! なら私は立派な大聖女様様だッ!」

 この言い方だよね。元気なんだよ。勝気だしさ。マジで。でも、祖母がこんな事を言うには理由がある。
 祖母も聖属性魔法を使えるんだ。しかも、祖母以上に強力且つ広範囲に使える人はいないだろうと言われる程にだよ。
 現在、聖女はいない。と、言うかいるのかどうか知らない。公表されていないんだ。今、王都を守っている結界のメンテナンスと保持をしているのは、祖母なんだ。凄いでしょ?
 その上、祖母は聖属性魔法だけでなく闇属性魔法以外の全属性魔法を使える。さすが、賢者の生まれ変わりとまで言われただけあるよ。
 そんな祖母でも、最上位の聖属性魔法は使えない。魔力量が不足なんだって。
 領地にいる間、そんな祖母に僕は鍛えられて、僕も祖母並みに魔法を使える様になった。
 でもね、それは秘密。家族しか知らない。だって、僕は聖女候補を避けたいんだ。
 だから祖母に鍛えられた僕が、聖属性魔法どころか闇属性魔法以外の全属性魔法をガンガン使えるなんて事は絶対に秘密なんだ。
 
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