突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ

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知らない部屋

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 はっと気がつくと、見覚えのないベッドで寝ていた。自宅でもなく、森でもなく、まったく知らない場所だ。埃ひとつなさそうなきれいな部屋に、シンプルな白い天蓋付きベッド。ゴテゴテの天蓋付きベッドしか知らないから、こんなベッドもあるのだなあと感心してしまった。起き上がって辺りを見回すと、服を着替えさせられていることに気づく。白いネグリジェのようだ。下着も穿いていなくて驚いて声を上げてしまう。

「えっ、パンツ!」

 スースーして違和感がある。妙に肌触りのいいネグリジェが肌をすべり、妙な心地になってしまう。下着ぐらいは穿きたいものだと慌ててクローゼットを手当たり次第探すが、下着らしきものはなかった。代わりのネグリジェ数着と、着方がよく分からない質がよさそうなジャケットにパンツ、フリルのついたシャツなんかが見つかったぐらいだ。

「この世界パンツないのか……?」

 中世時代だって下着はあったはずだろうが、世界によって違うとか。そんなことを考えながらベッドに戻る。ベッドの脇にあるサイドチェストに水差しとコップが置いてあることに気づき、ひとまず水を飲むことにした。森の中では水さえも飲めなかったから助かる。喉の乾きが癒えるまで水を飲み、裸足のまま窓際に寄る。ぺたぺたと絨毯の感触を楽しみながら歩き、カーテンをそっと開ける。巨大で眼下いっぱいに広がる庭はよく手入れされているようだった。季節の花が広がっていて、植物園だって目じゃないように見える。

「ここ、どこだろう」

 日本ではない。月が2つあったことから外国でもないような気もする。そうなれば、よくある異世界転生だとか異世界に飛んでしまったとか、そういうことなのだろうか。死んでもいないのに。

「うーん……」

 飛んでいる鳥も見たことがない大きさだ。どこか他人事のような心地なのはきっと現実逃避だ。自覚してしまったら平静ではいられないだろう。

「何もわからん」

 ここがどこかも分からなければ、生きていく術も分からない。とりあえず助けてもらったのだから相手に礼ぐらい言わなければ。礼程度では済まずに金を要求されたり売り飛ばされりしなければいいのだけれど。部屋の中を見回しても本のようなものも見当たらない。誰かが来るまでここで待っていた方がいいのだろうか。着ていた服も見当たらず、不安な気持ちが募ってくる。せめて着ていた制服とスマホぐらいは返してもらいたい。あれは唯一己と元いた世界をつなぐものだ。

「おや、起きたんだね」

 その声に弾かれたように背後を見ると、森の中で見たうつくしい男がそこにいた。森で見たときよりも簡素な格好をしている。手には伊織の制服と靴、持っていた荷物が抱えられていた。

「あ! えと、森にいた人!」
「痛みとかないかい?」
「ない、です」

 ベッドの上に伊織の制服と手荷物を置き、男は伊織に近寄り、そっと頬に触れた。森の中にいたときも少し思っていたが、どこか距離が近い。青空のような瞳はどこか心酔しきったようなとろりととろけそうな瞳をしている。まさか誰にでもこうなのだろうか。もしくはこの世界の住人はみんなこうなのだろうか。

「よかった。助けるのが間に合って」
「ええと、ありがとうございました。助けてくれて」
「どういたしまして」

 そう言って、男は伊織をベッドに座らせて手を握って横に座った。

「あの、手……」

 両手を握られてしまって向かい合うしかない。なぜこんなことになっているのだろうか。何も分からないままで混乱気味だ。

「少しこのままでいいかい?」

 命の恩人にそう言われてしまっては頷くしかない。伊織が頷いただけで男は顔を綻ばせた。その顔にどこか見覚えがあるような気がするのは気の所為だろうか。もしかしたら映画俳優とかに似てるとか。

「私のこと、覚えてる?」
「ええと、森で助けてくれた人ですよね」

 聞き方に違和感を覚えつつもそう答えると、男はにこりと微笑んで質問を続ける。

「あそこにはどうやって来たんだい?」
「どこから話したらいいか……なんか通学途中にマンホールが光って……ああえと、マンホールっていう、下水に繋がる穴があって、」

 マンホールのことは分からないか、と説明をしようとするが、男は黙って聞いたままだ。握られた手のひらに汗をかいてきていい加減離してもらいたいけれど言うことができない。

「気がついたら、あそこにいたんです」
「なるほど」

 理解しているのかしていないのか分からないような笑顔でうなずき、ようやく手を離してもらえた。ごつごつとした大きな手が離れていく。

「イオリ」
「は、はい」
「よかったらうちで暮らさない?」
「は」
「行くあてがないならなんだけど」

 渡りに船ではあるが、簡単にそんな提案に乗ってしまってもいいのだろうか。このまま油断したところを売り飛ばされたり、搾取されたりしないのだろうか。ぱちぱちと瞳を瞬かせる伊織を前にして、男は人好きのする笑みを浮かべる。

「いるだけでいいんだ、伊織は」

 え、なんかこわい。


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