51 / 132
第3章 冒険者2~3か月目
51話 航海の最中【前編】
しおりを挟む
「サディエル! アルム! ごはんは!?」
「おっ、来たな。出来てるぞ」
一通りの動き確認と、自分に合う戦い方について、リレルをあれこれ会話していたら予想以上に時間が掛かってしまった。
自分じゃ具体的にどんな動きがいいのかさっぱりだから、結構悩んだ。
こればっかりは自分がどう動くかってのをこれから確認していかないと難しい、ということで保留事項である。
保留事項、忘れないようにしよう……結構、あるから。
そしてオレとリレルは、サディエルたちが待つ船内の調理場兼食堂に赴いた。
「おぉ、リレル君、ヒロト君も、おはよう」
「おはようございます、クレインさん」
「おはようございます!……って、大丈夫ですか?」
「はっはっは……レックスの奴が大量に儂の部屋に書類の山と山と山と山を形成してくれおってな……やっと終わったよ」
あー……だから、船旅が始まってから全然クレインさんを見かけなかったのか。
ずっと書類整理をしていて、ようやく落ち着いたってことで食堂に顔を出した、と。
というか、別邸でも結構な山が形成されていたはずだけど……あの時処理した分ですら生易しいレベルだったのか。
「ほぼまるまる1週間缶詰……オレだったら途中で逃げそうです」
「逃げだしたらレックスが煩いんじゃよ……まぁこれで、やっと儂もしばし自由の身だ」
そう言いながら、クレインさんは大きく背伸びをする。
そんな彼の目の前に、1枚の皿が置かれる。置いたのはアルムだ。
「では、お疲れのクレインさんへ、朝食はこちらになります」
「おおお、これは……! 持ってきてくれてありがとうアルム君」
クレインさんはまずアルムにお礼を言い、そのまま視線を厨房にいるサディエルに向ける。
「サディエル君、久しぶりに作ったのかい?」
「そうですよ。クレインさん覚えてたんですね」
「あぁもちろんだとも。実に懐かしい」
皿には朝食と言う事で、サンドイッチがのせられているわけだけど……
一見すると、ふつーのサンドイッチだよな、これ。
「街で買いこんどいた塩漬けした肉を塩抜きして、少量の野菜とバターとかで炒めたやつだ。俺のお気に入り。ほら、2人も座れよ、今持っていくから」
「おっしゃ! 待ってました!」
オレは手近な席に座り、サディエルが朝食を持ってきてくれるのを待つ。
その間に、クレインさんはお先にとサンドイッチを頬張っている。相当疲れていたのか、はたまた空腹だったのか、かなりのハイペースでサンドイッチが消えていく。
本当に……お疲れ様です、クレインさん……
「ほい、おまちどう!」
そこに、4人分の皿と飲み物をお盆ようなものに乗せたサディエルがやってきた。
カタンと順番に、オレたちの目の前に料理が並べられる。
肉だー! 久しぶりのお肉だー!
魚も悪くはないけど、やっぱほぼ1週間の3食オールは無理でしたごめんなさい!
「ヒロトには後でデザートもあるからな」
「それも結構期待してた。って、この短時間でデザートなんて作れるもん? だいたい時間掛かりそうなのに」
「なーに、ちょっと卵と牛乳と砂糖でちょちょいっと煮て、水と氷の魔術使って急速冷蔵すればすぐさ」
卵と牛乳と砂糖で出来る簡単なデザート? 煮込んで?
あー、もしかしてプリンかも。けど、煮て作れるんだったっけ、イメージは蒸しなわけだけど。
「さてと、俺も早速頂きまー……」
「おっ、美味そうだな。貰うぞ」
席に着き、自分の分をうきうきと食べようとしたサディエルだったが、急に伸びてきた腕によって、サンドイッチが強奪された。
何が起こったか一瞬分からなかったのか、サディエルは硬直する。
「うん、イケるな」
「あら、アークさん。おはようございます」
奪ったサンドイッチを頬張るアークさんと、特に何も言わずリレルが挨拶をする。
いや、挨拶している場合じゃないような……?
一方で硬直していたサディエルはようやく正気に戻ったらしくて、ギロリとアークさんを睨みつける。
「アァァァクゥゥウ!?」
「おれも久々に肉が食いたかったから助かった。いやぁ、美味しい美味しい」
「てんめぇ!? 俺が作ったって分かってて奪っただろ!?」
「そりゃお前の得意料理ぐらい覚えているって。クレイン殿、おはようございます。アルム君たちもな」
サディエルの抗議もどこ吹く風。
アークさんは営業スマイルよろしく、クレインさんに挨拶して、オレらにもそう言ってくる。
「アークさん、容赦ねぇ……」
「そんなもんだろ、多分」
「ですね」
今にも殴りかかりそうなサディエルを横目に、オレたちは自分たちの朝食を頬張る。
んー……お肉が口の中に広がって幸せ!
「おはよう、アークシェイド君。今の所、航路は予定通りかね?」
「少し遅れ気味ですが、日程に影響はありません。それに、今日の風向きと速度ならば遅れもすぐに解消されるはずです」
「ふむ、それなら良かった。あの山脈を超えるのはちと一苦労じゃからな。かなりの迂回になるものの、航路が確実じゃ」
クレインさんと事務的な会話を始めたせいで、これ以上怒りのやりどころを無くしたサディエルは、不機嫌になりながら厨房へと戻っていく。
オレはまだサンドイッチが残っている皿を持ってサディエルを追いかける。
「サディエル。オレの分、食べなよ」
「あっはは……ありがとうヒロト。だけど、それはお前が頑張ったご褒美なんだ、気にするなって」
そう言いながらオレの頭をポンポンとやりながら、荷物を確認する。
取り出したのは中くらいの大きさの瓶、中には塩漬け肉と一緒に買い込んだ干し肉が入っている。
瓶の蓋を開けて、サディエルは干し肉を3本取り出し、近くのコンロ……じゃないな、ピザを焼くような窯に入れてしばらく炙り始める。
「そういえば、リレルとの訓練状況はどんな感じだ?」
「剣の立ち回り模索中。オレらしいって所が難しくて」
「そうだな。第三者視点から、こういう動きの方が合っている、と伝えても最後は当人の意思だ」
だよねぇ……防御重視の方がいいよ! って言われても、いや攻めたいんだよー! とかありそうだし。
ゲームでもあるある、かなーりあるあるだ。
「にしても、リレルに対しては結構素直に話しを聞いてるな」
「あー……いやさ、サディエルやアルムと違って女性だし……何より」
「何より?」
「姉ちゃんの事思い出すと、逆らえないっつーかなんつーか」
「……あー、分かる。それめっちゃ分かる。俺も姉がいるからな、逆らえないの超分かる」
年が近い姉なんて怖い以外なにがある?
たまーに、一人っ子とか、姉妹がいない奴らが『姉ちゃん羨ましー』とか『妹とかかわいいじゃん』って呑気に言ってくることあるけど、総じて姉妹がいる連中は遠い目してるって気づいてないんだよな!
漫画やアニメのイメージで言うの禁止、はい、禁止!
オレは念のため、周囲を見回して他の人がいないことを確認してから、次の言葉を紡ぐ。
「と言うか、姉が怖いって印象……世界違ってても変わりなくて嬉しい」
「世界が違っても、姉こえぇは共通言語」
ガシッ、とオレらは同時に握手する。
「寝てる時に物投げられてきたりとか」
「とりあえず弟は買い物時の荷物持ち係だったり」
「姉の機嫌のとり方を、まず真っ先に学ぶよな!?」
「触らぬ神に祟りなし、って言葉があるんだけど、ほんとそれ! どこにプッツンいく導火線あるか分かったもんじゃない!」
「せめて年齢がもーちょい離れてたら、ちょっとは大目に見て見逃してくれるのでは? と、思ったことなんざ数知れず! だよな、ヒロト!」
「正直、理不尽が服着て歩くってのが姉妹だよ! そうだよね、サディエル!」
今ここに、姉に夢見すぎダメ絶対同盟が結成された瞬間である。
異世界だろうがなんだろうが、姉は怖い! これは真理!
弟君よしよし、とか、お兄ちゃんかっこいーなんて、あれはまやかし以外の何物でもねーからな!?
夢もへったくれもねぇんだよ、これは!
「なにやってんだ、お前ら……」
そこに、オレらが戻ってこないことを心配して、厨房を覗きに来たアルムが呆れ顔で立っていた。
「ちょっと、姉は理不尽な生物である、という議論を」
「話が飛躍しすぎてわからん。と言うか、焦げてるぞ、ソレ」
「え?……ああああああああ!? 俺の干し肉!」
あっ、しまった。
うっかり姉議論に夢中になってたせいで、さっき炙り始めた干し肉の存在、完全に忘れていた。
サディエルは大慌てで窯から干し肉を取り出すが、残念ながら無残な焦げ肉に変貌していた。
「俺の干し肉……」
「お前なぁ、食材を無駄にするなよ。タダじゃないんだから」
しょんぼりしながら、焦げた干し肉をゴミ箱に捨てるサディエルに、オレはそっとサンドイッチを差し出す。
「食べようよ、これ」
「うん、ありがとう……」
今度はさすがに素直に受け取って貰えた。
サンドイッチの1切れを受け取り、サディエルは頬張る。
オレも同じように、残っていたサンドイッチを手に取って食べた。
「美味しいね、サンドイッチ」
「そうだな、美味しいな」
「仲いいなお前ら。ところで、アークさんから少し連絡があったぞ」
連絡?
オレとサディエルは互いの顔を見た後、アルムに向き直る。
「内容は?」
「この先の海域なんだが、魔物からの襲撃される可能性が高くなる場所らしい。1週間ほどは、可能な限り甲板待機して欲しいとのことだ」
「それって、エルフェル・ブルグでの調査結果から?」
らしいぞ、とアルムが肯定する。
海に住む魔物か……イカとか、亀とか、タコとかみたいな奴が魔物化しているのかな。
既存の生物を魔物化ってことだから、こっちにもオレの所のテンプレが通用すればいいんだけど……どうなんだろうな。
「そう言う事なら、協力しよう。俺らも船上での戦闘経験は多い方じゃない、同乗している冒険者たちと連携しないといけないわけだから、その辺りも交渉しないとだな」
「頼めるか、サディエル」
「まっ、それがリーダーのお役目ですから? なーに、ちょっと雑談がてらにあれこれ情報収集してくるさ」
よしっ、とサディエルはオレから皿を奪って流し台で軽く洗い始める。
ついでにと言わんばかりに、アルムも手に持っていた空の皿を流し台に置き、無論でサディエルに睨まれた。
「そうだ、アルム。そこの冷蔵貯蔵庫からデザート取ってきてヒロトにあげてくれ」
「なんだ、まだあげてなかったのか。はいはい」
肩を落としながら、アルムは少し先にある冷蔵貯蔵庫へと入っていき、プリンを持って戻ってきた。
結論だけいいます、めっちゃ美味しかった。
超なめらかに仕上がっていて、びっくりしたよ。固いプリンかとおもったら、本当になめらかプリン。
「サディエルって、結構器用なタイプ?」
「不器用ってわけじゃないな。アイツの場合、興味があることなら色々触るからな。そういう意味では別ベクトルで色々触るリレルと同類だ」
「………別ベクトルって」
リレルの武器を扱うあれこれを思い出して、それを同列に扱っていいのか結構悩む。
これ以上のツッコミ入れても進展もしなければ、改善もされないと察したオレは、無言で残りのプリンを自分の胃袋へ納める作業に戻ったのであった。
「おっ、来たな。出来てるぞ」
一通りの動き確認と、自分に合う戦い方について、リレルをあれこれ会話していたら予想以上に時間が掛かってしまった。
自分じゃ具体的にどんな動きがいいのかさっぱりだから、結構悩んだ。
こればっかりは自分がどう動くかってのをこれから確認していかないと難しい、ということで保留事項である。
保留事項、忘れないようにしよう……結構、あるから。
そしてオレとリレルは、サディエルたちが待つ船内の調理場兼食堂に赴いた。
「おぉ、リレル君、ヒロト君も、おはよう」
「おはようございます、クレインさん」
「おはようございます!……って、大丈夫ですか?」
「はっはっは……レックスの奴が大量に儂の部屋に書類の山と山と山と山を形成してくれおってな……やっと終わったよ」
あー……だから、船旅が始まってから全然クレインさんを見かけなかったのか。
ずっと書類整理をしていて、ようやく落ち着いたってことで食堂に顔を出した、と。
というか、別邸でも結構な山が形成されていたはずだけど……あの時処理した分ですら生易しいレベルだったのか。
「ほぼまるまる1週間缶詰……オレだったら途中で逃げそうです」
「逃げだしたらレックスが煩いんじゃよ……まぁこれで、やっと儂もしばし自由の身だ」
そう言いながら、クレインさんは大きく背伸びをする。
そんな彼の目の前に、1枚の皿が置かれる。置いたのはアルムだ。
「では、お疲れのクレインさんへ、朝食はこちらになります」
「おおお、これは……! 持ってきてくれてありがとうアルム君」
クレインさんはまずアルムにお礼を言い、そのまま視線を厨房にいるサディエルに向ける。
「サディエル君、久しぶりに作ったのかい?」
「そうですよ。クレインさん覚えてたんですね」
「あぁもちろんだとも。実に懐かしい」
皿には朝食と言う事で、サンドイッチがのせられているわけだけど……
一見すると、ふつーのサンドイッチだよな、これ。
「街で買いこんどいた塩漬けした肉を塩抜きして、少量の野菜とバターとかで炒めたやつだ。俺のお気に入り。ほら、2人も座れよ、今持っていくから」
「おっしゃ! 待ってました!」
オレは手近な席に座り、サディエルが朝食を持ってきてくれるのを待つ。
その間に、クレインさんはお先にとサンドイッチを頬張っている。相当疲れていたのか、はたまた空腹だったのか、かなりのハイペースでサンドイッチが消えていく。
本当に……お疲れ様です、クレインさん……
「ほい、おまちどう!」
そこに、4人分の皿と飲み物をお盆ようなものに乗せたサディエルがやってきた。
カタンと順番に、オレたちの目の前に料理が並べられる。
肉だー! 久しぶりのお肉だー!
魚も悪くはないけど、やっぱほぼ1週間の3食オールは無理でしたごめんなさい!
「ヒロトには後でデザートもあるからな」
「それも結構期待してた。って、この短時間でデザートなんて作れるもん? だいたい時間掛かりそうなのに」
「なーに、ちょっと卵と牛乳と砂糖でちょちょいっと煮て、水と氷の魔術使って急速冷蔵すればすぐさ」
卵と牛乳と砂糖で出来る簡単なデザート? 煮込んで?
あー、もしかしてプリンかも。けど、煮て作れるんだったっけ、イメージは蒸しなわけだけど。
「さてと、俺も早速頂きまー……」
「おっ、美味そうだな。貰うぞ」
席に着き、自分の分をうきうきと食べようとしたサディエルだったが、急に伸びてきた腕によって、サンドイッチが強奪された。
何が起こったか一瞬分からなかったのか、サディエルは硬直する。
「うん、イケるな」
「あら、アークさん。おはようございます」
奪ったサンドイッチを頬張るアークさんと、特に何も言わずリレルが挨拶をする。
いや、挨拶している場合じゃないような……?
一方で硬直していたサディエルはようやく正気に戻ったらしくて、ギロリとアークさんを睨みつける。
「アァァァクゥゥウ!?」
「おれも久々に肉が食いたかったから助かった。いやぁ、美味しい美味しい」
「てんめぇ!? 俺が作ったって分かってて奪っただろ!?」
「そりゃお前の得意料理ぐらい覚えているって。クレイン殿、おはようございます。アルム君たちもな」
サディエルの抗議もどこ吹く風。
アークさんは営業スマイルよろしく、クレインさんに挨拶して、オレらにもそう言ってくる。
「アークさん、容赦ねぇ……」
「そんなもんだろ、多分」
「ですね」
今にも殴りかかりそうなサディエルを横目に、オレたちは自分たちの朝食を頬張る。
んー……お肉が口の中に広がって幸せ!
「おはよう、アークシェイド君。今の所、航路は予定通りかね?」
「少し遅れ気味ですが、日程に影響はありません。それに、今日の風向きと速度ならば遅れもすぐに解消されるはずです」
「ふむ、それなら良かった。あの山脈を超えるのはちと一苦労じゃからな。かなりの迂回になるものの、航路が確実じゃ」
クレインさんと事務的な会話を始めたせいで、これ以上怒りのやりどころを無くしたサディエルは、不機嫌になりながら厨房へと戻っていく。
オレはまだサンドイッチが残っている皿を持ってサディエルを追いかける。
「サディエル。オレの分、食べなよ」
「あっはは……ありがとうヒロト。だけど、それはお前が頑張ったご褒美なんだ、気にするなって」
そう言いながらオレの頭をポンポンとやりながら、荷物を確認する。
取り出したのは中くらいの大きさの瓶、中には塩漬け肉と一緒に買い込んだ干し肉が入っている。
瓶の蓋を開けて、サディエルは干し肉を3本取り出し、近くのコンロ……じゃないな、ピザを焼くような窯に入れてしばらく炙り始める。
「そういえば、リレルとの訓練状況はどんな感じだ?」
「剣の立ち回り模索中。オレらしいって所が難しくて」
「そうだな。第三者視点から、こういう動きの方が合っている、と伝えても最後は当人の意思だ」
だよねぇ……防御重視の方がいいよ! って言われても、いや攻めたいんだよー! とかありそうだし。
ゲームでもあるある、かなーりあるあるだ。
「にしても、リレルに対しては結構素直に話しを聞いてるな」
「あー……いやさ、サディエルやアルムと違って女性だし……何より」
「何より?」
「姉ちゃんの事思い出すと、逆らえないっつーかなんつーか」
「……あー、分かる。それめっちゃ分かる。俺も姉がいるからな、逆らえないの超分かる」
年が近い姉なんて怖い以外なにがある?
たまーに、一人っ子とか、姉妹がいない奴らが『姉ちゃん羨ましー』とか『妹とかかわいいじゃん』って呑気に言ってくることあるけど、総じて姉妹がいる連中は遠い目してるって気づいてないんだよな!
漫画やアニメのイメージで言うの禁止、はい、禁止!
オレは念のため、周囲を見回して他の人がいないことを確認してから、次の言葉を紡ぐ。
「と言うか、姉が怖いって印象……世界違ってても変わりなくて嬉しい」
「世界が違っても、姉こえぇは共通言語」
ガシッ、とオレらは同時に握手する。
「寝てる時に物投げられてきたりとか」
「とりあえず弟は買い物時の荷物持ち係だったり」
「姉の機嫌のとり方を、まず真っ先に学ぶよな!?」
「触らぬ神に祟りなし、って言葉があるんだけど、ほんとそれ! どこにプッツンいく導火線あるか分かったもんじゃない!」
「せめて年齢がもーちょい離れてたら、ちょっとは大目に見て見逃してくれるのでは? と、思ったことなんざ数知れず! だよな、ヒロト!」
「正直、理不尽が服着て歩くってのが姉妹だよ! そうだよね、サディエル!」
今ここに、姉に夢見すぎダメ絶対同盟が結成された瞬間である。
異世界だろうがなんだろうが、姉は怖い! これは真理!
弟君よしよし、とか、お兄ちゃんかっこいーなんて、あれはまやかし以外の何物でもねーからな!?
夢もへったくれもねぇんだよ、これは!
「なにやってんだ、お前ら……」
そこに、オレらが戻ってこないことを心配して、厨房を覗きに来たアルムが呆れ顔で立っていた。
「ちょっと、姉は理不尽な生物である、という議論を」
「話が飛躍しすぎてわからん。と言うか、焦げてるぞ、ソレ」
「え?……ああああああああ!? 俺の干し肉!」
あっ、しまった。
うっかり姉議論に夢中になってたせいで、さっき炙り始めた干し肉の存在、完全に忘れていた。
サディエルは大慌てで窯から干し肉を取り出すが、残念ながら無残な焦げ肉に変貌していた。
「俺の干し肉……」
「お前なぁ、食材を無駄にするなよ。タダじゃないんだから」
しょんぼりしながら、焦げた干し肉をゴミ箱に捨てるサディエルに、オレはそっとサンドイッチを差し出す。
「食べようよ、これ」
「うん、ありがとう……」
今度はさすがに素直に受け取って貰えた。
サンドイッチの1切れを受け取り、サディエルは頬張る。
オレも同じように、残っていたサンドイッチを手に取って食べた。
「美味しいね、サンドイッチ」
「そうだな、美味しいな」
「仲いいなお前ら。ところで、アークさんから少し連絡があったぞ」
連絡?
オレとサディエルは互いの顔を見た後、アルムに向き直る。
「内容は?」
「この先の海域なんだが、魔物からの襲撃される可能性が高くなる場所らしい。1週間ほどは、可能な限り甲板待機して欲しいとのことだ」
「それって、エルフェル・ブルグでの調査結果から?」
らしいぞ、とアルムが肯定する。
海に住む魔物か……イカとか、亀とか、タコとかみたいな奴が魔物化しているのかな。
既存の生物を魔物化ってことだから、こっちにもオレの所のテンプレが通用すればいいんだけど……どうなんだろうな。
「そう言う事なら、協力しよう。俺らも船上での戦闘経験は多い方じゃない、同乗している冒険者たちと連携しないといけないわけだから、その辺りも交渉しないとだな」
「頼めるか、サディエル」
「まっ、それがリーダーのお役目ですから? なーに、ちょっと雑談がてらにあれこれ情報収集してくるさ」
よしっ、とサディエルはオレから皿を奪って流し台で軽く洗い始める。
ついでにと言わんばかりに、アルムも手に持っていた空の皿を流し台に置き、無論でサディエルに睨まれた。
「そうだ、アルム。そこの冷蔵貯蔵庫からデザート取ってきてヒロトにあげてくれ」
「なんだ、まだあげてなかったのか。はいはい」
肩を落としながら、アルムは少し先にある冷蔵貯蔵庫へと入っていき、プリンを持って戻ってきた。
結論だけいいます、めっちゃ美味しかった。
超なめらかに仕上がっていて、びっくりしたよ。固いプリンかとおもったら、本当になめらかプリン。
「サディエルって、結構器用なタイプ?」
「不器用ってわけじゃないな。アイツの場合、興味があることなら色々触るからな。そういう意味では別ベクトルで色々触るリレルと同類だ」
「………別ベクトルって」
リレルの武器を扱うあれこれを思い出して、それを同列に扱っていいのか結構悩む。
これ以上のツッコミ入れても進展もしなければ、改善もされないと察したオレは、無言で残りのプリンを自分の胃袋へ納める作業に戻ったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる