オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ

71話 魔法陣【後編】

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「ははははは! なるほど、なるほど! 確かにあいつら魔力の塊だな! あっははははは!!」

 アルムが腹を抱えて笑う。
 ここ、図書館なんだから静かに……と、言いたいけど、立ち入り禁止区画なのと、他フロアから隔離されてるせいで、図書館に勤めている人たちが苦情を言いに来る気配はない。

 一方のリレルもツボったのか、こちらは声を出していないものの、必死に笑いを堪えてプルプル震えている。
 いや、爆笑しちゃっていいからね?

 2分か、3分ぐらいかな。
 アルムは笑い疲れるまでひとしきり笑い、表情を戻す。

「よし、ヒロト。可能性の1つとして、それを検討しようじゃないか」

 ペンを取り出して、彼は高らかに宣言した。
 これは、オレらの中で戦術論を議論する合図でもある。
 慌てて荷物から、メモとペンを取り出して

「オッケー、やろうかアルム」

 そう返答した。
 それを見たリレルは立ち上がり、議論を開始しようとするオレたちに問いかける。

「では、私は今のうちに別の本を探してまいりますね。ご要望のほどは?」
「魔力中和、もしくは魔族関連の資料を根こそぎ頼む。あと、伝承程度で良いから転移関連も」
「分かりました。ヒロト、頑張ってくださいね」

 リレルは笑顔で、本棚へと消えて行く。
 さてっと……それじゃあ、始めますか!

「ガランドを魔力に変換出来るなら、オレも帰ることが出来て、サディエルも痣が消えて助かる、一石二鳥の大チャンスなわけだけど」
「あまりにも都合よすぎるからな。"うまい話には裏がある"、だな」

「言ってみたはいいけど、かなり問題点あるよね」
「山積みだ。勝ち筋に対する相応の負け筋ばかりで、現状だけならば、実行に移すのはあまりにも無謀だ」

 だよね、分かっちゃいたけど。
 めっちゃハイリスクであることは、承知している。

 承知はしてるけど、やっぱり候補の1つとして挙げておいて損はないはずだ。

「でかい負け筋が2つ、細々としたものが複数ってところか。ヒロト、でかい負け筋を」

「1つ目は、奪った魔力の中和をどうするか。人間だろうと、魔族だろうと、この点を解消しないと無理だよね」
「エルフェル・ブルグに協力要請した所で、少なくともあと3か月で何とか出来るかっていったら無理だろな」

 もうすでに詰んでいる。
 と言うのは、無し無し。色々状況が変わって、今話している内容が実行可能になるかもしれない。
 その時に、『あの時はムリゲーって思ったから、何も検討してませんでした!』じゃ、タイムロスも良いところだ。

 思いついたなら、実行の可否はともかく、頭に叩き込む事も重要だ。

 幸い、その時間はある。
 時間があるうちに、考えられることは全部考えよう。
 それもまた、未来の可能性を信じること……信頼と同義だから。

「2つ目は、どうやって魔力を奪うか。ガランドを単純に倒すよりも面倒なことになるよね」
「そうだな。正直、倒すだけの方が数百倍も楽だ。どうしても1手追加となる」

 その1手を増やすだけで、こっちも不利になる部分が出てしまう。
 可能な限り手数を減らして勝ちたいのに、あえて増やさないといけない。

 一時の最悪手を取って、そこから最善手に繋げる『何か』がないと、デメリットでしかない。

「ヒロトの案を実行する場合、この2点を潰すことが必須事項になる」
「だけど、現状は手立て無し……と」

「じゃあ次、仮に何かしらの方法で解消出来たと仮定して話そう。手立てが無いからと、議論を止めては意味が無い」
「分かった。そうなると、次に考えないといけない項目は……ガランドとの戦闘タイミングか」

 この方法を実践するには、ガランドからの襲撃が必須だ。
 あいつの次の襲撃予定は2か所……なわけだけど。

「以前話した、襲撃するタイミングについて……1つ修正していい? 現状だと、次は洞窟遺跡になると思う」
「確か、ヒロトが挙げていたのは3か所。エルフェル・ブルグ到着直前と出発直後、最終目的を達成する直前だったか」

「うん。だけど今回の戦闘で、あいつには想定以上のダメージを与えることが出来た。1回目からの回復期間も考慮すると、エルフェル・ブルグ出発直後の可能性は消えたんじゃないかなって」

 正直、今回の戦闘におけるオレたちからのダメージ分は、たかが知れていると思う。
 だけど、バークライスさんが放った魔術分のダメージは、確実に効いているはずだ。
 どれだけのダメージ量だったか、術の詳細を聞かないと正確なことは言えないだろうけど……

「ガランドも、次は万全な状態で襲撃してくる可能性が高いはずだ」
「……となると、洞窟遺跡が決戦地というわけか」
「だと思う。これに関しては、今回思いついた案に限らず、どう動いたとしても、ほぼ確実だと思っていい」

 オレが元の世界に帰る為に、行くべき場所……サディエルたちと出会った、あの洞窟遺跡。
 あそこが決戦の地になる……なんとまぁ、いかにもファンタジーらしい展開だ。

 出発地点がゴール地点、ってだけでも十分それなのにさ。

「お待たせしました。何冊かそれらしいものを見繕ってまいりました」

 そこに、結構な量の本を台車に乗せてリレルが戻って来た。

「うわぁ、沢山ある」
「参考になりそうなものを、片っ端から手に取ってきましたので。あとで返す作業、手伝ってくださいね」
「それぐらい任せてよ。本を読むって作業を手伝えないわけだし」

 しっかし、これを読むとなると相当時間掛かりそうだ。
 全部を隅々までってわけじゃないだろうけど、返却作業も大変になりそうだ。

「助かるよリレル。ところでヒロト、今の話なんだが……気になったことがある」

「ん、何?」
「さっき、お前がエルフェル・ブルグから出発した直後は無いと言った時、少し引っかかったんだ。それで、何故だとあれこれ思い出してみて……1つ、嫌なことに気がついた」

 思い出して、気付いた?
 あれ、何かオレ忘れていたっけ……

「ガランドとの初戦。その時、サディエルが言った言葉、覚えているか? あいつを助けた直後のやつ」
「サディエルを助けた直後……」

 オレはあの古代遺跡での戦闘を思い出す。

 確かガランドが居て、オレがサディエルの助けに向かって、その間にアルムとリレルが気を逸らすために戦闘して。
 んで、サディエルを無事救出して、それから逃げて……

『こっちが聞きたい! と言うのは冗談で、こいつ、もともとは別の魔族と一緒に現れたんだよ』
『は? 他にもいるのか!?』
『いや、もう1人はとっくに帰っている、もしくは精神世界でのんびり観戦じゃないか? 少なくとも、加勢はない』

「……ああああああああああ!? そうだ、そうだよ! あの時、ガランド以外にもう1人居た!」

 しまった、完全に存在を忘れていた。
 いや、ガランドが目立ち過ぎていたし、そもそもの話、もう1人は姿を見ていないから忘れるって!

「サディエルが言っていた、別の魔族、ですね」
「あぁ。楽観視しない為にも、そいつからの襲撃の可能性は考慮した方が良いだろうな」

「せっかく、戦闘回数を1回減らせたと思ったのに……!」

 いつぞやも思ったけど、No more、現実的すぎるファンタジー!
 Yes! ご都合主義の超展開ファンタジー!
 そう言う部分は、ご都合主義でいらんことして刑罰食らって消滅済みとかあっていいんだよ!?

 ほら、魔族は生まれたばかりは顔が無いとか、その顔を手に入れる為に人間殺してましたとかいう事実が人間側に蔓延したので、それが魔王様の逆鱗に触れてとか、テンプレならやってくれてても良いと思います。

 オレが思わず頭を抱えていると、この部屋のドアが乱暴に叩かれた。

『アルム、リレル! そこにいるか!?』

「……その声、バークライス将軍!?」

 切羽詰まった声に、アルムは慌てて部屋のドアを開ける。
 すると、そこに息を切らしたバークライスさんが立っていた。

 彼は周囲を見渡して、悔しそうに顔を歪める。

 その表情を見て、嫌な予感が全身を駆け巡った。

「くそっ、やはり居ないか」
「何か、あったのですか?」

「……お前たち、サディエルとはどこで別れた」

 その言葉を聞いて、オレたちは息を飲む。

「この建物に入ってすぐです。あいつは魔術省へ、僕らはここへ来る為に」
「あの、バークライスさん。サディエルに、何が……?」

 オレの問いかけに、バークライスさんはしばし黙り込む。
 そして、ゆっくりと口を開いた。

「サディエルが時間になっても、魔術省に来ていないんだ」

========================

 ―――時間は、サディエルがヒロトたちと別れた直後まで遡る。

「それじゃ、俺はこっちだから」

「あぁ」
「検査、頑張ってくださいね」
「またあとでね、サディエル!」

 互いに手を振って、サディエルは3人を見送った後、魔術省へと続く通路を歩き始める。
 早い時間である為か、通路にはサディエルしかおらず、彼の足音だけが響く。

 魔術省があるフロアまで、あと少しの距離まで近づいた時、事件が起こった。

 目的地へと向かいつつも、サディエルは窓の外を眺めながら歩く。
 平和なエルフェル・ブルグの光景に頬を緩ませていると、その窓に黒い何かが映りこんだ。
 外に何かが立っているわけではなく、その薄さは室内にいる人物だと分かる。

 驚きの表情を浮かべ、サディエルは視線を窓とは反対側、T字路のようになっている通路に目を向けると、そこにはローブを身に纏った人物が立っていた。

 そのローブに、彼は見覚えがあった。
 ガランドが着ていたローブと瓜二つなのである。

「………ッ!……………!?」

 サディエルは何かを叫んだ、はずだった。
 しかし、自身の声が周囲に響かず、彼は目を見開いて自分の喉を抑える。

 その一瞬があれば、十分だった。

 ローブの人物は距離を詰め、サディエルの目の前に自身の右手を向ける。
 次の瞬間、僅かな光が右手から発せられたかと思うと、サディエルの体ががくりと崩れローブの人物に倒れこむ形となった。

 動き出す気配はなく、完全に気を失っていることを確認すると、ローブの人物はサディエルと共にその場から姿を消したのだった。
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