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第四章
第五話 国家反逆罪
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リチャード王は相も変わらずニヤニヤと昏い笑みを浮かべていた。
彼にはもはや自分の立場が危ういことさえもわかっていた。この玉座に迫りくる者が、自らを追い落とさんとすることも。
それでも彼は余裕の笑みを崩さなかった。息子のニコラスたちの造反さえも彼にとっては計算済みであり、またこうなることも彼の計画の一部であったのだ。
多くの足音が玉座の間に近付こうとしていた。そしてそれは扉を開け放ち、リチャード王のいるところまでやってきた。
中に入ってきたのはレイとニコラス、そして王国警備兵数人であった。
「これはこれは…珍しい組み合わせだな。ニコラスにレイ・デズモンドよ。何用かね」
「見てわからないか? あんたを逮捕しに来たんだよ」
「くっ…はっはっはっ」
さも可笑しいと言わんばかりにリチャードは嗤った。
「面白い。罪状はなんだね?」
「教会幹部や王国の要人への贈賄と癒着、そして先王夫妻にヘイリー王妃と始めとする、自らに仇なすものを全て殺した罪だ」
「ほほう…一応聞いておこうか。なぜ私が皆を殺したと言える?」
「証拠はこいつだ」
レイはヘイリー王妃が使っていたという薬を見せた。
「こいつからは僅かではあるが、魔力反応があった。術式を解析したところ、こいつは体内の免疫システムに介入し、生体感応値を大きく下げるものだ。
長期的にこれを摂取し続ければ、体力は大きく奪われ、最後には免疫不全で死に至る。
直接の死因がこの薬によるものじゃなく合併症によるものだから、魔力は検出されにくいし、何より厳重にマスキング術式を張っていたから、普通の奴ならまず見過ごす。単に風邪を拗らせた程度にしか感じないだろう」
「ほう…だが何故それがエドワード夫妻を殺したという事に繋がるのかね?」
「あの墓を見てればわかる。この魔法というのは、一種の呪いに近い。全ての生命体にかかり、それは専門的な解呪が行われない限り、それは半永久的に続く。
リチャード夫妻やヘイリー王妃の墓には、一切の苔や草が生えていなかった。埋葬された際に、その呪いが周囲の土に漏れたんだ」
レイは更にきつくリチャードを睨みつけた。
「これだけじゃない。あんたが枢機卿をはじめとする教会の幹部連中と繋がってることも、全てお見通しだ。サリーがあんたとの密通を示す書簡を手に入れたよ。それによれば、あんたは原理派の邪魔になる人間たちを始末する代わりに、教会への多額の寄付を行っていたらしいな。そして教会の人間を粛清していたのが、ただの一将校だった当時のコンドレン将軍をはじめとする、原理派信者の兵士達だ。奴の不自然な昇格は、これが原因だったんだ。
それが漏れないように経費書類や諸々に細工をしたのはアーヴィスだな。当時エドワード夫妻の身の回りの世話も、側近に近かったアーヴィスがやっていた。毒を持ったりするのはピッタリというわけだ。
コンドレンもアーヴィスも、関係者は全員逮捕されて罪を認めたよ。あんたは第一級国家反逆罪で起訴される。無駄な抵抗はやめておくんだな」
しかしリチャードはいまだにニヤニヤと笑うだけであった。
「父上…あなたは、本当に母上までその手にかけたというのか⁉︎」
ニコラスは拳を固く握りしめていた。そしてその肩と声は、怒りと憎しみで小刻みに震えていた。
「…ここまで来たからには言い逃れもできまい。そうだ、私がヘイリーもエドワードも殺したのさ」
「何故だ! 父上をあんなにも愛しておられた母上を…何故‼︎」
「所詮は奴もエドワードの親類だ。私の政策に口答えするようになっていたのだよ。普通の奴なら放っておくが、奴は王族だったのでな。ご退場願っただけだ」
「き、貴様…外道が! 許さんっ‼︎」
ニコラスは腰に携えたサーベルを抜き、リチャードに向かって斬り掛かっていった。
「陛下っ!」
リチャードは微動だにせず、ニコラスの刃が眼前に迫るまで待った。
そしてそのサーベルの刃が彼を捕らえようとした、その瞬間。
バシュッという音と共に、血飛沫が舞った。
「が、は…っ⁉︎」
そうしてニコラスは、血塗れで床に転がった。
「ほう、まだ息があるか。手加減しすぎたかな」
「き、貴様!」
警備兵が銃を抜き、発砲した。しかしそれは容易くリチャードが張った防護術式によって弾かれてしまった。
「全く、存外役に立たん息子だったな…血を分けたとはいえ、所詮は人間とのこという事か。」
そしてリチャードが傍に持っていた剣を抜き、ニコラスにとどめを刺そうとした瞬間。
その刃を、レイの大剣が弾き飛ばした。
「まだ息がある! 早く陛下を連れて逃げるんだ! こいつは俺がなんとかする、あんたらの叶う相手じゃない‼︎」
「あ、ああ…頼んだぞ‼︎」
そう言って警備兵は、ニコラスの抱えながら転移術式で脱出していった。
「くくく…最後まで私に抗うというわけか、お前は」
「当たり前だ。お前みたいな奴、野放しにしておけるかってんだ」
そうしてレイは大剣を構え直した。
「よかろう…私とやり合うつもりなら、それ相応の場所に案内しよう」
そうしてリチャードが指を鳴らすと、二人は転移術式によって、別の場所に移送された。
そうして運ばれた場所は、レイには見覚えのある場所だった。
一面の赤茶けた土の、乾いた大地。埃を大量に含んだ風。草木もなく、ただそびえ立つ大木。
「ここは…聖地ズーロパ?」
「そうだ、ここならば決着をつけるのに丁度いい。
30キロ四方に結界を張ってある。外からは最早我々に干渉する事は叶わない…さあ、私を……俺を、楽しませてみろ」
そうしてリチャードは、その身体に魔力を漲らせた。
「…上等だ! ケリをつけてやるよ‼︎」
レイも大剣を構え直し、魔力を全力解放した。それに伴い、その刀身は眩いばかりに光り輝いた。
そうして魔力のボルテージは最高潮にまで高まり、今戦いが始まろうとしていた。
彼にはもはや自分の立場が危ういことさえもわかっていた。この玉座に迫りくる者が、自らを追い落とさんとすることも。
それでも彼は余裕の笑みを崩さなかった。息子のニコラスたちの造反さえも彼にとっては計算済みであり、またこうなることも彼の計画の一部であったのだ。
多くの足音が玉座の間に近付こうとしていた。そしてそれは扉を開け放ち、リチャード王のいるところまでやってきた。
中に入ってきたのはレイとニコラス、そして王国警備兵数人であった。
「これはこれは…珍しい組み合わせだな。ニコラスにレイ・デズモンドよ。何用かね」
「見てわからないか? あんたを逮捕しに来たんだよ」
「くっ…はっはっはっ」
さも可笑しいと言わんばかりにリチャードは嗤った。
「面白い。罪状はなんだね?」
「教会幹部や王国の要人への贈賄と癒着、そして先王夫妻にヘイリー王妃と始めとする、自らに仇なすものを全て殺した罪だ」
「ほほう…一応聞いておこうか。なぜ私が皆を殺したと言える?」
「証拠はこいつだ」
レイはヘイリー王妃が使っていたという薬を見せた。
「こいつからは僅かではあるが、魔力反応があった。術式を解析したところ、こいつは体内の免疫システムに介入し、生体感応値を大きく下げるものだ。
長期的にこれを摂取し続ければ、体力は大きく奪われ、最後には免疫不全で死に至る。
直接の死因がこの薬によるものじゃなく合併症によるものだから、魔力は検出されにくいし、何より厳重にマスキング術式を張っていたから、普通の奴ならまず見過ごす。単に風邪を拗らせた程度にしか感じないだろう」
「ほう…だが何故それがエドワード夫妻を殺したという事に繋がるのかね?」
「あの墓を見てればわかる。この魔法というのは、一種の呪いに近い。全ての生命体にかかり、それは専門的な解呪が行われない限り、それは半永久的に続く。
リチャード夫妻やヘイリー王妃の墓には、一切の苔や草が生えていなかった。埋葬された際に、その呪いが周囲の土に漏れたんだ」
レイは更にきつくリチャードを睨みつけた。
「これだけじゃない。あんたが枢機卿をはじめとする教会の幹部連中と繋がってることも、全てお見通しだ。サリーがあんたとの密通を示す書簡を手に入れたよ。それによれば、あんたは原理派の邪魔になる人間たちを始末する代わりに、教会への多額の寄付を行っていたらしいな。そして教会の人間を粛清していたのが、ただの一将校だった当時のコンドレン将軍をはじめとする、原理派信者の兵士達だ。奴の不自然な昇格は、これが原因だったんだ。
それが漏れないように経費書類や諸々に細工をしたのはアーヴィスだな。当時エドワード夫妻の身の回りの世話も、側近に近かったアーヴィスがやっていた。毒を持ったりするのはピッタリというわけだ。
コンドレンもアーヴィスも、関係者は全員逮捕されて罪を認めたよ。あんたは第一級国家反逆罪で起訴される。無駄な抵抗はやめておくんだな」
しかしリチャードはいまだにニヤニヤと笑うだけであった。
「父上…あなたは、本当に母上までその手にかけたというのか⁉︎」
ニコラスは拳を固く握りしめていた。そしてその肩と声は、怒りと憎しみで小刻みに震えていた。
「…ここまで来たからには言い逃れもできまい。そうだ、私がヘイリーもエドワードも殺したのさ」
「何故だ! 父上をあんなにも愛しておられた母上を…何故‼︎」
「所詮は奴もエドワードの親類だ。私の政策に口答えするようになっていたのだよ。普通の奴なら放っておくが、奴は王族だったのでな。ご退場願っただけだ」
「き、貴様…外道が! 許さんっ‼︎」
ニコラスは腰に携えたサーベルを抜き、リチャードに向かって斬り掛かっていった。
「陛下っ!」
リチャードは微動だにせず、ニコラスの刃が眼前に迫るまで待った。
そしてそのサーベルの刃が彼を捕らえようとした、その瞬間。
バシュッという音と共に、血飛沫が舞った。
「が、は…っ⁉︎」
そうしてニコラスは、血塗れで床に転がった。
「ほう、まだ息があるか。手加減しすぎたかな」
「き、貴様!」
警備兵が銃を抜き、発砲した。しかしそれは容易くリチャードが張った防護術式によって弾かれてしまった。
「全く、存外役に立たん息子だったな…血を分けたとはいえ、所詮は人間とのこという事か。」
そしてリチャードが傍に持っていた剣を抜き、ニコラスにとどめを刺そうとした瞬間。
その刃を、レイの大剣が弾き飛ばした。
「まだ息がある! 早く陛下を連れて逃げるんだ! こいつは俺がなんとかする、あんたらの叶う相手じゃない‼︎」
「あ、ああ…頼んだぞ‼︎」
そう言って警備兵は、ニコラスの抱えながら転移術式で脱出していった。
「くくく…最後まで私に抗うというわけか、お前は」
「当たり前だ。お前みたいな奴、野放しにしておけるかってんだ」
そうしてレイは大剣を構え直した。
「よかろう…私とやり合うつもりなら、それ相応の場所に案内しよう」
そうしてリチャードが指を鳴らすと、二人は転移術式によって、別の場所に移送された。
そうして運ばれた場所は、レイには見覚えのある場所だった。
一面の赤茶けた土の、乾いた大地。埃を大量に含んだ風。草木もなく、ただそびえ立つ大木。
「ここは…聖地ズーロパ?」
「そうだ、ここならば決着をつけるのに丁度いい。
30キロ四方に結界を張ってある。外からは最早我々に干渉する事は叶わない…さあ、私を……俺を、楽しませてみろ」
そうしてリチャードは、その身体に魔力を漲らせた。
「…上等だ! ケリをつけてやるよ‼︎」
レイも大剣を構え直し、魔力を全力解放した。それに伴い、その刀身は眩いばかりに光り輝いた。
そうして魔力のボルテージは最高潮にまで高まり、今戦いが始まろうとしていた。
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