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第五章
プロローグ
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リチャード1世による大乱から数ヶ月。
東側大陸は、急速に和平への道を歩んでいった。
ディミトリ行政自治区との恒久和平条約締結に続き、国内の全体的な軍縮、特にシーア公国との共同軍備の予算見直しを図り、戦果を徐々に縮小させる方針を打ち出した。
これにより西側大陸で続く戦争も、ゆっくりとではあるが終結に向かおうとしていた。
ティアーノでの小規模なデモや、アガルタ方面での小競り合いを除いて、世界は確実に平和への道を歩み始めていた。
レイ・デズモンドにも日常が戻ってきた。
エレナとの共同生活、退役軍人へのカウンセリング、時に救急患者の医療補助などで日々を忙しなく過ごしていた。
お互いの多忙さから結婚式をまで挙げていない二人であったが、最近はサリーや他の親族から徐々に圧力めいたものが掛かってきており、徐々にレイも言い逃れできない状況が迫ってきていた。
ある日、レイも不意にエレナに問いかけてみた。
「なぁ…俺たち、結婚式ってまだ挙げてないよな」
するとエレナは瞬時に顔を真っ赤にした。
「けけけ、結婚ですか⁉︎ え、ええと、私と、レイ様が、です、よね」
「それ以外ないだろ」
「え、あー、うん…あの、そのですね……あ、そうだ! 今日の夕飯、何にしましょうか⁉︎」
エレナは目を上下左右に動かしながら、露骨に誤魔化し始めた。
「いや、話を逸らすなよ。ていうか、普通こういう話でお茶を濁したりするのは大体ダメ男の方って相場が決まってるだろ」
「うぅ…だ、だって…レイ様とけけけ、結婚式とか…でへへ…」
急にエレナが惚けたような、ニヤけたような、なんとも締まりがなく気色悪くさえある表情になった。レイはこの手の表情に少しだけ見覚えがあった。アニメオタクたちが推しの声優やキャラについて話すときの顔は大体においてこんな感じである。
「いや、そんなデレデレしなくてもいだろ…付き合い始めて、俺たちも結構経つんだからさ」
「そ、そうは言いますけど…け、結婚って…わ、私がレイ様にお姫様抱っこされながら、衆人監視のなかバージンロードを…えへ、えへへへへ…」
「…お姫様抱っこ?」
何やらレイの知っている結婚式には馴染みのないワードがあった。
「はい、お姫様抱っこですよ」
「ど、どゆこと?」
「あ、そっか。レイ様ってこの世界の結婚式って見たことないんですよね。
アドナイ教下の結婚式って、バージンロードを男性が女性をお姫様抱っこして歩くんですよ」
「え”⁉︎」
「別に普通のことですよ。人によってはこんな風に向き合ったまま抱き合って現れる人もいるくらいですよ」
そうして抱き合うような仕草を見せると、レイは唖然とした。
「おいおいおい、そりゃ巷で言うところのだいしゅきホールドってやつじゃないのか!」
「って言うんですか? まぁ、流石にこれをやる人は減りましたけどね。ちょっと激しすぎるっていう理由で…」
「当たり前だわ! 激しいっつーか卑猥だよ! 少なくとも公共の場でやる体勢じゃねーよ‼︎」
「あと手はこうやって、指を絡めるように繋ぐのが通例ですね」
「ちょおおおおおおお⁉︎ まさしくそれはラブ握り! エロい行為にしか結びつかねーだろ!」
「え、そうですか?」
「そうだろ! どう考えてもラブラブ真っ盛りのカップルの行為中の握り方だよこれは‼︎」
現世と異世界で、まさかここまで文化的違いがあるとは、流石のレイも夢にも思わなかった。
「まぁでも、このくらい愛し合ってるアピールしないと、周りが不安になっちゃいますから」
「そうなのか?」
「はい。基本的に私たちの結婚式って、二人がどれだけ深く愛し合ってるかを見せれるかなんですよ。そうすることによって親族を安心させたり、周囲に結婚が間違いじゃないってことをアピールするんです」
「…そういうもんなんだ」
マナーや習慣の違いにも、ちゃんとした理由はある。恐らくはそういったことなのだろう。
「ぐへへへへ…わ、私が、レイ様と手を繋いで…うひ、うひひひひ」
エレナがまた気色の悪い笑みを浮かべた。これでは結婚式について冷静に話を進められるのは、まだもう少し先の話になりそうである。
その様子に、レイは頭を抱えた。付き合いが長くなれば、互いの欠点や嫌いな所も見えてくるが、ここまで変な笑い方とは少々予測出来なかった。
(まあ、これも平和な日常…だよな)
しかし、真に平和な日常を送るには、もう少し問題を解決しなければいけないようだった。
東側大陸は、急速に和平への道を歩んでいった。
ディミトリ行政自治区との恒久和平条約締結に続き、国内の全体的な軍縮、特にシーア公国との共同軍備の予算見直しを図り、戦果を徐々に縮小させる方針を打ち出した。
これにより西側大陸で続く戦争も、ゆっくりとではあるが終結に向かおうとしていた。
ティアーノでの小規模なデモや、アガルタ方面での小競り合いを除いて、世界は確実に平和への道を歩み始めていた。
レイ・デズモンドにも日常が戻ってきた。
エレナとの共同生活、退役軍人へのカウンセリング、時に救急患者の医療補助などで日々を忙しなく過ごしていた。
お互いの多忙さから結婚式をまで挙げていない二人であったが、最近はサリーや他の親族から徐々に圧力めいたものが掛かってきており、徐々にレイも言い逃れできない状況が迫ってきていた。
ある日、レイも不意にエレナに問いかけてみた。
「なぁ…俺たち、結婚式ってまだ挙げてないよな」
するとエレナは瞬時に顔を真っ赤にした。
「けけけ、結婚ですか⁉︎ え、ええと、私と、レイ様が、です、よね」
「それ以外ないだろ」
「え、あー、うん…あの、そのですね……あ、そうだ! 今日の夕飯、何にしましょうか⁉︎」
エレナは目を上下左右に動かしながら、露骨に誤魔化し始めた。
「いや、話を逸らすなよ。ていうか、普通こういう話でお茶を濁したりするのは大体ダメ男の方って相場が決まってるだろ」
「うぅ…だ、だって…レイ様とけけけ、結婚式とか…でへへ…」
急にエレナが惚けたような、ニヤけたような、なんとも締まりがなく気色悪くさえある表情になった。レイはこの手の表情に少しだけ見覚えがあった。アニメオタクたちが推しの声優やキャラについて話すときの顔は大体においてこんな感じである。
「いや、そんなデレデレしなくてもいだろ…付き合い始めて、俺たちも結構経つんだからさ」
「そ、そうは言いますけど…け、結婚って…わ、私がレイ様にお姫様抱っこされながら、衆人監視のなかバージンロードを…えへ、えへへへへ…」
「…お姫様抱っこ?」
何やらレイの知っている結婚式には馴染みのないワードがあった。
「はい、お姫様抱っこですよ」
「ど、どゆこと?」
「あ、そっか。レイ様ってこの世界の結婚式って見たことないんですよね。
アドナイ教下の結婚式って、バージンロードを男性が女性をお姫様抱っこして歩くんですよ」
「え”⁉︎」
「別に普通のことですよ。人によってはこんな風に向き合ったまま抱き合って現れる人もいるくらいですよ」
そうして抱き合うような仕草を見せると、レイは唖然とした。
「おいおいおい、そりゃ巷で言うところのだいしゅきホールドってやつじゃないのか!」
「って言うんですか? まぁ、流石にこれをやる人は減りましたけどね。ちょっと激しすぎるっていう理由で…」
「当たり前だわ! 激しいっつーか卑猥だよ! 少なくとも公共の場でやる体勢じゃねーよ‼︎」
「あと手はこうやって、指を絡めるように繋ぐのが通例ですね」
「ちょおおおおおおお⁉︎ まさしくそれはラブ握り! エロい行為にしか結びつかねーだろ!」
「え、そうですか?」
「そうだろ! どう考えてもラブラブ真っ盛りのカップルの行為中の握り方だよこれは‼︎」
現世と異世界で、まさかここまで文化的違いがあるとは、流石のレイも夢にも思わなかった。
「まぁでも、このくらい愛し合ってるアピールしないと、周りが不安になっちゃいますから」
「そうなのか?」
「はい。基本的に私たちの結婚式って、二人がどれだけ深く愛し合ってるかを見せれるかなんですよ。そうすることによって親族を安心させたり、周囲に結婚が間違いじゃないってことをアピールするんです」
「…そういうもんなんだ」
マナーや習慣の違いにも、ちゃんとした理由はある。恐らくはそういったことなのだろう。
「ぐへへへへ…わ、私が、レイ様と手を繋いで…うひ、うひひひひ」
エレナがまた気色の悪い笑みを浮かべた。これでは結婚式について冷静に話を進められるのは、まだもう少し先の話になりそうである。
その様子に、レイは頭を抱えた。付き合いが長くなれば、互いの欠点や嫌いな所も見えてくるが、ここまで変な笑い方とは少々予測出来なかった。
(まあ、これも平和な日常…だよな)
しかし、真に平和な日常を送るには、もう少し問題を解決しなければいけないようだった。
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