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この世界を救う異世界の神子ハルキ………そしてその召還に巻き込まれてこの世界にやって来たセツという少年…、彼にはこの世界のどこにも居場所がなかった。
だから俺が彼の居場所になり、誰にも会わせず大切に大切に慈しんで来たというのに…その大事な彼は俺になにも告げずに突然この世界から消えてしまった。
神聖なる神殿で神子を召還する儀に立ち合ったのは、俺がそれなりの地位を持った腕の立つ騎士だったからだ。
召還された神子が危険な目に合わぬように護衛として側に仕える、その為にここに呼ばれたのだ。
神子の護衛を任されるとは大変名誉な事だ。
だがこの場に呼ばれた騎士は俺一人だけではなく他にも地位のある騎士が何人か集められていた。
「誰が神子様の護衛に選ばれたって恨みっこなしだぜ。」
「当然だろ?まぁ、俺が選ばれるに決まってるけどな。」
軽口を叩いているのは同僚の騎士達だ。名誉ある役目を前に浮き足立ち、普段は決して叩かない無駄口を叩いている。
「ジュークはだんまりかよ、神子様の騎士になりたくないのか?」
「…神子様を迎えるという神聖な儀式の最中だ。王族の方々や宰相殿も居られるのだぞ、無駄口を叩く気はない。」
豪奢な椅子に座り召還の時を待つ王太子や宰相に目線をやり、話を降ってきた同僚に釘を刺すと、皆が一斉に口を閉ざし姿勢を正した。
自分達に与えられた任務を思い出したのだろう。やれやれと思いながら先程聞かれたことについて考える。
神子様の騎士になりたいか…、正直なところ名誉なことだとは思ってはいるが、特別なりたいとも思えない。 誰かの専属の騎士になることなどこれまで考えたこともなかった。
王族だから、神子だから…そんな理由ではなく、守りたいと思える存在を守りたいのだ。
だから神子様が俺が守りたいと思えるような方であれば専属の騎士になりたいし、そうでなければこれまでと同様に国を守るただの騎士のままで構わなかった。
そんな事を考えているうちに諸々の準備は整い、召還の儀が静かに始まった。
先程は浮き足立つ同僚を諌めていた俺だが、儀式が始まると自分の気持ちも高揚しているのが分かる。
神秘的な光が魔方陣から溢れだす…もうすぐこの中から世界の希望となる神子様が召還されるのだろう…。
前のめりになって召還の呪文が書かれた魔方陣を覗き込みたくなる気持ちを抑え、俺は静かにその時を待った。
辺りは段々と音を無くしていくが、それと反比例するように魔方陣からの光は強くなっていく…、まるで月の光を直ぐ近くで浴びているようだ。
とうとう目も開けられない程の光が周囲を覆いつくし、俺は堪らずに目を閉じた……。時間が経過し、光が引いてきたのを肌で感じる…。
うっすらと目を開き、魔方陣の中心を確認すると、そこには似たような装いをした、二人の少年が横たわっていた。
「二人…?」
誰かがそう呟いた。
「何故二人なんだ?どちらが神子だ。どちらも神子なのか?」
次いで王太子が宰相に向かって問いかける。
「殿下、過去にそのような事例はございません。どちらか一人が神子様なのでは?」
途端に辺りがざわつき出した。じゃあ何故二人呼ばれた?どうやって神子を判別するんだ?そこにいる者全てが思い思いに話し出す。
次第に騒がしさが増していく中で召還された内の一人が目を覚ました。
「うッ、痛たた…、あれ……何でこんな硬い床に寝てるんだろ?」
そう呟きながら身体を起こす彼はまだ自分の置かれている現状に気がついていないようだ。
だが痛む身体を擦りながら回りを見渡そうと顔を上げた瞬間、自分を見詰める複数の目に気付きピシリとその動きを止めた。
「えっ!?えっ…?」
途端に顔を青ざめさせた少年は身を守るように後ずさりをする。
目覚めた瞬間、明らかに権力を持った人間や剣を持つ屈強な男たちに囲まれていたのだから当然だろう。
手負いの獣……いや、小動物のように警戒しながらキョロキョロと辺りを見渡す様子は彼が神子なのであれば守ってやりたいと思う程に俺の庇護欲を刺激した。
「このような者が神子なのか?随分と地味な、どこにでもいるような少年ではないか。」
王太子が思わずといったように呟く…。確かに彼の見た目は所謂、見目麗しいといったような風貌ではなく平凡な…、良く言って素朴な見た目であった。
神子といった威厳や神秘的な物は少しも感じられない。
「殿下のおっしゃる通り神子にしては凡庸すぎるような…、もう一人の少年がきっと神子なのでしょう。」
宰相が王太子の呟きに答える。見た目で神子を決めるなど愚かなことだと内心で呆れてしまうが、他の者達は宰相の意見に同意しだした。
彼等は紛らわしい、あれは誰だと騒ぎ立てている。
何も理解していない少年を責め立てるなど、随分とひどい仕打ちをするものだ……。
「おい!お前、お前は神子なのか?」
いくら責められても何も答えない少年に業を煮やしたのか、王太子は横柄な態度で少年に話掛けだした。
「み、みことは一体何なんですか?僕はただの学生で………。」
きつい眼差しで問いかけられた少年はますます萎縮する。
それでも絞り出すような声でなんとか返事を返す様はとても健気に俺の目に映った。
「神子も知らないのですか、では一体貴方はどうやってここに来たのですか?」
異世界の少年が神子の存在を知るわけがない。それなのに宰相はバカにするように彼を嘲り笑う。
「学校の廊下を歩いてたら吉野くん…、あの、彼とすれ違って…」
そう言いながら少年はもう一人の倒れている少年を指差した。
「そしたら吉野君が急に光に吸い込まれていって…、助けようと思って手を伸ばしたら一緒に吸い込まれちゃって……」
「ハッ!何だ、やっぱりお前はただのオマケではないか!」
少年の説明を全て聞く前に王太子はそう言って話を遮った。
オマケと言われた彼は怒るでもなく、何がなんだか解らないと言った風に眉を寄せて不安そうな表情を浮かべる。
「んっ…、いてて」
その時もう一人の少年が目を覚まし出した。緩慢な仕種で身体を起こした彼を見てそこにいた者達は皆、息を飲み込んだ。
蜂蜜を溶かしたような髪に同じ色のパッチリとした瞳、どこまでも極めの細かい白い肌…これまで見たことのないような美少年がそこにいた。
「何と美しい!!彼が神子に間違いない!」
王太子のその言葉と共に周囲がワッと沸き上がる。召還は成功だ、これで世界は救われると皆が喜びに浸る中、間違いで召還されてしまった少年は一人、誰にも相手に相手にされずただポツンと取り残されていた。
だから俺が彼の居場所になり、誰にも会わせず大切に大切に慈しんで来たというのに…その大事な彼は俺になにも告げずに突然この世界から消えてしまった。
神聖なる神殿で神子を召還する儀に立ち合ったのは、俺がそれなりの地位を持った腕の立つ騎士だったからだ。
召還された神子が危険な目に合わぬように護衛として側に仕える、その為にここに呼ばれたのだ。
神子の護衛を任されるとは大変名誉な事だ。
だがこの場に呼ばれた騎士は俺一人だけではなく他にも地位のある騎士が何人か集められていた。
「誰が神子様の護衛に選ばれたって恨みっこなしだぜ。」
「当然だろ?まぁ、俺が選ばれるに決まってるけどな。」
軽口を叩いているのは同僚の騎士達だ。名誉ある役目を前に浮き足立ち、普段は決して叩かない無駄口を叩いている。
「ジュークはだんまりかよ、神子様の騎士になりたくないのか?」
「…神子様を迎えるという神聖な儀式の最中だ。王族の方々や宰相殿も居られるのだぞ、無駄口を叩く気はない。」
豪奢な椅子に座り召還の時を待つ王太子や宰相に目線をやり、話を降ってきた同僚に釘を刺すと、皆が一斉に口を閉ざし姿勢を正した。
自分達に与えられた任務を思い出したのだろう。やれやれと思いながら先程聞かれたことについて考える。
神子様の騎士になりたいか…、正直なところ名誉なことだとは思ってはいるが、特別なりたいとも思えない。 誰かの専属の騎士になることなどこれまで考えたこともなかった。
王族だから、神子だから…そんな理由ではなく、守りたいと思える存在を守りたいのだ。
だから神子様が俺が守りたいと思えるような方であれば専属の騎士になりたいし、そうでなければこれまでと同様に国を守るただの騎士のままで構わなかった。
そんな事を考えているうちに諸々の準備は整い、召還の儀が静かに始まった。
先程は浮き足立つ同僚を諌めていた俺だが、儀式が始まると自分の気持ちも高揚しているのが分かる。
神秘的な光が魔方陣から溢れだす…もうすぐこの中から世界の希望となる神子様が召還されるのだろう…。
前のめりになって召還の呪文が書かれた魔方陣を覗き込みたくなる気持ちを抑え、俺は静かにその時を待った。
辺りは段々と音を無くしていくが、それと反比例するように魔方陣からの光は強くなっていく…、まるで月の光を直ぐ近くで浴びているようだ。
とうとう目も開けられない程の光が周囲を覆いつくし、俺は堪らずに目を閉じた……。時間が経過し、光が引いてきたのを肌で感じる…。
うっすらと目を開き、魔方陣の中心を確認すると、そこには似たような装いをした、二人の少年が横たわっていた。
「二人…?」
誰かがそう呟いた。
「何故二人なんだ?どちらが神子だ。どちらも神子なのか?」
次いで王太子が宰相に向かって問いかける。
「殿下、過去にそのような事例はございません。どちらか一人が神子様なのでは?」
途端に辺りがざわつき出した。じゃあ何故二人呼ばれた?どうやって神子を判別するんだ?そこにいる者全てが思い思いに話し出す。
次第に騒がしさが増していく中で召還された内の一人が目を覚ました。
「うッ、痛たた…、あれ……何でこんな硬い床に寝てるんだろ?」
そう呟きながら身体を起こす彼はまだ自分の置かれている現状に気がついていないようだ。
だが痛む身体を擦りながら回りを見渡そうと顔を上げた瞬間、自分を見詰める複数の目に気付きピシリとその動きを止めた。
「えっ!?えっ…?」
途端に顔を青ざめさせた少年は身を守るように後ずさりをする。
目覚めた瞬間、明らかに権力を持った人間や剣を持つ屈強な男たちに囲まれていたのだから当然だろう。
手負いの獣……いや、小動物のように警戒しながらキョロキョロと辺りを見渡す様子は彼が神子なのであれば守ってやりたいと思う程に俺の庇護欲を刺激した。
「このような者が神子なのか?随分と地味な、どこにでもいるような少年ではないか。」
王太子が思わずといったように呟く…。確かに彼の見た目は所謂、見目麗しいといったような風貌ではなく平凡な…、良く言って素朴な見た目であった。
神子といった威厳や神秘的な物は少しも感じられない。
「殿下のおっしゃる通り神子にしては凡庸すぎるような…、もう一人の少年がきっと神子なのでしょう。」
宰相が王太子の呟きに答える。見た目で神子を決めるなど愚かなことだと内心で呆れてしまうが、他の者達は宰相の意見に同意しだした。
彼等は紛らわしい、あれは誰だと騒ぎ立てている。
何も理解していない少年を責め立てるなど、随分とひどい仕打ちをするものだ……。
「おい!お前、お前は神子なのか?」
いくら責められても何も答えない少年に業を煮やしたのか、王太子は横柄な態度で少年に話掛けだした。
「み、みことは一体何なんですか?僕はただの学生で………。」
きつい眼差しで問いかけられた少年はますます萎縮する。
それでも絞り出すような声でなんとか返事を返す様はとても健気に俺の目に映った。
「神子も知らないのですか、では一体貴方はどうやってここに来たのですか?」
異世界の少年が神子の存在を知るわけがない。それなのに宰相はバカにするように彼を嘲り笑う。
「学校の廊下を歩いてたら吉野くん…、あの、彼とすれ違って…」
そう言いながら少年はもう一人の倒れている少年を指差した。
「そしたら吉野君が急に光に吸い込まれていって…、助けようと思って手を伸ばしたら一緒に吸い込まれちゃって……」
「ハッ!何だ、やっぱりお前はただのオマケではないか!」
少年の説明を全て聞く前に王太子はそう言って話を遮った。
オマケと言われた彼は怒るでもなく、何がなんだか解らないと言った風に眉を寄せて不安そうな表情を浮かべる。
「んっ…、いてて」
その時もう一人の少年が目を覚まし出した。緩慢な仕種で身体を起こした彼を見てそこにいた者達は皆、息を飲み込んだ。
蜂蜜を溶かしたような髪に同じ色のパッチリとした瞳、どこまでも極めの細かい白い肌…これまで見たことのないような美少年がそこにいた。
「何と美しい!!彼が神子に間違いない!」
王太子のその言葉と共に周囲がワッと沸き上がる。召還は成功だ、これで世界は救われると皆が喜びに浸る中、間違いで召還されてしまった少年は一人、誰にも相手に相手にされずただポツンと取り残されていた。
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