愛がなければ生きていけない

ニノ

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  その美しい見た目から神子と断定された少年はハルキと名乗った。


 ハルキはもう一人の凡庸な少年とは違い、この世界に怯えることはなかった。
 見知らぬ場所、自分を神子と呼ぶ見知らぬ人々に初めこそハルキは驚いた様子を見せていたが、凡庸な少年とは違い彼はここに召還された理由を直ぐに理解したようだった。

 「わかった!この世界を救う為に俺は呼ばれたんだろう?俺に任せろ!必ずこの世界を救ってやるからな!!」

 さすがは慈悲深い神子様といったところだろうか……彼は何の説明も受けないままにこの世界を救う誓いを立て、眩しい笑顔を見せる……。
 想像通りの慈悲深い神子の出現に知らず知らずのうちに俺の胸はドクドクと早鐘を打ち出した。

 「魔王を倒せば良いのか!?どこに行けば良いんだ?早速旅に行くパーティーを集めるぞ!」

 ハルキは儚い美しさからは想像もつかない程快活な声で話し出した。
 そのくるくると良く変わる表情はとても魅力的だ。この場にいるだれもが魅了されるかのように恍惚とした表情を浮かべる。

 俺もその例外ではない。

 勝手にこの世界に喚びだされたことに怒るでもなく、異世界の…自分とは全く無関係であった人々の為に誓いを立ててくれる彼はとはても素晴らしい人物のように思えた。

 だが彼は勘違いをしている、神子に討伐等というそんな危険な事をさせるわけにはいかない、神から与えられた神子にもしものことがあれば取り返しの付かない事態を引き起こしてしまう。
 神子はただ大切にされれば良いのだ。神に愛された子を慈しみ大切にする……。
 それだけでこの国の安定は保たれるのだ。

 その間違いを正すべく、王太子が彼の側に歩み寄る。
 常にその整った顔に冷たい表情を浮かべている彼でさえ神子に心酔しているのか今は蕩けるような笑顔を見せていた。

 「魔王?そんな者はいない、誰のことも倒す必要はない。神子がこの国にいるだけで魔物は力を失い、この国は加護を受けるのだから。」

 王太子はそう言いながらハルキの手を取り、その甲に唇を落とした。
 もう一人の少年には決して与えなかった優しい言葉や態度がハルキには惜しげもなく与えられる。

 「お前のことは私が守る、戦う必要などない。ただこの国に…私の側に居てくれるだけで良いのだ。」

 「やっ、止めろよ!俺は男なんだから守られる必要なんてない!」

 そう言いながら王太子の手を振り払うハルキの頬は赤く染まっていた…。
 怒りではなく羞恥から来るその表情にさらに皆が魅了される。
 手を振り払うといった不敬な態度をとられたことも気に止めず、王太子は彼をうっとりと見つめていた。いや、王太子だけではない。
 宰相や騎士達、その場にいた誰もが彼に群がりその瞳に移りたがる。
 かくゆう俺も彼から目を離すことが出来ず、熱い眼差しを送り続けていた。

 他のライバルを蹴落とし彼の騎士になりたい……、王太子や宰相にさえ彼を渡したくはない………そう強く願わずにはいられなかった。

 「あのッ!」

 その時、俺のどす黒い考えを壊すように、やけに必死な声がその場に響いた。


 
  必死な声で訴えかけてきたのは、あの凡庸な少年だった。



 「僕はどうしてここに……?」

 彼は未だに状況を理解していない…、それもその筈だ。誰もが彼の存在を忘れハルキに夢中になっていたのだから……。

 可哀想な事をしたな…と内心で自嘲する…。いくらハルキに夢中になったからといって、小動物のように怯える彼を放っておくだなんてどうかしていた。
 弱いものを守る騎士道にも反する行いだ。

 ましてや彼は巻き込まれて此方に来た被害者なのだから手厚いケアをする必要がある。


 だがそう考えたのは俺だけのようだった。

 「チッ、余所者が」

 王太子は舌打ちをして凡庸な少年を睨み付けた。神子との甘い時間を邪魔されたことに苛立ちを隠せない…いや、隠す気がないようだ。

 他の者達も同様のキツイ視線を彼に向けている。

 「ハルキ、あれはお前の知り合いか?」

 「えっ、ううん知らねぇ…。」

 急に水を向けられたハルキはまじまじと少年を見た後にそう答える。

 「ぼ、僕吉野君と同じクラスの櫻井セツだよ!」

 「同じクラス?そんなやつが何でこんなとこにいんだよ?」

 「だって、吉野君が手を伸ばすから助けようと思って…。」

 「そんなの知らねぇよ!」

 「そんな…、吉野が僕に助けてって言ったんじゃない…。だから僕は吉野君を助けようと思って…。」

 少年は必死でハルキにすがり付こうとするが、その手は王太子の手によって無慈悲に振り払われた。

 「ハルキに触れるな…、もうよい…お前は結局ただの部外者なのだろう…。おいっ!誰か!!こいつを一先ず牢屋にでも放り込んでおけ!!」

 「ッろ、牢屋…。」

 少年が青白い顔を一層白くして狼狽えた。

 王太子の発言は些か理不尽過ぎる。一体彼がどんな罪を犯したと言うのだ。

 「お待ちください!」

 とうとう黙っていられなくなった俺は恐れ多くも王太子に意見をしてしまった。

 「どうか…発言をお許し下さい。」

 「第一部隊の騎士団長か、良いだろう。話せ…。」

 「彼は巻き込まれてこの地に来てしまった被害者です。牢屋に入れる等あまりに理不尽な行いではありませんか。」

 「理不尽だと、…お前は私のやることが気に喰わないようだな。」

 「そのような事は……、ただ彼を牢屋に入れる等、そんな事は慈悲深い神子様もお望みにならないのでは?」

 慈悲深い彼であれば少年を助けてくれる筈だと神子に視線を向ける。…すると神子は頬を赤く染めながら俺の意見に同意してくれた。

 「そ、そうだな!牢屋に入れるなんて可哀想だな!俺はそんなこと望まないぞ!!」

 その返事を聞いて王太子の壮行が崩れる。
 
 「ハルキは優しいな…」

 そう言いながら神子の頬に手で触れうっとりと呟いた。

 「良いだろう、ハルキの願いだ。牢屋に入れるのは止めよう…しかし何の役にも立たぬそいつを城に置く気もない、お前が自分で面倒を見るんだな。」

 「はっ!」



 こうして神子に助けられる形で少年を我が屋敷に匿う事になった俺は、この事で王太子の心象を悪くしてしまい神子の騎士候補からは外されてしまった。

 あの美しく慈悲深い方をこの手で守る事ができないことが悔やまれる…。だがあの少年を見捨てることはどうしても出来なかった。
 神子のお側に使える事は出来なくてもこの国を守る事がひいては神子の為になるのだ。…俺はこの選択を後悔しないようにそう自分に言い聞かせた。







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