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しおりを挟む国王陛下には昔から随分と目をかけて頂いていた。
それだけの武勲を立てたという自覚はあるし、我が部隊がこの国の防衛の要であるということも良く理解している。
陛下としては、俺個人を気に入っているというよりは一国の君主として、国の為に俺を手懐けて置きたいという思惑があるのだろう。
セツを引き取った折に貴族達の不況を買ったものの、貴族社会や騎士団から排除されなかったのは国王陛下の働きによるものが大きい。
お陰で神子のおまけを引き取った愚か者と影で馬鹿にされることはあっても、面と向かって俺に文句を言う者は居なかった。
この王太子を除いては…………。
「君の部隊は随分と調子が良いみたいだな、諸々から活躍を耳にしているよ。」
「お褒めに預かり光栄にございます。」
この所の冷遇等無かったかのように、先程から王太子こちらを褒める言葉ばかりを口にする。
慇懃に応えながらも、その手のひらを返した様な態度に気味の悪さを感じた。
常ならば討伐の報告をし、新たな任務を一方的に告げられるだけである筈なのに、この態度は一体どういうことなのか…………。
本来であれば光栄に思うべきなのだろうが、セツを引き取ってからの王太子の態度は目に余るものがあった。 それを思うと尚更違和感を感じる。
「このところ王都の方は天候不良に見舞われていてね、農作物にも影響が出て少々困っているんだよ。君の領地には影響は出ていないかい?」
「はい、風水害の報告は受けておりません。農作物も例年と変わりなく収穫できているようです。」
先程庭師にも説明したことを答えると、王太子は目をスッと細めて手にしていた茶器を置き、考えるような仕草を見せた。
「……王太子殿下?」
「いや、何でもない…………。そういえば君のところにいる彼だけれど、今は一体どうしているのかな?」
なんのことかと考え、漸くセツのことかと思い至る。
今までセツのこと等全く聞きもしなかったのに、どういうつもりなのか。
「と申しますと……?」
嫌な予感を抱きながら尋ねると、王太子は眉根を下げながら口を開いた。
「いや、私も少々反省しているのだよ。突然こちらに呼び出された者に心無いことを言ってしまったとね。君にも押し付けるようなことをして悪いと思っている。」
「押し付ける等、とんでもございません。私が自ら引き受けると申し上げたのです。」
如才なく答えながら、内心血の気が引くような思いがした。
この王太子がセツに興味を向けるのはよくない前触れのように感じる。
「どうだろう、今からでも彼を城で引き取るというのは。君はあの異世界人を持て余しているのではないかな?」
嫌な予感が的中し、思わず声を荒らげそうになった。
「……セツを引き取る……?」
どの口で今更セツを引き取りたいと言うのか、散々彼を怯えさせ、王都中に悪評をバラ撒いたことをこちらが気付かなかったと思っているのか。
おかげで彼は屋敷の使用人からも酷い仕打ちを受けていたというのに……。
「あぁ、彼はセツというのか。別に構わないだろう?罪滅ぼしをしたいのだよ。」
名前すら知らずに何が罪滅ぼしだ、笑わせるな……。
「いえ、王太子殿下のお手を煩わせる訳には、それに彼は大人しい質でして、きっと王宮では萎縮してしまうと思います。」
実際慎ましやかなセツには王宮での暮らしなど似合わない。
王宮に住まいを移したところでその生活に慣れることはないだろう。
セツの望みは俺の隣で楚々として寄り添うことだ。それが何よりの幸せなのだから。
「それはもちろん配慮するよ、彼への罪滅ぼしなのだから、彼には最高の環境を整える。あぁ、それにこちらには神子がいるのだから、同郷の友人が居たほうが良いだろう。」
「しかし……」
言い淀む俺の言葉を遮る様に王太子の言葉が被せられる。
「いいから一度彼を城に寄越すんだ。彼も王宮で暮らせば、こちらが良いと言うだろう。」
先程の鷹揚とした態度から威圧的な態度に切り替えると、セツを差し出す様に命令地味た言葉を吐き出された。ふざけるなと言いたい、セツが俺と離れる暮らしを望む訳がない。
セツを奪われる可能性に怒りが渦巻くのを感じた。無意識に腰に下げていたサーベルに手をかけようとし、その冷たい金属の感触に気付き、はっとする。
サーベルを手に掛けた時点で謀反を疑われるところだ。そうなれば控える兵士達があっという間に集まり、騎士団の一つを任される俺であっても無事とは行かないだろう。
危険人物と判断されてはそれを理由にセツを奪われる恐れさえある。
平常心を保つ用、深く息を吐きながら不敬にならぬ様に言葉を選ぶが、王太子はどんな言葉にも首を縦には振らない。
最終的にセツが望むのであれば、王宮に住まいを移すことを約束させられてしまった。
近く、王宮の使者が屋敷まで訪れ、セツの意思を確認することになる。
セツが俺から離れる選択をする筈がないが、いいようのない不安が胸に押し寄せ、それを拭い去ることが出来なかった。
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久しぶりにログインしてみたら…\(//∇//)\
再開いただけて、とても嬉しいです!!
どうぞご無理はなさらず!応援しています。
ご感想ありがとうございます!!
更新再開致しました(*´ω`*)
まちまちの更新になりますが、また読んで頂けると嬉しいです〜!!
うわぁぁぁ!!!!続きありがとうございます!!!!!
とても楽しみにしていました!!!!😭😭
またこうしてお話を読めてとても嬉しいです!!
ご感想ありがとうございます!!そして更新を待ってくださりありがとうございます(*´ω`*)
喜んで頂けるものが書けるように頑張ります!!
はじめまして!続きを更新していただき、ありがとうございます✨
セツくんの幸せ…是非とも見届けたいです⿻*⌖.⋆.˚⊹⁺
更新通知がきて、嬉しく思いました✨
ありがとうございます✨
ご感想ありがとうございます!!
長く更新を待って頂いていたのですね( ;∀;)お待たせ致しました!!
またゆっくりではありますが更新を頑張りますのでよろしくお願い致します!!