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序章
1-2 ええ、婚約破棄ですね?
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ある日、あの王子からの伝言がわたしの伝言魔術具に届いた。
「神は俺とお前をつなぐ糸を切られたようだ。明日三の鐘にお前の兄と一緒に来い。何もしていないお前なら暇だろう?」
それだけ。実際は色々しているけれど、そんなこと都合よく忘れているようだ。
そしてわたしは、、、
この伝言を聞いて狂喜乱舞した。
イヤッッホォォォオオォオウ!と内心で叫んだ。今すぐにでも、えーと、サンバでも踊り出したい気分だ。
何故か。
つまり、婚約破棄である。
丁度良い。あんな王子と離れられるなど、運命の神様に感謝してもしきれないくらいだ。そもそも、そろそろ婚約破棄したいと思っていた頃。数日前にアルフレートと話して、そろそろ婚約破棄をこちらからしたいと思っていた頃だからである。
わたしが婚約破棄について相談したところ、アルフレートは
「そうだね、パウリーネ。私もパウリーネが危険な目にあの王子によって遭わされていたら耐えられないからね。」
と言っていた。ただその後、普段では絶対お目にかかれないような真面目な(そして恐ろしい)顔で
「あの王子は元から壊れてるから、大切なパウリーネとなんて釣り合わないよ。その気になればそこらへんの男爵家や子爵家でも壊せるようなとびきりのゴミでしょ。ねえ?」
とすごまれたのである。非常に頼りになるが、非常に恐ろしい。
次の日。
わたしは朝から早く起きて、服や靴、アクセサリー類を頼りになる侍女のイルマに選んでもらい、アルフレートとともに王城へ向かった。
一応王族なので、すぐに王と王子に会えた。
部屋に入るとすぐ、王子が宣言した。
「パウリーネ。お前は全くの無能で俺の評判を下げ、さらにはハインリーケを虐めた。本来婚約者とは助け合い、補い合う存在だろう?よって婚約破棄だ。お前は国外追放にして、公爵家は俺たち王族に関わらないでいただこう。」
、、、その言葉、そっくりそのままお返しいたしますよ。どこが助け合い、補い合うだ。ふざけんな。
あとちゃっかりハインリーケを虐めたという事実無根のことが追加されているが、この際どうでも良い。
そーっとアルフレートの方を向くと、同じようなことを考えていたのか、小さく微笑んでくれた。
、、、くぅっ、容姿だけなら百点満点。場違いなの分かってるけど。
「何だ、てっきり俺に婚約破棄されて泣き叫ぶのかと思ったが。心外だったな。」
逆の意味でなら泣き叫ぶかもしれませんがね。ええ。
「全くお前は、、、ハインリーケは身分がお前より低いのにあれほど優秀なんだぞ?それなのにお前は身分が高いことを傘に着てお前の仲間とともにハインリーケを虐めていたそうだな。どうとも思わないのか?」
「それ誰が言ったんですかね?」
「口が悪いぞ。まあ良いが。俺は寛大なので許す。それは、ハインリーケ本人と父親のイステル伯爵、レーヴェニヒ子爵とその令嬢、アイメルト伯爵など沢山いたな。ああ、あとアイベンシュッツ侯爵だな。」
今王子が挙げた名前は、全て第二王子派の貴族の物だ。それでは証拠になっていない。ハインリーケが流したデマかもしれないのだ。
、、、わたしはそんなんやってないからデマだけどさ。信じてるよ、この人。
それから恐らくは二時間位、延々と王子はわたしの悪口について話しまくったのだ。
アルフレートが「いい加減にしてくれ」という趣旨のことを言ってくれたので、一応悪口は止まった。
が。王子がドアを開けてこう叫んだのである。
「今ここにいる貴族よ、鐘半分の時間の後に城のホールへ来い。重大な発表を行う。」
と。
何をしでかすのか、わたしには分からなかったが、なんとなく嫌な予感がした。
「お前たちは館へ戻っていろ。どうせ近いだろう?」
追い払われた。
館に入って、アルフレートの執務室のソファーに二人揃って倒れ込む。
「何なんだあの王子は。本当に王子として、、、将来は公爵家を興すんだろうが、教育を受けているのか?」
そう、このヴェンツィス王国では紫の瞳を持っていて王族の血が流れているものであれば、王位を継承できる。わたしやアルフレートなどエルレンマイヤー家、それからジークフリート、王族のほぼ全員や公爵家の一部は紫の瞳を持っている。逆を言えばいくら王族直系であっても、紫の瞳を持っていない限りは王位を継承できない。エルレンマイヤー家も、百年ほど前のそういった紫の瞳でない王直系の王子が作った家なのだ。
「兄様はあの王子と日常的に接していないからこんなで済んでいますが、わたしは毎日ですよ。」
「ああ、そうだったな。それにしても王子も問題だが、王も問題だぞ?息子の唱える馬鹿げた発言を止めもせず、ただただ黙って見ているだけだ。どうなっている?だから国力の低下が叫ばれるというのに。」
そう、ヴェンツィスは年々弱くなっていっている。特に、今の王のヴァルデマール王になってからの国力の低下は著しい。まあ、だから優れた他国へジークフリート王太子が遊学に出たってことなんだけどさ。
それから少しの間、他愛も無い話をした。
そしてアルフレートは、執務室で仕事をしていた側近たちを一旦休憩として下がらせ、その上で盗み聞き防止の魔術具を取り出した。ここからは、側近にも言えない話をするらしい。
「パウリーネ」
「?」
これまで見たこともないほどひんやりとした笑顔だ。触ったら、、、ドライアイス?くらいの温度じゃあないかと思えるほどだ。
「神は俺とお前をつなぐ糸を切られたようだ。明日三の鐘にお前の兄と一緒に来い。何もしていないお前なら暇だろう?」
それだけ。実際は色々しているけれど、そんなこと都合よく忘れているようだ。
そしてわたしは、、、
この伝言を聞いて狂喜乱舞した。
イヤッッホォォォオオォオウ!と内心で叫んだ。今すぐにでも、えーと、サンバでも踊り出したい気分だ。
何故か。
つまり、婚約破棄である。
丁度良い。あんな王子と離れられるなど、運命の神様に感謝してもしきれないくらいだ。そもそも、そろそろ婚約破棄したいと思っていた頃。数日前にアルフレートと話して、そろそろ婚約破棄をこちらからしたいと思っていた頃だからである。
わたしが婚約破棄について相談したところ、アルフレートは
「そうだね、パウリーネ。私もパウリーネが危険な目にあの王子によって遭わされていたら耐えられないからね。」
と言っていた。ただその後、普段では絶対お目にかかれないような真面目な(そして恐ろしい)顔で
「あの王子は元から壊れてるから、大切なパウリーネとなんて釣り合わないよ。その気になればそこらへんの男爵家や子爵家でも壊せるようなとびきりのゴミでしょ。ねえ?」
とすごまれたのである。非常に頼りになるが、非常に恐ろしい。
次の日。
わたしは朝から早く起きて、服や靴、アクセサリー類を頼りになる侍女のイルマに選んでもらい、アルフレートとともに王城へ向かった。
一応王族なので、すぐに王と王子に会えた。
部屋に入るとすぐ、王子が宣言した。
「パウリーネ。お前は全くの無能で俺の評判を下げ、さらにはハインリーケを虐めた。本来婚約者とは助け合い、補い合う存在だろう?よって婚約破棄だ。お前は国外追放にして、公爵家は俺たち王族に関わらないでいただこう。」
、、、その言葉、そっくりそのままお返しいたしますよ。どこが助け合い、補い合うだ。ふざけんな。
あとちゃっかりハインリーケを虐めたという事実無根のことが追加されているが、この際どうでも良い。
そーっとアルフレートの方を向くと、同じようなことを考えていたのか、小さく微笑んでくれた。
、、、くぅっ、容姿だけなら百点満点。場違いなの分かってるけど。
「何だ、てっきり俺に婚約破棄されて泣き叫ぶのかと思ったが。心外だったな。」
逆の意味でなら泣き叫ぶかもしれませんがね。ええ。
「全くお前は、、、ハインリーケは身分がお前より低いのにあれほど優秀なんだぞ?それなのにお前は身分が高いことを傘に着てお前の仲間とともにハインリーケを虐めていたそうだな。どうとも思わないのか?」
「それ誰が言ったんですかね?」
「口が悪いぞ。まあ良いが。俺は寛大なので許す。それは、ハインリーケ本人と父親のイステル伯爵、レーヴェニヒ子爵とその令嬢、アイメルト伯爵など沢山いたな。ああ、あとアイベンシュッツ侯爵だな。」
今王子が挙げた名前は、全て第二王子派の貴族の物だ。それでは証拠になっていない。ハインリーケが流したデマかもしれないのだ。
、、、わたしはそんなんやってないからデマだけどさ。信じてるよ、この人。
それから恐らくは二時間位、延々と王子はわたしの悪口について話しまくったのだ。
アルフレートが「いい加減にしてくれ」という趣旨のことを言ってくれたので、一応悪口は止まった。
が。王子がドアを開けてこう叫んだのである。
「今ここにいる貴族よ、鐘半分の時間の後に城のホールへ来い。重大な発表を行う。」
と。
何をしでかすのか、わたしには分からなかったが、なんとなく嫌な予感がした。
「お前たちは館へ戻っていろ。どうせ近いだろう?」
追い払われた。
館に入って、アルフレートの執務室のソファーに二人揃って倒れ込む。
「何なんだあの王子は。本当に王子として、、、将来は公爵家を興すんだろうが、教育を受けているのか?」
そう、このヴェンツィス王国では紫の瞳を持っていて王族の血が流れているものであれば、王位を継承できる。わたしやアルフレートなどエルレンマイヤー家、それからジークフリート、王族のほぼ全員や公爵家の一部は紫の瞳を持っている。逆を言えばいくら王族直系であっても、紫の瞳を持っていない限りは王位を継承できない。エルレンマイヤー家も、百年ほど前のそういった紫の瞳でない王直系の王子が作った家なのだ。
「兄様はあの王子と日常的に接していないからこんなで済んでいますが、わたしは毎日ですよ。」
「ああ、そうだったな。それにしても王子も問題だが、王も問題だぞ?息子の唱える馬鹿げた発言を止めもせず、ただただ黙って見ているだけだ。どうなっている?だから国力の低下が叫ばれるというのに。」
そう、ヴェンツィスは年々弱くなっていっている。特に、今の王のヴァルデマール王になってからの国力の低下は著しい。まあ、だから優れた他国へジークフリート王太子が遊学に出たってことなんだけどさ。
それから少しの間、他愛も無い話をした。
そしてアルフレートは、執務室で仕事をしていた側近たちを一旦休憩として下がらせ、その上で盗み聞き防止の魔術具を取り出した。ここからは、側近にも言えない話をするらしい。
「パウリーネ」
「?」
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