【完結】悪役令嬢に仕立てあげられそうですが、私は絵を描きたいだけなんです。

ぴえろん

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プロローグ

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絵を描くのが好きだった。

まだ幼い頃、画用紙に毎日絵を描いていた。

好きなテレビアニメに出てくる主人公の絵。
自分が思いついた女の子の絵。

お世辞にも上手とは言えない出来の絵だが、そんなの関係なかった。

「また美優は絵を描いているのね。」

母はそんな私を見て呆れているようだった。

たくさん描いて、満足したら終わり。
それだけで良かった。



それから時が経ち、小学生になっても中学生になっても絵を描くのを辞めなかった。


その頃から、自分の中で、これを仕事にしたいという意識も芽生え始めた。


イラストレーター、漫画家、絵描き。


漠然と思いつく夢を胸に、高校2年生の進路について決めなければならない時、親にイラストの専門学校に行きたいと相談したが、親は一切許さなかった。



「そんなの、無理に決まってるでしょ。

卒業したら、就職しなさい。
イラストは趣味で描けばいいでしょう?」

大学に行きたいとも言ってみたが、そんなお金はないと却下された。


だから親の言う通り、そのまま就職した。


就職した先は、とんでもなくブラック企業だった。


趣味に費やす時間などなく、ひたすら残業の毎日だった。

上司の指示で、タイムカードだけ定時になると押していた。


書類上では退社していることになっているオフィスで、永遠と思えるような時間をパソコンと向き合っていた。





そんな日々を送っているうちに、周囲はどんどん恋愛をし、結婚していった。






「ねえ、結婚しないの?」

久しぶりの休みに結婚した友人に会った時、友人の開口一番はそれだった。

首を振ると、友人は立て続けに言葉を並べた。

「彼氏は作らないの?」

「若いうちなんてさ、一瞬だよ。」

「どんどん置いてかれるよ。」


友人に言われるがまま、マッチングアプリで婚活を始めた。


ようやく付き合えそうな男性に巡り会えたのは、結婚した友人たちが次々に出産報告を始めた頃だった。


カフェで男性と会う約束をし、2人で一緒に席についた。

「年収はいくらですか?」

「わたしは、250万……ですかね。」

「休日はどう過ごしてますか?」

まるで恋人では無い会話に、きっと周囲もそういう関係なのだと察するだろう。


その後何度か会ううちに、その男性とは付き合うことになった。


好きなわけではなく、ただ周りに言われ流されるように付き合ってしまった。

ちょうどその頃ストレスと疲れで病気になった。


体調が悪い日々が続き、なんとか有給を取って行った病院で告げられた。

「癌ですね。」

なんの感情も篭っていない、冷たい顔で医者は無情に言った。


言葉を失う私に医者は続けた。


「そう悲観しなくても大丈夫ですよ。今は医学も進歩していますので。薬で抑えられます。」


そう言われ処方された薬は、毎月5万円もかかる高価な代物だった。


これを毎月、これからこの人生が終わるまで飲めだなんて。


これでは何のために働いているのか分からない。



ただ、こんな私では今付き合っている人に迷惑をかけてしまう。

毎月5万円もかかる女を嫁にしたい男はマッチングアプリにはいないだろう。



仕事終わりに彼氏を喫茶店に呼び出し、別れたいと告げた。



「……じゃあさ。これまで俺が奢ったりしたお金、請求してもいいかな?」 



「えっ……。」


言葉を失う私に、向かいの席に座るそれまで彼氏だった男は、冷静にスマホの電卓アプリで計算していていた。


「合計1万だな。端数は切り上げとく。」


まだ数回しかデートしていない上に大したところには行ってないので、金額はそんなもんかもしれない。


でも……。


震える手で財布を開きお金を出した。


口から乾いた笑い声が漏れた。




私はこれから、毎月5万円も払わなければ生きられないのに、私自身の価値は1万円にも満たないってこと……?


それから男性と別れ、ふらつく足で海に向かった。



疲れた。

今までの人生を振り返り思った事はそれだけだった。


私には何も無い。

あるのは病気の体だけ。



私は、何者にもなれなかった、


崖の上に立ち、海を見下ろした。


涙は出なかった。




目を瞑り、海に飛び込もうとした時。



「あはは!笑っちゃうほど悲惨な人生だね~!」


頭上から唐突に声が聞こえた。


「だ、誰?」

上を見上げると、そこには整った少年の顔があった。

背中からは翼を生やし、空を飛んでいた。

空いた口が塞がらない私に、少年は構わず続けた。




「僕は神だよ。この世界の神じゃないけどね。

ねえ、どうせ死ぬならさ転生してみない?

ちょうどさ、欠員の出てる世界があるんだよ。」



目の前で起きてることがまるで飲み込めない私は、自分でも分からないが頷いてしまった。


「じゃあ、決まりだね。」



少年がそう言ったのと同時に、瞼が重くなり意識を手放してしまった。






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