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ローラと皇太子殿下の婚約
しおりを挟む夜会での出来事は、まるで夢のようだった。
突然婚約を持ち掛けられ、一瞬胸がときめいた。
けれどそれは、本当に夢のままで終わってしまった。
「お父様!お母様!皇太子殿下と無事婚約になりましたわ。」
ローラの弾んだ声が、私の部屋まで聞こえてきた。
あの夜の次の日。
ローラはさっそく両親と共に城へ出向き、そこでテオたちと婚約について正式に話をして来たのだろう。
それが今日、無事に成立したようだ。
「おめでとう、ローラ。今夜は家族の間だけでパーティを開こう。
こんなにめでたいことは無い。」
父親の涙ぐむ声が聞こえてきた時、自嘲気味に笑ってしまった。
その家族の中に、私は含まれていないのだから。
もちろん、私は本当のユリアでは無いのだから気にする必要は無い。
それでも、心が荒んでしまう。
私なんて、今日婚約と同時に家を追い出されてしまうのに。
私は今、ただぼんやりとローザン・モンテヌ伯爵からの迎えを待っている。
あの時、回避出来そうになった結婚生活が結局今日から始まってしまうのだ。
テオ、どうして急にあんな風になってしまったの……。
テオの行動が信じられなかった私は、どうしてもテオに会いたくて、あの後ローラたちとは別で城に出向いていた。
しかし、テオは会ってすらくれなかった。
それどころか、城に来た私に対して、城の使用人たちから罵倒もされてしまった。
「あれ、ユリア・フリージアじゃない?
妹の物を羨ましがってなんでも欲しがるって噂の。」
「ローラ様が殿下に見初められたのが気に入らないからって抗議しに来たのかしら?」
言い返してやろうかとも思ったが、辞めた。
もうなんだか、何をしても無駄な気がしたからだ。
だから私はもう流れに逆らおうとせず、モンテヌ伯爵家からの迎えを待っていたのだ。
それにしても、迎えとはこんなに遅いものなのか?
てっきり朝の内には来てしまうのかと思っていたのに。
太陽が傾き出したのを見て疑問に思っていると、部屋の扉が突然ノックもせず開けられた。
そして父親が顔に怒りを滲ませながら部屋に入ってきた。
「ユリア。モンテヌ伯爵から、婚約はなかったことにして欲しいとたった今連絡がきた。」
「……なぜですか?」
力無く聞く私とは反対に、父親が怒りを込めて私の胸ぐらを掴んだ。
「評判の悪いお前を、わざわざ嫁に迎えるのは気が引けると言われたのだ!!
今巷で囁かれている噂を知っているか?!」
「どんな噂でしょう?」
ここ最近はずっと自室に篭っているので本当に検討がつかない。
そんな私を見て父親はさらにイラついたようだ。
「ローラから皇太子殿下を奪おうとする悪女だ!」
それを聞いて目から鱗が出そうになった。
いや、むしろ奪われたのはどちらかと言えば私の方なのだが。
なぜこうもローラに都合のいいように事が運んでしまうのか、ここまで来ると不思議だった。
「悪いが、もう家から出ていってくれ。
家に貢献できない娘をこれ以上置いておく訳には行かない。
お前は今日16歳になったのだから。」
それを聞いて、そういえば元々16歳になるのと同時に嫁いで家を出ろと言われていた言葉を思い出した。
そうか、今日がユリアの誕生日なのか。
「今日の夜、ローラの婚約祝いをする。
だからそれまでに出ていけ。」
父親は吐き捨てるようにそう言ってから部屋を出ていった。
ユリアは今日誕生日なのに、祝ってすら貰えないのね。
「ユリア、僕達と一緒にあの森で暮らそう!」
「そうだね、それがいい。そこでまた絵を描こうよ!」
ルクスとイグニスが私の方に寄ってきて慰めの言葉をくれた。
「行く宛てもないし、そうしようかな。」
力無く笑う私に、ルクスとイグニスが心配そうな表情で私を見つめる。
「……ユリア……元気を出して。」
エリザが小さな手で私の頭を撫でてくれた。
3人の妖精のおかげで少しだけ元気を取り戻した私は、最低限の荷物だけまとめてフリージア家を後にした。
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