聖少女(セイント・ガール)

野宮雪菜

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「聖少女」となれ(1)

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 突然現れた『その人』に莉子、陽菜は、固まるしかなかった。
 姉妹の使っている部屋に出現した『その人』は、ガブリエルと名乗り、
「あなた方には、『聖少女』になってもらいます」
 と告げた。

 ガブリエルは女性らしい柔らかな顔立ちに、頭の後ろで結われたポニーテール、中世ヨーロッパ風の赤いドレスに白い羽根を持ち合わせていた。
 美女といってもいいくらいなのに、発する声は男性のように低い。
 ガブリエルのそのギャップと、紡ぎ出された言葉に、莉子はあっけにとられていた。

「何者? あなた」
「わたくしですか? 天使ですよ」
 陽菜は怪しんで、目をすがめた。
「本当に天使なの?」
「本当ですよ」

 言うなりガブリエルは、部屋中を花園にし、
「陽菜、あなたは怪我をしていますね」
 と、骨折していた陽菜の左腕を治した。
 陽菜は恐る恐る左腕を回してみた。

「痛くない! ……りこちゃん!!」

 彼女は、反射的に姉の背後に隠れた。
 しばし呆然としていた莉子は、気を取り直し、背中までの長い髪を揺すりながら首を振った。

「あなたが天使ということは信じるわ、一応。でも聖少女って何? 誰が言ったの?」
 冷ややかな口調にも、ガブリエルは動じない。
「ミカエル様です」
「は?」
「あたし、知ってる! 天使の長でしょ!?」

 陽菜が叫んだ。迷惑そうに顔をしかめているのが、気配でわかる。
 ガブリエルは頷いた。

「今の人間界は、腐敗しています。人が人を殺す、盗みをはたらく。罪を数えたらきりがありません。そこでわたくしたちの神は、悪い人間を監視して裁く人間を決めるため、ミカエル様に意見を求められました。そして決まったのが、小鳥遊姉妹。あなた方です」

「……」
 莉子たちは顔を見合わせた。あまりにも突飛すぎて、いまいち実感がわかない。
「あたし、やだ」
 最初に口を開いたのは陽菜だった。

「人が人を裁くなんて、傲慢もいいところだよ。そういうことは、天使がやればいいんだよ。りこちゃんもそう思うよね!?」
 中学生の妹にそう言われ、大学生の莉子は頷くしかなかった。
 だが、ガブリエルは首を横に振る。
「かつて、人間を見張る天使たちが堕天使になった経緯があるので、それはできません」

 陽菜は負けじと言い募る。
「あたしたちが、悪いことをしないという保証はないでしょう?」
 そして、莉子がたたみかける。
「そういうこと。わかった? 帰ってちょうだい」
 ガブリエルは、束ねた長い髪を揺らしながら首を振り、目を伏せた。

 勝った! と莉子は思った。しかしその時、
「そうはいかない」
 言葉とともに現れたのは、グレーのスーツを着た、長めの白髪の若い男だった。
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