聖少女(セイント・ガール)

野宮雪菜

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代償(4)

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 陽菜、ガブリエルとラファエル、ウリエル、そして神が去った後、莉子はシェムハザとアザゼルと共に残された。
「いいのか? 後悔しても知らんぞ」
 アザゼルが脅すように言う。
 眠るシェムハザの頭を自分の太ももにのせた莉子は笑った。
「そうね。その時は、ただの妖精として生きるわ」
 アザゼルはやれやれといったように、その場から離れようとする。
「どこ行くの?」
「俺は無粋じゃないからな。2人で好きなだけイチャイチャしろ」
 言って彼は、他の堕天使たちがいる岩場へ歩いていってしまった。
「もう……。何言って……」
 莉子が苦笑したその時、シェムハザの目が開いた。辺りを確認するように、左右へ目を走らせる。

「シェムハザ。気がついた?」
 莉子が声をかけると、シェムハザはぼんやりと彼女を見上げる。
 そしてハッとしたように、がばっと起き上がる。
「莉子……か? その姿は……」
「あなたと一緒にいるために、この姿にしてもらったの」
 言いながら、莉子の目からは一粒の涙が出た。それを指で拭い、シェムハザは頭を下げた。
「すまない……。君を人間界に戻すことができなかった」
 そんな彼の髪をなでた。
「いいのよ。あなたと一緒なら、構わない」
 そう言う莉子の体を引き寄せ、シェムハザはつぶやいた。
「後悔はさせないから」
 莉子は頷いた。

 陽菜はガブリエル、ラファエル、ウリエルと共に人間界へ戻ってきた。
「もう会うことはないでしょう。ごきげんよう」
 ガブリエルたちは姿を消した。
 陽菜は家の玄関で立ち止まった。表札には、やはり莉子の名前はない。
 陽菜は思いきってドアを開けた。ちょうど外に出ようとした母親と鉢合わせする。
「あら、おかえりなさい。どこに行ってたの?」
「ちょっとね……。お母さんはどこ行くの?」
 母親は回覧板を持ち上げた。
「ちょっと行ってくるわね」
「お母さん!」
 陽菜は呼び止めた。
「何?」
 不思議そうな顔をする母親に、陽菜は口ごもった。
「ううん。なんでもない……」
 莉子のことを訊きたかったが、母親の口から「知らない」という言葉を聞きたくなかった。
 靴箱を見た。莉子のものはない。

 陽菜は母親を見送ると、家中を確認した。もちろんというか当然というか、莉子のものはひとつもなかった。
 彼女は落胆し、部屋へと戻った。
「おかえりなさい」
  陽菜のベッドには、エインセルがちょこんと座っていた。
「エインセル!?」
 驚いた。ブレスレットがなくても見えるのか。
 神のしわざなのだろうか。
「パックは迎えにきてくれなかったの?」
 エインセルは、ぱちくりとまばたきした。
「パック、来ないの。……それより莉子はどうしたの?」
 思わぬ質問に、陽菜は固まった。
「りこちゃんのこと、覚えてるの?」
 尋ねると、エインセルはきょとんとする。
「なんで? 覚えていたらいけないの?」
 陽菜はその場に座りこんだ。涙が出てきて止まらない。
 たとえ妖精でも、莉子のことを覚えてくれてる人がいる。それだけで満足だった。
  でも会いたい。いつか。
  幸せそうに笑っている姉に。


                                                                                     ―おわり―
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