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代償(3)
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そんな姉妹の前で、パックは何事かつぶやいた。次の瞬間、シェムハザの全身をまばゆい光が包みこむ。
長い髪は短く、長い耳も縮んでいき、黒い羽根が生えてきた。
がくっと前のめりに倒れそうなのを、アザゼルが支える。
「パック……。あなたは誰なの?」
莉子が尋ねる。パックの代わりに、ガブリエルが答えた。
「この方は、わたくしたちの言う神であらせられます。たまにこうやって妖精の体を借りて、降臨なされるのですよ」
パックの体を借りた神は微笑んだ。少年の外見に、大人びた雰囲気をかもし出す。
「ミカエルが悪いことをしたね。本来は真面目でいい子なのだが、暴走するのがたまにキズでね」
陽菜は驚きながらも、神に訊いた。
「じゃあエインセルは? あなたに人間界に置いていかれたと言っていたわ」
神は苦笑した。
「それは本物のパックの仕業だね。彼が迎えに行くまで、エインセルを頼むよ」
陽菜は頷き、莉子を見る。
「りこちゃん。本当に帰らないの?」
「うん。シェムハザと一緒にいる」
「なんで、そこまで……」
陽菜は顔を覆った。肩がこきざみに揺れているのが、自分でもわかる。
「ごめんね。……でも、この人しかいないの。恋なのかどうかわからないけど、私にはこれが結論だから」
そう言いながら、気を失っているシェムハザを、莉子は愛しげに見つめた。
ガブリエルが言う。
「では、莉子。目を閉じて。あなたをこれから妖精にします。人間の体では、ここにはいられないから」
莉子が目を閉じた。
「お願い」
「りこちゃん!」
莉子の体を光が包んだ。背が縮み、長い黒髪が黄色へと変化する。姉ではないモノに変わっていく様子に、陽菜は顔をそむけた。
見ていられない。
「陽菜。これから生きてく私を見てよ」
莉子の声に誘われて陽菜が視線を戻すと、そこには姉の顔をした妖精がいた。
陽菜は耐えられず、神に言った。
「お願い! あたしから、りこちゃんの記憶を全部消して」
莉子が顔をゆがめた。
「ごめん……。勝手だよね、私」
「勝手よ!」
陽菜は叫んだ。
「どうして一緒にいたい人が人間じゃなく、堕天使だったの? 人間なら、あたしともずっと一緒にいられたじゃない! どうして? どうしてなのよ……!」
言いながら顔を伏せ、そして上げた。
「お願い、神様!! あたしからりこちゃんの存在を消してしまって!」
しかし神は、首を横に振った。
「確かにそなたには姉がいた。その事実を抹消してしまうと莉子はもちろん、陽菜。そなたも苦しむことになるぞ。人間の記憶は、時として我々の力がおよばぬ場合もあるからな」
陽菜はうつむき、言葉も出ない。
そんな彼女に神は言った。
「しかし、莉子がいなくなることで不都合になることもあるだろう。両親、莉子と交友関係がある者たちの記憶は消しておこう。……だが陽菜。そなたは決して忘れないでいてくれるか」
莉子が嗚咽をもらした。
「ごめんね。ごめんなさい……!」
陽菜は何も言えなくなってしまった。祝福はできないけれど、姉のこれからの人生を送り出してやることができる。
「さよなら」
妹の言葉に、莉子は泣き笑いの表情を浮かべた。
長い髪は短く、長い耳も縮んでいき、黒い羽根が生えてきた。
がくっと前のめりに倒れそうなのを、アザゼルが支える。
「パック……。あなたは誰なの?」
莉子が尋ねる。パックの代わりに、ガブリエルが答えた。
「この方は、わたくしたちの言う神であらせられます。たまにこうやって妖精の体を借りて、降臨なされるのですよ」
パックの体を借りた神は微笑んだ。少年の外見に、大人びた雰囲気をかもし出す。
「ミカエルが悪いことをしたね。本来は真面目でいい子なのだが、暴走するのがたまにキズでね」
陽菜は驚きながらも、神に訊いた。
「じゃあエインセルは? あなたに人間界に置いていかれたと言っていたわ」
神は苦笑した。
「それは本物のパックの仕業だね。彼が迎えに行くまで、エインセルを頼むよ」
陽菜は頷き、莉子を見る。
「りこちゃん。本当に帰らないの?」
「うん。シェムハザと一緒にいる」
「なんで、そこまで……」
陽菜は顔を覆った。肩がこきざみに揺れているのが、自分でもわかる。
「ごめんね。……でも、この人しかいないの。恋なのかどうかわからないけど、私にはこれが結論だから」
そう言いながら、気を失っているシェムハザを、莉子は愛しげに見つめた。
ガブリエルが言う。
「では、莉子。目を閉じて。あなたをこれから妖精にします。人間の体では、ここにはいられないから」
莉子が目を閉じた。
「お願い」
「りこちゃん!」
莉子の体を光が包んだ。背が縮み、長い黒髪が黄色へと変化する。姉ではないモノに変わっていく様子に、陽菜は顔をそむけた。
見ていられない。
「陽菜。これから生きてく私を見てよ」
莉子の声に誘われて陽菜が視線を戻すと、そこには姉の顔をした妖精がいた。
陽菜は耐えられず、神に言った。
「お願い! あたしから、りこちゃんの記憶を全部消して」
莉子が顔をゆがめた。
「ごめん……。勝手だよね、私」
「勝手よ!」
陽菜は叫んだ。
「どうして一緒にいたい人が人間じゃなく、堕天使だったの? 人間なら、あたしともずっと一緒にいられたじゃない! どうして? どうしてなのよ……!」
言いながら顔を伏せ、そして上げた。
「お願い、神様!! あたしからりこちゃんの存在を消してしまって!」
しかし神は、首を横に振った。
「確かにそなたには姉がいた。その事実を抹消してしまうと莉子はもちろん、陽菜。そなたも苦しむことになるぞ。人間の記憶は、時として我々の力がおよばぬ場合もあるからな」
陽菜はうつむき、言葉も出ない。
そんな彼女に神は言った。
「しかし、莉子がいなくなることで不都合になることもあるだろう。両親、莉子と交友関係がある者たちの記憶は消しておこう。……だが陽菜。そなたは決して忘れないでいてくれるか」
莉子が嗚咽をもらした。
「ごめんね。ごめんなさい……!」
陽菜は何も言えなくなってしまった。祝福はできないけれど、姉のこれからの人生を送り出してやることができる。
「さよなら」
妹の言葉に、莉子は泣き笑いの表情を浮かべた。
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