聖少女(セイント・ガール)

野宮雪菜

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代償(2)

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 陽菜は莉子を見た。姉の視線の先には、悪魔と化したシェムハザがいる。
 シェムハザは退屈しのぎなのか、他の堕天使を傷つけまわっている。莉子はそれを止めもせず、ただひたすら見つめている。
 陽菜が何を見ているのか気づいたガブリエルは、
「陽菜。左手首を出しなさい」
 と言った。
 一瞬ためらったが、陽菜は言う通りにした。ガブリエルは彼女の手首に手をかけた。
 すると、音もなくブレスレットが外れる。
「聖少女の任務は終わりました」
「え?」
 陽菜は目を丸くする。喜ぶべきなのだろうが、莉子のことを考えると、素直に喜べない。
 その莉子は、悪魔と化したシェムハザと距離を置いていた。このまま人間界に帰せないだろうか。
 陽菜はおそるおそる訊いた。
「りこちゃん。一緒に帰ろう?」
 しかし莉子は首を横に振るだけだ。
「どうして! 別にあの人に恋してるわけじゃないんでしょ!?」

 陽菜の言葉に、莉子は視線をさまよわせた。
「そうだよね……。なんでこんなに一緒にいたいんだろう……」
 独り言のように莉子はつぶやいた。
「だったら!」
 陽菜が叫んだその時、
「わかりました。あなたのその希望、叶えてあげましょう」
 ガブリエルが進み出た。
「ガブリエル!?」
 陽菜は驚いた。見るとアザゼルも目を見開いている。
「ちょっと待てよ。シェムハザは、以前の奴とは違うんだぜ? 莉子に対しても、なんとも思っちゃいない。そんなところに莉子を置いていくつもりかよ」
 堕天使が人間をフォローするなんて変な話だが、味方を得たとばかりに、陽菜も言う。
「そうよ。このままりこちゃんを置いていくなんてできない!」
 すると、今まで黙っていた白髪の少年が口を開いた。
「それは心配ない。シェムハザを元に戻せばよいのだろう? かつて犯した罪ゆえに天使には戻せないが、堕天使にはなれる」
「……パック?」
 莉子がつぶやく。陽菜はその名前に聞き覚えがあった。しばし考えた後、叫ぶ。
「エインセルを人間界に置いていった、いたずら好きの妖精!」
「陽菜。失礼ですよ。この方は……」
 ガブリエルがたしなめると、パックは手を振った。
「いいのだよ、パックで。さあ、シェムハザを元に戻そうか」
「ちょっと待って」
 莉子が口をはさんだ。
「どうして、シェムハザを助けてくれるの?」
 パックはにっこり笑った。
「彼は、自分のことより君のことを思いやっていた。かつての彼なら、君を人間界に帰すことは考えなかっただろうね」
「それでも良かったのに……」
 莉子の言葉を、陽菜は複雑な気持ちで受け止めた。
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