ヒロインだけど敵が好き♪

きゃる

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第一章 推しがクラスにやってきた

男爵家 クロム(裏)

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「閲覧の申し込みですか? ですがこの本は、他国の方には貸し出せません。我が国で、それなりの身分がある方の保証がないと……」

 図書館の受付で、難解な本の貸し出しを頼んだ私――クロムは、司書の女性にあっさり断られてしまう。

 ――やはり、な。生徒の中でも差別があるのか。この国ではいまだに、身分が大きくものを言うようだ。

「そう……ですか」

 別に機密文書を読もうとしたわけではない。そもそものんびりしたこの学園に、そんな本は置いていないだろう。それなのに、この扱い……。
 他国とはいえ公爵家のディオニスなら、司書の対応も変わるのだろうか?

 上の者が下の者に従わされるのは、よくあることだ。けれど、受け入れていながら線を引くやり方に、賛成はできない。貴族の多いこの学園で、地位の低い者はどれくらい我慢を強いられているのか?

 元々商人の家系に生まれた私は、本来貴族ですらない。祖父が財を成したため、父の代で男爵位が授与された。一代限りだが、国への貢献度によっては続くこともあるそうだ。

 身分なんて嫌いだが、役立つこともある。商売をする上で、信用は第一だ。
 兄の果たせなかった夢を叶えるため、私は隣国に行くというに、協力を申し出た。上手くいけば帰国後、それなりの地位にはけるだろう。もちろん彼を、信頼してもいる。

「仕方がないですね。それなら、出直した方が良さそうです」

 いきどおりを抑え、困ったように笑う。
 感情を隠したい時ほど笑えと言うのは、兄の教えだ。

 受付に背を向けたちょうどその時、紺色の髪の女性が近づいてきた。同じクラスの彼女は、リヴィアーナと名乗ったか。賢そうな彼女は、生徒会の会長だという。用事があって、たまたま図書館に来たのかもしれない。

「あら、転入生のクロム・ポバーレ様。何かお困りのことでも?」
「ええ。たいしたことではないのですが……。借りようとした本が、たまたま貸し出し困難な部類に入っていて」
「まあ」

 彼女は青い瞳を見開く。
 他国の者が読むには相応ふさわしくないと、驚いたのだろうか?

「それは、申し訳ありませんでした。でしたら、わたくしが……書類をちょうだい」

 司書に命じるところを見ると、彼女の方が立場が上だ。クラスの者の話によれば、学園長は彼女の伯父だそう。それならかなり……使えるか?

「これって……『グランローザの薔薇は、なぜ散ったのか? ~大国の盛衰~』。政治学の本でしょう? タイトルを思い出せず、諦めたものだわ。わたくしも読みたいと思っていたの」
「それならご一緒に、いかがですか?」
 
 そう口にしたのは、彼女に惹かれたわけではなく、人となりを見極めるため。この国の貴族は、身分を笠に威張る者の集まりだと思っていたが、どうやら違うらしい。そうなると、取るべき態度も変わってくる。あくまでも、計画を練る上で必要なことだ。


 
 難解な専門用語は私が教え、この国独自の考え方は彼女が解説する。たとえを交える話し方には好感が持て、生徒会長のリヴィアーナとは気が合いそうだ。彼女は語学にも精通しており、特殊な言語に対しての理解も早い。

「休憩しよう」と言われて顔を上げると、桃色の髪の少女がすぐ近くでキョロキョロしていた。彼女も生徒会所属で……名は、アリアと言ったか。先日学園を案内してくれたが、くるくる変わる表情が愛らしかった。思い出すと同時に、口元が緩む。

 賢い女性は尊敬できて好きだが、側に置くなら抜けている方が可愛い。隣に座るリヴィアーナも、同じ考えだと思われる。彼女は嬉しそうな声で、アリアに呼びかけた。

「あら、アリアじゃない。こんなところに来るなんて、珍しいわね」
「会長! 隣は……な、なな、なんで?」

 大きな目が丸くなり、紫の瞳は濃さを増す。知り合って間もないはずだが、私を見て驚くとはどういうことだろう?

「……どうも」

 不可解な気持ちで頭を下げたが、アリアはまだ動揺している。

「お二人……どうして?」

 横並びで読書をしているから、変に思われたのだろうか? だとしても、彼女が気にすることではない。私は黙って目を細めた。
 一方、生徒会長のリヴィアーナは軽口を叩くと端に避け、間をポンポン手で叩く。その表情はさっきよりも数段明るい。年下のアリアは、この生徒会長にかなり気に入られているようだ。

 私と会長は、きっと似たもの同士。
 冷静な見た目に反し好奇心旺盛で、自分にないものを求めている。だからこそ、感情を素直に表現するアリアという少女に、私も彼女も目を奪われるのだろう。

「遠慮しておきます。ええーっと、探している本があるので、また今度!」

 脱兎だっとのごとく去るアリアを見て、リヴィアーナがクスクス笑う。そのせいで、私まで愉快な気持ちになってくる。

 これは今だけ――
 重要な任務があることを、忘れてはならない。
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