5 / 85
友人と言う名のお世話役
ゲームの記憶
しおりを挟む
「今日からお前は紫記だ。特待生として、俺達と同じ学園に通ってもらう」
そう言って紅は、彼らの通う予定である『私立彩虹学園』の制服を私に手渡した。けれどそれは、青と黒の男子の制服。その時の衝撃は未だに忘れられない。
「親父や長谷川のおじさん達も了承している。特待生ならお金もかからない。紫は引き続き、私達のお目付け役だそうだ」
蒼にも念押しされた。
彼らの通う『私立 彩虹学園』の特待生に空きがあるという。ただし、男子である彼らが推薦できる男子生徒の枠のみ。通常では絶対に入れない有名私立だし、タダならうちの親は反対する気なんてないと思う。
私の両親も櫻井家には恩義を感じている。
せっかくの好意を無駄にすることもできないので、自宅の売却はせずにその分だけでも返済しようと頑張っている。さすがに娘一人に負担をかけようとはしてないみたいだ。
「いいなぁ、兄さんたち。僕は来年まで紫ちゃん……紫記に会えないのか」
言いながら、黄までイタズラを仕掛けた時のような面白そうな顔をしている。これはいつもの彼らの冗談……ではなさそうだ。
私はかなりショックを受けた。せっかく受験した公立の進学校に行けないのは残念だし、高くて有名な私立に「特待生枠で入学しろ」と言われて驚いたのは事実だ。けれど、問題はそこではない。男装しろと言われるのも、今となっては些細なこと。「お金もかからない」という言葉に反応してしまうのは、悲しいけれど。
それよりも、もっとすごいことがわかってしまったのだ。
ここが、以前私が楽しんだ乙女ゲーム『虹色奇想曲』の世界だということを。幼なじみの櫻井三兄弟はその登場人物。そして、ヒロインの攻略対象の一人であった『紫記』は、確かに私のような顔立ちをしていた――
『虹色奇想曲』は、櫻井三兄弟の父親が理事長を務める『私立彩虹学園』を舞台にした、学園ものの乙女ゲームだ。転校生としてやってきたヒロインの花澤 桃華が、虹の七色の名を持つ誰かと恋に落ちる話だ。
攻略対象は全部で七人。わかりやすく名前に色が付いている。紅輝、蒼士、黄司の他に橙也、藍人、碧なんて人物も登場する。そして、紫記。
ヒロイン役のプレイヤーは彼らの好感度を上げて、特定の一人とのハッピーエンドを目指す。ヒロイン自身の卒業式でゲーム終了。良くてハッピーエンド、悪くてもノーマルエンドとなる。
前世の私は、このゲームのヒロインにライバルキャラが出てこない所が好きだった。悪役令嬢なんてものが存在しないから、純粋に攻略対象との恋愛を楽しめる。ノーマルエンドでも未来を予感させる内容だったし、平和な展開と甘い言葉に癒された覚えがある。イケメン達との素敵な学園生活は楽しく、ほのかに憧れを抱いていたような気もする。
どうして気がつかなかったのだろう?
聞き覚えのある名前ばかりだったのに。
それに、前世の日本に『財閥』なんてものはなかった。確か戦後に解体されてたんじゃなかったっけ?
以前の生活はぼんやりとしか覚えていない。不思議なことに、ゲームの内容の方が鮮明に思い出せるのだ。覚えていないなら、そこまで大した人生を送ったわけでもなさそうだ。
それよりも、ここがゲームの世界だと気づいたことで、一つだけわかったことがある。虹色の名前の彼らは、高等部二年の春にヒロインと出会う。つまり、あと一年。一年だけ頑張れば、世話役は要らなくなる。だって、ヒロインに恋した彼らは、彼女に気に入られようと急激に成長するのだ。
思わず泣いてしまいそうだ。
寂しさなのか、嬉しさなのか。
クールが売りの『紫記』がそれではいけない。
「もしもーし、紫、聞いてる? 嫌ならこの前お前ん家で話した通り、俺と婚約する? そしたらしっかりするから、世話役なんて要らなくなるかも」
紅、何をバカなことを。
あれは冗談のはず。
家の借金はまだ半分も返せていないのだ。
世話役を蹴って面白半分の婚約なんて受けるわけがないでしょう?
「紫は前から堅実な方が好きだろう? 男装して無理に学園に通わなくても、私を選べば楽になれる」
蒼まで似たようなことを。
同情してくれるのは嬉しいけれど、婚約ってそんな簡単なものじゃないんだよ? ヒロインが転校してきたら、解消することがわかっているのに。噂になるし絶対に嫌だ。
「紫は当然僕を選ぶよね? 兄さんたちは腹黒だし、男子寮は危険がいっぱいだよ? だったら僕の婚約者としてここに残って、好きな学校に通った方がいいと思うよ」
黄、婚約したからといって、これ以上の資金援助を受けるわけにはいかないの。第一まだ若いのに、人生縛られてもいいの?
というよりあの時のうちの父の冗談を、彼らが真に受けているとは思わなかった。あれはその場のノリで出た話。うちの親も、何も本気で娘の私を押し付けようとは思っていない。
あと少しでヒロインが現れる。
全員が彼女に夢中になると知っていて、嘘でも婚約したいと思うわけがない。第一身分不相応だし、ヒロインに惹かれるあなた達の邪魔はしたくない。
それに、虹は七色なければいけない。
紫記がいないと『虹色奇想曲』――『虹カプ』のストーリーは始まらず、みんなが幸せにはなれない。ゲームの内容なら頭の中に大体入っている。来年の今頃、三兄弟はヒロインの虜になっている。他の女性や私には、見向きもしなくなるだろう。
「『紫記』で構わない。学園の卒業資格はまともに与えられるんでしょう?」
「親父はそう言っていた。カリキュラムはまともだし、卒業後に性別や名前を書き換える位わけないそうだ」
蒼が答える。
いや、本来それやっちゃあダメだから。
「だったら今日から『紫記』と呼んで」
私は言った。長く伸ばした髪は切るつもり。男子用の制服も、たぶん似合うと思う。
それでなくても『私立彩虹学園』の卒業生はそれだけでステイタスだ。下手な進学校よりも就職率が高いと聞く。だったら私は、文字通り名を捨てて実を取ることにしよう。
『紫記』のキャラクターなら演じられる。セリフや出で立ち、行動パターンなども記憶しているから。まさか女性の私が攻略者の一人になるとは、思いもしなかったけれど。
どちらにしてもあと少し。
女の子だとバレないように振る舞えば、いずれ彼らからは離れられる。
「意地っ張りめ」
男子として学園に通うと決めた私に、言い出したはずの紅がボソッと呟いた。
そう言って紅は、彼らの通う予定である『私立彩虹学園』の制服を私に手渡した。けれどそれは、青と黒の男子の制服。その時の衝撃は未だに忘れられない。
「親父や長谷川のおじさん達も了承している。特待生ならお金もかからない。紫は引き続き、私達のお目付け役だそうだ」
蒼にも念押しされた。
彼らの通う『私立 彩虹学園』の特待生に空きがあるという。ただし、男子である彼らが推薦できる男子生徒の枠のみ。通常では絶対に入れない有名私立だし、タダならうちの親は反対する気なんてないと思う。
私の両親も櫻井家には恩義を感じている。
せっかくの好意を無駄にすることもできないので、自宅の売却はせずにその分だけでも返済しようと頑張っている。さすがに娘一人に負担をかけようとはしてないみたいだ。
「いいなぁ、兄さんたち。僕は来年まで紫ちゃん……紫記に会えないのか」
言いながら、黄までイタズラを仕掛けた時のような面白そうな顔をしている。これはいつもの彼らの冗談……ではなさそうだ。
私はかなりショックを受けた。せっかく受験した公立の進学校に行けないのは残念だし、高くて有名な私立に「特待生枠で入学しろ」と言われて驚いたのは事実だ。けれど、問題はそこではない。男装しろと言われるのも、今となっては些細なこと。「お金もかからない」という言葉に反応してしまうのは、悲しいけれど。
それよりも、もっとすごいことがわかってしまったのだ。
ここが、以前私が楽しんだ乙女ゲーム『虹色奇想曲』の世界だということを。幼なじみの櫻井三兄弟はその登場人物。そして、ヒロインの攻略対象の一人であった『紫記』は、確かに私のような顔立ちをしていた――
『虹色奇想曲』は、櫻井三兄弟の父親が理事長を務める『私立彩虹学園』を舞台にした、学園ものの乙女ゲームだ。転校生としてやってきたヒロインの花澤 桃華が、虹の七色の名を持つ誰かと恋に落ちる話だ。
攻略対象は全部で七人。わかりやすく名前に色が付いている。紅輝、蒼士、黄司の他に橙也、藍人、碧なんて人物も登場する。そして、紫記。
ヒロイン役のプレイヤーは彼らの好感度を上げて、特定の一人とのハッピーエンドを目指す。ヒロイン自身の卒業式でゲーム終了。良くてハッピーエンド、悪くてもノーマルエンドとなる。
前世の私は、このゲームのヒロインにライバルキャラが出てこない所が好きだった。悪役令嬢なんてものが存在しないから、純粋に攻略対象との恋愛を楽しめる。ノーマルエンドでも未来を予感させる内容だったし、平和な展開と甘い言葉に癒された覚えがある。イケメン達との素敵な学園生活は楽しく、ほのかに憧れを抱いていたような気もする。
どうして気がつかなかったのだろう?
聞き覚えのある名前ばかりだったのに。
それに、前世の日本に『財閥』なんてものはなかった。確か戦後に解体されてたんじゃなかったっけ?
以前の生活はぼんやりとしか覚えていない。不思議なことに、ゲームの内容の方が鮮明に思い出せるのだ。覚えていないなら、そこまで大した人生を送ったわけでもなさそうだ。
それよりも、ここがゲームの世界だと気づいたことで、一つだけわかったことがある。虹色の名前の彼らは、高等部二年の春にヒロインと出会う。つまり、あと一年。一年だけ頑張れば、世話役は要らなくなる。だって、ヒロインに恋した彼らは、彼女に気に入られようと急激に成長するのだ。
思わず泣いてしまいそうだ。
寂しさなのか、嬉しさなのか。
クールが売りの『紫記』がそれではいけない。
「もしもーし、紫、聞いてる? 嫌ならこの前お前ん家で話した通り、俺と婚約する? そしたらしっかりするから、世話役なんて要らなくなるかも」
紅、何をバカなことを。
あれは冗談のはず。
家の借金はまだ半分も返せていないのだ。
世話役を蹴って面白半分の婚約なんて受けるわけがないでしょう?
「紫は前から堅実な方が好きだろう? 男装して無理に学園に通わなくても、私を選べば楽になれる」
蒼まで似たようなことを。
同情してくれるのは嬉しいけれど、婚約ってそんな簡単なものじゃないんだよ? ヒロインが転校してきたら、解消することがわかっているのに。噂になるし絶対に嫌だ。
「紫は当然僕を選ぶよね? 兄さんたちは腹黒だし、男子寮は危険がいっぱいだよ? だったら僕の婚約者としてここに残って、好きな学校に通った方がいいと思うよ」
黄、婚約したからといって、これ以上の資金援助を受けるわけにはいかないの。第一まだ若いのに、人生縛られてもいいの?
というよりあの時のうちの父の冗談を、彼らが真に受けているとは思わなかった。あれはその場のノリで出た話。うちの親も、何も本気で娘の私を押し付けようとは思っていない。
あと少しでヒロインが現れる。
全員が彼女に夢中になると知っていて、嘘でも婚約したいと思うわけがない。第一身分不相応だし、ヒロインに惹かれるあなた達の邪魔はしたくない。
それに、虹は七色なければいけない。
紫記がいないと『虹色奇想曲』――『虹カプ』のストーリーは始まらず、みんなが幸せにはなれない。ゲームの内容なら頭の中に大体入っている。来年の今頃、三兄弟はヒロインの虜になっている。他の女性や私には、見向きもしなくなるだろう。
「『紫記』で構わない。学園の卒業資格はまともに与えられるんでしょう?」
「親父はそう言っていた。カリキュラムはまともだし、卒業後に性別や名前を書き換える位わけないそうだ」
蒼が答える。
いや、本来それやっちゃあダメだから。
「だったら今日から『紫記』と呼んで」
私は言った。長く伸ばした髪は切るつもり。男子用の制服も、たぶん似合うと思う。
それでなくても『私立彩虹学園』の卒業生はそれだけでステイタスだ。下手な進学校よりも就職率が高いと聞く。だったら私は、文字通り名を捨てて実を取ることにしよう。
『紫記』のキャラクターなら演じられる。セリフや出で立ち、行動パターンなども記憶しているから。まさか女性の私が攻略者の一人になるとは、思いもしなかったけれど。
どちらにしてもあと少し。
女の子だとバレないように振る舞えば、いずれ彼らからは離れられる。
「意地っ張りめ」
男子として学園に通うと決めた私に、言い出したはずの紅がボソッと呟いた。
10
あなたにおすすめの小説
家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。
Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。
女の子に間違われる地味男子――白雲凪。
俺に与えられた役目はひとつ。
彼女を、学校へ連れて行くこと。
騒動になれば退学。
体育祭までに通わせられなくても退学。
成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。
距離は近い。
でも、心は遠い。
甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。
それでも――
俺は彼女の手を引く。
退学リミット付き登校ミッションから始まる、
国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる