私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です

きゃる

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友人と言う名のお世話役

橙也

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 仕度が出来た三人と、食堂にご飯を食べに行く。私は食堂と呼んでいるけれど、正確にはカフェテリアだ。ツタの絡まるレンガのオシャレな建物で、男子寮の隣にある。ちなみに、女子の方は近代的な白い建物で、こちらよりもスイーツのメニューが充実している。 
   たまに内覧会というか見学会があり、その日は互いのカフェテリアに自由に入ることができる。

 今朝は洋食だった。
 クロワッサンとカフェオレとチキンサラダに、ふわふわのオムレツやジュレなんかもある。おしゃれな朝食をとった後、隣の寮から中庭を通って校舎の方に移動する。

 女生徒達は今朝も張り切っているようだ。きれいに列を作り、中庭で待っている。

「黄司く~~ん、可愛いー」
「紅輝様~、こちらを向いて下さーい!」
「キャーッ、蒼士様~」
「紫記様、素敵ー!」

 時々間違えて私の名前も呼ばれる。
 黄色い声に応える櫻井三兄弟は芸能人みたいだ。彼らがあんなに寝起きが悪いとは、誰も思っていないだろう。これがいつもの彼らの朝。
   さっき「紫記」と叫んだ声が桃華に似ていたと思ったのは……きっと勘違いだろう。



 ホームルームの後は早速授業が始まる。学園のカリキュラムは、多分普通の高校と同じだ。そこに、セレブ校ならではのダンスや乗馬、礼儀作法のレッスンなどが入ってくる。
 今日はダンスの授業だった。
 男装している私は、当然男性パート。常に女子とパートナーを組む。ダンスは体育の授業みたいなものだから、隣のクラスと合同だ。蒼と藍人あいと橙也とうやなんかも一緒にいる。男子は黒、女子は銀色のジャージ姿だ。

 橙也は前回、ワルツまでチークダンスのように踊っていた。彼には似合っていたけれど、後から講師にこっぴどく怒られていた。まあ、彼とパートナーを組んでいた女子に、異論は全くなかったようだ。
 ちなみに私は、毎朝早起きしてしっかりさらしを巻いている。そのため、ぴったりくっついても女子だとバレる心配はない。「元々胸が小さいからだろう」というご意見は、受け付けておりませんのであしからず。
 考えに浸っていたら、ダンスの講師に突然指名をされてしまう。

「野沢さんが風邪で欠席なので、長谷川さん、急ですが女性パートをお願いします」
「承知しました」

 私は頷いた。
 女性側は残念ながら上手く踊れないけれど、そこまで求められてはいないだろう。今までの実績があるから、女性パートを踊っても女の子だとバレない自信はある。ちょっぴり複雑だけど。

「先生! それはどうしてですか?」

 手を挙げて桃華が質問している。
 私――『長谷川はせがわ 紫記』は、出席番号の近い『花澤はなざわ 桃華』と組むはずだったから。

「出席番号順ですけれど。あくまでも授業なので、私語は慎むように」

 いきなり注意を受けている。
 ヒロイン、なんだかゲームと印象が違う。『虹カプ』ではもっと、たおやかだったイメージが……
 可愛らしくふくれる桃華。だけど私はホッとした。紫記は本来なら彼女の攻略対象だけど、私は女性なので攻略は無理。桃華には他の男性――特に櫻井三兄弟の誰かと仲良くなってもらいたい。

 私が抜けたので『花澤 桃華』は『宮野みやの 橙也』と組むことになる。『櫻井』では遠すぎるし、『神谷かみや 藍人』はもっと離れている。
 ところが予想は外れた。色々ずれたせいで、私が橙也と組むことになってしまったのだ。攻略対象同士、しかも他人から見れば男同士になる。
   なぜか一部の女子は喜んでいる。まあ、授業だから仕方がないか。橙也とは友人同士だし、不自然な動きにならないよう淡々とこなせばいい。

 桃華の相手は、ゲームとは全然関係のないクラスの男子だった。ここで紅や蒼、藍人なんかだと運命を感じるのに。
   設定通りだとすると、間もなく蒼と廊下でぶつかって、近日中に紅にお姫様抱っこで保健室まで運ばれる。彼らの運命の歯車が動き出すのは、もうすぐ。その時私はようやく、世話役からは解放される。

「ねえ、紫記。気づいてた? 紅輝と蒼士がすごい顔で俺達を睨んでるけど……」

 まともにワルツを踊りながら、橙也が私に話しかけてくる。彼は女性に優しく男性に厳しいと定評がある。今の私は、ある意味とても安全だ。その気になれば橙也は、誰よりも優雅にステップを踏むことができる。

 確かに、紅も蒼もこっちを見ている。でもそれって、私の男装がバレないかと心配しているんだと思う。焦らなくても、女性パートを踊ったくらいでバレるような、下手なキャラ作りはしてないよ?   私は適当にごまかすことにした。

「そうか? 橙也の気のせいだと思う」
「またまたぁ。幼なじみだったよね? 紫記ちゃんが可愛いから、気持ちはわからないでもないけど」

 橙也が私をからかってくる。
 彼だけは時々、私に『ちゃん』を付けて呼ぶことがある。当初はバレたのかと思って冷や冷やしたけれど、それは彼の癖だとわかった。今は友人として仲良くしているから、彼の言葉にいちいち動揺なんてしない。

「バカな。僕にそんな趣味はない」
「知ってる。でも、人の想いまでは変えられないよね?」
「それ、紅と蒼が聞いたら絶対怒るぞ」

 私は苦笑して言った。
 たとえば――私が男装せずに本来の長谷川 紫だったとしても、彼らは今と同じく私を女の子扱いしないだろう。ただの幼なじみ、下手したら男兄弟くらいの感覚でいるかも。だから以前、さっさと彼女を作った。私に内緒で、自分達だけの世界を作って離れてしまった。

 現に今、同じ部屋でも彼らは平気で着替える。甘えてくることはあっても手は出されないから、三人とも私に興味はないようだ。まあ、世話役としか見ていないから、女の子だと考えたこともないんだろうけどね?

「そう? これでも、勘は良い方なんだけどなー」
「もういいだろう。そんなに大事な話か?」

 私は頭を振って彼の言葉を否定した。けれど、曲が終わって離れる直前――
 橙也が私の頬にサッとキスを落とした。

「なっ、橙也! ふざけるのもいい加減にしろっ」

 頬に手を当て声を荒げた。
 からかうにしたってちょっとひどい。女子から悲鳴が上がっている。男子の私――本当は違うけど……にこんなことをしたのを見て、彼のファンがショックを受けたのだろう。

「そこ、騒ぎの原因はまたあなたですか!   宮野さんっ」

 橙也も懲りてないよね。
 ふざけるにしたって、限度がある。
 この分だと、また呼び出されてお説教かな? 私は肩を竦めると、同意を求めて幼なじみ達を見た。
 ところが――

「ええっと……もしかして、何か怒ってる?」

 表情を消した真顔の紅と眼鏡の位置をしきりに直す蒼。こういう時の彼らはかなり怒っている。何でだろう。橙也が授業中、不真面目だったから? だけど私の男装がバレたわけではない。それとも、二人とも組んだ女の子が下手でうんざりしたのだろうか?

 タイミングよくチャイムが鳴った。
 怒っている時の彼らは、放っておくに限る。
 橙也のファンからも文句を言われる前に、さっさと戻ることにしよう。
 私は向きを変えると、足早にホールを後にした。
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