私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です

きゃる

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それぞれの想い

いったいどっち?

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「れ、れれれ0点~~~~!?」
「まあ、そうなるな。受けてないなら点はない。ただし、今日中に持って行けばいいそうだ」

 放課後の教室。
 私は蒼に向かって絶叫していた。
 体育館に行こうとしていたところ、彼に呼び止められたのだ。
 彼が手にしているのは化学の問題が書かれたプリント。いわゆる小テストだった。
 何てこったい!
 人生初の0点を取ってしまった私。というか、この前の化学のテストを受けていない。あの日は確か捻挫したのをいいことに、そのまま保健室で爆睡していたんだった。小テストがあることをすっかり忘れていた。しまった、ゆっくりしている場合じゃなかった。

「今日も体育祭の練習後に保健室に行ったんだって? 体調が悪いなら、無理せず言えと言っただろう」
「えっと、今日のは単にコンタクトが外れただけで……」
「そうか、良かった。てっきりまた、昔のように熱を出したのかと思った」

 ホッとした顔の蒼に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。瞳の色は私がこだわらなければいい話だ。だけど……

「ごめんね、心配かけて」
「いや、いい。それよりこれを。お前ならすぐに解けると思うが、わからなかったら聞いてくれ」
「それじゃあテストにならないし」
「まあ、私を監督に指名した時点で先生もわかっているだろう。彼女なりに先日の実験の責任を感じているのかもしれない」
「そうかなぁ」

 男子生徒に人気の化学の先生は、特に蒼と仲がいい。というより、蒼は生物や化学の教師によく呼び出されて研究室の掃除や手伝いをしている。取扱い注意の劇薬や高価な器具が多いため、ある程度の知識がないと難しいからなんだとか。でも私は密かに、先生はイケメンの蒼を近くで鑑賞したいためだと睨んでいる。
 
「蒼はヒロインのものなのに……」

 ボソッと呟く。
 桃華が紅のルートを狙っているのだとしても、攻略対象達は構わずどんどん出てくるから。一番うろつくのが紫記だとしても、それ以外もまんべんなく桃華に近づき好意を得ようと努力する。

「何か言ったか?」
「いえ、別に」

 蒼は目の前の席に腰を下ろすと、長い足を組んで座った。片手に読みかけの本を持ち、監督する気満々だ。ここまで近くで見られると、逆に緊張するというか何というか。それに、問題のプリントを見て驚いた。
 うげ。これ、めちゃくちゃ難しいんですけど。

「ああ、そういえば。公平を期するために前回の小テストとは問題を変えてあるそうだ。その代わり減点なしで採点してくれることになった」

 いや、これって問題を変えるとかそんなレベルじゃないような気がする。この前の硝酸銀水溶液を使った実験がどこにも反映されていない。思いっきり応用問題で、化学式も複雑だ。まさか先生、蒼の近くにいる私のことを快く思っていないんじゃあ。
 女の子だとバレていないはずなのにおかしいな? それともこのプリントって先生の趣味?

「途中までは解けそうだけど……」
「つまずいたら聞いてくれ。そのために私がいる」
「ありがとう。一人では無理みたい」

 今までに習った部分はできた。
 けれど応用問題のレベルが高すぎて、結局蒼に質問する羽目になってしまった。わからないので説明を一言も聞き漏らさないよう、蒼にくっつく。彼は教え方が上手いので、とてもわかり易い。だけどやっぱりこれって、高等部の化学というより大学の専攻に近い感じがする。

「うーん、わかったけどすごく難しい。専門的な知識がなきゃ絶対に解けないよね。蒼、これ本当に小テスト?」
「何か問題でも?」
「いや、問題だらけだよ。何だか一人だけ取り残された気分」

 名誉のために言っておきたいけれど、私は決して頭が悪いわけではない。むしろ、成績は上位で化学は好きな方。でも今回のこれはひどすぎる。蒼にしかわからないような難問を出してくるなんて。

「頑張れ。あと少しで終わるから」

 頭ポンポンしながらいい笑顔でそんなことを言われても……
 あれ? でも、蒼が放課後の教室で勉強を教えるのって『虹カプ』の桃華に対してじゃなかったっけ? 理数系が苦手な彼女に、蒼が手とり足とり丁寧に勉強を教えるシーンがあった。何度か繰り返すうちにどんどん好感度がアップして、そして二人は――



「もうお帰りになったかと思っていました。こんな所にいらしたんですね?」

 うわ、びっくりした!
 ちょうど考えていた当人――桃華が教室に飛び込んできたのだ。
 いったいどうしたんだろう? 
 彼女はだいぶ前に女友達と一緒に、体育館に紅の応援に行ったはずだ。ちなみに紅は現在、バスケットボールの試合中。他校との練習試合があるとかで、藍人と共に助っ人として駆り出されている。バスケ部よ、勝ちにこだわるのはいいけれど、本当にそれでいいのか?
 
「何だ、後にしてくれ」

 蒼が冷たくぶった切る。
 でも、桃華は蒼に用事があるのでは?
 それともまさかゲーム補正?
 ヒロインのシーンを私が横取りしそうになったから、自ら登場したのかな。だったらこの場は退場して、蒼を彼女に返さないと。

「ええっと、じゃあ後は自分の教室に戻って一人で解くから。ごめん、ありがと」
「あと少しだろ。諦めるのか?」
「いや、そんなわけでは……」

 ……ある。これ以上はどう頑張ったってさすがに無理だ。問題は半分以上解けたから、平均点くらいはいくだろう。仮に悪くても小テストだし、特待生制度に影響を及ぼすほどの比重ではないはずだ。
 それより、桃華が蒼に会いに来たのなら、私はここにいない方がいい。そう思って桃華に視線を送ると、しれっとした表情をしている。何を考えているんだろう。紅の方はいいのかな?

「じゃあ、終わるまでお待ちしてますね」
「蒼、僕はもういいから」

 訴えてみるが、首を横に振られてしまった。何で? 桃華を優先しなくていいの?

「ええっと。終わったら体育館に呼びに行くから、それまで応援しといてあげて」

   私は桃華に言った。
 その方が、紅は頑張れると思う。
 もちろん、藍人も。
 早くしないとヒロインがいない間に試合が終わってしまう。

 本当は私も、紅の試合を見たかった。
 去年までは時々応援に行っていたから。シュートを決めた後の得意そうな様子や、目が合った時に笑いかけてくれる紅を見ると、世話役で良かったなって思える。
 今日だって蒼に呼び止められていなければ、そのまま体育館に向かっていた。
 だけど――

 ああ、そうか。
 これからは、紅が笑いかける相手は私じゃない。それは桃華の役目だ。彼女は紅が好きなようだし、紅だって、桃華のことが好きだと隠そうともしていなかったし。でもおかしいな。だったら何で蒼の方に来たんだろう。桃華が好きなのは、いったいどっち?

「紫記、他人のことより自分のことだ。早く解かないと先生が帰ってしまう」

 そうだ。
 二人のことを考えている場合じゃなかった。

「花澤さん、早く戻ってあげて。君が応援しないと紅は頑張れない」

 言ってて悲しくなるけれど。
 私はヒロインじゃなく、ただの幼なじみで世話役。紅や蒼を元気にするのはヒロインの役目だ。
 けれど、桃華はここから動く気はないらしく、蒼も彼女を見てため息をついている。そんなに二人きりになりたいのなら、私のことは放っておいてくれればいいのに。
 何だかすっかりお邪魔虫の気分だ。
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