41 / 85
それぞれの想い
体育祭3
しおりを挟む
待機場所には桃華もいない。
もしかしてもう、こっちに向かって走っている?
「ほら、紫記。チェックだ」
「あ……ああ。ごめん」
藍人とつないだ手を上に上げる。
審査は無事、通過した。
藍人と私がとっくにゴールした後で、紅が喚きながら戻って来た。
「お前ら、頭おかしいだろ!」
どんなカードを引いたんだろう?
近付くにつれ、カードを見なくてもはっきりわかった。これはあれだな、運が悪いとしか言いようがない。
『人体模型』
生物室のリチャード君(橙也命名)を抱えた紅がゴールする。何を持っても大抵似合うけど、さすがにこれは。
期待していた女の子達のため息が痛々しい。きっと桃華も……あれ? 面白そうにケラケラ笑っている。いつの間に戻っていたんだろう。でもまあ、ヒロインが喜んでいるからいいのかな?
借り物競争で『好きな人』のカードはまだ出ていないようだ。もしかしたら、ただの噂だったのかもしれない。男女交際が禁止されていないとはいえ、生徒会が率先して用意するとは思えないから。ゲームでも、そんな設定なかったし。
男子の後は女子の番だ。
華がないということで、我々男子は全員応援席に帰された。紅の隣に座った私は、彼に耳打ちされる。
「紫記、さっきの約束覚えているか?」
「約束? ……ああ」
言いたいことがあるって言ってたことかな? 約束とはちょっと違うような気がしたけれど、言い間違えたのだろう。
「紫、聞いてくれ。俺は――」
歓声がうるさくてよく聞こえない。
それもそのはず、桃華がこっちに向かって一直線に走って来たのだ。引いたカードを振りながら、大声を出している。ヒロインが紅の所に来るなら、理由はただ一つ。まさか、桃華の引いたカードって……
「出ました、大当たりです。お願いしまーす!」
頬を染めて嬉しそうな桃華は本当に可愛らしい。
『好きな人』を引き当てるなんて、さすがはヒロインだ。覚悟していたとはいえ、間近でカードを見せられた瞬間、目の前が真っ暗になったような気がした。
良かったね、紅。
今日から二人は晴れて両想いだ。
咄嗟に顔を背けてしまう。
二人を応援しなくちゃいけないと思う一方で、悲しくなる。私の世話役ももうすぐ終わり。
なのに――
「え……あれ? 桃……花澤さん、相手を間違えてるよ?」
「いいえ。紫記様、お願いします」
「はい?」
「ほら、早く!」
言いながら桃華は、私の手首を掴んだ。
ちょっと待とうか。桃華って紅が好きなんだよね? その証拠に、紅が何とも言えない表情をしている。
「もしかして、二人の仲が秘密だから?」
立ち上がりながら聞いてみる。
二人共美男美女でやっかみが多いから、私を隠れ蓑に使おうとしているのかもしれない。
「何のことです? 紫記様、私のカード見ました?」
走りながら桃華が言う。
さすがヒロイン、息が乱れていない。
「ああ。『好きな人』だったよね。だったら……」
「だから紫記様なんですよぉ。キャッ、言っちゃった!」
「……え」
聞いた瞬間、耳を疑った。
もしかして私、何か聞き間違えた?
「ほら、立ち止まっちゃダメですよ?」
桃華にすごい力で引っ張られてしまう。引きずられているといった方が正しいかもしれない。
でも待って。桃華は紅といる時こっちを見てたよね? ――紅が近くにいない時は、別に気にしてなかったけど。
バスケの試合の時も、私の代わりにハンカチを紅に届けてくれた。――まあ、私が頼んだからなんだけど。
演舞の練習を毎日見に来ていたし、紅と一緒に私を探してくれたこともあったし……
呆然としながらゴール前のチェックを受ける。嬉しそうな桃華に対して私は真顔。だって、背中を冷や汗が伝っているから。確かに、紅の側には私もいた。だけど、桃華は紅を見ているんだとばかり思っていた。
まさか、紅よりも私のことが本当に好きだとか?
「好きな人と一緒にゴールテープが切れるなんて、夢のようです」
ひえぇぇぇー!
びっくりして、思わず飛びのいてしまった。桃華には申し訳ないけれど、夢は夢でも私にとっては悪夢かもしれない――
フラフラと自分の席に戻る。
運動場は一年生による玉入れで、黄が活躍しているはずだけど、全く目に入らない。
こんなことって――
いくら攻略難易度が低いとはいえ『紫記』は架空の存在で、正体は女の子である私――紫だ。当然、ヒロインと恋に落ちることはない。それなのに、よりにもよって私が好きだなんて、どうしちゃったんだろう? 今まで桃華には、なるべく素っ気なく冷たく接していたのに。
桃華のことが好きな紅はどうなるの? 蒼や黄、それに藍人は? 橙也はまあ、グレーだからいいとして。これって、紅から桃華を取ったことになるのかな。でも、攻略対象とはいえ私は女の子。だから、ヒロインがいくら可愛くてもさすがに無理だ。
「どうした。ついでに告白されたのか?」
紅が冗談めかして聞いてきた。
本当はすごく辛いに違いない。
桃華も気になるようで、後ろを振り返って私達を見ている。
ほら、いつもこんな感じだったから。だから私は、桃華が好きなのは紅の方だと思っていた。
「……内緒だ。それより紅の言いたいことって?」
いくら相手が紅でも、桃華が聞いているところで彼女の話はできない。でも、さっきの桃華のカードを彼も目の前で見ていたはずだ。気にならないのかな?
まあ、紅は私が女の子だと知っているから、桃華の気持ちに応えられないことはわかっている。だから平気なのかな。
「うるさくて、ここでは話せないみたいだ。演舞の後に時間をくれ」
「わかった」
きっと、桃華への熱い想いを語るのだろう。どんなに彼女を好きなのか、聞かされるのかも。
それまで私も考えを整理しておこう。要は、私が桃華を手ひどく振ればいいだけの話だ。そうすれば紅が桃華を慰めるから、二人はそこから急接近するに違いない。
人生初の告白は桃華から。ヒロインを騙していて申し訳ないけれど、彼女の真剣な想いは否定しなければならない。断るための正当な理由として、性別をバラせればいいのだろうけど、それもできない。バレれば特待生枠を外されて、学園にいられなくなってしまうからだ。
考えれば考えるほど、自分はひどいやつだ。断る言葉をどうしようかと考えていたら、楽しいはずの体育祭が一気に憂鬱になってきた。
でも、この後の演舞は一生懸命練習したのだ。紅や赤組のみんなのためにも、何とか乗り切らないといけない。
もしかしてもう、こっちに向かって走っている?
「ほら、紫記。チェックだ」
「あ……ああ。ごめん」
藍人とつないだ手を上に上げる。
審査は無事、通過した。
藍人と私がとっくにゴールした後で、紅が喚きながら戻って来た。
「お前ら、頭おかしいだろ!」
どんなカードを引いたんだろう?
近付くにつれ、カードを見なくてもはっきりわかった。これはあれだな、運が悪いとしか言いようがない。
『人体模型』
生物室のリチャード君(橙也命名)を抱えた紅がゴールする。何を持っても大抵似合うけど、さすがにこれは。
期待していた女の子達のため息が痛々しい。きっと桃華も……あれ? 面白そうにケラケラ笑っている。いつの間に戻っていたんだろう。でもまあ、ヒロインが喜んでいるからいいのかな?
借り物競争で『好きな人』のカードはまだ出ていないようだ。もしかしたら、ただの噂だったのかもしれない。男女交際が禁止されていないとはいえ、生徒会が率先して用意するとは思えないから。ゲームでも、そんな設定なかったし。
男子の後は女子の番だ。
華がないということで、我々男子は全員応援席に帰された。紅の隣に座った私は、彼に耳打ちされる。
「紫記、さっきの約束覚えているか?」
「約束? ……ああ」
言いたいことがあるって言ってたことかな? 約束とはちょっと違うような気がしたけれど、言い間違えたのだろう。
「紫、聞いてくれ。俺は――」
歓声がうるさくてよく聞こえない。
それもそのはず、桃華がこっちに向かって一直線に走って来たのだ。引いたカードを振りながら、大声を出している。ヒロインが紅の所に来るなら、理由はただ一つ。まさか、桃華の引いたカードって……
「出ました、大当たりです。お願いしまーす!」
頬を染めて嬉しそうな桃華は本当に可愛らしい。
『好きな人』を引き当てるなんて、さすがはヒロインだ。覚悟していたとはいえ、間近でカードを見せられた瞬間、目の前が真っ暗になったような気がした。
良かったね、紅。
今日から二人は晴れて両想いだ。
咄嗟に顔を背けてしまう。
二人を応援しなくちゃいけないと思う一方で、悲しくなる。私の世話役ももうすぐ終わり。
なのに――
「え……あれ? 桃……花澤さん、相手を間違えてるよ?」
「いいえ。紫記様、お願いします」
「はい?」
「ほら、早く!」
言いながら桃華は、私の手首を掴んだ。
ちょっと待とうか。桃華って紅が好きなんだよね? その証拠に、紅が何とも言えない表情をしている。
「もしかして、二人の仲が秘密だから?」
立ち上がりながら聞いてみる。
二人共美男美女でやっかみが多いから、私を隠れ蓑に使おうとしているのかもしれない。
「何のことです? 紫記様、私のカード見ました?」
走りながら桃華が言う。
さすがヒロイン、息が乱れていない。
「ああ。『好きな人』だったよね。だったら……」
「だから紫記様なんですよぉ。キャッ、言っちゃった!」
「……え」
聞いた瞬間、耳を疑った。
もしかして私、何か聞き間違えた?
「ほら、立ち止まっちゃダメですよ?」
桃華にすごい力で引っ張られてしまう。引きずられているといった方が正しいかもしれない。
でも待って。桃華は紅といる時こっちを見てたよね? ――紅が近くにいない時は、別に気にしてなかったけど。
バスケの試合の時も、私の代わりにハンカチを紅に届けてくれた。――まあ、私が頼んだからなんだけど。
演舞の練習を毎日見に来ていたし、紅と一緒に私を探してくれたこともあったし……
呆然としながらゴール前のチェックを受ける。嬉しそうな桃華に対して私は真顔。だって、背中を冷や汗が伝っているから。確かに、紅の側には私もいた。だけど、桃華は紅を見ているんだとばかり思っていた。
まさか、紅よりも私のことが本当に好きだとか?
「好きな人と一緒にゴールテープが切れるなんて、夢のようです」
ひえぇぇぇー!
びっくりして、思わず飛びのいてしまった。桃華には申し訳ないけれど、夢は夢でも私にとっては悪夢かもしれない――
フラフラと自分の席に戻る。
運動場は一年生による玉入れで、黄が活躍しているはずだけど、全く目に入らない。
こんなことって――
いくら攻略難易度が低いとはいえ『紫記』は架空の存在で、正体は女の子である私――紫だ。当然、ヒロインと恋に落ちることはない。それなのに、よりにもよって私が好きだなんて、どうしちゃったんだろう? 今まで桃華には、なるべく素っ気なく冷たく接していたのに。
桃華のことが好きな紅はどうなるの? 蒼や黄、それに藍人は? 橙也はまあ、グレーだからいいとして。これって、紅から桃華を取ったことになるのかな。でも、攻略対象とはいえ私は女の子。だから、ヒロインがいくら可愛くてもさすがに無理だ。
「どうした。ついでに告白されたのか?」
紅が冗談めかして聞いてきた。
本当はすごく辛いに違いない。
桃華も気になるようで、後ろを振り返って私達を見ている。
ほら、いつもこんな感じだったから。だから私は、桃華が好きなのは紅の方だと思っていた。
「……内緒だ。それより紅の言いたいことって?」
いくら相手が紅でも、桃華が聞いているところで彼女の話はできない。でも、さっきの桃華のカードを彼も目の前で見ていたはずだ。気にならないのかな?
まあ、紅は私が女の子だと知っているから、桃華の気持ちに応えられないことはわかっている。だから平気なのかな。
「うるさくて、ここでは話せないみたいだ。演舞の後に時間をくれ」
「わかった」
きっと、桃華への熱い想いを語るのだろう。どんなに彼女を好きなのか、聞かされるのかも。
それまで私も考えを整理しておこう。要は、私が桃華を手ひどく振ればいいだけの話だ。そうすれば紅が桃華を慰めるから、二人はそこから急接近するに違いない。
人生初の告白は桃華から。ヒロインを騙していて申し訳ないけれど、彼女の真剣な想いは否定しなければならない。断るための正当な理由として、性別をバラせればいいのだろうけど、それもできない。バレれば特待生枠を外されて、学園にいられなくなってしまうからだ。
考えれば考えるほど、自分はひどいやつだ。断る言葉をどうしようかと考えていたら、楽しいはずの体育祭が一気に憂鬱になってきた。
でも、この後の演舞は一生懸命練習したのだ。紅や赤組のみんなのためにも、何とか乗り切らないといけない。
0
あなたにおすすめの小説
家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。
Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。
女の子に間違われる地味男子――白雲凪。
俺に与えられた役目はひとつ。
彼女を、学校へ連れて行くこと。
騒動になれば退学。
体育祭までに通わせられなくても退学。
成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。
距離は近い。
でも、心は遠い。
甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。
それでも――
俺は彼女の手を引く。
退学リミット付き登校ミッションから始まる、
国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる