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それぞれの想い
紅輝の告白
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「――え?」
気がつけば、紅の腕の中にいた。
ちょっと待って、考えが追いつかない。
これは何?
何でこんなことをしているの?
桃華のことを話していたはずだ。
なのに、この反応は何だろう。
彼女の好きな人が私だと気づいて、文句を言われるならまだわかる。それなのに、抱き締めてくるとは!?
私の髪に紅の唇が当たっている。
抱き込む腕は「離さない」とでも言うかのよう。
どうもおかしい。
だって、これではまるで――
「どうすればお前は、俺を見る」
苦しそうに言う紅の言葉にびっくりしてしまう。
お前ってどういう意味?
紅が好きなのは桃華だよね?
それなのにどうして。
待って!
いったいどういうつもり?
混乱しているくせに、心臓はうるさいくらいに音を立てている。ドキドキし過ぎて息苦しい。だって、演舞の練習でも、こんなに密着したことはなかった。
この状況は何?
だめだ、冷静にならないと。
「紅……苦しい」
腕の中でもがいてみる。
少しだけ、腕の力が弱まったような気がする。
慌てて紅の胸に手を置いて、身体を引き離そうと突っ張った。けれど、背中にあった彼の手が腰に回されただけ。腕の力が強くて押し返せないから、結局身体はぴったりくっついたままだ。
いったい、何が起こっているの?
この体勢はどういうこと?
紅の顔を見上げた私は、薄茶の瞳を覗き込んだ。
「ええっと……今って桃華の話をしていたよね?」
「いや? 俺はお前の話をしていたが」
「へ? だって、転校生と話したって……」
「ああ。彼女が、紫記には好きな人がいるって言ってきた」
「――はい?」
桃華ったら、早速バラすとはなにごとだろう。その場しのぎの嘘を、紅に言うとは思わなかった。いったいどうして? 二人ってそんな話をする間柄なの? だったら紅は今頃桃華と一緒にいるはずでは?
ますます訳が分からなくなってきた。
眉を寄せている私に、紅が話の内容を教えてくれるという。桃華も私のことを紅に喋ったし、おあいこだからいいかな。
『紫記様、他に好きな人がいるんですって』
『本人がそう言ったのか?』
『ええ。でも私、諦めない。他の女の人と呼び間違える紅輝様とは違うもの』
『他の女?』
『ええ。さっき外で、ゆかりって叫んで。まさか猫のことではないでしょう? 男同士よりもその人の方がいいんじゃないんですか?』
『……紫記は誰だと?』
『相手の名前は言えない。僕が勝手に想っているだけで、迷惑がかかると困るから、ですって。どの子かしら』
『……さあ』
『でも私、負けませんわよ。その子にも紅輝様にも』
「……というわけで、どうやら宣戦布告をされたようだ。でもまさか、お前が好きなのが藍人だとは」
「いやいや、違うから。それは勘違いだってば」
私がそう言うと、紅は大きく息を吐きだした。髪をかき上げながらのその仕草は、スチルにしたいほど色っぽい。
「だったら、好きな人がいるというのは嘘だったのか?」
紅がこちらをじっと見ている。
私が男装していると知っているので、彼には遠慮なく本当のことを言える。
「だって、桃華とは付き合えないし。断るにしたって性別をバラせない以上、好きな人がいるって言うのが一番手っ取り早いと思って」
ひどい言い分だけど仕方がない。
他にいい方法を思いつかなかったから。
でも、私のことはいいとして、紅は?
桃華の好きな人を聞くならまだしも、私の好きな相手を聞いてどうする。
「確かにな」
「紅、私のことより桃華は? 男同士って、変な勘違いをされたままだよ!」
攻略対象である紅は、ヒロインの桃華のことが好きなはず。以前、保健室でもそう言っていた。それなのに、私のことが好きだと桃華自身に誤解されたままだ。今から追いかけて訂正すれば間に合うと思う。こんな所で私を相手に油を売っている場合じゃない。
「放っておけばいいだろう?」
「そんなわけないでしょう。早く! 自分の好きな子を追いかけなくていいの?」
紅の腕を掴んだ私は、必死に訴えた。
ライバル宣言されたとはいえ、まだ桃華にフラれたわけじゃない。彼ならヒロインの心をあっさり奪える。魅力的だしその気になれば、すぐに振り向いてもらえるはずだ。それに、今のままではよくない。桃華が誰かに相談したら、『紅輝は男の子の紫記が好きだ』と変な噂が立つかもしれない。
「だからここにいる」
「……え?」
胸の鼓動が大きく跳ねた。
この先を聞いてはいけないと思う一方で、聞いてみたい気もする。
紅は私を見下ろすと、掠れた声で囁いた。
「転校生の言った通りだ。俺が好きなのは、紫……お前だ」
一瞬、自分の耳を疑う。
時が止まったようだった。
どういう反応をすればいいのかわからない。でも、桃華に告白された時とは違う、この気持ちは何だろう?
本日――人生でも二度目の告白は、まさかの紅からだった。
「どうして突然……」
「突然? いや、ずっと前からだ」
ずっと前から?
だったら、その気持ちは本物ではない。
だって紅には以前、彼女がいたはずだ。
夜も出掛けていたし、女子大生ともいちゃついていた。それに最近、攻略対象の一人としてヒロインの桃華に出会ってしまった。
今はまだ桃華に惹かれていないとしても、これから恋に落ちる可能性がある。しかも何の因果か、私は紅と同じくゲームの攻略対象だ。決して恋の相手ではない。
それに――
私と一緒では、幸せそうな三人のスチルの表情が見られなくなる。紅や蒼、黄の誰が桃華とくっついてもいいけれど、他の二人も彼女を想っていないといけない。前世でゲームが全てだった私にとって、この世界は『虹カプ』そのもの。シナリオ通りにした方が、絶対幸せになると知っている。彼らの母親であるレナさんとも約束したのだ。私が三人を幸せにするって。
ぐるぐる考える私を他所に、涼しい顔で紅が聞いてきた。
「それで? 紫、お前は俺をどう思っている?」
どうしよう。
どう答えればいいんだろう?
気がつけば、紅の腕の中にいた。
ちょっと待って、考えが追いつかない。
これは何?
何でこんなことをしているの?
桃華のことを話していたはずだ。
なのに、この反応は何だろう。
彼女の好きな人が私だと気づいて、文句を言われるならまだわかる。それなのに、抱き締めてくるとは!?
私の髪に紅の唇が当たっている。
抱き込む腕は「離さない」とでも言うかのよう。
どうもおかしい。
だって、これではまるで――
「どうすればお前は、俺を見る」
苦しそうに言う紅の言葉にびっくりしてしまう。
お前ってどういう意味?
紅が好きなのは桃華だよね?
それなのにどうして。
待って!
いったいどういうつもり?
混乱しているくせに、心臓はうるさいくらいに音を立てている。ドキドキし過ぎて息苦しい。だって、演舞の練習でも、こんなに密着したことはなかった。
この状況は何?
だめだ、冷静にならないと。
「紅……苦しい」
腕の中でもがいてみる。
少しだけ、腕の力が弱まったような気がする。
慌てて紅の胸に手を置いて、身体を引き離そうと突っ張った。けれど、背中にあった彼の手が腰に回されただけ。腕の力が強くて押し返せないから、結局身体はぴったりくっついたままだ。
いったい、何が起こっているの?
この体勢はどういうこと?
紅の顔を見上げた私は、薄茶の瞳を覗き込んだ。
「ええっと……今って桃華の話をしていたよね?」
「いや? 俺はお前の話をしていたが」
「へ? だって、転校生と話したって……」
「ああ。彼女が、紫記には好きな人がいるって言ってきた」
「――はい?」
桃華ったら、早速バラすとはなにごとだろう。その場しのぎの嘘を、紅に言うとは思わなかった。いったいどうして? 二人ってそんな話をする間柄なの? だったら紅は今頃桃華と一緒にいるはずでは?
ますます訳が分からなくなってきた。
眉を寄せている私に、紅が話の内容を教えてくれるという。桃華も私のことを紅に喋ったし、おあいこだからいいかな。
『紫記様、他に好きな人がいるんですって』
『本人がそう言ったのか?』
『ええ。でも私、諦めない。他の女の人と呼び間違える紅輝様とは違うもの』
『他の女?』
『ええ。さっき外で、ゆかりって叫んで。まさか猫のことではないでしょう? 男同士よりもその人の方がいいんじゃないんですか?』
『……紫記は誰だと?』
『相手の名前は言えない。僕が勝手に想っているだけで、迷惑がかかると困るから、ですって。どの子かしら』
『……さあ』
『でも私、負けませんわよ。その子にも紅輝様にも』
「……というわけで、どうやら宣戦布告をされたようだ。でもまさか、お前が好きなのが藍人だとは」
「いやいや、違うから。それは勘違いだってば」
私がそう言うと、紅は大きく息を吐きだした。髪をかき上げながらのその仕草は、スチルにしたいほど色っぽい。
「だったら、好きな人がいるというのは嘘だったのか?」
紅がこちらをじっと見ている。
私が男装していると知っているので、彼には遠慮なく本当のことを言える。
「だって、桃華とは付き合えないし。断るにしたって性別をバラせない以上、好きな人がいるって言うのが一番手っ取り早いと思って」
ひどい言い分だけど仕方がない。
他にいい方法を思いつかなかったから。
でも、私のことはいいとして、紅は?
桃華の好きな人を聞くならまだしも、私の好きな相手を聞いてどうする。
「確かにな」
「紅、私のことより桃華は? 男同士って、変な勘違いをされたままだよ!」
攻略対象である紅は、ヒロインの桃華のことが好きなはず。以前、保健室でもそう言っていた。それなのに、私のことが好きだと桃華自身に誤解されたままだ。今から追いかけて訂正すれば間に合うと思う。こんな所で私を相手に油を売っている場合じゃない。
「放っておけばいいだろう?」
「そんなわけないでしょう。早く! 自分の好きな子を追いかけなくていいの?」
紅の腕を掴んだ私は、必死に訴えた。
ライバル宣言されたとはいえ、まだ桃華にフラれたわけじゃない。彼ならヒロインの心をあっさり奪える。魅力的だしその気になれば、すぐに振り向いてもらえるはずだ。それに、今のままではよくない。桃華が誰かに相談したら、『紅輝は男の子の紫記が好きだ』と変な噂が立つかもしれない。
「だからここにいる」
「……え?」
胸の鼓動が大きく跳ねた。
この先を聞いてはいけないと思う一方で、聞いてみたい気もする。
紅は私を見下ろすと、掠れた声で囁いた。
「転校生の言った通りだ。俺が好きなのは、紫……お前だ」
一瞬、自分の耳を疑う。
時が止まったようだった。
どういう反応をすればいいのかわからない。でも、桃華に告白された時とは違う、この気持ちは何だろう?
本日――人生でも二度目の告白は、まさかの紅からだった。
「どうして突然……」
「突然? いや、ずっと前からだ」
ずっと前から?
だったら、その気持ちは本物ではない。
だって紅には以前、彼女がいたはずだ。
夜も出掛けていたし、女子大生ともいちゃついていた。それに最近、攻略対象の一人としてヒロインの桃華に出会ってしまった。
今はまだ桃華に惹かれていないとしても、これから恋に落ちる可能性がある。しかも何の因果か、私は紅と同じくゲームの攻略対象だ。決して恋の相手ではない。
それに――
私と一緒では、幸せそうな三人のスチルの表情が見られなくなる。紅や蒼、黄の誰が桃華とくっついてもいいけれど、他の二人も彼女を想っていないといけない。前世でゲームが全てだった私にとって、この世界は『虹カプ』そのもの。シナリオ通りにした方が、絶対幸せになると知っている。彼らの母親であるレナさんとも約束したのだ。私が三人を幸せにするって。
ぐるぐる考える私を他所に、涼しい顔で紅が聞いてきた。
「それで? 紫、お前は俺をどう思っている?」
どうしよう。
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