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エピローグ
虹の始まる所1
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やがて季節は移る。
私が『彩虹学園』に来てから、三度目の春を迎えていた。高等部の三年となる今年は、ブレザーにブラウス、スカートという女の子の制服を着ている。
「ほら、紫記様。早く行かないとみんなが待っていますわよ? こんなに綺麗なのに男の人だと思っていたなんて、なんだか悔しいわ」
ブツブツ言いながら桜色の唇をすぼめる桃華は、今日もとっても可愛いらしい。
「そうかな。綺麗とか可愛いって言葉は、桃華のためにあるんだと思っていたけれど」
正直な思いを口にする。
ゲームのヒロインでなくても、学園の女子の中ではやっぱり桃華が一番だ。彼女に向かってにっこり笑うと、桃華の頬がほんのり赤くなった。
「ま、紫記様ったら。好きーー!」
「ありがと。私も桃華が好きだよ」
抱きついてきた彼女の頭をポンポンと撫でる。嬉しそうに頬ずりする桃華はウサギみたいで可愛い。もし私が男だったら、一瞬で恋に落ちるのかも。
去年の後夜祭の翌日、女子寮に移った私は桃華と同室になった。彼女はその日のうちに私を仲間に紹介し、マネージャーのようにつきっきりで世話を焼いてくれた。そのため、私はすぐに寮に溶け込むことができ、女子として違和感なく振る舞えるようになったのだ。
仲良しの彼女を、私は『桃華』と名前で呼んでいる。ところが桃華の方は、私を『紫』と呼び慣れないのか未だに『紫記』のまま。最近ではもう、愛称だと思うことにしている。
「じゃあ行こうか」
「ええ。喜んでご一緒しますわ」
嬉しそうに私の腕にぶら下がる桃華と一緒に講堂へ向かう。
今日は入学式だ。
会場には新しい顔ぶれが、緊張した面持ちで並んでいる。セレブ校とはいえ、全員一律で入寮することが義務付けられている。初めて親元を離れるため、中には心細い者もいることだろう。
でも、大丈夫。ここの生徒はみんな優しくいい人ばかり。それは何より私が一番良く知っている。
男の子の『紫記』として振舞っていた私が、女の子の『紫』に戻った時、ほとんどの人が快く迎え入れてくれたから。女子寮に入る時も、女の子の制服で初めて外に出る日も、私はガチガチに緊張していた。けれど、虹の名を持つ仲間達が中心となって普通に接してくれたため、それまでと変わらない態度で日々を過ごすことができた。
反対意見もあったのかもしれないけれど、私の耳には入っていない。相当な反発や陰口を予想していただけに、女生徒としてあっさり受け入れられて、私自身が一番驚いている。
また、迷惑をかけたと恐縮していた私に、挽回のチャンスが与えられた。学園のため、みんなのために出来る限りのことをしようと思っていた私。クラスメイトに推薦されたこともあって、二つ返事で引き受けることにした。投票の結果も仲間が支えてくれたおかげで圧勝。大役に就くことができたのだ。
だから不安に思うことなんてない。学園はとてもいい所で、楽しい日々が待っているよ。
「それでは生徒を代表して、生徒会が皆様に歓迎の言葉を述べます。 生徒会長、長谷川 紫」
「はい」
アナウンスにコールされ、私は壇上へと向かう。真面目な顔の新入生の向こうに、学園の二、三年生の姿が見えた。見知った顔と目が合い、嬉しくて思わず口元が緩む。話し始めようとした途端、生徒達から声が上がる。
「キャーッ、紫様~」
「会長綺麗~~!」
「好きだーっ」
いや、だからそういうの要らないって。私の緊張をほぐそうとしてくれたのかもしれないけれど、新入生達が驚いてるよ? 急に賑やかになった先輩達の様子に、一年生は目を丸くしたりクスクス笑ったり。
まったく、この学園は気取らずに仲が良くて……だから面白い。新入生に向き直った私は、ゆっくりと話し始めた。
「新入生の皆さん、我が彩虹学園にようこそ。春の訪れと共に咲く満開の桜の下、期待に胸を膨らませて門をくぐったことでしょう。一歩踏み出した瞬間から、皆さんはこの学園の生徒です。ここは言わば『虹の始まる所』。在学中にあなたの目標を、あなただけの虹を探して下さい」
――誰だって心の中に、自分だけの大切な何かを持っている。それが将来への目標であったり、叶えたい夢であったり、好きな人への想いだったり。大事なものは人それぞれだけど、私はそれを『虹』と呼ぶ。
虹にはいろんな色があるし、いつでも見られるものじゃない。喜びや怒りの色。哀しみや嬉しい色。懸命に生きる時、どの色も輝いて見える。反対に投げやりな時、諦めてしまった時には、全てが鈍くくすんでしまう。
時には迷い不安になって、自信をなくしてしまうこともあるだろう。だけど、自分だけの虹があると信じる限り、人はいつだって立ち直り、前に進んで行くことができる。
ここは虹の始まる所。学園での生活は、まだ始まったばかり。虹の橋の向こうに、より大きな輝く未来が待っていると信じてほしい――
まあ、そんな感じのことを夢中で語った。もっと堅い挨拶の言葉を考えていたけれど、大きく逸れてしまったようだ。話し終えた時、静まりかえった生徒の様子に気づきハッとしてしまう。
あれ、ダメだった?
独特過ぎて意味がわからなかったのかな。
そう思った次の瞬間、講堂に大きな拍手と歓声が響いた。
「いいぞー」
「会長~好きーっ」
「素敵~!」
うん、まあいいや。
みんな真面目に聞いてくれたってことでいいよね? 私は学園関係者や来賓、生徒に向かってお辞儀をすると、壇上を辞した。
それからしばらくして入学式も無事に終わり、初々しい顔ぶれが自分達の教室に入っていく。二、三年生の私達にこの後の予定は特にない。生徒会室に行くか部屋に戻って本でも読もうかと思っていたところ、後ろから肩を叩かれた。
「いい挨拶だった。さすがだね」
「碧先生!」
碧先生の笑顔は、今日も素敵だ。
今年もまた先生の近くに行こうと、保健委員が殺到するのだろう。
「先生にそう言っていただけると光栄です」
恥ずかしくって照れてしまう。
特待生として初の生徒会長となったけれど、まだ自信がないから。
「紫ちゃん、いつでも胸を張って。君は自分を誇りに思えばいい」
優しい先生は、時々私を気にかけてくれる。もう保健室で着替えることがなくなったので、接する機会はあまりない。けれど機会があればこうして、励ましてくれるのだ。
「ありがとうございます。相変わらず優しいですね」
私がそう言うと、先生は少しだけ変な顔をした。綺麗な緑の瞳に影が落ちたように感じたのは、気のせいなのかな?
「優しい、か。でも僕は……ああ、君を探しに誰か来たようだ。それじゃあこれで。生徒会の仕事、頑張ってね」
先生はニッコリ笑うと、今度は私の頭をポンと叩いて歩み去った。
私が『彩虹学園』に来てから、三度目の春を迎えていた。高等部の三年となる今年は、ブレザーにブラウス、スカートという女の子の制服を着ている。
「ほら、紫記様。早く行かないとみんなが待っていますわよ? こんなに綺麗なのに男の人だと思っていたなんて、なんだか悔しいわ」
ブツブツ言いながら桜色の唇をすぼめる桃華は、今日もとっても可愛いらしい。
「そうかな。綺麗とか可愛いって言葉は、桃華のためにあるんだと思っていたけれど」
正直な思いを口にする。
ゲームのヒロインでなくても、学園の女子の中ではやっぱり桃華が一番だ。彼女に向かってにっこり笑うと、桃華の頬がほんのり赤くなった。
「ま、紫記様ったら。好きーー!」
「ありがと。私も桃華が好きだよ」
抱きついてきた彼女の頭をポンポンと撫でる。嬉しそうに頬ずりする桃華はウサギみたいで可愛い。もし私が男だったら、一瞬で恋に落ちるのかも。
去年の後夜祭の翌日、女子寮に移った私は桃華と同室になった。彼女はその日のうちに私を仲間に紹介し、マネージャーのようにつきっきりで世話を焼いてくれた。そのため、私はすぐに寮に溶け込むことができ、女子として違和感なく振る舞えるようになったのだ。
仲良しの彼女を、私は『桃華』と名前で呼んでいる。ところが桃華の方は、私を『紫』と呼び慣れないのか未だに『紫記』のまま。最近ではもう、愛称だと思うことにしている。
「じゃあ行こうか」
「ええ。喜んでご一緒しますわ」
嬉しそうに私の腕にぶら下がる桃華と一緒に講堂へ向かう。
今日は入学式だ。
会場には新しい顔ぶれが、緊張した面持ちで並んでいる。セレブ校とはいえ、全員一律で入寮することが義務付けられている。初めて親元を離れるため、中には心細い者もいることだろう。
でも、大丈夫。ここの生徒はみんな優しくいい人ばかり。それは何より私が一番良く知っている。
男の子の『紫記』として振舞っていた私が、女の子の『紫』に戻った時、ほとんどの人が快く迎え入れてくれたから。女子寮に入る時も、女の子の制服で初めて外に出る日も、私はガチガチに緊張していた。けれど、虹の名を持つ仲間達が中心となって普通に接してくれたため、それまでと変わらない態度で日々を過ごすことができた。
反対意見もあったのかもしれないけれど、私の耳には入っていない。相当な反発や陰口を予想していただけに、女生徒としてあっさり受け入れられて、私自身が一番驚いている。
また、迷惑をかけたと恐縮していた私に、挽回のチャンスが与えられた。学園のため、みんなのために出来る限りのことをしようと思っていた私。クラスメイトに推薦されたこともあって、二つ返事で引き受けることにした。投票の結果も仲間が支えてくれたおかげで圧勝。大役に就くことができたのだ。
だから不安に思うことなんてない。学園はとてもいい所で、楽しい日々が待っているよ。
「それでは生徒を代表して、生徒会が皆様に歓迎の言葉を述べます。 生徒会長、長谷川 紫」
「はい」
アナウンスにコールされ、私は壇上へと向かう。真面目な顔の新入生の向こうに、学園の二、三年生の姿が見えた。見知った顔と目が合い、嬉しくて思わず口元が緩む。話し始めようとした途端、生徒達から声が上がる。
「キャーッ、紫様~」
「会長綺麗~~!」
「好きだーっ」
いや、だからそういうの要らないって。私の緊張をほぐそうとしてくれたのかもしれないけれど、新入生達が驚いてるよ? 急に賑やかになった先輩達の様子に、一年生は目を丸くしたりクスクス笑ったり。
まったく、この学園は気取らずに仲が良くて……だから面白い。新入生に向き直った私は、ゆっくりと話し始めた。
「新入生の皆さん、我が彩虹学園にようこそ。春の訪れと共に咲く満開の桜の下、期待に胸を膨らませて門をくぐったことでしょう。一歩踏み出した瞬間から、皆さんはこの学園の生徒です。ここは言わば『虹の始まる所』。在学中にあなたの目標を、あなただけの虹を探して下さい」
――誰だって心の中に、自分だけの大切な何かを持っている。それが将来への目標であったり、叶えたい夢であったり、好きな人への想いだったり。大事なものは人それぞれだけど、私はそれを『虹』と呼ぶ。
虹にはいろんな色があるし、いつでも見られるものじゃない。喜びや怒りの色。哀しみや嬉しい色。懸命に生きる時、どの色も輝いて見える。反対に投げやりな時、諦めてしまった時には、全てが鈍くくすんでしまう。
時には迷い不安になって、自信をなくしてしまうこともあるだろう。だけど、自分だけの虹があると信じる限り、人はいつだって立ち直り、前に進んで行くことができる。
ここは虹の始まる所。学園での生活は、まだ始まったばかり。虹の橋の向こうに、より大きな輝く未来が待っていると信じてほしい――
まあ、そんな感じのことを夢中で語った。もっと堅い挨拶の言葉を考えていたけれど、大きく逸れてしまったようだ。話し終えた時、静まりかえった生徒の様子に気づきハッとしてしまう。
あれ、ダメだった?
独特過ぎて意味がわからなかったのかな。
そう思った次の瞬間、講堂に大きな拍手と歓声が響いた。
「いいぞー」
「会長~好きーっ」
「素敵~!」
うん、まあいいや。
みんな真面目に聞いてくれたってことでいいよね? 私は学園関係者や来賓、生徒に向かってお辞儀をすると、壇上を辞した。
それからしばらくして入学式も無事に終わり、初々しい顔ぶれが自分達の教室に入っていく。二、三年生の私達にこの後の予定は特にない。生徒会室に行くか部屋に戻って本でも読もうかと思っていたところ、後ろから肩を叩かれた。
「いい挨拶だった。さすがだね」
「碧先生!」
碧先生の笑顔は、今日も素敵だ。
今年もまた先生の近くに行こうと、保健委員が殺到するのだろう。
「先生にそう言っていただけると光栄です」
恥ずかしくって照れてしまう。
特待生として初の生徒会長となったけれど、まだ自信がないから。
「紫ちゃん、いつでも胸を張って。君は自分を誇りに思えばいい」
優しい先生は、時々私を気にかけてくれる。もう保健室で着替えることがなくなったので、接する機会はあまりない。けれど機会があればこうして、励ましてくれるのだ。
「ありがとうございます。相変わらず優しいですね」
私がそう言うと、先生は少しだけ変な顔をした。綺麗な緑の瞳に影が落ちたように感じたのは、気のせいなのかな?
「優しい、か。でも僕は……ああ、君を探しに誰か来たようだ。それじゃあこれで。生徒会の仕事、頑張ってね」
先生はニッコリ笑うと、今度は私の頭をポンと叩いて歩み去った。
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